漫画『ドラゴンヘッド』最終10巻までネタバレ考察!極限状態で見える人間の本質

更新:2021.11.30

望月峯太郎が描くサバイバルパニック漫画『ドラゴンヘッド』。2003年には実写映画化もされた大ヒット作です。新幹線の車中で、大災害によりトンネル内に閉じ込められてしまった主人公が、絶望的な状況の中でも自宅のある東京を目指します。息の詰まるような世界の荒廃とホラー要素を多分に含んだ本作の魅力をご紹介しましょう。

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漫画『ドラゴンヘッド』の魅力とは?望月峯太郎が描く絶望

本作の舞台は、未曽有の大災害によって荒廃してしまった日本。どこまでも広がる黒煙と大量に降り注ぐ灰によって太陽の光が遮られ、昼間でも薄暗くどんよりとしています。ほとんどの建物が崩壊し、見渡す限り瓦礫の山……。

このような光景が精密に描写されているのが、本作の魅力のひとつでしょう。荒廃した世界の絶望感を見事に表現し、読者を引き込んでいくのです。

もうひとつの魅力は、終末感が漂うなかで人々の心に生じる、闇と葛藤です。主人公の青木照と同級生の高橋ノブオは、閉じ込められたトンネル内で、誰もいないはずの暗闇の存在に怯えます。

また救いを求めて怪しい儀式をくり返す物や、暴徒と化してしまう者、恐怖を取り除くために脳に手術を施す者など、平和な時では考えられないような異常な行動をとる人物が登場。

彼らの心の中に潜む葛藤を生々しく描き、もし自分が本作の世界に放り込まれたらどうなってしまうのかと、読者に深く考えさせるのです。

 

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時代を先取り、独創的かつ斬新なアイディアで数々の衝撃的な作品を生み出してきた望月峯太郎。思わず笑顔が溢れる作品から、得体の知れないものに対する恐怖を描いた作品まで、おすすめのランキングベスト5をご紹介します。

著者
望月 峯太郎
出版日
1995-03-01

『ドラゴンヘッド』あらすじをネタバレ

 

主人公の青木照(テル)は中学生。修学旅行の帰りの新幹線の中にいました。ぼんやりと窓の外を眺めていると、大きな火柱があがっているのが見えます。その直後、車内は大きな衝撃に見舞われました。

テルが目を覚ますと、あたりは真っ暗。人の動く気配はしません。新幹線から降りて周囲の様子をうかがうと、車体は崩落したトンネル内に完全に閉じ込められていました……。

同級生を含め、ほとんどの人が死亡。生き残ったのはテルの他に、同級生の瀬戸憧子(アコ)と高橋ノブオだけ……。やがてノブオは発狂して行方がわからなくなり、テルとアコは2人でトンネルからの脱出を図るのです。

なんとか外に出ることができた彼らは、道中で出会った自衛隊員などと協力しつつ、東京を目指します。

 

『ドラゴンヘッド』あらすじ【トンネル内編】

 

青木照(テル)

本作品の主人公。中学生です。修学旅行の帰りの新幹線で謎の大災害に襲われ、トンネル内に閉じ込められてしまいました。荒廃した世界でさまざまな葛藤と戦いながら、アコを守りたい一心で自宅のある東京を目指します。

瀬戸憧子(アコ)

テルの同級生。もともと普通の少女でしたが、東京へ向かう道中ではテルを助けるために危険を顧みない行動をとるなど、徐々に勇気と機転を備えていきます。原因は不明ですが「ナルコレプシー(居眠り病)」の兆候があり、たびたび強い眠気に襲われている描写がありました。

高橋ノブオ

テルとアコの同級生。事故の後テルやアコとともに車内で過ごしますが、何日も暗闇の中にいたため発狂。行方不明になりました。その後はテルの夢の中に何度も登場し、テルは彼を救えなかった後悔に苦しみ続けることになります。

 

著者
望月 峯太郎
出版日
1995-07-03

 

トンネル内に閉じ込められていた3人は、いつか救助が来ると信じて何日も待ちますが、一向にその気配はありません。自分たちは世間から見捨てられたのではないかという不安、そして何日も暗闇の中にいる恐怖から、ノブオは徐々に正気を失っていくのです。

