週刊少年ジャンプで連載中の眞藤雅興『ルリドラゴン』。 連載開始早々Twitterのトレンド入りをはたし世間の話題をさらった本作は、ある朝起きたら角が生えていた女子高生・青木瑠璃が、自分の父親がドラゴンだと知るところから幕を開ける漫画です。 今回は待望の第一巻が発売された『ルリドラゴン』の魅力を、ネタバレを交えご紹介していきます。
主人公は母子家庭で生まれ育った高校一年生の青木瑠璃(ルリ)。
ある朝起きるとルリの頭に角が生えていました。
体の変化に困惑する娘に対し、母親の青木海は「アンタのお父さん龍だからね」と衝撃発言。曰くルリは龍と人間のハーフであり、角は父方の遺伝だそうです。
大いに戸惑いながらも友人のユカと合流しとりあえず登校した所、案の定クラスメイトたちに囲まれ質問攻めに。
その後教科書の音読中にくしゃみをしたルリはドラゴンブレスを放って大量に吐血。前の席の男子の頭を焦がしてしまった上、自身も喉に火傷を負って早退を余儀なくされます。
医者曰く、喉が人間の状態のまま火を吐いたのが吐血の原因らしいです。
以降ルリはドラゴンブレスが周りに危害を及ぼさないようにするため、母の監督下で特訓を始めるのですが……。
『ルリドラゴン』はもともと『少年ジャンプGIGA』に読み切りとして掲載されました。その後好評を受け、2022年より『週刊少年ジャンプ』で連載スタートした経緯があります。
読み切りと連載第一話は大体同じ内容ですが、絵柄やセリフなどが少々違っていました。連載バージョンはルリの髪の描き込みが簡略化された他、白目部分がより大きくなり、爬虫類特有の縦長の瞳孔が強調されています。
公式のボイコミではアニメ『ソウルイーター』でマカ役の小見川千明が主人公のルリを好演しました。
『ルリドラゴン』第一の魅力は読めば読むほど癖になる独特のユルさ。
その象徴として挙げられるのが第一話冒頭。寝起きのルリが「何これ?」と角に戸惑ったのち、台所で朝食の支度をしていた母親が「うわっ何だそれ」と第一声を放ちます。
この軽いノリ、実に似た者親子。
第二話にてドラゴンブレスが出ず難儀した際のやりとりは、完全に便秘のそれでした。
上記のやりとりでわかるように、『ルリドラゴン』は深刻な事を決して深刻に描きません。
一番身近な母親にしたってせいぜい乳歯が生え変わった位の反応で、「えっ、そんなにあっさり流しちゃうの?」と読者の方が面食らいます。
ある朝突然角が生え、自分が龍と人間の混血だと判明し、授業中にドラゴンブレスを吐いてしまった。
いくらでもドラマチックに、描こうと思えばシリアスにも描ける設定を『ルリドラゴン』はあくまでコミカルに消化し、ルリの親子関係や友人関係を主軸に丁寧にストーリーを運んでいきます。
注目してほしいのは周囲がまるでルリを特別扱いしない点。
登校初日こそ珍しがったり面白がったりしたクラスメイトたちがたくさん寄ってきますが、彼ら彼女らは決してルリを異端視せず、気味悪がる素振りが全くありませんでした。
亜人が人と異なる見た目や能力故に差別・排斥される漫画を読み慣れてると、それを理由にルリがのけ者にされる事がない優しい世界がとても心地よく感じます。
なんならクラスメイトたちのリアクションは「ちょっと変わった女の子」に対するそれで、転校生やモデルの子がちやほやされるのと大差ありません。
即ちルリの角は、なんだかイケてる個性として当たり前に受け入れられたのです。
これは担任や医者など大人たちも同様で、前者は生徒の一人として、後者は患者の一人として、理解と節度を持ちルリを扱っているのに信頼がおけました。
セリフ回しも上手く、さほど親しくない男子にお前呼ばわりされたルリが「お前っていうな」と突っ込むなど、高校生のわやわやした掛け合いにあるある感があふれています。
ルリがちょっと人見知りな性格なのもポイントで、それまで話した事がなかったクラスメイトたちに構い倒されテンパる様子は、はからずも高校デビューしてしまった初々しさ全開で和みます。
殊更に強調せずとも多様性を許容し合えるカジュアルなスタンス、そこから生み出されるフラットな空気感こそ、『ルリドラゴン』の大きな魅力なのです。
- 著者
- 眞藤 雅興
- 出版日
第二に挙げる魅力は親や友達とのなんてことない掛け合い。
ルリは高校一年生、思春期真っ只中で難しい年頃。そこに「実は父親が龍」なんて爆弾が投下されたら、「私人間じゃないの!?」と反抗期をこじらせてもやむなし……ですが、この漫画はシリアス方面には行きません。
メインになるのはルリの親子関係や友人関係。
龍と人間のハーフの少女が何かすごいことを成し遂げる……のではなく、自分の体の変化や目覚めた力に時に戸惑いながら、試行錯誤して日常生活を送っていくのがテーマなのです。
第一話でドラゴンブレスを吐いてしまったルリは、しばらく学校を休み、力のコントロールを学ぶことになります。その際はピクニックの延長で母が付き添い、河原でドラゴンブレスの特訓をしましたが、なかなか炎が出ず苦戦しました。
「何それ」の第一声といい娘に対し割と淡白な母ですが、無関心に放任してるわけではありません。
むしろその逆で「アンタに何かあったら私が何とかする」と請け負い、田舎の山に住む龍(ルリ父)に直接アドバイスを乞いに行き、ルリが力をコントロールできるようになるまで励まし続けました。
小さいコマでサラッと描かれているからこそ、娘をサポートする母の愛情や頼もしさが染みますね。スーパーに立ち寄った時はルリが頑張ったご褒美にアイスを買ってあげたり、既視感を刺激する親子の掛け合いにほのぼのしました。
ちなみに喉の火傷は二日で完治し、以降は普通に火を吐けるようになります。ドラゴンハーフであるルリの体とメンタルが逞しく環境に適応していくのも見所ですね。
両親の馴れ初めや夫婦の営みの詳細、ルリの父親であるドラゴンの正体などはまだ謎に包まれており、これから徐々に核心に触れていくのが楽しみです。
ルリの親友・ユカも忘れてはいけません。
学校を休んだルリを案じて迎えに来たりお弁当を食べながら色々相談に乗ってあげたり、友人が引きこもらないように世話を焼いてあげる優しい性格の女の子で、『ルリドラゴン』一の癒し系と言われています。
眞藤雅興『ルリドラゴン』がお気に召した人には、同じく亜人の女の子が活躍する学園コメディ、『亜人ちゃんは語りたい』(ペトス)をおすすめします。
こちらは生物教師の男性を主人公に、吸血鬼・デュラハン・雪女・サキュバスなど、亜人の血を引く女生徒たちとの交流を描いた漫画。
各々先祖から遺伝した特異体質に悩みながらも、恩師や個性的な仲間に囲まれて、賑やかに毎日を送る姿に元気をもらえますよ。
- 著者
- ペトス
- 出版日
- 2015-03-06