『生き残った6人によると』はゾンビが蔓延する現代を舞台にした異色のラブコメ漫画です。死に物狂いのサバイバルするのではなく、物資の豊富なショッピングモールで非常時の日常をゆるく送っていくのが印象的。2022年にはTVドラマ化もされました。 『生き残った6人によると』の原作漫画の魅力や見所についてご紹介していきます。
『生き残った6人によると』は2020年から青年漫画誌「ハルタ」で連載されている山本和音の作品です。既刊4巻。
千葉県で突如発生したゾンビパンデミック。辛くも災害を生き延びた8人の男女が、安全を確保したショッピングモールでサバイバル――ではなく、「誰と誰がくっつくか」に重点を置いたシェアハウス生活を送っていきます。
ゾンビ作品にもかかわらず、極めてゆるいラブコメ展開を見せるのが本作の特徴。特異な設定が話題となって、2022年には桜田ひより主演の同名TVドラマ全6話が制作され、毎日放送・TBS系で放送されました。
コメディ要素のあるゾンビモノとしては、TVアニメおよび実写映画化予定の漫画『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』もありますが、『生き残った6人によると』はあちらより閉鎖環境における人間模様(主に恋愛)に焦点が当たっています。
先の見えない生活の中、事態は悪化していく一方です。最初に生き残ったのは8人ですが、タイトルを信じるなら最終的に6人になるはず。誰が脱落して、誰が生き残るのか。そして何人が結ばれるのでしょうか。
TVドラマ版は基本設定を除くと、原作漫画とほぼ別物です。TVドラマ版は観ていても原作未読の方や、ドラマ化でタイトルだけは知っている方は、ぜひこの機会に漫画『生き残った6人によると』の魅力に触れてみてください。
それは成田空港に着陸した旅客機から始まりました。発症した人間が他者を襲い、連鎖的に感染が広がっていくゾンビパンデミック。
偶然最初の混乱を逃れた水上梨々(みずかみりり)は、ゾンビに囲まれかけたところを別の生存者に救われ、ショッピングモール「キノ幕張」へ避難できました。
モールに駆け込んだのは男女合わせて8人。彼らはお互い距離感を探りつつ、ひとまず安全な場所で奇妙な共同生活を送ることになります。
漫画『生き残った6人によると』の序盤の登場人物は8人+1人です。だいたい1人1人にスポットが当たるので全員主人公といっても構いませんが、ストーリー的な意味での主人公は水上梨々。
梨々はショートカットと眼鏡が特徴の女子高生で、性格は非常に生真面目です。17歳ながら、賢い上に家庭の事情からさまざまな習い事を経験しており、身体能力は生存者の中で随一。所属するソフトボール部のジェラルミン製バットで戦います。ドラマ版では桜田ひよりが演じました。
準主人公といえるのが金髪の女性YouTuber、樫本(かしもと)ビースト。取れ高命が信条で、各話でスポットの当たる登場人物のそばにいるため、実質的な物語の進行役となっています。スマホ片手にうろつくだけで、戦闘には参加しません。ドラマで演じたのは高石あかりです。
入江神(いりえじん)は19歳の寡黙なフリーター。誰ともつるまず、普段の存在感こそ希薄ですが、危機的状況における判断力と戦闘能力は梨々と同等です。なぜか文房具を駆使してゾンビを圧倒します。ドラマ版のキャストは倉悠貴。
良くも悪くも目立つベジタリアンの村濱雫(むらはましずく)。25歳の美女。あるがまま生きるナチュラリストで、ゾンビを含む他者に必要以上関わらず、もっとも籠城生活を楽しんでいます。戦闘力は皆無。ドラマ版では仲村ゆりかが演じました。
生存者をまとめているのが、自称25歳の会社経営者「れんれん」です。本名不明。横文字を駆使して中身のない話をする癖があり、リーダーシップを発揮しようとするが常に上滑りしています。実年齢は31歳で、他人の尻馬に乗ることしか出来ない人物です。ドラマ版のれんれん役は佐野玲於でした。
平坂亮(ひらさかりょう)はそこそこ名の知れたイケメン登山家。根拠のない自信家ですが、体力はあっても戦闘はからっきし。ドラマで演じたのは大貫勇輔です。
