小説『南総里見八犬伝』をざっくり解説!あらすじ、登場人物、結末などを紹介

更新:2021.12.8

本作は江戸後期に流行した、読本と呼ばれるエンターテインメント文学の代表作の1つ。28年に渡って書き継がれた大長編であり、冒険活劇伝奇小説です。神秘的な因縁によって結び付いた8人のヒーローが徐々に集結し、反発や敵対を経ながらも最後は固い友情で結ばれともに戦う痛快娯楽作品となっています。今日まで繰り返し映像化されている人気のある作品です。

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小説『南総里見八犬伝』の内容がざっくりわかる!簡単なあらすじと特徴

 

内容は冒険ファンタジー!

室町時代、妖女・玉梓の呪いにより、安房国の武将である里見家の娘・伏姫は、飼犬・八房の妻となります。伏姫が死ぬ時に飛び散った8つの数珠の玉には仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字がありました。これにより、関八州に生まれた八剣士が織りなす長い物語が始まります。

上田秋成の『雨月物語』などと並んで江戸時代の戯作文芸、つまり通俗娯楽小説の代表作です。『雨月物語』が怪異を美しい情緒とともに描いたのに対して、本作は冒険ファンタジーとなっています。

 

著者
曲亭馬琴
出版日
2003-02-05

 

『水滸伝』と中国古典の影響

本作が『水滸伝』の影響を受けていることは有名で、神秘的な因縁で結び付いた英雄たちが集結するという設定はよく似ています。また合戦の描写も『水滸伝』や『三国志演義』を下敷きにしたものです。

作者の滝沢馬琴は、自ら『水滸伝』を翻訳するほど中国古典に詳しい教養人で、このほかにも『捜神記(そうしんき)』や中国の説話、歴史書などの影響が見られます。

モデルとなった地域と史実

この作品自体はフィクションですが、モデルになった地域や史実もあり、聖地と呼ばれる場所も各地に存在します。たとえば、里見家は南房総を拠点とした実在の武将で、戦国時代には千葉県の久留里城の城主でした。また館山城の築上を命じたのも彼らといわれます。

江戸時代に入ると、彼らは幕府によって現在の鳥取県倉吉市に移され、その地で大名家としては断絶しました。その際、8人の側近が殉死し、彼らが八犬士のモデルであるとする説もあります。

八犬士のうちの2人、犬塚信乃と犬飼見八が互いの因縁を知らずに対決する芳流閣の決闘は屈指の名場面の1つとされますが、舞台となる芳流閣は、現在の茨城県古河市にあった古河城がモデルとされています。

現代に続く本作の影響

後の文化に与えた影響は絶大で、現代に至るまで数知れぬエンターテインメント作品に影響を及ぼしている本作。浮世絵でも繰り返し題材にされ、歌川国芳や月岡芳年などの人気絵師も競って描きました。歌舞伎では刊行中からすでに演目として成立し、上演されたほどです。

また、現代でもさまざまな作品の原作となっています。深作健太演出による舞台『里見八犬伝』は2012年に初演され、2014年と2017年に山崎賢人主演で再演されています。

映画化も繰り返しなされましたが、1959年、内出好吉監督の『里見八犬伝』『里見八犬伝:妖怪の乱舞』『里見八犬伝:八剣士の凱歌』の3部作が代表的なものでしょう。また1983年の深作欣二監督、薬師丸ひろ子、真田広之らが出演した作品も有名です。

テレビドラマでは1960年代に、フジテレビと当時のNETで制作されています。1973~1975年にNHKで放送された人形劇『新八犬伝』は辻村ジュサブローによる人形美術が大人気でした。

 

『南総里見八犬伝』の登場人物を紹介!

