タイムリープしてた旧友が居る。
俺も知らなかったんだけど。
学生の頃、タイムリープして二度目の学生をやってた奴が居る。
この間初めて参加した同窓会で、それぞれがそれぞれの再会に高揚する会の序盤、俺が居た隅っこの席では、そこに出席していなかった「彼」のことに話が及んだ。
「この間、会社の近くのカレー屋で偶然会ったんだけど、なんかその時用事でこっちに来てたらしくて、それで居たみたいなんだけど。せっかくだから一緒にカレー食ってたらさ、なんかちょっとヤバくなってた」
同窓生のうちの一人が言及した「彼」は学生の頃クラスの中心で、他学年にも名前を知られる有名人だった。
だがその時カレー屋で「彼」から打ち明けられた話によると、「彼」が当時その地位に有り付けていたのは、自分が未来からタイムリープして来たことによる作用が大きかったと話し出したらしいのだ。
学生時代の「あの時、ああしていれば良かった」の「ああ」を、二周目の学生生活の中で一つ一つ選択し直した先に、当時の「彼」の存在感があった。
「アイツあの頃真ん中に居たのに同窓会とか全然来ないじゃん。だから色々今の話とか聞いたんだけどさなんかヤベェなと思って、俺カレー残して会社戻っちゃったよ」
興味を惹かれた俺はその同窓会の中で「彼」の連絡先を知る人を何とか探し出し、その頃には同窓会もお開きになっていた。
「彼」とは学生時代、ほとんど交流はなかった。
一度水泳の授業の時に、偶然近くに居合わせた「彼」が他のクラスメイトから「お前足の指の長さ変だね」と、いじられているところを見た。
俺が「彼」のその足を盗み見ると、確かに「彼」の足の指はそれぞれの長短があまり見たことのない比重で生えていて、しかもよく見ると左右でもその長さの順列が違っていた。
「彼」は自分の足を見下ろし、顔にかかった長い前髪の奥で「ね。俺足の指ガチャガチャなんだよ」と笑いながら返していた。
「彼」と俺は学校の中で全く接点のない離れた場所で過ごしていたはずなのに、なぜだかその時だけは俺の人生の中に、確かに「彼」の存在を感じた。
「彼」に指定されたのは地元の、どこにでもあるチェーン店のカフェだった。
いきなりの連絡だったにも関わらず、「彼」は俺からの会いたいという申し出を承諾してくれた。
久しぶりに会った「彼」の印象は大きく違っていて、顔付きには当時の面影がそのまま残されているはずなのに、何というか当時彼から放たれていた光彩のようなものがごっそり抜け落ちていた。端の席に座る彼を見つけた時、俺の頭には羽をもがれた蝶の姿が浮かび上がった。
つづく
【#9】※この岡山天音はフィクションです。/ウィーアー
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【#8】※この岡山天音はフィクションです。/混ぜなきゃ危険
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【#7】※この岡山天音はフィクションです。/「多分そう。」
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※この岡山天音はフィクションです。
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