いまや、押しも押されもせぬ大作家となった東野圭吾。選ぶのが難しいほど名作がたくさんあり、読者もどれから手にとればいいのか迷ってしまうことがあるのではないでしょうか。この記事では、東野圭吾作品の選び方を紹介した後に、おすすめの作品をランキング形式で発表していきます。後半には新刊情報も掲載しているので、チェックしてみてください。
1958年生まれ、大阪府出身の東野圭吾。言わずと知れた、日本を代表する小説家です。
幼い頃は読書をする方ではなかったそうですが、高校生の時に推理小説にはまり、松本清張の作品を読みふけったのだとか。この頃に、自身でも初めての小説を書いています。
大阪府立大学の電気工学科に進学し、卒業後は日本電装株式会社に技術職として入社。働きながら執筆活動を続け、1983年に初めて「江戸川乱歩賞」に応募しました。1985年に『放課後』で同賞を受賞。翌年から作家に専念することになります。
それから定期的に作品の発表を続け、1999年『秘密』で「日本推理作家協会賞」を受賞。2006年には『容疑者Xの献身』で念願の「直木賞」を受賞しています。そのほか「このミステリーがすごい!」や「本屋大賞」「本格ミステリ大賞」など数々の文学賞に名を連ね、人気作家への道を駆けのぼっていきました。映画化やテレビドラマ化される作品が多いのも特徴でしょう。
東野圭吾作品の魅力は、経歴からもわかるとおり理系ならではの知識や問題をストーリーに絡めているところ。そして最終的に、科学技術よりも大切なものを読者に教えてくれるところではないでしょうか。ミステリーでありながら、人間の持っている根本的な優しさを感じさせてくれるのです。
1985年にデビューをして、2020年で35周年を迎えた東野圭吾。これまで電子書籍で自身の著作を販売することはありませんでした。
しかし新型コロナウイルスの影響で全国的に外出自粛が続くことを受けて、出版社7社からそれぞれ1作品ずつ、計7作の小説が初めて電子書籍化されることになりました。
電子書籍での販売が始まるのは「映画化、またはドラマ化された作品」なおかつ「累計発行部数が100万部を超える作品」とのこと。7作の合計累計発行部数は、なんと1288万部にものぼります。
発売される電子書籍ストアは、Kindleストア、Apple Books、楽天Kobo、Reader Store、紀伊國屋書店Kinoppy、BookLive!、honto、BOOK☆WALKERなどです。2020年4月17日から予約が始まり、4月24日から発売となります。
東野圭吾は次のようにコメントを出しています。
「外に出たい若者たちよ、もうしばらくご辛抱を!たまには読書でもいかがですか。新しい世界が開けるかもしれません。保証はできませんが」
ただ今回の電子書籍化はあくまでも特別解禁。これをきっかけに東野圭吾作品の面白さや、ひいては読書の楽しさに触れた方は、ぜひ紙の本もお手に取ってみてください。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2008-08-05
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
2012年に刊行、2017年に映画化された作品です。
盗みを働いて逃亡中の、敦也、翔太、幸平3人組。しかし乗っていた車が動かなくなってしまい、仕方なく「ナミヤ雑貨店」と看板がかけられた廃屋で一夜を過ごすことになりました。
すると不思議なことに、郵便受けに手紙が投げ込まれます。そこには、差出人からの相談ごとが書かれていました。かつてナミヤ雑貨店の店主が、投函された手紙に応えていたことを知った3人は、返事を書くことにするのですが……。
バラバラだと持っていた事件や登場人物が、終盤になると繋がっていく構成は東野圭吾の真骨頂。どんな人でも誰かを救うことができ、人はみな関わりあっていると気づいた3人が成長をとげていく様子に、心あたたかくなるでしょう。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2012-07-05
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
2008年に刊行され、同年テレビドラマ化された作品です。
功一、泰輔、静奈の3兄妹が、流星群を見るために家を抜け出した夜。洋食店「アリアケ」を営む両親が何者かに殺害される事件が発生しました。兄妹は施設に入り大人になりましたが、事件から14年が経っても犯人はいまだ見つからず、まもなく時効を迎えようとしています。
そんななか3人は、洋食チェーン店の経営者である戸神が、あの日の夜に家から出てきた男と似ていることに気づくのです。さらに、彼の店で出しているハヤシライスの味も、両親のものとそっくり。3人は戸神の息子である行成に接近し、復讐を図ろうとするのですが、静奈が行成に恋をしてしまい……。
長年、犯人への怒りや恨みを抱えてきた3人。それなのに静奈が行成に惹かれていってしまうのを見ると、読者の心も痛くなります。それでも兄妹を守ろうとする彼らの葛藤や絆が何よりも魅力でしょう。
また最後に待ち構えるどんでん返しと犯人の意外さは、ミステリーとしても楽しめるもの。読後も深い余韻を残す一冊です。
- 著者
- 東野圭吾
- 出版日
- 2011-01-12
- 著者
- 東野圭吾
- 出版日
- 2013-11-15
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2002-05-17
数多くの作品を発表している東野圭吾。どれから手に取ればいいか迷ってしまう方もいるかもしれません。
