雫井脩介のおすすめ作品6選!読む人の心をとらえて放さない

更新:2020.12.10

『犯人に告ぐ』『クローズド・ノート』『ビター・ブラッド』『火の粉』、と映像化作品も多い、魅力にあふれた雫井脩介の作品を6選、ご紹介します。

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ダークさとぬくもり!巧みに人の心理を表現する雫井脩介

雫井脩介は1968年愛知県生まれの作家です。専修大学文学部卒業後、出版社、社会保険労務士事務所などに勤務しました。1999年に『栄光一途』で新潮ミステリー文学賞を受賞して2000年に作家としてデビュー。応募時のペンネームは“内流悠人”でした。

代表作『犯人に告ぐ』は2004年度の週刊文春ミステリーベスト10の第1位に選ばれ、第7回大藪春彦賞を受賞。2016年、『望み』で山田風太郎賞を受賞しています。

本格ミステリーに定評のある雫井作品ですが、ミステリーや推理ものに止まらず、近年は家族ものや恋愛小説にも幅を広げています。

雫井脩介の推理・ミステリーは、人間なら誰もが奥底に持つダークな部分をさらけ出すのです。読者は不気味に感じながらも次の展開が気になり、読み続けずにはいられなくなるような、不思議なパワーがあります。

そうかと思えば、『クローズド・ノート』や『つばさものがたり』のような心あたたまる作品で感動させられるのです。人の心理をつぶさに表現する筆致で、一言で言えば読者に“読ませる”力のある作家と言えるでしょう。

読み始めたら止まらない!笑顔の下にあるのは?

運送会社社長の一家が何者かに襲われたうえで放火されるという事件が発生します。社長夫妻は無惨に殺され、長女は下半身不随に、長男は大やけどを負うという残忍な犯行でしたが、時を置かずして犯人が逮捕されます。逮捕されたのは、解雇された従業員3人。これで事件解決と思われていました。

事件から21年後、主犯の荒が刑期を終えて出所してくると、それを合図のように共犯者が続々と殺されていきます。発生当時に事件を担当した滝中刑事は、当時から主犯に疑問を持っていただけに、癌を患ってやせ細っていく身体にむち打つように真相を暴こうと執念を燃やします。
 

著者
雫井 脩介
出版日


つらい経験をした者にしかわからない気持ちはあるけれど、復讐だけを生きがいにして生きて行くには、人生はもったいなさすぎる、作者の意図はそこにあるのでしょうか?

この作品で雫井作品と出会い、この作者の作品は読み続けようと思いました。

誰を信じればいいのかわからない!軽妙なタッチで描く不気味さ

洋輔にとって高校時代とは、体罰や高圧的な態度で生徒を支配した教師・樫村のせいで、思い出すのもいやな日々でした。

そのせいで、高校の同窓会の知らせが来ても、気が乗らなかった洋輔でしたが、偶然の出会いから最近つきあい始めた美郷への会いたさもあって出席することに。出席してみると、当時仲のよかった仲間とも久しぶりの再会で話がはずみ、来て良かったと思いかけたのですが、洋輔を入れた4人グループだけになった時に、思わぬ方向へと話が進みます。

樫村に対しての恨みのある4人での復讐計画。洋輔が最も信頼している八真人までもが本気で考えていることに驚き、ずるずると計画に引き入れられてしまいます。

暴力はしないとの約束のもとで実行された、樫村への拉致監禁でしたが、一夜明けたら、樫村が殺害されたとのニュースが飛び込んできます。

命まで奪うことはしていないはずなのに、なぜ?洋輔は自分以外の仲間を疑い始めますが、仲間達も洋輔を疑っている様子です。美郷の洋輔への態度もなんだかおかしくなっていき……。
 

著者
雫井 脩介
出版日
2016-08-05


美郷とつきあい始めるきっかけとなったストーカー男と意外な場所で出くわすことも増え、随所に伏線があり、読者はどんどんミスリードされていくのです。

軽妙なタッチで描かれているのとはうらはらに、その内容はドロドロとした心理がうずまいていて、最後に驚きの展開が待ち受けています。

父と母、子どもに望むものとは?この状況に、あなたは耐えられるか?