恨んでいた生活指導の教員の遺体を切り刻んだり、化粧品を使って全身におぞましいメイクを施すなど、狂気にむしばまれていきます。2巻の表紙にもなっている大きく切り裂かれた口と全身の黒い斑点は、闇に飲まれた心を表しているようで攻撃的。

一方のテルも、誰もいないはずの暗闇の向こうに何かの存在を感じてしまうなど、徐々に心を憔悴させていきます。

「闇と友達になるんだ!!」(『ドラゴンヘッド』2巻より引用)

正気を失ったノブオは、やがてテルを殺そうとするほどおかしくなってしまいました。

そのころテルは、トンネルからの脱出経路を発見。狂って行方がわからなくなったノブオを置いて外へ出ます。

 

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『ドラゴンヘッド』あらすじ【脱出!荒野となった日本編】

仁村 (にむら)

自衛隊が実施している「集団作戦」から抜け出した、元自衛隊員の生き残り。世の中を斜に構えてみる癖があり、大災害に見舞われた際も、傍観者を決め込むことで苦難から目をそらし続けていました。

テルとアコと出会い、不本意ながらも彼らに協力するうちに、厳しい現実と向き合うことができるようになります。

岩田

仁村の同僚の自衛隊員で、彼に従って「集団作戦」から離脱しました。ヘリの操縦をすることができ、仲間のピンチを何度も救っています。 

中年女性

テルたち4人が伊豆に不時着した際に出会った女性。自宅跡で行方がわからなくなっている息子を探していました。

医療に詳しく、破傷風に罹ったテルを看病して優しい言葉をかけてくれました。アコにとっては唯一本心で話せる人物。作中でもっともまともな心を持っている人ではないでしょうか。
 

著者
望月 峯太郎
出版日
1998-03-04

トンネルを脱出したテルとアコの2人は、廃墟となった町にたどり着き、元自衛隊員の仁村らと出会います。当初は揉めたものの、やがて協力して東京を目指すことに。
 

ヘリコプターの燃料が切れて伊豆に不時着すると、そこは住民たちが暴徒と化した危険地帯となっていました。正気を失った彼らのうつろなのに凶暴な表情は、ホラー漫画顔負け。思わず目を逸らしたくなりますが、目を離すことができないのです。

さらに、廃墟となった街並みや崩壊した建物の瓦礫までをも細かく描写し、背景を暗く塗りつぶすことで読者に終末を予感させ、どうしようもない絶望感を与えています。

 

『ドラゴンヘッド』あらすじ【ひとりきりの世界編】

 

頭に大きな手術痕のある男(菊地)

アコと仁村が伊豆で出会った男性。髪の毛はなく頭をぐるっと囲むように大きな手術痕があります。脳にメスを入れたことで恐怖を感じなくなっていて、街が悲惨の状況になっているにも関わらず、安らかな気分だと言っていました。

「リュウズ(竜頭)だよ……」と名乗り、物語の重要なカギを握る存在です。

 

著者
望月 峯太郎
出版日
1998-04-07

 

道中でアコとはぐれてしまったテルは、ひとりで東京を目指します。トンネルの中で闇に消えたノブオのことを思い出しては後悔していました。それでも歩みを止めません。

「ノブオは消えてしまった。だけど僕は気づくことができた。あの闇も、この闇も、本当に怖いものはこんなものなんかじゃない。怖いからって……恐ろしいからってその中に何があるのか見極めようとしない自分の心こそがあの闇なんかよりずっとずっと恐ろしいんだ!!」(『ドラゴンヘッド』7巻より引用)

やっとのことで東京にたどり着くと、そこは黒い雲に覆われ、死体と瓦礫の山が重なる死の街となっていました……。

本作のタイトルを表す「竜頭」の男。脳の海馬や扁桃体などを取り除くなどの手術をし、恐怖を感じなくなった男たちの総称です。

彼らはみな手術のために頭髪をすべて剃り、頭部に大きな十字の手術跡があります。その見た目とうつろな表情は、なんともいえないおぞましさ。

アコたちが出会った菊地という名の「竜頭」は、恐怖のなくなった世界はとても安らかだと言って微笑み、暴徒に襲われて血まみれになっても火だるまになっても、笑い続けていました。

