【#11】※この岡山天音はフィクションです。/二度と来ない②

更新:2024.5.31

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今回は#10の続編です。#10から読みたい方はこちらから。

【#10】※この岡山天音はフィクションです。/二度と来ない①

【#10】※この岡山天音はフィクションです。/二度と来ない①

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ーー電話でも話したけど、タイムリープしたって。あれマジ? 学生の頃、あれ二周目だったって。

「ああ、そうね(笑)まぁそんな大ごとにするつもりはなかったんだけど、時効…っていうか、今だから話せるみたいな感じで話しちゃったんだよね。魔が差したっていうか」

ーーちょっと詳しく聞いてみたいんだけど。

「あぁ…まぁ…でも珍しいね。本気にしてるとしたら。難しいと思うよ。タイムリープするのは」

ーーああ、そうなの?てか、いやそんな人っていないからさ、てか普通居ないじゃん。
だからめっちゃ話聞いてみたくて。

「ふーーん………まぁ何かの参考になるなら。まぁ何の参考?って話だけど(笑)」

ーー参考にしたいからさ教えてよ。

「あぁ……うん。あのね………まず俺がハタチの時なんだけどね。普通の一周目のハタチの時ね。その日俺、大学休みで、実家からコンビニにレンチンの白飯買いに行こうと思って。それでそのコンビニまで歩いてったらさ、そしたらそのコンビニの駐車場に黒い穴が空いてたんだよ。ギョッとしてさ。見た事ないくらい綺麗な丸い穴。工事かなんかの途中なのかな、でも本当にただの丸だったし、穴だったし、黒だったし、変だなと思って。それでその穴にしばらく遠目から見入っちゃってたんだよ」

ーーうん。

「それで気付いたらさ、タイムリープしてた。12歳のころに。12歳の塾の帰り道に。ハタチのその時とおんなじコンビニの駐車場の前通って帰ってた時」

ーーえ?

「俺、塾で苦手な男の先生居たんだけど、その日めっちゃ静かな声で怒られてさ。その日の帰り道。だから覚えてるんだよ。めちゃくちゃ怖かったから。怒られた後、なんでかわかんないけど帰り道、そのコンビニの駐車場の前で立ち止まって、「穴あけ」ってめっちゃ念じてたの。それをその時思い出して。説明ムズイんだけど。なんだろうね。なんかあんまり味わった事のない強い感情になっちゃってたからさ、その吐き出し方を探してたって事なんだろうけど。要は駐車場に八つ当たりだよね。今思えばなんでもない瞬間の出来事なんだけど、その時の事はハタチまでなんかずっと覚えちゃってて。それで元居たハタチの世界で実際に見つけたまん丸い穴と、塾帰りに八つ当たりで空けた空想の穴が自分の中で繋がって。あ、あの日の塾の帰り道だ今、ってピンと来たんだよね。そこから俺の二周目が始まったの」

ーー…なんか…奇抜なきっかけだね。キモいね。その穴に入ったりとか、何か劇的な瞬間とかじゃないんだ。穴見てたらふとって感じ?その時はパニックなったりしないの?

「あぁ~まぁ無いかな。いや、まぁパニックっていうか、ハイにはなってたかも。ヤバイヤバイヤバイ!みたいな。なんかまず走り出して、12歳だからさ、視界もハタチの時より明らかに低くなっててマジ?みたいな。こんな低かったの?みたいな。で、まず走り出してから家に向かおうって決めて、その間も街並みとかやっぱり昔の街並みなのよ。そしたら色々思い出してさ。単純に記憶もそうだけど、当時感じてた悩みとか、逆に何に喜びを感じるかとか、当時の子供の価値観みたいなものが脳の奥側から最前列に飛び出してくる感じ。普通に生きてたらもう開かれる事のなかった記憶の蓋がバカバカ開いてく感じ。人間のこれまでの記憶ってちゃんと脳の中に蓄積されてるんだねって思った。埃被ってるだけで在るには在るんだって」

ーーちょっと体験してみたくなってきた。

「それで家に着いたらやっぱり、12歳の当時でさ。母親が居て、父親はまだ帰ってなくて、その感じも当時の塾から帰ってきた時のいつもの雰囲気なんだよ。感動したね。でも風呂入って自分の部屋の電気消してベッドに横なった時は怖くなったりはしたかな。その日は眠れなかったかも。でも朝になったらそのまま次の日が来るんだよ。あの頃の次の日が。それでアレ?これいつまで続くんかな?とか思ったりもしてたけど、それでもなんか生きる事へのモチベーションはかなり上がってたからさ、なんか毎日が懐かしい様な新しい様な、とにかく強烈な毎日で。この異常事態をどう捉えようってずっと考えてた」

ーーそれで、自分の人生を良い方向に導き直そうみたいな発想に至るわけ?この機会を利用しようみたいな?

「まさにそうなんだよ。何でそんな事態が起こってるのかはわからないままなんだけど。そこから、二回目のその日その日を過ごしていく中で、忘れてたような事も次々思い出していくんだよ。あ、こんな事あったなぁって、些細な事でも、二周目でなぞり直すと何となく思い出す。そしたらやり直してみようって。もっと良い青春があったかも知れないって。堪らなかったね。目の前に大金積まれるよりうれしかったよ。積まれた事ないけど」

ーーじゃあ一周目では手に入らなかったキラキラした青春みたいなものをゴールに見立てて、逆算して一つ一つの分岐を選択し直していったって感じなの?