ここからは、東野圭吾の小説の選び方と、おすすめ作品を紹介していきます。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1989-05-08
刑事の加賀恭一郎が、粘り強い独特の観点で捜査にあたり、真実を明らかにしていきます。初期の頃から東野圭吾の作品にたびたび登場していた加賀。東野にとって「頼りになる」キャラクターだったそうで、晴れて主人公に抜擢されました。
初登場時は大学生だったので、彼の成長を見守るのが読者の楽しみにもなっています。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2014-07-18
事件の舞台は、一流ホテル。ホテルマンに変装した捜査一課の若手刑事が潜入捜査をしていきます。1作目の『マスカレード・ホテル』は木村拓哉が主演で映画化され、話題になりました。
彼を指導するフロントクラークの女性とのやり取りが絶妙。容疑者として接するのか、一流ホテルのスタッフとして顧客満足度を高める接客をするのか、そのはざまで揺れる様子がユニークに描かれています。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
怪しい笑い、毒のある笑い、黒い笑い、歪んだ笑いなどをテーマに、ユーモア小説が収録された短編集シリーズです。
クスリと笑えるものから後味の悪いもの、パロディまで、一風変わった東野圭吾の作品を読みたい人におすすめです。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2002-02-10
福山雅治主演でテレビドラマ化され、2007年に第1シーズンが、2013年に第2シーズンが放送されました。東野圭吾を代表するシリーズとなり、2008年には『容疑者Xの献身』が、2013年には『真夏の方程式』が映画化もされています。
物理学者の湯川学が、物理や化学の知識を駆使して事件を解決に導いていきます。「実に面白い!」の決め台詞も話題になりました。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
こちらも東野圭吾を代表するシリーズ。阿部寛を主演に、2010年、2011年、2014年とテレビドラマ化されました。
『新参者』は、実は東野圭吾の「加賀恭一郎」シリーズの8作目にもあたります。日本橋署に異動したばかりの加賀が、未知の土地を歩き、人々と関わりながら事件を解決していくのが見どころです。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2002-05-17
山田孝之と綾瀬はるかを主演に、2006年にテレビドラマ化されました。
恋をした少女を守るために父親を殺害した少年と、少年を守るために母親を殺害した少女の人生を描いた物語です。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
広末涼子と小林薫の主演で1999年に映画化された作品で、東野圭吾の出世作ともいわれています。
事故死した妻の魂が、同じく事故で意識を失っていた娘の体に乗り移った……夫はそれを周囲に隠しながら生きていくのですが、少女時代から人生をやり直していく妻としだいにすれ違うようになります。そんな状況で娘の意識が戻り……。
夫、妻、娘の関係性と、それぞれの選択を描いた作品です。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
2006年に山田孝之主演で映画化された作品です。
犯罪者の兄をもつ主人公。服役中の兄からは、月に1回手紙が届きます。兄は、愛する弟を大学に通わせるために強盗殺人を犯してしまったのでした。
しかし弟の人生には、何をするにも兄が犯罪者だということがつきまといます。そしてついに、兄に離別の手紙を書くのですが……。
加害者家族の葛藤や生きづらさを真正面から描いた作品です。
ではここからは、東野圭吾のおすすめ作品をランキング形式で紹介していきます。
加賀恭一郎シリーズ第三作。
両親は既に亡くなり、残された家族は兄妹だけ。兄は愛知県で警察官、妹は東京でOLをしていて、離れて住んでいましたが、連絡は欠かさず取っている絆の強い兄妹でした。ある日、兄の康正に妹の園子から電話があり、“信じていた人に裏切られた、自分が死んだらいいんだ”と元気のない声で告げました。
胸騒ぎがした兄は、妹のところに駆け付けますが、見つけたのはベッドの上で既に冷たくなっていた妹の死体でした。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
康正は、現場の様子から警察官ならではの勘で他殺であることを確信し、警察の力を借りずに自ら犯人をつきとめて妹の復讐を果たすことを決心しました。
園子がつきあっていた潤一と、高校時代からの親友である佳世子が恋愛関係になっていることを知った康正は、佳世子か潤一のどちらかが犯人とみて、一人で調べを続けますが、練馬署の刑事・加賀恭一郎は、康正の意図を読み取って復讐を断念させようとします。
康正の調べは、進んだかと思えばまた新たな疑問にぶつかり、行った先々で遭遇する加賀に阻まれ、なかなか犯人断定の決め手が見つかりません。はじめは邪魔な存在だった加賀の存在でしたが、徐々に康正の頑なだった心も加賀に対して開かれていきます。
死に至った妹の人間関係よりも、妹を思うあまり独走して捜査する兄の姿、そして犯人が残したトリックを暴く兄と加賀の心理戦が描かれています。
