後味の悪さや胸糞の悪さを備えたミステリーの一大ジャンル、イヤミス。 その中でも湊かなえや櫛木理宇と肩を並べる存在感を占めるのが、『暗黒女子』の秋吉理香子です。 今回は映画化もされ話題を呼んだ秋吉理香子の学園ミステリー、『暗黒女子』のストーリーや魅力をご紹介していきます。
名門ミッション学園聖母女子高等学院。選び抜かれたお嬢様が集うこの女学園には、カリスマ的人気を誇る才色兼備のマドンナ、白石いつみが君臨していました。
ある時いつみが鈴蘭の花を手に持ち、屋上から飛び下ります。
学園のカリスマの訃報に接し、悲しみに暮れる生徒たち。いつみの親友・澄川小百合は、いつみが生前主宰していた文学サロンのメンバーに、彼女を偲んだ作文を書いて闇鍋会で朗読しようと提案しました。
闇鍋会とは聖母子高等学院の文学サロンにおける毎年恒例の行事で、メンバーそれぞれがオリジナルの具材を持ち寄り、暗闇の中で鍋を囲むのです。
参加者は高岡志夜、小南あかね、二谷美礼、ディアナ・デチェヴァ、古賀園子に小百合を含めた六人。
志夜は現役女子高生にして帰国子女のライトノベル作家、あかねは由緒正しい料亭の娘で洋菓子作りが得意、美礼は貧困家庭出身の真面目な奨学生、ディアナはブルガリアからの留学生、園子は医者の娘で成績上位の優等生。
一見何の問題もない華やかなメンバーですが、いずれも人に言えない秘密を持ち、欺瞞と虚飾に塗れた学園生活を送っていました。
満を持して闇鍋会が始まるものの、一番手の志夜が「いつみは殺された」と告発。現場が騒然とする中、少女たち読み上げる作文の中で、新しい事実が次々暴かれていきます。
以下、朗読の順番とメンバーが書いた小説のタイトルです。
- 著者
- 秋吉 理香子
- 出版日
- 2013-06-19
秋吉理香子は2009年『雪の花』で小学館文庫よりデビューを飾りました。別名義で映画の監督や脚本・演出を手がけており、映像業界に造詣が深いです。代表作は『暗黒女子』『絶対正義』『終活中毒』などで、いずれもイヤミスに分類されます。四字熟語のような漢字四字のタイトルにこだわりがあるようです。
- 著者
- 秋吉 理香子
- 出版日
- 2016-11-10
- 著者
- 秋吉 理香子
- 出版日
秋吉理香子のおすすめ本5選!『暗黒女子』が映画化でブレイク!?
今や「イヤミス」の旗手として、コアなファンを獲得している秋吉理香子。多くの引き出しを持ち、そして人間の心の闇を克明に描き出す……そんな秋吉理香子のおすすめの5作品をご紹介します。
また『暗黒女子』は2017年に耶雲哉治監督、清水富美加主演で映画化されており、キャッチ―な映像表現が話題を集めました。
映画と小説最大の違いに挙げられるのは古賀園子の扱い。映画では存在自体がカットされており、朗読者は小百合を含んだ五人に減らされています。これは園子と美礼の設定が被る為だと予想されます。
さて、『暗黒女子』最大の魅力は疑心暗鬼が渦巻く展開。文学サロンのメンバーは全員が信用ならざる語り手であり、彼女たちが書いた作文には、自己保身の為の嘘や欺瞞が含まれます。
家柄や容姿で序列が決まる聖母女子高等学院において、いつみにスカウトされることは一種のステータス。故にサロンメンバーはトップに選ばれし特別な存在である自負を持ち、現在の地位やイメージを守ることに腐心します。
闇鍋会にてメンバーが朗読する小説では、「私だけが見聞きした事実」「故人に打ち明けられた秘密」が惜しげもなく騙られ、最後に犯人が告発されます。
何故こんな事になったのでしょうか?
理由は単純。彼女たちが犯人と名指しした人物イコール、都合が悪い真実を知る者なのです。
たとえば小南あかねの場合、将来店を持たせる約束を反故にされたのを恨んで実家に放火した際負った火傷を、帰りがけの二谷美礼に見られています。美礼が真実に気付いて警察に駆け込んだら最後、あかねの人生は一巻の終わり。
即ち、自分の敵を葬り去る為に他殺を捏造したのでした。
あかね同様、他のメンバーの秘密も重いもの。美礼はボランティアの建前で高齢者と援助交際に励み、ディアナは姉を突き落とし代わりに留学。志夜はフランス人作家の小説を盗作し、園子はパソコンの不正操作で成績表を偽造しました。この事実が公けになれば学園を追われるだけではすまず、最悪逮捕されかねません。
カリスマへの餞となる朗読会が一転、少女たちのエゴが炸裂する暴露大会の様相を呈す……なんともぞくぞくしませんか?
