調香師は、パフューマーやフレーバリストとも呼ばれ、私たちの日常にあるあらゆる「香りの専門家」です。自分にとって忘れられない香り、印象的な香りに出会った時、どうやって調香されているのかと考えたことのある方は多いでしょう。調香師は、時代の流れやトレンドから、企業や人々に求められる香りを作り出したり、美味しく感じられる香りの研究をおこなうことを職業としています。 今回は、そんな調香師の仕事内容や、調香の技術の学び方、就職事情や年収のほか、香りの歴史がわかる書籍もご紹介します。ぜひ、参考にしてみてください。
調香師は、私たちの生活のありとあらゆるところに存在する「香り」に関わる仕事をしています。
具体的には、約6000種類あると言われる香料のなかから、香りの組み合わせをおこない、新しい香りを生み出すのが仕事です。「いい匂い」というだけでは認められず、安全性を重視したものを作り出すことが求められます。
口にはいる食品に関する香りを作り出す調香師を「フレーバリスト」、それ以外の口に入らない製品の香りを作り出す調香師を「パフューマー」と呼びます。調香師はこのどちらかを専門にしています。
また、日本では外国ほど香水の文化が浸透していないこともあり、海外に比べると香水の研究所は少ないのが現状です。そういった背景もあり、日本での調香師の割合はパフューマーよりもフレーバリストが多くなっています。
調香師が取り扱うのは、飲料・レトルト食品・調味料・化粧品からトイレタリー製品まで、とても幅が広いというのも特徴でしょう。
上記の仕事内容で主に取り扱う製品には、口に入るものは飲料水・お酒・タバコ・歯磨き粉などがあります。それ以外の口に入れないものに関しては、化粧品・入浴剤・芳香剤・石鹸(ボディソープ)・シャンプー・洗剤などが皆さんの身近にあるものとしては代表的でしょう。
主な就職先として、化粧品会社・香料会社・食品会社などがあげられます。特に食品会社は大手企業も多く、就職活動における競争率は高いといえます。
また、近年はリラクゼーションのブームもあり、ハーブやアロマを取り扱う会社やお店で働く人も多いようです。
東京・新宿にある香水ショップの『FINCA』。約60種類に及ぶオリジナルの香種を使って、自分が理想とする香りの調香(ここでは香水の重ねづけ)を店頭カウンターで提案してくれます。
「可愛いイメージの香り」といった自分のなりたいイメージから、「リラックスタイムに付ける香水が欲しい」といったシーンに合わせた香りを、カウンセリングによって調香してくれる貴重なお店です。
企業の研究室などとは違い、お客さんとして気軽に調香師に会いに行くことができるため、調香師を志す人なら一度体験してみる価値はあるかもしれません。
調香師の仕事は研究職であり、社会人としての給与水準は高い傾向で、年収は350万〜500万円ほど。大手企業に所属することができれば、給料の安定はもちろん、好待遇を受けられる可能性があるのは魅力的ですね。
調香師になるために必要な国家資格はありません。しかし、まったく何の知識もなく調香師をしている人はおらず、民間資格、または国家資格の「臭気判定士」を取得しています。
根幹となる知識は理系科目が中心。大手メーカーに就職希望であれば、理系の4年生大学卒業を目標にするのがおすすめです。
こちらは民間資格ですが、筆記と実技試験に合格することで調香に関する知識と技術を証明することが出来ます。レベルは3〜1級まであり、年齢・性別・経験・国籍を問わず誰でも受験可能です。
※外国人は日本語の読み書きができること。一般人でも受けることができ、何級からでも挑戦出来ます。
参考:日本調香技術師検定(日本調香技術師検定協会HP)
調香師には理系の知識が必要とはいえ、他にも持っていると調香師として有利になる素質や能力も存在します。
身の回りのさまざまなものからインスピレーションを受け、それを商品開発などの仕事に結びつける能力が高い人は、調香師として活躍できる可能性があります。