最後まで、犯人は明言されていないので、結末は、読者の推理に委ねられています。文庫本のほうには、単行本にあった記述が一部削除され、より推理が難しくなっていますが、よく読んでいたら自ずとわかるように書いてあるのです。文庫本のあとがきが“推理の手引き”として袋とじになっているという面白い趣向が凝らされています。
この作品は、推理を楽しみたい人向けの本格推理小説です。
長い夢をみた後で目覚めてみたら、病院のベッドの上。周りにいるのは、医師とその助手だけでした。何が起こったのかわからない純一に告げられたのは、自分が世界初の成人に対する脳手術を施されたということでした。
偶然に居合わせた不動産屋で狙撃犯から少女を守ろうとした純一は、ピストルで頭を撃ち抜かれ、命を落としていてもおかしくなかった状態でしたが、脳の移植手術によって一命をとりとめたのです。
医師の説明を聞き、助けてくれたことに感謝した純一でしたが……。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1994-06-06
准一は、徐々に、自分への違和感に気づき始めます。小さな頃からおとなしく、気が弱いと言われて育ってきた純一は、目立つことが苦手で、好きなスケッチをしながら平凡に生きてきたはずでした。
ところが、手術後は、自信がみなぎってくるのと同時に、職場では周りの同僚や上司が無能に見え、仕事の効率を考えるあまり、相手の気持ちを無視して強気な発言を繰り返すようになりました。最愛の恋人にも魅力を感じず一緒に過ごす時間が退屈になり、隣人の生活態度をも腹立たしく思うようになります。
暴力的になった自分を抑えることが難しくなってきて、手術の後遺症ではないかと医師達に訴えますが、医師達は取り合ってくれませんでした。何度訴えても、検査しても、手術は成功し経過も順調だと言うばかりなのです。
医師を頼るのをあきらめて自分で調べ始める純一は、手術に隠された恐ろしい秘密を疑い始めます。純一が受けた脳移植手術に隠された秘密とは?
ページが進むにつれ、恐怖がまざまざと迫ってきます。どんなに欠点だらけでも、世界に一人しかいない自分。一番長い付き合いでもある自分のことが信じられなくなるほど怖いことはありません。
仕事の功績や研究の成果よりも大切なことがあるはずだと考えさせられます。
小学生の頃から同級生だった勇作と晃彦。リーダーシップに富み、明るい性格で成績も優秀、スポーツもそつなくこなしてきた勇作は、父子家庭で、刑事の父親に育てられました。いつもみんなの中心にいた勇作でしたが、1人だけ、どうしてもかなわない存在がいました。それが、地元で最も大きな企業の御曹司である晃彦だったのです。晃彦は自分の殻に閉じこもりがちで、協調性がなく、浮いた存在でしたが、勇作がどんなに努力しても、成績もスポーツも、晃彦には負けていました。
大学受験の前に父親が倒れ、高校を卒業してから、父親と同じ刑事の道を歩んでいた勇作が、ある殺人事件の聞き込みで久しぶりに再会した元恋人の美佐子は、勇作にとっては宿命のライバルだった晃彦の妻となっていました。しかも、晃彦は、勇作が夢見ていた医師という仕事に就いていたのです。
美佐子はときめきを感じることもなく、断る理由が見つけられないままに会社の上司の息子である晃彦と結婚して5年目でした。経済的には恵まれた生活であったものの、常に自分には本音を言わず、何を考えているのかわからない晃彦との生活に、精神的なさみしさを覚える日々を過ごしていました。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
勇作が関わることになった殺人事件の被害者は、晃彦の父親の次に社長となった正清でした。晃彦の父側と正清側とに二分されていた社内派閥やそれぞれの家族の関係性から見て、疑われる人物はたくさんいます。
刑事としてよりも、これまでの自分の持ってきた意地から、晃彦を犯人として疑う勇作。妻でありながらも晃彦への疑いを持ち、本当に愛したただ1人の人・勇作との再会に心を震わせる美佐子。
ところが、晃彦の祖父の時代まで遡って捜査を進めるうちに徐々に事実が明らかになってきて……。
犯人にこだわり、巧みなトリックを駆使してきたそれまでの東野作品の推理小説から、登場人物2人に与えられた宿命の謎を解くという新しい形の推理小説への転換となった作品です。
最後まで目が離せません。
物語は、主人公の敦賀崇史がとある女性に一目惚れしたことから始まります。電車の窓越しに視線を合わせた2人は再会できないまま別れ、それぞれの道を歩むのですが、その先で予想だにしなかった再会を果たしてしまいます。
なんとその女性は、親友である三輪智彦の恋人になっていたのです。友人を祝福したい気持ちと、嫉妬の念に苛まれる崇史。悶々とした日々は、しかし突然終わりを告げます。崇史が次に目を覚ますと、女性が崇史の恋人になっていたのです。
果たして一体何が現実で、何が夢なのか? 次第に露わになっていく記憶のズレに苦しむ崇史。その先には、恐るべき真実が待ち受けていました。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1998-03-13
男女の三角関係というありふれた題材を主軸にした本作ですが、その根幹には奇妙な違和感めいた謎が存在しています。親友の恋人が、ある日突然自分のものになっているという現実。時を同じくして消えた親友。
点々と存在する謎は本作を単なる恋愛物語に収めず、ミステリーとしての楽しみも同時に成り立たせています。
本作を紐解く鍵となる単語、それは「記憶」です。正確でいて、けれどどこかにズレが生じている崇史の記憶。当初単なる夢と思っていたはずの異なる記憶は、崇史のそれとは異なる記憶がぶつかっていくことで徐々に否定できないものとなっていきます。
