環境保全に関心があるけど、仕事として選ぶ場合どのような会社や働き方があるかよくわからない。そんな人に選択肢のひとつとして考えてもらいたいのが環境計量士です。「そんな仕事があるなんて初めて知った」「名前だけは聞いたことがある」「仕事内容は軽く知ってる」、本記事はそんな方に向けて内容を解説しています。掲載内容は仕事内容や資格をはじめ、就職先、やりがい、給与など。働くうえで特に気になる点をピックアップして解説します。また、より詳しく知りたい人のために、おすすめの書籍を紹介。チェックしてみてください。
普段、環境計量士という言葉を聞く機会はあまりないと思います。環境計量士とは経済産業省所管の国家資格のことです。あるいは資格の所有者そのものを指すときにも使います。仕事内容についてもあまり知られてはいませんが、一言でいえば「環境分析などをする仕事」です。
この章では基本的な仕事内容について触れていきます。
環境計量士の仕事は、「濃度」と「騒音・振動」を計量すること。測定を依頼したクライアントに計量データを提供し、そのデータは環境保全の必要性を判断したり、対策を講じたりするのに役立ちます。環境計量士は、環境保全のために直接何かをおこなうことはありません。
「濃度」は主に水質や大気を対象とした計量です。たとえば工場から排出された煙のなかに有害物質が多く含まれていないか、排水に水質汚染の原因になる鉛などが混ざっていないかなどを調べます。
また「騒音・振動」はそのまま騒音と振動についての計量です。たとえば工場に設置された工作機械や工事現場で使用する重機などが、大きな騒音や振動が発生させていないかなどを調べます。
もし有害物質が流出していることが判明したり、近隣の住人の迷惑になるほどの騒音が発生していたりした場合は、改善方法をクライアントに提案することもあります。
仕事現場は有害物質や大きな騒音・振動が発生する場所ならばどこにでも需要はあるが、環境計量士が活躍する現場の多くは工場です。
まず断っておきたいのが、環境分析の仕事をするうえで環境計量士の資格は必須ではないということ。ただし環境計量士を名乗るには資格が必要ですし、環境計量の仕事は化学をベースにした専門的な知識が求められるため、資格保持者が優先的に採用されています。
環境計量士の国家資格は「濃度」と「騒音・振動」の2種類。それぞれ別の区分での試験がおこなわれています。試験科目はそれぞれ以下のようになっています。
どちらも年齢や学歴などの制限が設けられていないため、誰でも受験することができます。
ただ、取得方法は2つあります。計量士国家試験に合格し、かつ実務経験などの条件を満たし登録する国家試験コースと、研修(教習)の課程を修了し、実務経験などの所定の条件を満たしてから計量行政審議会の承認を経て登録する資格認定コースです。
計量士国家試験に合格し、かつ、登録する計量士の区分に応じて経済産業省令に定める実務の経験その他の条件に適合する者
実務の基準はいくつかありますが、主に国の研究所や一般の事業所、指定検定機関などにおいて1年以上の実務経験を求められます。詳細が気になる方は以下の参照URLから内容を確認してくださいね。
参照:(計量法施行規則第51条第4項および第54条第3項の規定に基づき経済産業大臣が別に定める基準等について(経済産業省告示第63号))
国立研究開発法人産業技術総合研究所計量研修センター 外部リンクが実施する教習の課程を修了し、かつ、登録する計量士の区分に応じて経済産業省令に定める条件に適合する者であって、計量行政審議会が認めた者
資格認定コースの実務基準も複数ありますが、実務経験5年以上、そのうち計量管理の指導を2年以上経験している方が対象と、基準値が厳しく設定されています。詳細は以下の参照URLから内容をご確認ください。
参照:(計量士資格認定に係る実務の基準等について(計量行政審議会))
令和元年における合格率は以下の通りです。
環境計量士の資格試験は難関の部類に入るため、受験で資格を取得する場合は、しっかり学習して臨む必要がありそうです。
参照:第70回計量士国家試験(令和元年12月15日実施)の結果について
環境計量士、または環境計量士を目指す人の就職先として一般的なのは、測定専門会社です。仕事をおこなう主な現場は工場や工事現場ですが、昨今の環境意識の高まりから、さまざまな場面で環境計量士が必要とされており、活躍できる場は増えています。
上記であげた以外にも、活躍の場はさまざまです。
