『君の膵臓をたべたい』に隠された初恋の謎。結末や名言から見所ネタバレ考察

更新:2024.9.26

2016年「本屋大賞」第2位、「ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR」2位、「2015年 年間ベストセラー」6位(文芸書・トーハン調べ)、「読書メーター読みたい本ランキング」1位、「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本2015」1位、「2016年年間ベストセラー」総合5位・文芸書1位(トーハン調べ)、「2016年 年間ベストセラー」総合4位・単行本フィクション1位(日販調べ)、「キノベス! 2016」3位、「2016 TSUTAYA BOOKS 上半期ランキング総合部門」1位と、さまざまな評価を受けている『君の膵臓を食べたい』。 累計発行部数は300万部を突破し、実写映画、アニメ映画化もされる本作。この物語に隠された謎について、さまざまな観点から考察を加えていきます。本作はさまざまな解釈ができることから、ネットでもその評価は賛否両論。 この記事では、結末や見どころ、名言などを深く考察することによって、本作の魅力について詳しく説明していきます。ネタバレも含みますので、ご注意ください。 また、漫画版作品がスマホアプリで無料で読めるので、そちらからこの世界観を覗いてみるのもおすすめです。

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まずは『君の膵臓をたべたい』の登場人物を紹介!簡単なあらすじも!

本作には、以下のような登場人物が出てきます。

 

  • 僕(志賀春樹)
    友人や恋人などとの関わり合いを必要としないで、人間関係を必要とせずにいる主人公。桜良が書いた「共病文庫」(桜良の日記)を病院で見つけ、桜良との交流によって、人を認め、人と関わり合う努力を始めるようになります。 

     
  • 山内桜良
    膵臓の病気のために、主人公である「僕」と出会ったときには余命1年となっていました。病気となってしまった自分の運命を恨まないと決めたことから、「闘病日記」の代わりとして、「共病文庫」という日記を書きます。 

     
  • 恭子
    恭子は桜良の親友で、桜良と「僕」の交流をよく思っていません。桜良が死んでしまった後、主人公である「僕」の初めての友人となります。
     
  • 学級委員(タカヒロ) 
    桜良の元彼で、主人公である僕と桜良の関係を疑っています。

 

 

著者
住野 よる
出版日
2017-04-27

主人公である僕はと、山内桜良は、かつて病院で知り合いました。彼女の書いていた日記「共病文庫」を拾って読んだことをきっかけに、彼は桜良の家族以外で彼女の病気を知る、唯一の人物をなったのです。彼女の病は、膵臓に関するもの。もう余命はあまり長くないと知りました。

僕は、「山内桜良が死ぬ前にやりたいこと」に付き合うことになります。そして徐々に距離を縮めていきます。成長しながら、お互いに尊重し合いながら、進んでいく日常。

しかし、桜良の病魔は、着実に彼女に忍び寄っていくのです。

著者
["桐原 いづみ", "住野 よる"]
出版日
2017-02-10
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『君の膵臓をたべたい』あらすじ①歩み寄る2人

「君の膵臓をたべたい」
(『君の膵臓をたべたい』より引用)

ある日、図書委員である僕が学校の図書館で本を整理している際に、山内桜良が言った言葉です。

昔、人はどこか悪いところがあると、他の動物のその部分を食べること(同物同治)によって、その病気が治ると言われていました。そのため彼女は、冗談でこの言葉を口にしたのです。

主人公である僕と、彼女は、とある病院で出会いました。盲腸手術後の抜糸のためにやってきた僕は、その病院で一冊の「共病文庫」という本を拾います。その内容は、闘病日記そのものであるかのように見えましたが、読んでみると、病気と一緒に生きるために書かれている内容であることがわかります。

その持ち主は、クラスメイトである山内桜良。その本は、あと数年で病気のために死んでしまう彼女が綴った、秘密の日記帳だったのです。

この物語の中では、最後まで彼女の膵臓の病気が、どのようなものだったのかは明かされません。膵癌や慢性膵炎などの可能性が考えられますが、結局最後まで詳しいことはわからずじまいでした。

彼女が書いた共病文庫を読んだことによって、僕は、身内以外で彼女の病気を知る唯一の人物となります。

その後、僕は彼女の死ぬ前にやりたいことに付き合うことに。そして正反対の性格を持つ2人は、お互いに心を通わせながら成長していくのです。

ある日、僕は桜良に呼び出され、半ば強引に福岡へ旅行することになりました。僕はたじろぎますが、彼女が「生きているうちに行きたい」というので、仕方なく付き合うことになったのです。