「う~ん。というよりそれは結果論かな。一回大人になってたからさ。一見安全に見える選択肢を取ることのリスクってあるじゃん?賭けに出ないことのリスク、みたいな。それに何となく気付いてた結果、一周目の当時より大胆な方を選ぶ傾向にあったから、それが必然的にそこのキラキラした場所に自分を押し流していったって事ではあるんだろうけど。入学式の時、最初だから隣に居たあいつに話しかけてたけど、今回は足伸ばしてあいつに話しかけてみようとか、あの頃はこっちのやつらとつるんでたなぁ、だけど今回はこっちに属せないかな?とか。それでとにかく謳歌しまくってたな。部活も。一周目では入ってなかったけど、思いっきりやってみたり」

ーーそこまで活発になれたのは、やっぱりさっき言ってたみたいに、生きる事へのモチベーションが一周目の時よりも強かったからなのかな。

「間違いないね。あとは一回ハタチまで行ってたから、世の中のサイズ感とかも当時の子供の頃よりわかってるしさ、クラスメイトたちよりも学生からハタチまでで失敗もそれなりにしてたからね。失敗してもどうにかなるってのが、まぁ、分かってる分、良い意味で二周目は人生を雑にやれたっていうか。雑に選択できたっていうか」

ーー逆に、一周目と二周目で、一周目の方が良かった点って何か無いの?

「ええ?…………うぅーーーん。無いなぁ…無いよ(笑)」

ーーそっか。

「うん……あ~…でも、友達は1人もできなかったかも」

ーー友達?

「あ、うん。二周目の時はね。その、学校、卒業しても続く友達みたいな」

ーーああ。え?一周目の時はいたの?

「居たと思う。俺がタイムリープするそのハタチの時まで、ちょこちょこ会ってた友達」

ーー二周目では居なかったんだ。そういう友達。てか同窓会にも来ないしね。

「うん。まぁそれは、何となく顔合わせずらい…ってのがあるかも」

ーー顔合わせずらい?

「うん。俺いまこんなだからさ。あの頃は楽しかったけど、今は」

ーー楽しくないの?

「楽しくねぇよ(笑)もう今年30だよ?20からは俺も一周目だよ。迷子迷子」

ーー今なにしてるの?

「え?あぁ~まぁ…色々。てかあれだよ。最近また穴探してる(笑)」

ーーえ?タイムリープの?

「そう(笑)最近ってか結構ずっと探してるかもな…何となく。もう一回やり直してえんだよ。特にハタチ以降」

ーー変えたいの?

「変えたいねー。変えれるなら」

ーー穴ないんだ?

「…無いな。ずっとあのタイムリープした日の事、細かく思い出そうとしてるんだけど…見つからねえわ」

ーー…楽しかった?二周目の学生生活。

「楽しかった。お守り。今の俺にとっての」

ーー使ってる体は同じポテンシャルの体でも、立ち回りによって、一人の人生って同じ世界でも全く違う風景を映すものなのかな。まぁ厳密に言えば同じポテンシャルではないか、大人の脳だから、脳はちょっとチート入ってるか。

「そうね。まぁそんな感じ」

ーーなるほど…。

「…参考になった?(笑)」

ーーなった(笑)誰にもあんま話してないんでしょ?この話

「してないよ。意味わかんねえじゃん。」

ーー意味わかんなくないよ(笑)

「してみたい?タイムリープ」

ーーう~ん…してみたくない…(笑)

「なんでだよ(笑)」

ーーえ…怖いもん…(笑)

「なんだそれ(笑)逆にどうなの?最近。忙しい?」

ーーう~んまぁ。ぼちぼちかな。休みはあるよ。

「何してんの?最近」

ーーう~~ん。ああ、なんだろうなぁ~…あぁ音を耳に入れてるかも。

「は?」

ーー(笑)なんか家とか居る時、家事する時にさぁ、無音で出来ないんだよね。YouTubeか音楽かずっと流してるかも。イヤホンして。無音に耐えられない。

「ああわかるわかる。俺も」

ーーあマジ?なんかさぁ、家事やる前とか、何も聴きたいものが無い時、それ探しててなかなか家事始められないとか、に、なってるかも最近。10分とか。

「マジ?それは重症だね」

ーーうん。てか無音で何かをする事ってのが無くて常になんか耳から入ってくるからさ、情報過多で疲れたわ最近。

「あぁわかる。情報過多だよな。現代の闇だよ」

ーーこの話も録音してるからさ、風呂掃除しながら聴くね。てか配信してもいい?

「は?嘘でしょ?」

ーー嘘

「何それ意味わかんねえ」

ーーごめん。あぁ、最近で言うとさ、思った事があって。時間っていうものは後ろに通り過ぎて行くじゃん。それがなんか嬉しいかも。取り返しのつかないことが増えていく。っていうのをふと思って、それがなんか嬉しい。

「…わかんねぇ。ちょっとキモいかも」

ーーさっきも言ってたけど今年でもう30じゃん。残された時間が減っていってるじゃん。

似た瞬間も同じ時間も二度とは訪れない事が嬉しい。楽しい。今みてる景色は今しかみれないのは嬉しい事。毎日が未知との遭遇。毎日が新品の日々。

「………駅にしか無いコンビニ?」

ーー何それ?

「毎日が新しい日々って」

ーー………………え?

 

※この岡山天音はフィクションです。実在する岡山天音は十六周目です。

 

【#10】※この岡山天音はフィクションです。/二度と来ない①

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【#9】※この岡山天音はフィクションです。/ウィーアー

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【#8】※この岡山天音はフィクションです。/混ぜなきゃ危険

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