東野圭吾の人気作品である『パラレルワールド・ラブストーリー』は、「恋愛」「友情」そして、「記憶」をテーマとして扱ってる作品です。恋愛と友情といった人間関係の大きな課題はいったいどちらが優先されるのでしょうか。物語は想像もしない結末を迎えます。 2019年に映画化が決定されている本作について、ご紹介していきます。
『パラレルワールド・ラブストーリー』は、主人公とその親友が同じ女性に恋をする、というよくある恋愛小説かと思いきや、そこに人間の「記憶」という要素が介入したミステリアスな小説です。
作者である東野は、「完成した映画を観てうなった。複雑な構造を上手く表現しているので、多くの人が翻弄されることと思う」とコメントするほどで、より原作に近づくことができた作品となったのではないでしょうか。
昔からモテていた主人公の崇史と、足に障害があり、女性とは縁が遠い生活を送ってた智彦は親友同士でした。ある日、そんな智彦から彼女ができたから紹介したいと崇史に連絡が来ます。そして麻由子という女性を紹介されてびっくり、崇史は彼女のことを以前から知っていたのです。
時は大学院時代に遡ります。崇史は週に3回ほど山手線を使う機会があり、その時並走する京浜東北線に乗っていた麻由子を窓から見ていたのです。
しかし直接話すことは一度も無いまま、大学院時代は過ぎ去っていきました。
卒業後、崇史、智彦、麻由子の3人はアメリカに本社があるバイテックという企業が運営しているMACという学校に入り、給料をもらいながら研究を行っていました。崇史は、智彦と麻由子が付き合っている姿を見て、毎日苦しい思いを抱えながら生活します。
そして、ここから物語は2つのルートに分かれるのです。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1998-03-13
一つはそのままの関係で進んでいくルートです。こちらの物語では崇史は麻由子に告白しますが、麻由子は智彦と付き合ってはいるものの、はっきりとどちらを選ぶという答えは返していません。
ある日、崇史と智彦はアメリカ本社への栄転を打診されます。アメリカ行きは2人の夢だったので、智彦はアメリカ行きを快諾しましたが、崇史は智彦と麻由子が離れ、彼女が振り向いてくれるチャンスだと捉え、断ってしまいました。
アメリカ行きを断ったことを智彦に問い詰められた崇史は、親友の彼女を愛していること、そして一夜の関係を持ったことを全て白状しました。始めは信じられない様子の智彦でしたが、徐々に受け入れ、智彦はある行動に出ます。
そしてもう一つのルートが、崇史と麻由子が付き合っている物語です。本来は智彦と麻由子が付き合っているはずでしたが、なぜか崇史と付き合っているのです。
最初は何も違和感なく過ごしていた崇史でしたが、だんだん何かがおかしいということに気づき始めます。過去が思い出せない、他人に聞いた事実と自分の記憶が違う、そしてなぜか親友であった智彦がいません。
違和感の原因を探り始めた崇史は調べるうちにこれはただの違和感ではなく、確実に何かがおかしいと確信。桐山景子という人物に協力してもらい、崇史は真相に迫っていきます。
そしてついに2つの物語が一つになります。その後崇史がたどり着いた真実とは、そしてこの2つの世界の正体とは一体何だったのでしょうか。
作者の東野圭吾は、大阪生まれ。生産技術エンジニアとして会社員勤めをしながらミステリー小説を執筆します。著書には、『容疑者Xの献身』、『さまよう刃』など映画化されている作品が多数あります。
また、ミステリー作品が多いものの、ミステリーの中に深い恋愛観が潜んでいるのも彼の作品の魅力。読者は瞬く間に東野圭吾の世界に引きずりこまれてしまいます。
また、映画だけではなく、ドラマ化されている作品も多数あり、日本を代表する人気作家といっても過言ではありません。
以下の記事では、東野圭吾のおすすめミステリー小説を紹介しています。気になる方はご覧ください。
こぶしファクトリー広瀬彩海が選ぶ東野圭吾おすすめミステリー
こぶしファクトリーの広瀬彩海です。 新生活が始まる時期ですね。いかがお過ごしですか? 私は4月24日に発売のシングルに向けて、準備を頑張っています。 そしてそのリリースが終わればすぐに単独ホールコンサート。素敵なことが重なる時期で胸が高鳴ります。 そんな春は、花粉症、新生活の始まり、慣れない環境、引越し、暖かい気候。 全てが重なって何となく行動力が落ちる気がします。 そんな時におすすめする作家さんは、気持ちがピリッと引き締まるようなミステリー作家、東野圭吾さんです。 王道ミステリーと言えば真っ先に名の挙がる彼の、イッキ読み必至の3冊をご紹介します。
『パラレルワールド・ラブストーリー』に登場する人物を簡単にご紹介します。
この物語の主人公。非常に優秀で女子にモテます。
