2020年の本屋大賞も受賞した、「本屋さんが1番売りたい本」である『流浪の月』。2022年には広瀬すず、松坂桃李主演で実写映画化されることが決定しました。この記事ではそれぞれのキャストが原作の登場人物にどのくらいハマっているか調査!また、BL作家である凪良ゆうが伝えたかったメッセージも考察します。
『流浪の月』は2020年の本屋大賞を受賞したことで注目を集めている長編小説。書店で売り出されている表紙を見かけて知った方も多いのではないでしょうか。作者の凪良ゆう(なぎらゆう)という名前も、本作で知った方も多いはず。BL作家として活動していた凪良ゆう初の一般文芸での単行本作品です。
「幼女誘拐事件の被害者」というレッテルを貼られてしまった主人公が、自分らしさや自分の居場所を取り戻していくストーリー。本作は2022年、実写映画化が決定しました。主演は広瀬すずと松坂桃李。その他キャストとして横浜流星、多部未華子の出演も報じられています。監督は『怒り』の李相日(りそうじつ/イ・サンイル/リ・サンイル)。広瀬すずとは2度目のタッグになります。
公開日など詳細は今後発表されていく予定です。<公式サイト>や<公式Twitter>をご確認ください。
(キャストについて知りたい方は、あらすじを飛ばして次に進んでも問題なく読めます↓)
主人公の家内更紗は、自由奔放な両親のもとで育ちますが、ある時父が亡くなり、母も蒸発してしまいます。叔母の家に引き取られますが、これまでの自由な生き方は許されず自分を押し殺した生活を強いられることに。
友達と公園で遊んで分かれたあと、家に帰りたくない更紗は再び公園に戻ってベンチで本を読みます。その向かいのベンチにはいつも、1人の男子大学生の姿が。座って本を読むていを取りながら、公園で遊ぶ子どもたちを眺めているようでした。ロリコン、変質者とも噂される彼・佐伯文に、雨が降ったある日「うちにくる?」と声をかけられた更紗は、家に帰りたくない思いからついていくことに。
文は世間の噂するような危ない人物ではなく、文との生活は更紗にとって居心地のいいものでした。しかしその暮らしも長くは続かず、2か月たった頃文は幼女を誘拐した犯人として捕まってしまいます。その時の警察官に連行される文と、泣き叫んで別れを拒みながら補導される更紗の映像は、デジタルタトゥーとしてインターネット上に残り続けることになります。
大人になった更紗はひっそりと暮らしていきますが、自分の意向とは反して「家内更紗ちゃん誘拐事件」のかわいそうな被害者として扱われてしまいます。そういった世間の目からの隠れみのとして「普通に彼氏と同居して幸せに生きている」と世間にアピールするためにも、付き合っている亮くんと同居。飲食店でアルバイトとして働きながら、家事をこなす毎日を過ごします。
そんなある日、立ち寄ることになった喫茶店の店員が文だと気付き、のちに2人は再会することとなるのですが……。
- 著者
- 凪良 ゆう
- 出版日
- 2019-08-29
映画化が決定し、以下4人のキャストが発表されたタイミングで、たまたま本作を読み返していたライター。各登場人物を俳優で思い浮かべながら作品を読みました。ここでは俳優のどのような点がキャラクターと合っているか、どのような演技が着目ポイントとなりそうかを解説していきます。
主人公の更紗を演じるのは広瀬すず。大人になってからの更紗は、本心を隠して人と接することに慣れ切ってしまいました。ここから自分らしさを取り戻していけるのかどうかがストーリーの鍵となります。
他者と溶け込めないまま、自分の中には自分を持っているような空気感。広瀬すずが映画『海街diary』で演じた家族のなかで異質な存在である異母妹役が思い当たります。独特な「浮遊感」のようなものを表現できる女優だといえます。
また外すことができないのが、女優として成長する作品にもなった映画『怒り』で見せた演技。壮絶な環境を乗り越える人物の表情、まなざしの強さが印象的でした。原作『流浪の月』でも亮くんに暴力を振るわれるシーンがあります。同監督のタッグとあって、体当たりの演技が期待できます。
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今回のキャストでもっともハマり役であるように感じるのが、佐伯文を演じる松坂桃李。映画『彼女がその名を知らない鳥たち』でのクズ男、ドラマ『微笑む人』での犯罪者役、ドラマ『ゆとりですがなにか』での童貞の小学校教師役などキワキワな役も難なく憑依させてきました。
「ロリコン」「変質者」扱いされてしまう文ですが、実際のところそのような欲望を抱えている人物ではありません。何を欲しているのかわからないような、主体性がないような雰囲気をそのまま体現してくれるのではないでしょうか。
文の外見は、ひょろひょろとしていて年齢相応感がない男性です。更紗がふと彼を見ると「暗いふたつの穴のような目をしている」という原作の記述も。このあたり、体での表現をどのように見せてくれるのか楽しみですね。