さらに東大生で坊主頭の柏正太郎(かしわしょうたろう)、現役モデルの美女・最上紗奈(もがみさな)が出てきます。ドラマでは正太郎を田中光輔、紗奈を八木アリサが演じました。
他にもう1人、警察官の木内誠(きうちまこと)も最初の騒動を生き延びましたが、梨々が合流した時点で単独脱出を試みて死亡。彼の死が後々……。
漫画『生き残った6人によると』は、現代日本を舞台としたゾンビサバイバル作品です。ゾンビでサバイバルをモチーフとした作品にもかかわらず、通常のゾンビ漫画、サバイバル漫画と違った温度感がたまらなく魅力的。
作中の詳しい被害状況は不明ながら、断片的な情報からすると、日本政府は千葉県内で感染の封じ込めには成功しているようです。ただ逆に言えば、それは千葉県内にゾンビが溢れかえっており、生存者たちにとって脱出不可能な陸の孤島と同義。
救援は望めず、本来なら絶望的状況なのですが……ここでショッピングモールに逃げ込んだのが幸いします。食料に衣服、寝具といった生活物資はすべてモール内で調達可能。不足どころか8人で当面暮らすだけなら余裕があるくらいで、梨々を除く大半は好き勝手に異例のシェアハウス生活を満喫し始めます。
ショッピングモールの外はゾンビがうろつく超危険地帯、内は人間関係と恋愛模様に終始するほのぼの空間。壁1枚ガラス1枚を隔てて、天と地ほどもある状況の差が興味深いです。
……ですが、それは序盤の話。どれだけ現実から目をそらしても物資は有限で、ゾンビが消えてなくなることはありません。ある事件のせいで1階にゾンビがなだれ込み、生活圏を狭くせざるを得ない非常事態が発生します。
『生き残った6人によると』というタイトルですが、主要キャラが欠けたり6人より増えるのが面白いところ。最終的には6人になりそうですが、既刊4巻の時点で何人も脱落しているため、誰が生き残るのか非常にハラハラしながら楽しめます。
『生き残った6人によると』はラブコメ展開も見所です。極限状況下でラブコメと聞くと奇妙に思いますが、そう感じるのは主人公の梨々と読者のみ。大半の生存者はちょうど男女同数なのをいいことに、恋の鞘当てをくり返します。
この現象を理解できない梨々に対して、作中で樫本ビーストは「だからこそ恋をする」と説きます。明日も生きられるとは限られないから、残されたわずかな時間を最愛の誰かと過ごしたい。そのために恋をするのだと。
種の保存は人間を含む生物の本能なので、極限状況下で無意識にパートナーを求めるのは、実は間違っていない……のかもしれません。
それはそれとして、梨々以外の緊迫感のないラブコメっぷりは、シチュエーションと合わせて非常にシュール。
たとえば、いち早く恋人作り宣言をしたビーストは、言葉とは裏腹に入江にほのかな思いを抱いてもじもじするだけです。逆にれんれんと平坂は積極的に雫にモーションをかけるものの、なしのつぶて。当の雫は男性陣を意に介さず、同性の梨々に熱視線……。
1番恋愛から縁遠いスタンスのはずの梨々が、結果的に複雑な相関図の中心にいるという面白い図式ができあがっています。
ちなみに梨々は序盤の1件以来、色恋にまったく興味ないのですが、そんな彼女もとある人物と後々……。恋愛は抜きにしても、閉鎖環境での共同生活を通して生存者たちの関係が徐々に変わっていくのは、読み進める上で注目すべきポイントです。
千葉県幕張某所の高速道路から、水上梨々の目の前に高速バスが落下してきたことからすべてが始まりました。大事故に梨々が呆然としたのもつかの間、バスや周辺から怪我人らしき奇妙な者たちが続々と現れます。
奇妙な者たちは、すでにゾンビ化していました。危険を知らない梨々は応戦しようとしますが、間一髪のところで生存者の柏正太郎に救われ、ショッピングモール「キノ幕張」へと難を逃れます。
- 著者
- 山本 和音
- 出版日
息もつかせぬ初日のゾンビ襲撃から一転、3日目までは自己紹介や人間関係の構築を除けば、特筆すべきことはなにも起こりませんでした。3日目の就寝前、正太郎が梨々を訪ねてくるまでは……。