崇史の親友。足に障害を抱えています。とてつもなく優秀で、記憶の改変の研究を行っており、その研究がアメリカ本社に認められました。麻由子の彼氏であり、その前は誰とも付き合ったことがありません。
智彦の恋人。MACに入学し、研究者の道を歩み始めます。容姿端麗。
智彦の記憶改変の最初の被験者。記憶の改変がうまく行われず、永眠状態となってしまいます。
篠崎の彼女。篠崎が行方不明になり、行方を探していて、崇史が接触します。
物語の鍵を握る黒幕的存在。
MACの秀才で美人。崇史に協力してくれる恩人。たばこをよく吸います。
パラレルワールドとは分岐した複数の平行世界のこと。この本のタイトルだけを読むと、2つの平行世界での恋愛小説のように受け取ることができます。しかし、その期待はいい意味で裏切られることになります。
この『パラレルワールド・ラブストーリー』はあくまで一つの世界での物語です。時空間移動などはありません。キーワードは「記憶」です。
智彦は記憶改変について研究していました。そして人間は自己防衛本能により、自分にとって都合のいい方、いい方へと解釈をしていき、最終的に自分の理想とする世界へと自分の記憶だけ置き換わってしまうので、まるで別の世界にいるかのように感じてしまうということを発見するのです。
これが、この本のタイトルである『パラレルワールド・ラブストーリー』とついている所以です。
麻由子の本当の恋人は誰なのでしょうか。
最初は間違いなく智彦だったはずですが、崇史に同情ではないか?と問われると彼女は迷ってしまいました。自分のなかにも疑いの気持ちがあったことに気づいてしまったのです。
智彦が男女の深い仲になるのを望んでいたのを麻由子は幾度となく拒否をして、お互いの部屋もそんなに行き来したことがないことも考えると、この関係が恋人と呼べるのかと。
一方、もう一つの物語である崇史と麻由子の関係は、崇史を監視するためとはいえ同棲していましたし、男女の深い仲にもなっており、設定的にはれっきとした恋人でした。
最終的に麻由子が誰を選んだのかは描かれていません。麻由子の恋人は智彦と崇史のどちらかだったのかもしれませんし、両方、もしくはどちらでもなかったのかもしれません。全ては読む人の憶測です。
崇史と麻由子がなぜか恋人になっているところから始まる2つ目のストーリーで、崇史は改変された記憶を自分で取り戻し、なぜ智彦と付き合っていたはずの麻由子が自分の恋人になっているのか、智彦の身に何があったのか、全てを思い出します……。
その事実が発覚したところで物語は終わります。智彦の身に起きた事件のあと彼がどうなったのか、崇史と麻由子の関係どうなったのかは描かれていない結末でした。
記憶という要素を核として進んできたストーリーで、最後に重要になってくるキーワードは、「真実」。
それを知ったところで、人間が幸せになるのか、それに耐えうるのかという問いを投げ抱えられているかのような終わり方です。腑に落ちる結末、具体的なオチが描かれない終わり方だと説明しましたが、そこには不穏な空気が残ります。ハッピーエンドになるような展開ではないことを、一読者としては感じさせられます。
真実を知った時に強くいられるのか、それを目の当たりにした人々がどう行動を起こすべきなのか、ぜひご自身で結末をお読みになって考えてみてください。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1998-03-13
そんな深いテーマを感じさせる本作ですが、やはり東野圭吾らしくミステリーとしての仕上がりも一級品。それゆえに出来事が起こったのがそれぞれいつなのかが不明になってしまいます。ここではストーリーで起きた出来事を時系列に解説いたします。
時系列順にこの物語を整理すると、まず大学院時代に崇史は麻由子と電車の窓越しに出会いました。崇史は麻由子に恋をしますが、その時は名前も知りません。何も行動に移さないまま崇史の社会人生活が始まり、麻由子を電車の窓越しに見つめることもなくなってしまいました。
その後崇史の親友である智彦が彼女を紹介してきて、彼女こそが崇史が大学院時代に恋をしていた麻由子だとわかります。
崇史は麻由子に想いを告白し、麻由子を悩ませます。智彦にも麻由子を愛していることを告げ、智彦は親友の崇史を失いたくないと考え、自分の記憶を書き換えようと決心し、物語上、重要なある行動を起こします。それをきっかけに、智彦と崇史はある切ない運命を受け入れることとなるのです。
詳しい説明は重要なネタバレになってしまうので今回は控えますが、このあとの出来事と、上記で説明した出来事の順番を入れ替えることによってそれぞれの話が別世界で起きているように読者は感じさせられるのです。やはりミステリーの大家・東野圭吾の発想はさすがとしか言えませんね。
いかがでしたか?東野圭吾の作品ランキング記事もありますので、気になった方は以下からどうぞ。
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