この記憶を紐解いていく過程は、さながら山崩しゲームにも似ており、読み手の側に真実へ近づいていく興奮と日常が崩れていく恐怖を同時に味わえるようになっています。
さらに恐ろしいのは、彼らの関係に秘められた真実です。上記の通り本来であれば麻由子は智彦の恋人であり、崇史とは単なる知り合い、もしくは友人関係でしかありません。それがなぜ突然崇史の恋人となったのか、智彦は一体どうなってしまったのか。
交わるはずのない、パラレルワールド(並行世界)のラブストーリー(恋物語)。それを成立せしめた理由が何であるのか、3人の関係はどこへ導かれるのか。記憶に隠された真実が明らかになった時、読者はその内容に驚愕し戦慄することになるでしょう。ある人物が下した決断に、科学技術の極致とでも言うべきある発明に。
そしてそれは、決して絵空事と切り捨てられるものではないかもしれません。
中学生の時に最愛の父を病気で亡くした夕紀は、父のような病気の人を救うために、心臓外科医を目指し、研修医として働いています。
現在の配属先の心臓外科では、尊敬できる指導医に恵まれて、忙しい中でも充実した時間を送っていました。そんなある日、夕紀は、病院の駐車場で首輪に紙切れの挟まった犬を見つけます。紙切れは、“医療ミスを公にしなければこの病院を爆破する“という内容の脅迫状だったのです。取り立てて騒がれるような医療ミスに思い当たらない病院でしたが……。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
夕紀には父が亡くなった直後から、拭い去れない疑惑が心の底にこびりついていました。それは、手術中に亡くなった父の死が手術のミスによるものではないか、という思いです。そして、父の手術を執刀した西園教授と母が、父の存命中からつきあっていたのではないかという疑いまで持っていたのです。
第2の脅迫状が届き、緊張感の増す病院でしたが、どうしてもやらなければならない手術が予定されていました。大会社の社長である島原への、胸部大動脈瘤の手術です。亡き父と同じ病気、執刀医も同じ西園です。
手術中、脅迫状の予告通りに病院は、電気系統を爆破されて停電し、手術用の予備の電力さえ使えなくなりました。緊迫感に満ちた手術室。助手として西園を助ける夕紀は、頭を振り絞ってアイディアを出し、奮闘します。2人は、島原を救うことができるのでしょうか?夕紀の西園に対する疑いは、どうなるのでしょうか?
夕紀の父親は、「人間には、その人にしか果たせない使命がある」というのが口癖でした。父の使命、西園の使命、夕紀の使命、看護師の使命、それぞれが使命を全うしようとする姿が感動的に描かれています。
ペットの葬儀場を営む中原のもとを刑事が訪れ、中原の別れた妻・小夜子が刺殺されたことを告げるところから始まります。
この刑事は、11年前に中原達の愛する娘が殺害された事件の時に捜査に当たっていました。娘ばかりか、かつての妻まで殺されるという不幸を背負った中原は、小夜子の両親が起こす訴訟の助けになればと、動き始めます。
小夜子の行動を追っていくうちに彼女がフリーライターになって、死刑廃止論やアルコール依存症、万引き依存症などの社会問題について積極的に取材し、文を書きためていたことを知ることになります。小夜子と接点のあった小児科医の史也とその妻花恵、万引き依存症の沙織。中原は、この3人から、何か大切なことを隠している気配を嗅ぎ取ります。
中原も過去の辛い出来事から解放されることはありませんが、史也達3人が背負っているものも重いもので、過去から現在まで、そしてこれからもずっと縛られ続けていくものだったのです。
- 著者
- 圭吾, 東野
- 出版日
この作品を読んでいると、どこまでが償いと言えるのか、償いの形はどうあるべきなのか、考えさせられます。死刑が執行されても被害者遺族の心が救われることなどない、死刑はひとつの通過点にしか過ぎないのだとわかっていても、娘を殺害した犯人には死刑を望まずにはいられなかった小夜子の強い思いもよくわかります。
さて、中原が行き着いた思いは、どんな形だったのでしょう。
定年退職後、自宅の庭で植物を育てるのを楽しみながら一人暮らしをしていた周治が、自宅で何者かに襲われ、死体となって発見されました。発見したのは周治の孫娘の梨乃でした。
オリンピックも狙えたほどの実力を持っていた水泳で、ある時、パニックを起こしてから泳げなくなり、目標を失ったまま大学生活を送っていた梨乃の気持を推し測り、水泳も勉強もことさら強要することなく、自然に接してくれていた祖父の死にショックを受けた梨乃でしたが、少し落ち着くと、祖父が大切に育てていた花が鉢ごとなくなっていることに気づくのでした。
自分でなんとか探ろうと調べていく中で知り合ったのが、蒲生要介という37歳の警察庁の役人でした。要介は、梨乃の祖父が育てていた黄色い花に興味を持っている様子です。
一方、要介の弟である蒼太は、大学・大学院と一貫して原子力の研究を重ねてきましたが、東日本大震災後の原子力発電所の事故以来、自分のこれからの進路の方向をどう考えたらいいのかわからず悩みながら無為に過ごしていました。そんな時に兄を訪ねてきた梨乃と知り合い、一緒になって梨乃の祖父が被害者となった事件を探ることになりました。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
2人が動くところにはなぜか同じ植物への謎や共通の知人が表れてきます。そして、2人が生まれる何十年も前の1962年に東京で起こった陰惨な事件に、2人とも間接的につながっていたことがわかってきます。
蒼太の祖父・父・兄は3代にわたって警察の仕事に就き、守ってきたことがあったのです。
梨乃の祖父に恩がある刑事は、必ず自分の力で犯人を逮捕してみせると誓うのですが、それはかなうのでしょうか?