計量証明事業などをおこなっている会社にはすでに環境計量士がいるので、資格なしでも転職することは可能です。しかし専門性の高い資格ではあるので、取得しておくことで転職で有利になることは間違いないでしょう。
経済産業省がホームページで明かしているように、令和元年度における環境計量士の累積登録者数は、濃度関係約1万1430人、騒音・振動関係約3350人。計量士の資格自体は1935年に開始され、平成5年の法改正で一般計量士と環境計量士(濃度、騒音・振動)の3種類に区分されたことを考えても少ない数字でしょう。
ちなみに一般計量士の累積登録者数も約1万4520人とかなり少なめの人数になっています。どちらも難易度が高く、ニッチな資格だということが関係していると考えられます。
参照:経済産業省 計量士関係
環境計量士は社会貢献性が高く、それがやりがいにもつながる理想的な仕事のひとつですが、生活していくためには収入も気にしなくてはありません。この章では年収について見ていきましょう。
環境計量士の平均年収は約400万円ほど。月収に換算すると約35万円となります。年収の全体の給与幅は300万〜600万円ほどと大きいですが、年収のボリュームゾーンは300万〜400万円の間となっています。一般的な会社員の平均年収が400万円ほどとされているため、収入はやや高めです。
また、企業や事業所の規模が大きいほど給与も高い傾向にあり、福利厚生が整備されているような会社は資格手当を1万円前後支給しているところあります。
環境計量士は社会貢献性の仕事です。そのぶんやりがいは大きそうですが、実際どのようなことが仕事の意欲となるのか見てみましょう。
環境調査や分析は、自ら対策を講じ改善の成果を喜ぶような仕事ではありません。ただし人々の暮らしの安心・安全や、自然環境を守るために重要な役割を担う仕事であることは疑いようがありません。
こうした環境の調査をおこなっていくことで、社会を支えていると実感できれば、それは大きなきなやりがいになります。
少し漠然としていますが、クライアントの役に立っていることを実感できれば、やはりそれは大きなやりがいです。環境計量士は専門的な知識やスキルを駆使して、測定や分析をおこない、クライアントの課題を解決していきます。得られた結果からアドバイスをして、それが環境の改善につながれば嬉しいはずです。
- 著者
- 溝呂木 昇
- 出版日
テキストと問題集がセットになっており、学びながら試験対策ができるのがポイント。
イラストや模式図、表、化学式などを多用し、ビジュアルでわかりやすく解説しています。また赤シートを付属。暗記が必要な項目を効率
敵に学習できます。各節末ごとには一問一答形式の例題演習を用意し、理解度をチェックできるようにしています。巻末は問題集のコーナー。過去問題のなかから各分野の良問を抽出して作成した精選問題集を掲載しています。
- 著者
- 鈴木 孝弘
- 出版日
環境計量士を志すのであれば世界でどのような環境問題が起きているかを学ぶことは大切。知ることで仕事への向き合い方を考えさせてくれます。
本書は記録的猛暑、頻発する集中豪雨、竜巻発生、巨大台風どの異常気象。それによる熱中症や中国大陸から飛来する「PM2.5」などの環境問題などを環境科学の視点でとらえた一冊です。環境計量士がおこなう仕事の分野とはことなる範囲もありますが、人間の生活が環境に与える負荷などを知るうえでは必読です。
- 著者
- 宮内 泰介
- 出版日
環境保全は指示通りにおこなえばいいものではありません。実際現場ではさまざまなズレが存在しています。そのあり方や方法を自分の頭で考えるのも環境保全をおこなううえでは大切です。
本書はそんな環境保全についての理解と行動をサポートしてくれます。社会は複雑で変化し続けているため、いまあるべき環境保全を考えるためにぜひ役立ててください。
環境計量士は国家資格であり、試験を受けるのであればそれなりの勉強期間が必要です。ただし社会貢献性が高く、誇りを持って取り組めるため、仕事としてのやりがいは大きいでしょう。
給与においては特筆するほど高収入というわけではありませんが、一般的な会社員の平均年収よりはやや高めで、贅沢をしなければ十分に暮らせる金額です。
本記事を最後まで読んで「興味がわいた」「なりたい」と思っていただけたのであれば、ここで紹介している書籍なども参考にし、長く活躍できる環境計量士を目指してみてください。