建築デザインの仕事をしている石川と、在宅で校正をしている妻の貴代美には、高校1年の規士(ただし)と中学3年の雅という二人の子どもがいます。反抗期で口数の少なくなった規士と私立の名門高校を目指して受験勉強に集中している雅のことは貴代美に任せていましたが、ここぞという時には親としての考えも聞かせて、家庭はうまくいっていると思っていた石川でしたが……。
 

著者
雫井 脩介
出版日
2016-09-05


このところ外泊が増えていた規士が、2学期になったある週末、外泊したまま連絡も途絶えてしまいました。不安な思いで待っている家族に、高校生がリンチによって殺害されたとのニュースが飛び込んできます。雅の記憶によると殺されたのは息子の規士の友人らしく、石川の仕事のお得意先の孫でもあったのです。犯人と見られるのは3人の少年でしたが、途中から、逃走しているのは2人で、もう1人殺害されている可能性を示唆する内容の報道となっていきます。

事件前にナイフを持っていたこと、ケガで好きだったサッカーをやめてしまったことなど、息子が犯行に関わっていると思われる材料が出てくる中で加熱する報道や仕事関係の風当たりの厳しさに悩む石川でしたが、あくまでも息子の無実を信じ続けます。

妻が信じるのは、息子の生存、それだけです。母として、子どもがどんな罪を犯したとしても共に償いたい、生きてさえいてくれれば……という貴代美の気持ちが痛いほどよく伝わってきて、読んでいて思わず涙がこぼれましたが、社会の中で自分の培ってきた力だけで仕事をしている石川の思いも理解できます。

父の望み、母の望み、どちらが叶おうと、耐え難い苦しみがついてくるのです。

切羽詰まったふたりの心理が緻密に描かれています。ただ待つしかない家族にもたらされる結末は?

この作品で描かれている父親も母親も、何事もなければ、子ども思いのいいお父さんとお母さんです。それだけに、いつ自分がこんな立場になるかわからないという恐怖に包まれてしまいます。

優しさあふれるストーリーに、涙があふれる

まずは、なんともかわいい装丁に目を惹かれて本を手にして(え?これ、雫井脩介の本?)と思ってしまいました。

26歳のパティシエールである小麦は亡き父の夢でもあった自分の店を開くのを夢みて、東京で修行していましたが、体調を崩して故郷に帰ります。そこで兄夫婦の助けも借りて夢だったケーキ屋を開店しましたが、まもなく店は傾き始めます。

小麦の兄夫婦の子ども叶夢は、いっぷう変わった子で、店がうまくいかないことを予言して大人達をあわてさせますが、実際、叶夢の言った通りになったのです。叶夢には、他の人には見えない、天使と妖精のハーフであるレイが見えていました。
 

著者
雫井 脩介
出版日
2013-01-25


明るくひたむきに夢に向かって努力する小麦でしたが、実は家族に隠していることがありました。3年前から癌を患っていたのです。東京から帰ってきたのもそのせいでした。

小麦の夢は、どうなるのでしょうか?

登場人物がみな、それぞれにあたたかくて素敵なキャラクターで、読んでいて心が温かくなります。柔らかい陽射しのもとでもう1度読みたい、そんな作品です。

母子の成長物語。誰かのために必死になるって素晴らしい!