物語にはあらゆる人物が登場しますが、軸となっている梨乃と蒼太という若い2人は、ともに挫折して未来の自分を思い描けなくなっていました。そんな2人が、自分たちの足で動いてこの事件に隠された事実を知ることで変化していくさまに心打たれます。
妻を亡くし、男手ひとつで娘を育ててきた長峰。高校生となり、美しく成長した娘の命が、信じられないような形で奪われてしまいました。18歳の若者達に弄ばれたうえに川に捨てられたのです。楽しいはずの花火大会の夜でした。
密告によって犯人の1人のアパートを知った長峰は、偶然にもそこで娘が乱暴されているビデオを見てしまったのです。恨みが頂点に達していた時に犯人に遭遇した長峰は、激情のあまり、犯人を殺してしまいます。それはとても残虐な殺し方でしたが、長峰の娘の受けた傷は、それ以上のものだったのです。
逃亡中のもう1人の犯人を追って長野のペンションへ向かう長峰。途中で、警察に犯行声明ともう1人の犯人への殺害予告を書いた手紙を出すと、報道され、世論も巻き込む事態となりました。
連日繰り返される報道。逃亡犯の行方を追う警察。長峰は、その中をかいくぐって、警察より先に犯人にたどり着き、娘の仇を討つことができるのでしょうか?
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
一方、3歳の息子を亡くして離婚した和佳子は、実家の父のペンションを手伝っていました。自分が目を離したすきに事故に遭ってしまった息子のことを思い、自省の念にかられる日々を送っています。そんな和佳子の働くペンションの客の中に、見覚えのある顔がありました。そう、ワイドショーで毎日見ている顔だったのです。
ハラハラしながらラストまで一気に読んでしまいました。
和佳子の父親の言葉が胸に響きます。
「チェスは、人生のようだ。そのままなら平穏無事だが、それは許されない。動き、自分の陣地から出ていかねばならない。動けば動くほど、相手を倒せるかもしれないが、自分も様々なものを失っていく。」
もし、あなたの家族が逮捕されたら、あなたはどうやって生きていきますか?
東野圭吾の『手紙』はそんな犯罪者の身内に焦点を置いて執筆された作品です。
弟の大学進学の金欲しさが為に空き巣に入り、場の衝動に流されて強盗殺人の罪を犯してしまった兄、武島剛志。残された弟の直貴は何とか生きていこうと努力しますが、犯罪者の家族というレッテルがこびりつき、幾度となく彼の前に立ちはだかってきます。
進学、就職、音楽、恋愛、結婚。訪れる機会はことごとく台無しにされ、人々から向けられる視線は一転よそよそしいものに。直貴には何の罪もないにもかかわらず、容赦なく牙をむく世間の有り様は、現実にも通じる社会の冷たさを象徴していると言えるでしょう。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
とはいえ、そうした冷たさばかりではないのが本作の特色です。
高校時代の教諭、就職先の上司や同僚、音楽を通じて知り合った仲間達、そして付き合いの末に結婚してくれた恋人。彼らは皆直貴の境遇を知りながら、それでも個人として堂々と向き合い善意の手を差し伸べてくれた人達です。
彼らの存在は直貴にとって紛れもなく救いではあるのですが、反面彼らが手を差し伸べたことで作中の直貴にさらなる試練が降りかかっていることもまた事実であり、読み手に二重のもどかしさを感じさせる仕組みとなっています。
また、彼を排斥した人々の側にも悪意だけでなく社会に生きる者としての、保身めいた弱さが見受けられるのも魅力です。本当はこんなことしたくない、言いたくはない。けれど社会で生きていく為には彼らを排斥するしかない。作中の登場人物の言葉を借りて言うならば「自己防衛本能」と呼ぶべき、哀しい現実が存在するというわけです。
そして、本作において対比となっているのが兄である剛志の境遇です。獄中で服役している剛志は、日々課せられる労役に従事し、同じ刑務所仲間と共に不自由ながらも穏やかな日常を送っています。
塀の外でまっとうに生きながら窮屈に日々を過ごす弟と、犯罪者として服役しつつも充実した毎日を送る兄。皮肉に満ちた対比関係は現代社会の歪さを表すと同時に、罪とは何か、償うとは何か、というテーマを読者に問いかけているようにも見えます。
兄が犯した罪は、弟も背負わねばならないものなのか。その答えは、作中で交わされる手紙の中にこそ見えるでしょう。
物理学者湯川学が活躍するガリレオシリーズ第六作。
両親の仕事の都合で夏の間、玻璃ヶ浦の親戚の家に預けられることになった小5の恭平は、行きの電車の中で、クロスワードを解いている男の人と出会いました。