主人公の八犬士たちを紹介する前に、物語の発端に関るキャラクターを紹介しましょう。

 

  • 玉梓
    安房滝田城主・神余光弘の妾でしたが、家来の山下定包と密通しており、神余の死後は山下の正妻となりました。山下は計略で神余を殺した男ですから、夫の仇と結婚したわけです。序盤最大の悪役で、里見義実に捕えられ、1度は許すといわれたにも関わらず処刑されたのが原因で、里見家を呪います。
  • 伏姫
    八犬士の霊的な母親です。彼女が死ぬ時に飛び散った8つの玉が、八犬士を生み出します。死後は「伏姫神」となって登場し、彼らを守ります。
  • 丶大法師(ちゅだいほうし)
    元里見家家臣。伏姫の死後は出家して、飛び散った玉の行方を捜します。
  • 蜑崎照文
    丶大と一緒に八犬士探索を行います。

 

それでは、いよいよ八犬士の紹介です。「犬」の字が付く名字を持つ彼らは、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字のある数珠の玉を持ち、身体のどこかに牡丹の形の痣があります。玉に書かれた文字は、それぞれ儒教における8つの徳の理念を表したものです。以下から、物語での登場順にご紹介します。

 

  • 犬塚信乃
    孝の玉を持ちます。元服まで性別を入れ替えて育てると丈夫に育つという言い伝えから、女の子の姿で育てられました。読者の前に最初に姿を現す犬士です。
  • 犬川荘助
    荘介の表記もあります。儀の玉を持ちます。下男として酷使されたり、主人殺しの罪を着せられて処刑されかけたりと、八犬士随一の苦労人です。
  • 犬山道節
    忠の玉を持ちます。幼少時に父の妾に毒殺されましたが、墓の中で生き返りました。火遁の術を使う、いわば忍者ですが、ちょっと短気で短慮なところがあります。
  • 犬飼現八
    信の玉を持ちます。見八から現八に改名しました。因縁を知らずに信乃と戦います。次に紹介する犬田小文吾とは乳兄弟です。
  • 犬田小文吾
    悌の玉を持ちます。次に紹介する犬江親兵衛の伯父にあたる人物です。巨漢で、相撲を得意とし、暴れ牛を取り押さえる活躍もします。
  • 犬江親兵衛
    仁の玉を持ちます。最年少の犬士です。生まれつき左手が開きませんでしたが、実はここに玉を握っていました。初登場時は4歳。神隠しに遭い、伏姫神の庇護のもと富山で育てられます。後半の主人公です。母親のぬいは小文吾の妹です。
  • 犬坂毛野
    智の玉を持ちます。毛野も女装で育てられます。それに相応しい美貌の持ち主で、小文吾に結婚を申し込んだ際には、男性であると疑われることなく承諾されました。また、八犬士随一の知略の持ち主でもあります。
  • 犬村大角
    礼の玉を持ちます。父親に化けた化猫に虐待されたため、伯父・犬村儀清に引き取られ、犬村家の一人娘、雛衣と結婚。現八の助力と雛衣の犠牲により、化け猫を倒します。古今の書物に精通している人物です。

 

続いて敵のキャラクターを紹介します。

 

  • 船虫
    繰り返し犬士たちを陥れようとする悪女。
  • 妙椿
    さまざまな妖術を操る比丘尼。正体は富山の牝狸です。玉梓の霊が取り憑いています。
  • 扇谷定正
    関東管領。八犬士と里見家の最大の敵、ラスボスです。

 

作者・曲亭(滝沢)馬琴とは?

 

彼は、1767~1848年に活躍した江戸時代後記の読本作家です。著書には『椿説弓張月』などがあります。日本では、原稿料のみで生計を立てられたようになった最初の作家は彼だったといわれています。

しかし、この時代にはまだ印税制度はなく、生活は貧しいものでした。滝沢馬琴の名でも知られますが、これは明治以降に流布した表記です。

 

登場人物の能力が魅力的!少年漫画のような設定をネタバレ考察!

 

犬士たちが持つ霊玉に刻まれた8つの文字は儒教倫理を表しており、それぞれの持ち主の性格や能力に対応しています。たとえば、仁の玉を持つ犬江親兵衛は他人に対する親愛の情が深く、礼の玉を持つ犬村大角は古今の書物に詳しく儀礼に精通している、などです。

主人公たちがそれぞれ自分を象徴するアイテムを持っている、というのは現代の漫画やゲームなどにも大きな影響を与えている設定です。8つの玉同士の距離が近づくと感応しあってその存在を教えるというのも、ファンタジーらしい面白い設定となっています。

物語に大きく関わるアイテムとしては、他に宝刀・村雨があります。犬塚信乃が用いる宝刀で、その切れ味は「抜けば玉散る」と表現されました。作品の世界では広く知られた名刀なので、すり替えられたり奪われたりして物語を押し進めます。

 

「対牛楼の仇討ち」をネタバレ解説!要約して簡単に説明!