マーケティングとは、顧客が求める商品やニーズを分析し、新しい仕組みや戦略、プロセスを考えることです。これは香りの世界でも例外ではなく、その時代の人々が何を求めているのか追求し続ける必要があります。
こちらもマーケティングと似た内容ですが、どちらかというと「流行り」「トレンド」といった要素における感性の良さや察知能力があるか、ということです。
香りひとつで、その商品の価値が変わることもあります。同じような予算で同じ系統の商品を開発する時も、よりお洒落であったり、洗練されたイメージを作り出すことができる人は、優秀な調香師になれる可能性があります。
香りを「再現」することもある職業のため、意外と重要な能力といえます。仕事中以外でも、いい香りがしたときに特徴や系統を覚えて、自分なりに何の成分が使われているか考えてしまう……という調香師は多いようです。
先述したように調香師になるには理系科目の知識が必要となります。理系ならどこでもいいのか? と思う方もいると思うので、参考までにいくつか進学先の情報もご紹介します。
こちらは4年制の大学です。「食香粧化学科」があり、実際にハーブを栽培したりと、この学校ならではの授業も多いのが特徴です。
授業の60%が実験授業であり、実践的に学べる学校です。「化粧品開発コース」で調香技術を学ぶことが出来、即戦力を身につけたい人におすすめです。
健康化学分析学科「化粧品・かおり分析コース」という専門的なコースがあります。こちらも実験中心のカリキュラムが特徴です。
ここで紹介した以外の大学・専門学校でも調香師になるための基礎的な知識を学ぶことは可能です。進学先でどの程度学びたいのか、独学の割合をどうするかなどを考えて進学先を選ぶのがよいでしょう。
- 著者
- 塩田 清二
- 出版日
いま注目されているメディカルアロマセラピーを、嗅覚のメカニズムや最新の臨床例からわかりやすく解説した1冊です。
医療と聞くと嫌厭しがちになりますが、中身はとても読みやすいと好評な声も多いので、難しく考えず本を開いてみてください。
嗅覚は科学的にもまだまだ未知の部分が多い感覚です。しかし、よい香りを嗅ぐだけで認知症患者や末期がん患者の症状が改善することもあります。香りが私たちの脳や体内にどのように作用しているのか。調香師を目指す方にはぜひ読んでほしい内容となっています。
- 著者
- ロジャ・ダブ
- 出版日
- 2010-03-12
こちらの書籍では、香水の歴史や、時代ごとの香りのトレンドを勉強することが出来ます。
本の中身はファッション性の高いページもあり、おしゃれや香水が好きな人なら空いた時間に眺めるだけでも心がときめく内容となっています。
長きにわたって幅広い世代に愛される名香はどのような想いで作られているのか。時代のトレンドに合わせた香りではなく、人の心や記憶に残る本質的な香りを調香していきたい方はぜひ手にとってみてください。
書籍のなかでは高価ですが、調香師を目指す方にとっては間違いなく学べるところの多い1冊だと思います。
- 著者
- 藤原綾子
- 出版日
「作られた香りって苦手」という方は多いでしょう。どちらかと言うと、ハーブやアロマ系の香りは万人受けし、人気が高い傾向です。
こちらは、香りと心理学の関わりを教えながら、自分で実践できるアロマテラピーも紹介しています。調香師を仕事にしなくとも、ハーブ系の香りが好きという人は、ぜひ手に取ってみてください。
初めて香水を付けたときの高揚感が忘れられず、調香師を目指す人もいるかもしれません。その場合は、思い切って海外で活動することを視野に入れてみましょう。フランスには、香水専門の調香師学校も存在します。
食品とそれ以外の製品、どちらの調香師になりたいか考えてみるところから始めてみるのもいいですね。
今回、記事内ではご紹介しきれなかった香水の歴史などは、参考書籍をぜひ読んでみてください。発想力を必要とする調香師。歴史上から新しい発見があるかもしれません!