玻璃ヶ浦の旅館の娘の成実は、海底資源の乱開発に反対の立場で運動をしていました。その日も、資源開発の説明会に足を運び、東京から来た、湯川学准教授と出会いました。
恭平は、親戚の旅館「緑岩荘」で、電車で会ったクロスワードのおじさんと再会します。成実も、説明会で発言していた准教授が自分の旅館に宿泊することに驚きました。湯川は、玻璃ヶ浦の海底資源を開発しようとしている企業の要請で、調査に来ていたのです。
その翌朝、「緑岩荘」の宿泊客が、海岸の岩の上で死体となって見つかります。ところが、調べてみると、岩場で転落する前に亡くなっていたことがわかるのです。彼は、元捜査1課の刑事で、現役時代、事件の捜査でたびたび玻璃ヶ浦を訪れていました。玻璃ヶ浦出身の殺人犯・仙波の起こした事件の捜査でした。今回、彼が殺害された事件との関わりがあるのでしょうか?
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
ガリレオシリーズには、直木賞を受賞した『容疑者Xの献身』があります。大切な誰かのためなら自分が罪を被るという形の献身でした。この作品でも、成実のことを、命を懸けてでも守り通した2人の姿が描かれています。
まわりの騒ぎを見ながら、どんどん不安が大きくなっていく恭平。恭平にとってこの夏の思い出は、つらいものになりました。でも、恵まれていたのは、湯川がそばにいたことだと思います。
シリーズの中で、子どもが大の苦手とされてきた湯川が、この作品では、行きがかり上とはいえ、恭平を相手に食事をしたり、実験をしたり、宿題を教えたりする姿が描かれていて、湯川の新しい一面をのぞいたような気がします。そして、成実に対しても、恭平に対しても、湯川の優しさが注がれます。甘やかさない、湯川独特の優しさが、じーんと心に響いてくるのです。
前述した加賀恭一郎シリーズの中でもイチ押しの作品です。
この作品は、ただの警察ものに終わらず、父と子の愛をテーマに据えた重厚感のある熱い人間ドラマになっています。
日本の道路の起点である日本橋の麒麟像の台座にもたれて亡くなっていた青柳は、建築部品メーカーに勤め、妻と年頃の息子、娘を持つ実直な男でした。
彼は、何者かの手によって地下道で刺されたのに、遠くなる意識の中で痛みをこらえながら必死で日本橋の麒麟像まで歩いてきて力尽きました。そうまでして、彼を麒麟像まで行かせた理由とは何だったのでしょう。
犯人と思われる冬樹は、愛する香織と共に上京し、木工職人となる夢を描きながら、青柳の会社の関連工場で派遣社員として働いていました。ある日、労災がもとで腕に麻痺が残ったうえに工場を辞めさせられたのです。当然、責任者である青柳への恨みを持っていたと思われます。ひたすら冬樹を信じる香織ですが、青柳の亡くなった現場の近くで交通事故に遭った冬樹は、もの言わぬままに意識不明が続きます。
捜査に当たった刑事は、加賀と彼の従兄弟の松宮です。冬樹への疑いが濃くなる中で、ある時から加賀だけは他の線からこの事件を見ていきます。
3年前、青柳の息子の悠人が所属する水泳部の大会の日に何があったのか?そこには、想像を超えた驚愕の事実があったのです。
青柳が息子へ託した思いと並行して、加賀と父親との関係も描かれています。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
加賀恭一郎シリーズは作品ごとに独立したストーリーなので、どの作品から読んでも楽しめますが、加賀と父親との関係に注目して読みたい方は、『赤い指』を読んでから『麒麟の翼』を読むことをおすすめします。また、その後に『祈りの幕が下りる時』を読めば、これまでの作品で触れられることのなかった加賀の母に隠された真実がわかり、よけいに加賀と父との関係性に思い至り、感動が深まることでしょう。
親に対しても淡々とした態度で、捜査においても鋭い観察眼で冷静にものごとを見極めようとする加賀ですが、この作品を読むと、加賀が決して冷たいわけではないことが伝わってきます。
水泳部の顧問をしていた数学教師に加賀の放った言葉がとても印象的でした。
「公式を覚えればいろんな問題が解けるようになる。ところが最初に間違ったことを覚えてしまうと、何度でも同じ間違いを犯すことになる。生徒さんたちが正しく公式を覚えられるよう、指導してやって下さい。」
ここに、加賀の人間性が表れています。
過ちを犯した後の姿勢こそが大切なのだと強く思わされました。
不幸は突然降りかかるもの……では、幸福は?