モールへ逃げ込んだのは全部で8人。生存者は救助を待つ間、互いに協力し合う不思議な共同生活をスタートさせました。ところが、正太郎の行動がきっかけで、モールの生存者たちに最初の転機が訪れます。
梨々にのちのちまで影響する1つの事件。波乱のサバイバル生活の幕開けに注目してください。
感染発生から14日目、ついに日本政府主導の救助活動が開始。派遣されたヘリコプターは各地に点在する生存者を順次救出し、「キノ幕張」にも目前まで迫っていました。
ところが、直前になって突然ヘリが墜落。どうやら救助した者の中に感染者が混じっていたようですが、いずれにせよ救助は失敗に終わりました。
しかし、梨々たち「キノ幕張」の生存者に悲しんでいる暇はありません。ヘリ墜落の影響で、閉鎖していたモール1階入り口に穴が開いてしまったのです。
梨々の機転で2階に通じる通路を封鎖。ひとまず安全は確保できたものの、1階は完全にゾンビに占拠されてしまいました。
ゆるい空気から一転、死と隣り合わせの現実を改めて突きつけられる生存者たち。本当に危ない状況になって、初めてにじみ出る人間性の違いが見所。普段リーダーぶっているものの、ここぞという時に決めきれないれんれんの姿に、上っ面だけを取り繕うことの虚しさを感じてしまいます。
ここに至って、本作に登場するゾンビがのろまではなく、全力疾走するタイプなのが判明。さらに身体能力の高い特異ゾンビまで出現し、梨々たちは窮地に立たされます。
怪我を負った平坂と彼をかばう梨々から注意をそらすため、れんれんは危険な原付に乗った特異ゾンビの囮になります。当初上手くかわしていましたが、調子に乗って攻撃に転じた隙を突かれ、大怪我を負ってしまうれんれん。
解放された原付ゾンビは、なぜか執拗に梨々を追いかけます。実は原付ゾンビこそ、序盤にモールを脱出した柏正太郎の変わり果てた姿でした。
- 著者
- 山本 和音
- 出版日
生前の性質に強く影響されるというゾンビ。梨々へ執着する様子から、正太郎の本心が透けて見えて、絶体絶命のピンチにもかかわらずもの悲しさを感じてしまいます。
そんなゾンビ正太郎の様子に気付き、決着をつけるべく真っ向勝負を挑む梨々。激しいアクションの中にも、人間関係が織り交ぜられているのが本作ならではの面白さといえます。
そしてついにゾンビ正太郎を追い詰めた時、思わずとってしまう梨々。端から見れば愚かなのですが、彼女を責める気持ちにはどうしてもなれません。ここまで超然としていた梨々が、年相応の女の子に見えてくるでしょう。
意外な人の意外な行動も含めて、本作の2つめの転換点となる重要なエピソードです。
『生き残った6人によると』は2022年8月にTVドラマ化されました。
ドラマ版第1話はほぼ原作通りですが、原作漫画がまだ連載中なため、ドラマはオリジナルストーリーが中心でかなり違った話が描かれます。
たとえば第2話はビーストのイタズラが原因で、生存者の間に勘違いの連鎖が発生。お互い意中の相手とは違う相手からアプローチを受ける――と錯覚してしまいます。原作を先に知っていると、各キャラの反応を見て新しい発見があるかもしれません。
また原作では2巻から3巻にかけてビーストと入江の仲が深まりますが、ドラマの場合は第3話の段階で、他のメンバーが後押しする展開が描かれます。ほかには梨々に対する雫の一方的な好意が成就し、同性愛的な関係へと発展するのも驚くでしょう。
ドラマと原作の最大の違いは、紗奈の再登場です。原作だと紗奈の生死は不明ですが、感染を疑われる状態で戻ってきます。紗奈の帰還をきっかけとした不和はドラマ版の山場。
『生き残った6人によると』はドラマと原作でかなり違うため、どちらか一方しか知らないかたは、両方見るとより楽しめるでしょう。
『生き残った6人によると』はまだまだ連載が続いています。新しく登場するキャラ、逆に退場するキャラが出てきており、予想できないストーリー展開から目が離せません。
気になったかたは既刊4巻を読みつつ、『生き残った6人によると』の続巻を心待ちにしましょう。いずれTVドラマの続編が来るかも……?