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作品を知っている方は、「亮くんを横浜流星が?」と意外に思ったかもしれません。実はライターもその1人。
更紗の「婚約者」である亮くんは主人公の更紗を愛し、普通に稼ぎのある会社員です。しかし育った環境も手伝って「女性は家庭の中にいるもの」という保守的な考え方の持ち主。さらには、更紗が思い通りにならないと何度も暴力を振るってしまう男、という役どころです。
日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した『愛唄-約束のナクヒト-』『チア男子!!』『いなくなれ、群青』はどれも青春の物語に溶け込む洗練されて美しい男性のイメージでした。その後も『私たちはどうかしている』のように恋愛が主軸の作品で活躍している印象が強いため、亮くんのような古い男性像を演じることは横浜流星にとって新境地となるでしょう。
暴力的で自分本位な人間ですが、沸点に至るまでは感情を更紗に表現せず裏で静かにことを進めるというシーンもあります。何を思っているのかわからない「怖い笑顔」の演技もぜひ迫力満点で見せてほしいところ。冷凍食品のCM「WILDish(ワイルディッシュ)」で見せるワイルドで爽やかな俳優イメージをどこまで打ち破れるのか、期待したいと思います。
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大人になって更紗が再会した文の横に、寄り添って歩いていた女性が谷あゆみ。多部未華子が演じます。文とは通っている心療内科の患者同士として出会い、付き合っている女性として登場します。のちのち、更紗とも関わってくる人物です。記者という設定ですが、映画では「看護師」という役柄に変更されるようです。
更紗と文のほか、亮くんも谷さんもどこか他人と分かり合えない部分を抱えています。ドラマ『デカワンコ』『これは経費で落ちません!』のように明るく笑顔の似合う役柄の印象が強い多部未華子ですが、今回は笑顔よりもナイフのような厳しさを持つ女性。
また原作では、髪型について特徴的な表現がされています。
「顎のラインでずばりと切りそろえられたボブヘアが、夏の風に吹かれて刃物のように揺れている。強くてよく切れそうだ」
(『流浪の月』より引用)
彼女の「強気なようでいて心の武装をしなげれば自分を保てない」という性格をよく表しているこのヘアスタイルを、どこまで再現してくれるのかにも注目です。
実写化される映画を見るにあたり、原作がどのようなことを伝えたかったのかを踏まえてから見るのもより深く作品を味わえることになるでしょう。ここではライターが本作のメッセージを考察していきます。映画を見たあとで、違いを比べてみてもいいかもしれませんね。
本作で更紗は、どのように弁明しても「家内更紗ちゃん誘拐事件の被害者」「かわいそう」という世間のイメージを払拭することができません。本人の「真実」とは違う、世間に広まった「事実」は消えないという絶望を、時を隔てて何度も味わうことになるのです。
その更紗が最終的に求める理想の暮らしは、すべての人に「そうではない」とわかってもらえることではありません。自分と自分をわかってくれる相手とだけの関係性を、誰からも邪魔されないことだけ。2人だけの空間に、それ以外の他者の存在は必要ありません。この「2人だけの関係を至高とする」ところは、BL作品の価値観に通ずるものを感じます。
ただ本作の後半と終章では、2人の疑似的な子供として梨花(更紗がバイトしていた飲食店の同僚の娘。更紗と文で梨花を家で預かるうちに、更紗と文の唯一の理解者となっていく)の存在が描かれています。彼女の存在は、更紗と文の未来を完全に閉じ切ったものではなく、明るく開けていくものであることを象徴しているように読むこともできるのではないでしょうか。
最後に、表紙に選ばれている写真のアイスクリームについて考察します。作中にアイスクリームは、プロローグ的な「一章」を除いた物語の1番最初の会話の中で登場。「晩ご飯にアイスクリームを食べていい」という両親のもとで育った更紗は、アイスクリームは晩ご飯として食べてはいけないという叔母のしつけに疑問を抱きます。それを友達に投げかけても、友達も当然のように叔母と同じ意見であるため納得する理由を得ることができません。
文の家では、1番最初にお腹が空いてアイスクリームが食べたいと言った更紗。しかし文はあっさりその願いを聞き入れます。ここから更紗は、「自分がここにいることを許されている」という心情が芽生えていくのです。ここから読み取れることとして、アイスクリームは更紗にとって「自分の自由」の象徴だといえるでしょう。
一人暮らしを始めて、お風呂上りにアイスクリームを誰にもとがめられずに食べていいと気が付いた経験があなたもあるのではないでしょうか。
一方でアイスクリームは普通に外に置いておいては溶けてしまうもの。外界にいれば、いつ過去の事件の被害者であるという目に晒されて傷つくかわからない更紗に重なります。ありのままに暮らせる安心の地を求めただよう更紗と文を指す言葉であり、タイトルにもある「流浪」のイメージにも通じますね。