東野圭吾『秘密』は、ある一家に降りかかった不幸と幸福の物語です。
工場で班長として働く主人公、杉田平介はごく平凡な日々を過ごす男でした。妻の直子と娘の藻奈美、3人で暮らす毎日はありふれた平穏なもので、しかしかけがえのない大事なもの。
そんな日々を、思わぬ悲劇が襲います。実家に帰る予定だった妻と娘が、乗車したスキーバスの事故に遭ってしまったのです。娘は助かったものの、妻は事故の怪我が元で帰らぬ人に。突然の悲劇に泣き崩れる平介に、そっと藻奈美は手を差し伸べ、こう言いました。
「あたし、藻奈美じゃないのよ」(『秘密』から引用)。
なんと、死んだはずの直子は実の娘である藻奈美の身体に憑依してしまったのです。現実離れした運命に戸惑うばかりの平介。しかし生きている以上は今の日々に対応していかねばなりません。かくして平介と藻奈美(中身は直子)の奇妙な日常生活が幕を開けるのでした。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
死んだはずの妻が娘の身体に乗り移り、その事を隠して日常を過ごす。何ともファンタジックな話ですが、中身は至って現実的な問題ばかりです。
中身と外見の精神年齢のズレに戸惑い、周囲の反応に悲しみを抱き、そして将来の為にと勉学に励み青春を謳歌する藻奈美。その姿を冷や冷やしつつも暖かく見守る平介。ですがそこには妻への愛と、再度の青春を謳歌する者への嫉妬が入り混じっており、どこか危うさめいたものを読者に感じさせます。
そしてもう1つ、話の要となっているのが事故を起こしたバス運転手の家族です。死んだ夫の過ちが元で苦境に追い込まれた家族と、バス事故で愛する妻を失った家族。2つの家族は対極的な立場にありながら、どこか根本的な所で離れられず幾度となく作中で交差することになります。
なぜ事故は起きてしまったのか。なぜ2つの家族は身内を失わねばならなくなったのか。その背景を知った時、そこに秘められた確かな愛に涙しない者はいないでしょう。
杉田一家が抱え、背負うこととなった『秘密』。それがもたらすものは家族としての幸福なのか、あるいは再度の離別という不幸なのか。その答えは、ぜひ本作を読んで確かめてみてください。
小さな町の上り坂の途中にあるぼろぼろの空き家。今ではもう住む人もなく、老朽化し、錆び付いたシャッターが降りています。文字の消えかけた看板には、「ナミヤ雑貨店」という字がかすかに読み取れます。そう、この廃屋は、かつて雑貨店として子ども達に文房具を売って賑わっていた頃もあったのです。
養護施設で育った幼なじみの翔太・幸平・敦也の3人は、それぞれに仕事に恵まれず、思い余った挙げ句に空き巣に入った後、この元雑貨店に逃げ込みました。
これからのことを相談しようとしていた3人は、この廃屋で、信じられないような出来事に遭遇します。その出来事とは?
一方、妻を亡くし弱気になっていた浪矢雄治は、1人で細々と雑貨店を営んでいましたが、店に来る子ども達から投げかけられる変な質問と自分の回答を店に貼り出していました。
しかし、“ナミヤ雑貨店”の雄治のもとには、いつしか冗談だけではなく、深刻な悩みの相談までくるようになり、シャッターに付いている郵便受けと裏の住居の玄関にある牛乳箱を通して、悩みと回答の書かれた手紙が行き来するようになっていったのです。1通1通に真摯な回答をする雄治。やがてそれは、雄治の生きがいとなっていきます。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
古びた雑貨店の郵便受けと牛乳箱は時空を超えて昭和と平成の世をつなぎ、数々の奇蹟を起こしていきます。
ミュージシャンを夢見て上京した男、地位の転落した両親についていくべきかどうか悩む中学生、父親のいない子どもを出産するべきかなど、人生の岐路に立って迷っている人達に対して、雄治はどんな回答をするのでしょうか?