小織(さおり)の高校受験を前にして、父親の浮気が原因で両親は離婚し、小織は母と一緒にそれまで住んでいた横浜から名古屋に引っ越してきました。

子どもの頃から小織はフィギュアスケートを習ってきましたが、母の梨津子は、娘の習い事としてしかとらえていませんでした。ところが、名古屋での母子2人の生活が始まってスケートも新しく名古屋のリンクに通い始めたところ、先生から、国際試合も視野に入れて本格的に練習をするようにと言われます。その先生から紹介されたのは、厳しい美濤(みなみ)先生でした。

梨津子は、娘の意思を尊重し、美濤先生にコーチをお願いすることに決めました。ところが、美濤先生は、なんと、小織がこれから選手として伸びるか否かは、母親の梨津子次第だというのです。自分の娘の跳んだジャンプが3回転か4回転かも見分けられないような母親では子どもも伸びない、フィギュアは見られて伸びるスポーツだと。

ここから梨津子の奮闘が始まります。小織のスケート靴の取り替え時を把握しておくのも母の努めだと言われてしまう始末。まわりの選手のママ達は先生の話を聞く時は正座、先生のお弁当とお茶とコーヒーの当番までママ達の間で回していることに驚く梨津子でした。
 

著者
雫井 脩介
出版日
2014-11-10


読みながらも(すごい世界だなあ。あり得んわあ。)という思いを抱いてしまいました。ところが、娘のために一途に頑張り続ける梨津子の様子に、次第に、梨津子と小織を応援している自分に気づくのです。

スケートを中心に生活をしていた母子でしたが、父親の会社が倒産し、養育費も望めない状態に陥りました。

そこからまた梨津子はパートに出ながら経済的にも奮闘を続けます。

小織がフィギュアスケート選手としての華々しい栄光を手にしてもしなくても、母の頑張りを見せることができたこの母子の絆は確かに強くなっていくのです。

フィギュア選手ママ達のつきあいも、励まし合って共に前へ進もうという姿勢が気持ちよく描かれています。

最後の美濤先生の言葉に、涙が止まりませんでした。

雫井脩介の代表作

警察組織の裏側でおこる対立と、メディアを利用した犯罪捜査。これらが複雑に絡み合い、ある事件を解決に導く物語が『犯人に告ぐ』です。

神奈川県警本部管理官の巻島は、ある誘拐事件を責任者として追っていました。しかし、些細な捜査ミスから被害者は遺体となって発見されます。この責任を押しつけられた形で巻島は記者会見に臨みますが、記者からの挑発的な質問に逆ギレ。暴言を吐いたことが原因で足柄署に左遷されました。

6年後、先の事件を彷彿させる誘拐事件が発生します。再び責任者として捜査を任された巻島は“劇場型捜査”により犯人を逮捕しようと試みます。さまざまな逆境の中、無事犯人は捕まるのでしょうか。

著者
雫井 脩介
出版日
2007-09-13


この作品の面白いところはプロローグ的に書かれた、6年前のワシ事件。この責任をとる形で巻島は記者会見に臨みます。警察内の責任のなすりつけや、マスコミの容赦のないいやらしい質問。それに対して、警察組織に属するがゆえ、思うことはあっても発言できない巻島。このあたり、とても臨場感があり一気に物語に引き込んでくれます。

そして6年の時がたち、再び起こった誘拐事件。それは“バッドマン”と名乗る犯人がマスコミにメッセージを送る“劇場型犯罪”となり世間の注目をあびます。それに対し警察は“劇場型捜査”で対抗します。このやり方は一歩間違えると犯人を触発する行為ともなる可能性がありました。ある番組に出演し、巻島自ら犯人に呼びかける様子に世間は非難の声をあげます。また、巻島が出演する番組のライバル局が、警察しか知り得ない情報を報道し始めることでよりややこしい状況に。騒然とし始める“バッドマン事件”はどのように収拾をつけるのか、気になる展開が盛りだくさんです。

謎要素より、エンターテイメント要素の多い作品。映画化もされた作品で、テンポよく進んでいくのでさくさく読み進めたい方には特におすすめです。“劇場型捜査”を幹に、派生してくる小さな問題の展開に退屈せず読める作品です。ぜひご一読ください。

雫井脩介のおすすめ6作品をご紹介しました。今まで雫井ミステリーしか読んでいない方は、ハートウォーミングな作品にも手を伸ばしてみて下さい。次に出るのはどんなカラーの作品なのか、楽しみです。

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