ここで暴露されるのは羽化する前の蛹さながらドロドロした、思春期の女子の中身かもしれません。
文学サロンの恒例行事が闇鍋というのも斬新。鍋にはハイブランドの腕時計やチョコレートが混入された前例があり、物理的にも比喩的にも何が出てくるかわからずスリルが高まります。
朗読者が交代するごと前の語り手の話が覆され、新しい事実や秘密が露呈する。裏切り、駆け引き、出し抜き合い……最後に小百合が読み上げる作文で明かされたのは、学園のカリスマとして崇められた美しい少女の、邪悪極まる本性でした。
- 著者
- ["秋吉 理香子", "兄崎 ゆな"]
- 出版日
- 著者
- ["秋吉 理香子", "兄崎 ゆな"]
- 出版日
『暗黒女子』のテーマは一軍女子たちのマウンティング合戦。
本作のキーパーソンは物語スタート時点で既に故人の白石いつみ……と見せかけ、その親友・澄川小百合でした。実はいつみは死んでおらず、狂言自殺を企てたのち、以前から交際していた顧問の北条慎二と駆け落ちしたのです。
いつみがサロンを発足した動機は北条との密会場所が欲しかったから。メンバーは主役を引き立てるお飾りの脇役に過ぎず、心の底では見下していました。やがて北条の子を妊娠。まだ性別もわからない胎児に「すずらん」と名付け愛情を注ぐものの、部員の誰かが父親に密告したせいで中絶させられ、その復讐に朗読会を開いたのです。
いつみの復讐計画を裏でアシストした黒幕こそ、文学サロンを引き継いだ澄川小百合でした。
が、ここですれ違いが起きます。
久しぶりに再会した親友が、ただの凡庸な女に成り下がっている現実に幻滅した小百合は、彼女を殺して成り代わる決断を下すのです。
ある意味作中最大のサイコパスといえる小百合。何せ親友を手にかけたのち解体し、その肉を闇鍋で煮込んで食わせ、メンバー全員を共犯に仕立て上げるのですからたまりません。
えてしてファンとは勝手なもので、自分の理想が壊れる位ならいっそ、と極端な行動に走りがちです。小百合が親友を殺害したのは憎悪や怒りによる衝動的犯行にあらず、学園のカリスマを永遠にする為、ないし独占する為と考えた方がしっくりきます。
人によっては豹変ぶりに引いてしまうかもしれませんが、小百合が親友に向ける感情を恋愛に極めて近い崇拝と解釈すれば、聖体拝領のメタファーであるカニバリズムは納得できる結末です。
狡く愚かでおぞましい少女たちの騙し合いをご覧になりたい方は、ぜひ『暗黒女子』を読んでください。禁じられた花園への扉が開けますよ。
- 著者
- 秋吉 理香子
- 出版日
秋吉理香子『暗黒女子』を読んだ人には恩田陸『蛇行する川のほとり』をおすすめします。
こちらも女子高が舞台の青春ミステリーで、感傷的な雰囲気が堪能できます。
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プラトニックな百合小説好きはぜひチェックしてください。
恩田陸おすすめ26選!代表作から最新作までジャンル別ランキング
『夜のピクニック』などで高い人気を博している恩田陸。彼女の作品は膨大な読書歴と実体験に基づいており、ジャンルは実に広範です。この記事では恩田陸の物語を、青春、ミステリーといったジャンルごとにランキング形式でおすすめしていきます。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
次におすすめするのは若竹七海『スクランブル』。女子高で80年代を過ごした女性たちが当時の事件を振り返る、ほろ苦いミステリーです。
エスカレーター式のお嬢様女子校を舞台に、繰り上がりの内部生と途中編入の外部生の対立が描かれる他、女子高出身者ならデジャビュを感じるエピソードが詰まっています。
こちらも話ごとに語り手が交代しますが、どの子も共感できる悩みや秘密を持ち、身近に感じられるのが美点ででした。
若竹七海のおすすめ小説5選!多彩な女流ミステリー作家
ハードボイルドにホラー、パニック小説に歴史ミステリーと様々な趣向でミステリーを描き続ける若竹七海。今回はそんな彼女のおすすめ小説を5点紹介いたします。
- 著者
- 若竹 七海
- 出版日