本屋大賞を受賞した『52ヘルツのクジラたち』の作者・町田そのこ。期待の新刊『星を掬う』は、前作でスポットを当て損ねた「子を愛せなかった親」の事情についても描く作品となりました。 そこで『星を掬う』にちなみ、「親ガチャ」について考えさせられる作品を4作紹介していきたいと思います。「親ガチャ」とは、「生まれてくる親はガチャガチャのように選べない」という意味のネットスラング。2021年新語・流行語大賞にノミネートされました。
『52ヘルツのクジラたち』で2021年本屋大賞を受賞した町田そのこ。受賞後第1作目となるのが『星を掬う』です。
『52ヘルツのクジラたち』で主人公が出会うのは、親に虐待され見放された少年。同じように親に恵まれなかった主人公や少年の立場から心情を丁寧に描き切った作品でしたが、作者は「親の側にもそうせざるをえない事情や心情の変化があったはずだが、あの物語では書き切れていなかった」と語ります。
今作では、母に捨てられてしまう主人公がのちに母と再会し、母の事情を知ることになります。母のほか、血のつながらない2人の女性とともに共同生活をしていくなかで、「家族」という言葉も再定義されていくのです。
自分の人生というものを、母から影響を受けて育った自分から区別していく主人公の変化に注目しながら読んでみてください。
- 著者
- 町田 そのこ
- 出版日
小学1年の時の夏休み、母と2人で旅をした。
その後、私は、母に捨てられた……。
ラジオ番組の賞金ほしさに、ある夏の思い出を投稿した千鶴。
それを聞いて連絡してきたのは、自分を捨てた母の「娘」だと名乗る恵真だった。
この後、母・聖子と再会し同居することになった千鶴だが、記憶と全く違う母の姿を見ることになって……。
(版元ドットコムより引用)
町田そのこの『52ヘルツのクジラたち』は2021年の本屋大賞に選ばれ多くの人が読む作品となりましたが、では前年度の本屋大賞作品はどうでしょうか。
主人公は小学生の時に実の母親に捨てられてしまいますが、母親のことを恨んでいません。むしろ両親と過ごした生活をきらきらした宝物のように大切にしています。本人はその両親のもとに生まれたこと自体を不幸だとは思っていませんが、それが親に恵まれたといえるかどうかは複雑です。
その後主人公は叔母の家に引き取られます。主人公にとっては、この叔母の家の環境の方こそが「毒」だったのです。そして声をかけてきた男性の家についていくことで、そこから逃げるという選択をします。
一方彼女に声をかけた男性ですが、彼の親こそ「毒」だったと言わざるを得ません。親の期待通りの「強健な男児」には育たなかった挙げ句、幼女誘拐事件の犯人として捕まってしまうのですから。罪(とされてしまった罪)を償い家に戻ってきてからは、実家の専用のはなれに隔離するように住まわせ、彼の自由を奪います。彼ときちんと向き合うことをしなかったのです。
「親ガチャ」にも「生まれた世界ガチャ」にも成功したと言えない、そんな2人がどのように居場所を作っていくのか。物語はその後については詳しくは描きませんが、一度読み終わったあとも想像しながら読み返したくなる作品です。
- 著者
- 凪良 ゆう
- 出版日
- 2019-08-29
あらすじも含めた詳しい『流浪の月』の内容や映画化の情報は、こちらの記事をご覧ください。
『流浪の月』映画化決定!キャストのハマり度を検証&注目ポイント解説
2020年の本屋大賞も受賞した、「本屋さんが1番売りたい本」である『流浪の月』。2022年には広瀬すず、松坂桃李主演で実写映画化されることが決定しました。この記事ではそれぞれのキャストが原作の登場人物にどのくらいハマっているか調査!また、BL作家である凪良ゆうが伝えたかったメッセージも考察します。
小説『流浪の月』とはまた違う形で、真っ向から毒親からの決別を試みた人物の物語も話題です。コミックエッセイ『生きるために毒親から逃げました。』は、著者が自身の経験を描いた作品。自分の親が毒親だと気付く過程から、自分を守るため法的に親と縁を切る(分籍)までのお話です。
「分籍」は聞きなじみのない言葉ですが、親の戸籍を抜けて単独の戸籍を設けること。親と違う苗字を名乗ることができたり、自分が今どこに住んでいるのか住民票を閲覧できなくしたりと、事実上の「絶縁」が可能になります。そういった手続きや実際の効力を具体的に示しているため、作者と同様の思いをしている方にとって指南書のような役割も果たしている作品です。
- 著者
- 尾添 椿
- 出版日
──幼少期
「言うこときけないなら、家に一人で置いてっちゃうよ」
──小学生
「この子がもしレイプされたら親戚はどう反応するんだろうね」
──中学生
「眠れないなら酒を飲みなさい」
表面化しにくい親からの心理的虐待。
小さい頃から違和感を覚えていたその言動が
命までをも脅かすものであることに気づいた時
椿は、親元から逃げることを決意する。
「私が、自分のために生きる選択をし
現在の日本で可能な限り縁を切るための手続きをした」
その軌跡と具体的方法を描くコミックエッセイ。
(イースト・プレス公式サイトより引用)
毒親を持つ子が周囲に与える影響を考える時に、ライターがおすすめしたい漫画が『マイ・ブロークン・マリコ』。友達の自殺をニュースで知った主人公が、その友達の父親から彼女の遺骨を奪って旅に出るところから始まるストーリーです。
なぜ遺骨を奪うなどという突拍子もない行動を取ることになったのか。その友達は中学生の時から、家を出ていった母親の代わりに実の父親にこき使われたり、高校生の時には性的虐待を受けていました。主人公は彼女を毒親からから救い出すことができなかったという思いを抱えていたのです。
回想シーンにて生きていた頃の彼女との会話が再現されていますが、暴力を振るう男性と交際したりなど自己肯定感を持てない彼女の言動に胸が痛みます。主人公がどんなアドバイスをしても、育ってきた環境から構築された価値観はなかなか変わらないのです。死後だけでいいから「親ガチャ」の呪縛から解放すべく、主人公の衝動がなんとも痛々しく鮮やか。
自分はそうではないけれど、近しい人が毒親に苦しんでいるという方は一読してみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 平庫 ワカ
- 出版日
『マイ・ブロークン・マリコ』の見所も含めた詳しい作品内容は、こちらの記事で紹介しています。
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この記事の最後に、おまけとして紹介したいのが理想すぎる「親ガチャ」を成功させたという例。漫画『【推しの子】』は、何者かに殺されてしまった主人公の医師が、生前推していたアイドルの出産した子供に転生するという物語です。
「親ガチャ」という言葉が新語・流行語大賞にノミネートされた2021年に、夢のような「親ガチャ」に成功する漫画が次にくるマンガ大賞のコミックス部門で大賞に輝いたというのは必然のようにも思えますね。
- 著者
- ["赤坂 アカ", "横槍 メンゴ"]
- 出版日
あらすじをふくめたおすすめエピソードの紹介は、こちらの記事をご覧ください。
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