夜になり、彼女がお風呂に入っているときに、ふと彼女のバッグの中に体調の薬や注射器、見たこともない機器が入っていたことに驚きます。僕は彼女の病気が現実であることを、思い知ることになるのです。

友達とも恋人とも言い難い、2人の微妙な関係。読んでいて懐かしさすら感じてしまう、一見ありふれた青春風景。しかしそこには、確実に色濃くなってゆく、病魔の影が潜んでいます。

一見明るく朗らかで、よく笑う普通の少女である桜良。そんな彼女の存在があることによって、ありふれた青春が、実は2度と戻らない特別なものであると、あらためて気付かされるでしょう。

 

『君の膵臓をたべたい』あらすじ②「いけないこと」で変化した関係と、仲直り

桜良は、死ぬまでにしたいリストのなかに、「彼氏でも友達でもない男の子といけないことをする」という目標を持っており、そのために、本を貸すという理由をつけて僕を自分の家に招きます。

雨の日に、本を貸してあげるという名目で彼女は、自宅に僕を誘いました。家に彼女の両親はおらず、2人だけです。

僕は、自分が彼女と一緒に過ごすうちに、彼女を好きになって恋人関係になりたいと思っているのではと勘ぐられているのではないかと感じ、本を借りてさっさと帰ろうとします。その時突然、彼女が壁ドンをして耳元でささやきます。

「知ってるでしょ?死ぬまでにしたいことをメモしてるって。
それを実行するために、私を彼女にする気があるかって聞いたの。
ないって言ってくれて、安心しちゃった。
私のしたいことはね、恋人でも好きな人でもない男の子といけないことをする」
(『君の膵臓をたべたい』より引用)

僕は彼女を突き放しますが、彼女は、冗談だと言い大笑い。しかし、バカにされたと腹が立ってどうしたらよいかわからなくなってしまった僕は、彼女をベッドに押し倒してしまうのです。その時、彼女の涙を見た僕は我に返り、すぐに家を飛び出してしまいました。

人間関係が苦手だった主人公は、このとき人生で初めて、人と正面から向き合います。物語の後半では、怒りや喜びなどが桜良によって喚起されるようになり、どんどん人間らしく成長していく姿が描かれていきます。

家を飛び出したあと、歩いている僕を呼び止めたのは、学級委員のクラスメイトでした。このクラスメイトは、桜良の元彼。僕が彼女の家に遊びに行ったことを知って、嫉妬のあまり僕を殴ります。
 

僕の心。桜良の心。微妙な関係の2人だからこその思いがぶつかります。僕は成長していくなかで、どのように変わるのでしょうか。

その後、僕を心配して追いかけてきた桜良が現れ、僕を手当するために再び自宅へと連れていくのです。そして2人は、無事に仲直りすることに。その時のことが、小説のなかでは、次のような美しい言葉で描かれています。

「それは今まで体験したどんな人間との関わりよりも、
痒くて恥ずかしいものだった」
(『君の膵臓をたべたい』より引用)

 

『君の膵臓をたべたい』タイトルに秘められた意味をネタバレ考察!

このタイトルは、非常にインパクトがありますよね。

実際「君の膵臓をたべたい」という言葉は、冒頭部分、僕と桜良の会話のなかで登場します。このようなインパクトのあるタイトルがつけられているのには、ちゃんと理由があるのです。

物語の序盤で、身体の悪い部分を食べると病気が治るという逸話が登場します。しかし、そういう意味でタイトルの言葉が使われているわけではありません。

本の後半では、再びこの言葉が登場します。それは、桜良が亡くなって、両親から共病文庫を渡してもらい、それを読んでいたときのことです。この本には、彼女の日記や、大切な人たちに向けた遺書が書かれていました。

そのなかで彼女は、次のような言葉を残しています。

「私はもうとっくに君の魅力に気がついているからね。
死ぬ前に、君の爪の垢でも煎じて飲みたいな。って書いてから気づいたよ。
そんなありふれた言葉じゃ駄目だよね。
私と君の関係は、そんなどこにでもある言葉で表わすのはもったいない。
そうだね、君は嫌がるかもしれないけどさ。
私はやっぱり。君の膵臓をたべたい。」
(『君の膵臓をたべたい』より引用)

この言葉からわかるように、ありふれた言葉である「君の爪の垢を煎じて飲みたい」という一般的な言葉ではなく、僕と自分との関係を特別なものとしたいがために、「君の膵臓をたべたい」と表現したのです。

つまり、彼女と僕という特別な関係であるからこそ、この言葉の意味が通じるのであり、それは2人だけの秘密の暗号のようなものなのです。

 

「僕」の名前は?主人公の名が明かされない謎を考察!

