池井戸潤の最高峰とも呼び声が高い『陸王』。「読みたいけどあまり時間がない」そんな人のために、オススメのポイントだけを絞ってわかりやすく短時間で解説していきます。この解説を読んで本書を読めば、より世界観がわかりやすく楽しめるはず!
創業100年以上の老舗足袋製造会社の社長である宮沢紘一(みやざわこういち)が本作の主人公。会社の業績が落ち込み、銀行からの融資もなかなか受ることができず逆境に立たされていました。
そんなある日、社長の紘一は足袋製造のノウハウを活かしてまったく新しいランニングシューズ『陸王』を企画し、プロジェクトチームを集めます。しかし一番の敵はやはり、異種参入を認めない他の靴メーカーだったのです。
開発力もない、資金力もない、ノウハウもない、という絶望的な状況でどのようにして『陸王』を作り上げていくのでしょうか。
- 著者
- 池井戸 潤
- 出版日
- 2016-07-08
本書はページ数が600ページ弱ほどの長編小説。普段あまり本を読まない人や忙しい人にはこのページ数はなかなか大変かと思います。一日で読める時間は限られているし、あいだが空くと内容を忘れてしまうこともありますよね。
今回はそんな方のために、オススメのポイントをわかりやすく3つに分けてみました。
まず1つ目のポイントは「銀行モノ」というイメージのどちらかといえば孤独な戦いに比較的焦点が当てられがちの池井戸潤の作品ですが、今回は社員たちがみんなアットホームでほんわかしています。ほとんどの作品は冒頭からわりとシリアスでピリピリしている雰囲気が多いなか、この作品はどちらかといえばそのテイストは中盤の方に回されています。主人公の部下たちが、冒頭ではなにもできない人たちに見えるのですが、後半では彼らの活躍が会社の危機を大いに救うのですがそのギャップにも注目すべきですね。
2つ目のポイントは、じつは『陸王』はあるひとりの陸上選手のために作られたランニングシューズでもあったのです。ランナーの名前は茂木裕人。この彼じつは怪我に苦しんでおり、なかなか結果が出せないでいました。茂木自身は安定して走れるランニングシューズが欲しいのですが、彼を支えるスポンサーも彼が結果を出してくれないことには、彼を支えることができません。そこには両者の葛藤があり、ゆずれない言い分があります。やりきれない思いをこれでもかと描写され、いやでも感情移入してしまうでしょう。
3つ目はやはり池井戸潤のお家芸でもある「銀行家」たちとの激しい頭脳戦や駆け引きですね。融資を渋る銀行員にむかって主人公の宮沢は言い放ちます。「人類というのは走るから生き残れたんだ」。ストーリーを大きく引っ張っていくセリフといえるでしょう。虎は単一呼吸法で長く走れませんが、人間はさまざまな呼吸法によって長く走れるため、最終的には獲物を獲得できる。その解説を聞かされたとき、根性論に聞こえる登場人物たちのセリフに圧倒的な合理性が感じられ、「コツコツやる」ということの意味を再認識させられ、これらがたんなる間に合せで作った言葉ではないことがはっきりとわかります。
『陸王』は池井戸潤作品の中でも読みやすい部類に入るといえるでしょう。マイナーな「足袋製造」という分野を扱っていることもあり、その裏話や苦労話は真新しいものがありますね。ぜひ読んでみてくださいね!
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