絶望的な世界におかれた時、恐怖に立ち向かうのが正しいのか、恐怖を取り去ってしまうのが正しいのか……本作が読者に投げかけている大きなテーマです。

『ドラゴンヘッド』あらすじ【宗教編】

 

死の街と化した東京を彷徨うテル。人の声が聞こえたため地下へと入っていくと、やがて電気が通っている避難所を発見しました。

そこには大量の非常食が用意されていましたが、避難民たちはどこか生気がありません。

なんと地下に蓄えられた非常食には、緊急時に人々がパニックに陥らないよう、「恐怖を取り除く成分」が含まれていたのです。それを食べていた避難民たちは、生き延びているのにいつしか生気を失っていました。

避難所を束ねていたのは、ひとりの男です。平穏に暮らすためには恐怖を取り除くしかないとして非常食を分け与えていましたが、恐怖を感じなくなった人間たちは、逆に恐怖を追い求めるようになるという矛盾を語りました。

「これこそが人間の”業”なのだろうか……恐怖をなくしたことでかえって皆は”恐怖する自分”を求めている……恐怖を失って我々は逆に恐怖にとり憑かれてしまった。恐怖だけが我々に唯一”生”を実感させてくれるものとなってしまった。」(『ドラゴンヘッド』9巻より引用)

恐怖を受け入れて生きるべきだと考えるテルは、彼らの元を去ります。

「バカなんだ。確かに気づかなくていい問題を無理やり掘り起こして苦しんでいるのかも……生きてる意味なんて、なんで僕はここにいるのかなんて、そんなこと考えるのは。」
「でも……その答えのほんの一部でも見つけることができれば……命をかけて生き延びてきた価値があるんだって……今思えるんだ」(『ドラゴンヘッド』10巻より引用)

避難民たちは恐怖を求めるあまり、人命救助にやってきた他国の隊員たちに襲いかかるテロリストのような存在になってしまいました。

 

著者
望月 峯太郎
出版日
1999-10-04

 

テルはやっとの思いで自宅のある東京に戻ってきましたが、そこはこれまでの旅路のなかでも最大の廃墟となっていました。

立ち込める黒煙が空を漆黒に塗りつぶし、降り注ぐ灰が数多の瓦礫と死体を覆い、まさにこの世の地獄といった有様です。

またテルは、地下を歩いているる際に煌々と流れる溶岩を発見しました。まさかここが東京だとは信じられません。

作中で名言はされていませんが、おそらく大災害の発生地は東京ではないかと思われる描写があります。某国の秘密文書に「日本に極秘裏に核兵器を配備してきた」という記述があったり、地下の避難所で放射性物質のマークの付いた部屋を発見したりと、核が原因かと匂わせるような描写もあります。

 

『ドラゴンヘッド』あらすじ【最終回】

「世界の終りに独りは嫌だ!」(『ドラゴンヘッド』10巻より引用)

かつて通っていた中学校の跡地で、テルとアコの2人は再会します。そして瓦礫と暗雲に覆われた東京で、立ちすくしました。

まさに世界の終わり。絶望的な状況ながら、それでもテルは希望を捨てようとはしません。希望を持ち、未来のことを想像して生きていれば、きっと実現できる……そう強く思ったところで本編は終了します。

このあと世界は滅ぶのか、それとも復興していくのかは記されておらず、読者の想像に任せる形がとられています。

また日本をここまで荒廃させた大災害の正体が何なのかも、明言されていません。火山の噴火なのか、大地震なのか、核兵器なのか曖昧なままです。

さらに作中ではテルが悪夢にうなされる描写が多かったり、アコのナルコレプシーとみられる症状があったりすることから、夢オチなのではないかと捉えることもできます。

多くの謎を残したままのラストに、少々投げっぱなしなのではないかという意見もあります。しかしさまざまな想像ができる終わり方をすることで、主人公のテルが抱いている考え方が際立つのではないでしょうか。どんなに絶望的な状況でも、希望をもって生きていれば未来はやってくるというメッセージが込められているように感じます。

著者
望月 峯太郎
出版日
2000-04-19

緻密な背景描写で見事に表現された世界の荒廃っぷりと、絶望的な状況に際した人間の心の動きを描いた『ドラゴンヘッド』。パニック、サバイバル、ホラーと多様なジャンルを含み、人間のありようについて深く考えさせられるテーマを持っているのではないでしょうか。

 

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