この物型のなかでは、1度も主人公の名前は明かされません。それはなぜでしょうか?ずっと「地味なクラスメイトくん」とか、「仲良しくん」とか、変な呼び方をされています。

それは実際にクラスメイトたちが、主人公である僕のことをそんな風に呼んでいたからではありません。むしろ、僕が勝手に自分のことを、こんな風に思っているのであろうなと想像していたからです。

僕は桜良と出会ったことによって、彼女に興味を持ち始めました。しかし彼女にとって自分がどんな風にタグ付けされているのか、いつも不安に感じていたし、自分が彼女をどんな風にタグ付けしたらいいかもわからなくて、怖かったのです。

物語の最後の最後で、僕の名前が「志賀春樹」であることが明かされます。

そこで桜良は、僕に対して、次のように質問をして、桜が春に咲く理由を説明するのです。

「どうして桜は春に咲くのか知ってる?」

「花が散ってから、実はその3ヶ月くらい後には次の花が芽をつけるんだけど、
その芽は一度眠る。
暖かくなってくるのを待って、それから一気に咲く。
桜は咲くべき時を待っている」
(『君の膵臓をたべたい』より引用)

それに対して僕は、次のように応えました。

「出会いや出来事を、
偶然じゃなく選択だと考えてる君の名前にぴったりだ」
(『君の膵臓をたべたい』より引用)

つまり桜良は、僕と出会ったことは偶然ではなく、すべては自分たちの意思で選んで出会ったと考えているのです。さらに彼女は、僕(春樹)と出会うことで、初めて自分らしく生きることができた(咲くことができた)ということでした。

僕は物語のなかで、自らの性格を「草舟」と表現しており、強い流れには逆らわず流されると思っています。しかし桜良と出会ったことによって、その性格も変わり、自ら船の目的地を選択するという人生を歩み始めるのです。

 

彼女は僕を好きだった?

桜良は、物語の最後まで一切、主人公のことを好きとは言いません。その代わり、上で説明したような意味で、「君の膵臓をたべたい」というのです。

この本のなかで、2人の関係は恋愛関係のように捉えられがちです。しかし、本当のところはまったく異なるのではないでしょうか。「君の膵臓をたべたい」というのは、この物語のなかでは、つまり、「君のようになりたい」という意味なのです。

だからこそ、「爪の垢を煎じて飲みたい。ううん、そんな言葉じゃダメだよね。やっぱり私は、君の膵臓を食べたい」といったのではないでしょうか。

結局のところ、この物語は2人の恋愛を描いているというより、僕と桜良という1人1人の人間がお互いに関わり合うことによって、それぞれ成長していく物語であると考えられるかもしれません。

 

小説『君の膵臓をたべたい』のテーマを結末からネタバレ考察!

本作は、どのようなテーマで描かれた物語なのでしょうか?本作で描かれていたテーマ、それは、生きるとは人と関わり合うことである、ということです。

「最後のメール」として、僕は次のように言っています。

「僕は本当は君になりたかった」。
人を認められる人間に、人に認められる人間に。
人を愛せる人間に。人に愛される人間に。
言葉にすると、僕の心をにあまりにぴったりで沁み込んでいくのがわかった。
(中略)
僕は渾身の言葉を、彼女の携帯に向かって送信した。
僕は…「君の膵臓をたべたい」
(『君の膵臓をたべたい』より引用)

このように誰とも関わりを持たないで生きてきた僕が、桜良と出会ったことによって、人との関わりを教えられ、誰かに感謝する気持ちや、誰かにあこがれる気持ちを抱くようになったのです。

生きていくうえで、人との関わりは避けることはできません。インターネット社会になって、実際に会わなくても済んでしまうことも、結局インターネットを介して人と関わっています。そして誰かと関わった方が、人生に彩が増すものです。桜良との出会いによって、僕はそのことに気づいたのではないでしょうか。

そんな気持ちを彼女に伝えたくて、最後のメールで彼は「君の膵臓をたべたい」と言いました。僕が送ろうとしているこのメールからもわかるように、僕は桜良を認め、憧れるようになったのです。

しかし、このメールを送る前に、彼女は死んでしまっています。

そして、彼女の「死因」は膵臓の病気ではありませんでした。

余命1年と宣告されてから始まった2人の物語は、病気によってではなく、予想だにしない事態で幕を閉じるのです……。

 

『君の膵臓をたべたい』の魅力を感じられる名言を紹介!

