水面スレスレを飛ぶ魚の映像を見たことはありませんか?水泳選手などが華麗に泳ぐ姿をトビウオのような泳ぎというふうに例えられることがあります。一体トビウオはどんな魚なのでしょうか。今回はトビウオの生態とトビウオにまつわる書籍を紹介していきます
ダツ目トビウオ科に属する魚類の総称になります。世界中では50種類以上のトビウオの種類が確認されていて、日本でも30種類以上も確認されているそうです。どの種類のトビウオも胸ビレに加えて、上部が下部よりもふくらみ、分岐した尾ビレを持っているのが特徴です。ただ、私たちの食卓に並ぶのはそのなかでもハマトビウオ、ツクシトビウオ、マルトビウオ、トビウオの4種類です。
「はねる」ことのできる魚は多いですが、トビウオだけは長い距離を滑空することのできる唯一の魚です。飛ぶ距離は500メートル、水面からの高さ約7メートル、飛び立つときの時速は約70キロメートルと言われています。
トビウオは初夏から秋にかけて日本の沿岸にやってくることから、夏を代表する魚の1つでもあります。成長が早く、産卵を済ませると寿命が尽きてしまいます。短命であることから、「年魚」と呼ばれています。
また、西日本では別名「アゴ」と呼ばれています。あごが落ちるほど美味しいから、硬いので食べる時、顎を使うから、トビウオを前から見ると、あごが出ている形に見えるなど様々な説があります。
魚の中で唯一飛ぶことのできるトビウオですが、鳥のように羽ばたいているわけではありません。ひれを使ってグライダーのように滑空しているのです。
トビウオが飛ぶ時は、まずは水面下で速度を上げて助走し、上向きに角度をつけて尾ビレで水を激しく、素早くたたいて、推進力を得て、水面から空中へ飛び出します。尾びれの下方は、上方に比べ著しく長く伸び、この尾びれを海面で激しく振って助走し、勢いをつけて空中に飛び出して、その後は胸びれと腹びれをひろげて、水面近くを飛行します。
この飛び方ができるのは、トビウオの胸ビレ、腹ビレが非常に発達しているからです。胸びれは体の半分以上の長さがあります。
また、体の作りだけでなく飛び立つまでの工夫も持ち合わせています。波のてっぺんから飛び立ちます。高いところから飛び立てるという利点だけでなく、上昇気流も掴みやすいためより飛行距離を稼げるのです。
ただ単純に滑空しているわけでもなく、風に乗って飛行しているだけでなく、着水しそうになると水面をキックしたりジグザグに飛行したりと、さまざまな飛び方ができます。急ブレーキや方向転換も可能というから驚きです。
トビウオには胃がありません。食べたプランクトンはすぐ腸で消化し、すぐに排泄しているのです。また、トビウオの体は余計な脂肪がなく、体重が軽く、細長い円筒形をしています。
これは全てトビウオが飛ぶために進化した構造です。
スズメなどの小さな鳥は体重を軽くするために骨を空洞化したり、腸を短くし栄養を吸収するとすぐに糞を排出するように進化しています。これと同じようにトビウオも胃を無くし、腸を短くすることで自分の飛び方ができやすいように進化していったのです。
トビウオの飛行時間は世界記録で45秒です。
この記録を撮影したのは日本のテレビクルーです。NHKの自然番組「ダーウィンが来た!」のため、鹿児島県の屋久島に向かうフェリーの上から撮影されました。NHKの自然番組で撮影された、トビウオが海面から飛び出て45秒間にわたって飛行した映像が、最も長く飛行したトビウオの記録としてギネス世界記録に認定され、その後2019年に撮影したクルーに認定証が渡されました。
過去にもトビウオの飛行は映像として記録されていましたが、1920年代に米国の研究者が論文で報告した42秒を3秒上回り、最長記録と認められました。
トビウオが飛ぶ理由は明確に解明されていません。
飛ぶ理由についてはトビウオは大型の回遊魚に捕食されやすく、一番有力な説マグロやシイラなどの外敵から逃げるために、水中から飛び上がると言われています。
敵に狙われたとしても飛ぶことで敵から姿をくらませることができるわけです。ただトビウオの敵は海中だけじゃなく海上にも存在しています。
それが魚をエサとするのに水中に入ることができない「グンカンドリ」です。
グンカンドリはペンギンなどのように潜って魚を捕まえることができないですが、マグロなどが追い込んで飛び出してきたトビウオを海の外で構えて捕食するのです。
屋久島周辺の海には、赤道付近からやってくる温かな海流・黒潮が流れ込んでおり、魚が育ちやすい環境となっています。そのため、トビウオは黒潮に乗って台湾から北海道まで回遊する途中、屋久島沖にやってきます。全国の7割以上のトビウオが鹿児島県で漁獲されているほど、トビウオ漁が盛んです。屋久島、種子島の漁港は日本でいちばんトビウオの水揚げ量が高いことでも知られています。
トビウオの卵は私たちの身近な食材です。意外と結びつかない方も多いかもしれませんが、お寿司の軍艦などでよく見る「とびっこ」がトビウオの卵になります。
産んだ卵には5~20cmの付着糸がついており、これが海藻や岩に絡まり、また卵と卵とも絡まって、流されたり傷が付かないように保護されています。この糸は「纏絡糸(てんらくし)と呼ばれ、トビウオの卵の両端から合計数十本生えています。
- 著者
- ["スティーブ・N・G・ハウエル", "石黒 千秋"]
- 出版日
珍しい世界初のトビウオ図鑑。図鑑にできるくらい魅力的なトビウオが多いことがわかりますね。
写真も多いため生態を学びながらもトビウオの飛行姿を楽しむこともできます。
実際に見ることがなかなかできない魚だからこそ、このような本は想像力も高めてくれますね。
あまりフォーカスされない魚ではありますが、この一冊がトビウオに対しての新たな扉を開いてくれるはずです。
- 著者
- ["瀧 靖之", "宮崎 佑介"]
- 出版日
未就学児向けシリーズ「動く図鑑MOVE はじめてのずかん」の第5弾になります。
あのさかなクンも激推しの一冊です。
海や川、水族館などで出会うことのできる生き物が紹介されていて、子供から大人まで好奇心をくすぐる図鑑です。
総監修には、脳研究者・瀧靖之先生をむかえ、好奇心を育み、脳を育てるしかけも随所に入れ込んでるそう。
読むだけで脳が鍛えられるというのはすごいですね。他のシリーズも揃えておきたいところです。
また、今回紹介したトビウオの飛行映像など、NHKアーカイブスの貴重な映像を収録したDVDも楽しめるポイントになっています!
今回はトビウオの生態について紹介させていただきました。
食としては身近な生物でありながらも、野生のトビウオを見かけることはなかなか難しいです。有名な水族館などでは見ることはできず、唯一島根県の「しまね海洋館アクアス」では鑑賞することができるようです。さすがに飛んでいる姿を見ることはできないでしょうが、そのヒレの一つ一つの形を間近で見るのは面白そうですね。