【#5】※この岡山天音はフィクションです。/「寝て見る夢」

更新:2023.10.27

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友達の女の子が自分の見ている夢を操れるようになったらしい。

というかこの前聞いた話では、夢と現実の境い目が薄くなってきたらしい。

その子はその日見た夢を忘れないうちにメモに起こして、いわゆる夢日記をつけていた。

ある時からどの夢の中に居ても、自分が今いる場所が夢だと確信を持てるようになった。

 

その女の子は最近、夢の中で自分の背中に羽根を生やす。

彼女はその日、その羽根を使って自分が今思いを寄せている男の子の家まで行ってみようと閃く。

現実にはない操作感覚で両翼を使いこなし飛んで行き(現実の世界では彼がどこに住んでいるのかを知らない)彼の家の窓をすり抜けて、彼がスヌーピーのTシャツとスウェットという格好でバラエティ番組を眺めている姿を自分も隣でしばらく眺め(彼には彼女の姿は見えていない)そこから自分の自宅まで飛んで帰り、自室のベッドに横たわったところでちょうど目が覚めたらしい。

 

翌日、その彼とメールのやり取りをしている中で彼がバラエティ番組の話題を持ち出してきた。

その番組について盛り上がるより前に彼女としては番組名を聞いてドキッとして、ちなみに家では普段どんな服装をしているのかを確認してみたところ、昨日はスヌーピーTシャツだった事が判明した。

どころか「てゆーか、昨日うち居た?(笑)」と続く彼からのメールに彼女は携帯を落として液晶を割った。

その時のヒビを見せてもらったが、夜空を裂く鋭い稲妻みたいに太い線が黒い液晶画面を真っ二つに割っていた。

後日、彼と会った時に例のメールの意味を確認すると「あー?いやーなんかめっちゃ〇〇ちゃんの気配がしたんだよなあの時(笑)。いやキモいかこれ(笑)」と返され、もう彼女の胸はキュンじゃなくてゾンッだった。

それから彼女は怖くなって夢日記を辞めてしまったらしい。

「人間の外側にはみ出してしまった気がした」と彼女はこぼした。

ちなみにその彼に対しては罪の意識が芽生え、以降連絡を取り合う事すらやめてしまったらしい。

 

俺はとにかく夢を見ない。

ロケバスやソファでうたた寝してしまった時にたまにという程度で、一年のうちのほとんどを夢とは無縁のところで過ごしている。

ただ彼女からこんな話を聞いてしまった俺の中での夢への興味は青天井。

日頃より、自分の生活圏から遠い事柄にこそ強く興味をそそられる自分にとっては目から鱗だった。

俺はなんとかその未知なる体験に触ろうと試行錯誤を始める。

 

まず俺は自宅のベッドで寝ることをやめ、リビングのソファで寝ることから始めてみる。

浅い不安定な眠りの中で夢をみて、俺はそれを毎日欠かさず日記に付ける。

その作業のためにいつもより10分早く目覚ましをセットする。

移動中のロケバスでも携帯を弄ったりせず、なるべく寝るようにする。起きたら忘れないうちにメモを取る。

最初の頃に見る夢は、もちろん自分の外側で勝手に動いて行くし起きた瞬間からどんどん忘れて行った。

 

夢と現が切り替わる時の感覚の推移。

現実の出来事が夢に持ち込まれたり、または夢の出来事が現実に持ち込まれたり、双方は延長上にある世界のようで、その二つには埋めようのない断絶も感じる。

どちらも同じ人間の同じ身体に起きている事象だとは思えない。

起きてから夢を振り返ると、現実の世界に存在する言葉や文法だけでは表現できないことが起こっていたと気が付く。

自分の家族の似顔絵を、画材を使わずに描け、と言われているような難しさに阻まれる。

しかも夢は部分的にしか覚えていない。

最終的にはいつもちょっとでっち上げる。

 

でも夢の中で夢を操ったり、より鮮明に思い出せる夢に出会うより先に俺はソファでも安眠できるようになってしまう。夢を追いかけて睡眠の時間を確保し過ぎたせいで睡眠不足は解消され、ロケバスの中で寝れなくなる。

 

だから俺は夜寝る時に二十分毎にアラームをセットしたり、体育座りのまま寝ようとしたりを試みる。

それじゃあやっぱりまともに寝れないから、日中になってから抗えない眠気に襲われて、その時には仕事の隙間隙間でこれまでにないぐらいドロドロの眠りに落ちる。また夢を見なくなる。仕事に支障が出る。

 

それをその友達の女の子に相談したところ、「天音くんは元々なんか変なんだから、これ以上人間から遠ざかるみたいなのはやめた方が良いと思う。何なの?」と言われる。

 

誰が誰に何を忠告しているのだろうと思う。

でも、「確かに」とも思う。

「確かに」?。

 

日常で出会える未体験をそれでも諦めきれない俺は遂に、ベランダで立ち寝。

疲れ果てた意識の先で、もの凄い形相の閻魔さまが雲の上から俺のことを見下ろしていて、寝そべっている生きたままの俺の体を大量のカラスがついばみ、痛過ぎて死んで蘇ってまた死んでを二千回繰り返す、という夢から覚めた朝、俺はやっと我に帰ってそれからはベッドの上で天井を眺めながら、夢を見ない睡眠が好きだな~~、とか思うようになった。

 

しばらく経ってから過去のある一時期の自分を顧みて「とち狂っているな…」と他人をみているような心持ちで眺めること、ありますよね。

 

※この岡山天音はフィクションです。実在する岡山天音も夢をみない体質で、でも確かに夢を見られる日々に憧れはあります。

 

【#4】※この岡山天音はフィクションです。/「夜のランニング」

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【#3】※この岡山天音はフィクションです。/「タイトルなし」

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【#2】※この岡山天音はフィクションです。/「SI 俺たちはいつでも」

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