悩める少年に向けた雄治の「嫌いになったからとか、愛想を尽かしたからといった理由で離れていってしまうのは家族の本当の姿ではない」という言葉が心に響きます。
悩みは尽きないけれど、とにかく生きていけば、明日は今日より素晴らしいはずだと信じたくなるストーリーです。
功一(小6)、泰輔(小4)、静奈(小1)の3人兄妹が両親の目を盗んで流れ星を見に行った夜、悲劇が起こりました。
あいにくの天気で流れ星を見ることがかなわずがっかりして家に帰った3人を待っていたのは、両親の死という残酷な現実でした。両親は、何者かに殺害されていたのです。
洋食屋“アリアケ”を営んでいた父は、大らかな性格で商売っ気もないけれど、料理に関しては自分なりの味へのこだわりを持っていました。母はそんな父をよく支え、2人で“アリアケ”を切り盛りしていました。
施設で暮らすことになった3人は、泰輔は父の腕時計、静奈は母の口紅とコンパクト、そして功一は父が大事にしていた料理のレシピノートと、それぞれに両親の思い出が残る形見を持って家を出ます。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
14年後、大人になった3人の兄妹は、なんと詐欺師になっていました。功一と静奈が騙されたことをきっかけに、“騙されるよりは騙すほうになってやるんだ!”と決心し、詐欺を始めたのです。功一が綿密に計画を立て、泰輔は、ある時は銀行員、またある時は宝石商へと変幻自在に風貌を変え、静奈は生まれ持った美貌を使って、3人で協力して色々な男達から金を騙し取っていきました。
さて、次のターゲットに選んだのは、チェーン展開をして勢いのある洋食屋“とがみ亭”の御曹司でした。このあたりから、3人の活動には暗雲がたれ込めてくるのです。
刑事達は、時効まであとわずかとなった3人の両親の事件についての捜査を続けていました。特に柏原という刑事は、根気強く捜査に当たっていました。そして、警察も、兄妹3人も、疑わしいある男へとたどり着きます。
衝撃のラストに涙が止まりません。
1973年から1992年の19年間にわたる1人の少女と1人の少年のあまりに悲しい生き方を描いた問題作。
誰が見ても美しい容姿に加え、成績優秀で、気品があって女らしい雪穂は、みんなの憧れの的で、中学生の時には他校にファンクラブまでできるほどでした。
中学から高校、大学と私立のお嬢様学校へ進み、大学で社交ダンスのサークルに入っても男子学生たちのハートをつかみ、高嶺の花のような雪穂でしたが、1人だけ、そんな雪穂には目もくれず、雪穂にいつもくっついている江利子の魅力に気づいたのは、先輩の一成でした。一成によって磨かれ、江利子はどんどん洗練されていき、友達の雪穂も一緒に喜んでいたのですが、ある日、江利子はとんでもない不幸に襲われます。
大学を卒業後まもなく、ダンスサークルの先輩だった高宮と結婚した雪穂でしたが、高宮の浮気と暴力が原因で離婚。高級なブティックを持ち、華やかに仕事をする雪穂は、製薬会社の御曹司に見初められ再婚しますが、再婚相手の従弟である一成は、大学時代から、美しさの中にある雪穂の危険な部分を感じとっていました。従兄の再婚に賛成できない一成は、雪穂のことを探偵の今枝に調べてもらうことにします。
実は何年も前から雪穂に疑いを持ち、密かに内偵し続けてきた刑事もいました。その刑事・笹垣と接触した今枝は、笹垣から意外なことを聞きます。少女の頃から、雪穂の近しい人の間で繰り返されてきた死と不幸。雪穂の周りで不幸に見舞われたのは、江利子だけではなかったのです。そして、不幸が起こる時、雪穂の陰には常に亮司の存在がありました。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2002-05-17
小学生の時に父を殺害された亮司と、母が事故死した雪穂。2人の人生の出発点には、いったい何があったのでしょうか。どこに行っても華やかで、ちやほやされてきた雪穂と、おとなしくて学校でも目立たなかった亮司には明らかな接点は見えませんでした。
探偵と刑事によって、長い年月の間に2人のやってきたことが、少しずつわかってきます。読んでいて感じていた恐ろしさは、やがて悲しみに変わっていきます。
雪穂と亮司の行動は、一貫して第三者の視線で語られています。2人の口から気持ちが語られることがないことで、よけいに静かに潜伏してきた2人の思いが読者に刺さってくるのです。
この作品は、重い雰囲気が漂っていて、気分が落ち込んでいる時には読まない方がいいでしょう。しかし、間違いなく心に残る、東野圭吾の代表作と言えるのです。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
東野圭吾作品でおなじみの加賀恭一郎の従弟、松宮脩平が主人公。シリーズを愛読している人でも、この作品から読み始める人でも楽しめるでしょう。
新潟中越地震で2人の子どもを失った夫婦。高齢であることから、体外受精でもう1度子どもをつくることを決意しました。しかし不運が重なり、3つの家族の運命が動いていくのです。
コロコロと場面が変わりながら、徐々に人間関係が明らかになっていく構成。血の繋がりか、戸籍上の繋がりか。産みの親か、育ての親か……家族の形を考えさせられるでしょう。
子どもはみな、誰にとっても「希望の糸」。絡まってもつれることもありますが、それでも繋がっていると思わせてくれる作品です。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
罪を犯して逮捕された玲斗のもとに、叔母だと名乗る依頼人が現れました。彼女は「クスノキの番人」をすることを条件に、玲斗を釈放させるとのことで、彼は従うことにします。
叔母が言うクスノキは、新月と満月の夜に祈念すれば、願いが叶うというもの。そこにはさまざまな人が訪れ、彼らと関わることで厭世的だった玲斗の心も少しずつ変わっていくのです。
物語のテーマは「念」。クスノキに込められた謎と、人の感情の機微が丁寧に描かれた、心あたたまる物語です。
東野圭吾のおすすめ15作品をランキング形式で紹介しました。気になるものからぜひ読んでみてください。