桜良が、僕に対して言った言葉。私たちは偶然出会ったのではなく、「選択」して出会ったんだということが力強く表現されています。

著者
住野 よる
出版日
2017-04-27

「私たちは皆、自分で選んでここに来たの。
偶然じゃない。運命なんかでもない。
君が今まで選んできた選択と、私が今までしてきた選択が私たちを会わせたの。
私たちは自分の意思で出会ったんだよ」
(『君の膵臓をたべたい』より引用)

「もう怖いとは思わなかった」
(『君の膵臓をたべたい』より引用)

僕は、君が僕にどんな名前をつけているのかがわかってしまうのが怖かったのです。同時に、僕は彼女の名前を呼ぶことも恐れています。それは名前を呼んでしまうと、それが既成概念となって、何らかのイメージを連想してしまうからです。

しかし僕は、彼女と出会ったことによって、そのように考えなくなっていました。彼女と出会ったことによって、物語の最後の最後で、相手の名前を呼んだり、相手に名前を呼ばれたりすることが怖いとは思わなくなっていたことに気づいたのです。

 

漫画版『君の膵臓をたべたい』の見所は?

著者
["桐原 いづみ", "住野 よる"]
出版日
2017-02-10

君の膵臓をたべたいという小説は、映画だけではなく、漫画にもなっています。

漫画の魅力といえば、何といっても、絵となって、具体的なイメージが描かれていること。小説では自分で想像するしかなかった主人公たちが、しっかりと描かれているのです。

本作は小説に忠実なので、非常に読みやすく、会話の内容も頭に入ってきやすくなっていることが魅力です。ぜひお手に取ってみてください。ちなみにスマホアプリで無料で読むこともできるので、気になった方は漫画版から入ってみるのもおすすめです。

 

『君の膵臓をたべたい』と似た雰囲気の本をピックアップ!

『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』

ここからは、本作が好き方におすすめの書籍を、いくつかご紹介します。

まず1冊目は、『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』。本作の主人公である高校1年生のセイも、同級生たちと深く付き合うことができない不器用な男の子です。

著者
沖田 円
出版日
2015-12-28

ある日、セイはカメラを持った1つ上のハナに、写真を撮られます。彼女は、記憶が1日しか持ちません。そんな2人の物語は、本作と似て、涙なしには読むことはできないでしょう。家族とは?友人とは?大切な人とは?そんな当たり前のことを思い出させてくれます。

文体や表現がとてもキレイで透明感のある世界観なのですが、内容はしっかりしていて、何度も読み直し楽しめる作品となっています。

 

『レインツリーの国』

2冊目は、『レインツリーの国』。本作と同じように、映画化もされています。著者である有川浩さんの代表作です。

著者
有川 浩
出版日
2006-09-28

主人公とその彼女が本音でぶつかり合う珠玉の恋愛ラブストーリーとして、純粋な気持ちで読むことができます。頑固な2人のもどかしさや、若さゆえに傷つけてしまう様子、それでも真剣に恋愛しお互いを尊重し支え合う関係性……。

そんな2人の不器用な物語が描かれます。どこか懐かしくもあり、リアリティのある作品です。

 

『きみはポラリス』

3冊目にご紹介する『きみはポラリス』は、人間の恋の形をさまざまに描いた究極の恋愛小説と評されています。『舟を編む』の著者でもある三浦しをん氏が描いた、10編の短編小説。

著者
三浦 しをん
出版日
2011-02-26

本作と似て、1つずつ純愛の形が描かれており、愛の形がさまざまであることを気づかせてくれる本です。

本作では男性でしかわからないことや、女性ならではの悩みなどが、さまざまな視点から描かれています。自分ならこうするのに、確かにわかる、といった共感できるポイントが多く、どこか馴染みのある感情が巧みに表現されている作品です。


住野よるのデビュー作である『君の膵臓をたべたい』は、本屋大賞を受賞するなど、非常に話題となりました。ぜひ実際に本を読んで、その世界観に浸ってみてくださいね。

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