「対牛楼の仇討ち」とは、本作の名場面の1つで、内容を短く編集した現代語訳の本文にも必ず収録されています。

小文吾は千葉家の悪辣な家老・馬加大記に軟禁されていました。大記が小文吾に送り込んだ暗殺者を、女伝楽師の旦開野が倒します。このあと旦開野は小文吾といずれは夫婦となる約束を交わしますが、実は旦開野は犬坂毛野という男だったのです。

毛野は仇と狙う馬加大記を対牛楼で討ち果たし、正体を明かした毛野と小文吾は城を脱出しますが、2人は川を渡ろうとするうちに離れ離れとなってしまいました。

『南総里見八犬伝』を簡単に楽しむ!原作が難しい人にもおすすめ!『南総里見八犬伝(一)運命の仲間』〜

 

本作は江戸時代の本で文章が難しく、長さ的にも大長編ですが、現在では読み易く書き直されたものも数多く出版されています。

『南総里見八犬伝(一)運命の仲間』は講談社青い鳥文庫から出ている小学生向けの本ですが、よくまとめられており、本作の入門にぴったりです。以下、第二巻『呪いとの戦い』、第三巻『決戦のとき』と続きます。

 

著者
["時海 結以", "亜沙美"]
出版日
2016-05-13

 

その他の子供向けでは、岩崎書店の『南総里見八犬伝 運命に結ばれし美剣士 (ストーリーで楽しむ日本の古典)』がおすすめです。

また、角川つばさ文庫からは、漫画家の久世みずきがキャラクター原案を担当し、文章をこぐれ京が担当したものが出ています。

偕成社から出ている全4巻のものは、子供向けながら、山本タカトによる古風な挿絵も相まって美しく仕上がっている作品です。

大人向けのものなら平岩弓枝や松尾清貴が文章を書いたものがあります。

一方、原作に挑戦してみたいという人には、『新潮日本古典集成』がおすすめ。文字も大きく挿絵も充実しています。

 

『南総里見八犬伝』は漫画もおすすめ!『まんがで読む 南総里見八犬伝』

漫画ならさらに気楽に読めます。学研から出ている『まんがで読む 南総里見八犬伝』は全1巻なので、大まかな設定と物語の流れを掴むのによいでしょう。

著者
["上地 優歩", "小金瓜 ちり", "柊 ゆたか"]
出版日
2015-05-19

 

もっとじっくり読みたい人には、本作をベースによしむらなつきが書き上げた『里見☆八犬伝REBOOT』などもおすすめ。

可愛らしい絵柄なうえ、ギャグ要素もあるので、原作に堅苦しいイメージを持っている人でも手に取りやすい内容となっています。

『南総里見八犬伝』の結末をネタバレ紹介!わかりやすく解説

 

さまざまな冒険の末に集結した八犬士は里見家の家来となりますが、彼らを恨んでいる関東管領・扇谷定正は、同じく彼らを恨む山内顕定・足利成氏らと、里見討伐の連合軍を起こし、攻めて来ます。

 

著者
曲亭馬琴
出版日
2003-02-05

 

里見家は犬士たちを立てて防御し、各地で合戦がおこなわれました。激戦の末、里見軍は大勝利を収めます。その後、朝廷から停戦の勅使がやって来て、和議が結ばれました。

八犬士は里見家の8人の姫と結婚し、城を与えられます。時は流れ、里見家第三代当主の義通が没すると、高齢になった彼らは子供に家督を譲って富山に籠り、仙人となったのです。

 

いかがでしたか?堅苦しいイメージとは裏腹に、まるで少年漫画のようなストーリーが魅力の『南総里見八犬伝』。勧善懲悪なところも、日本人に好かれやすい理由の1つなのではないでしょうか。今回の記事を読んで興味を持った方は、ぜひご一読ください!

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