「平凡な毎日」のありがたみ ―― 日常をテーマにした、おすすめの3冊

更新:2016.11.24

曜日感覚が無いです。電車の混み具合や高速の渋滞で初めて、ああ今日は土曜日か、と外出を後悔しがち。学生時代は毎日6時に起きて24時には寝ていたという事実が俄かには信じられません。そんなBURNOUT SYNDROMESの熊谷和海(Gt、Vo)です。「日常」をテーマにした3冊を紹介します。

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大阪が恋しい。

いえ、僕は今も出身である大阪に住んでいるのですが、ここ最近の新譜リリースに伴うキャンペーンやワンマンツアーなどで10月、1月合わせて1週間ほどしか家で寝れておりません(勿論ありがたいことです!!)。

とはいえ毎日がスリリングで楽しい「非日常」の連続だと、不意に退屈な「日常」が恋しくなってしまうものです。たまには家の近くの行きつけのラーメン屋に行きたい……まあそれも地方の郷土料理を食べればすぐに消え去ってしまうのですけれども。名産品は鮮度が違います。鮮度が。

しかしここ最近の、家に帰れても「せっかく大阪来たしお好み焼きでも食うか」という思考は大阪人として壊れていると思うので、今一度、自分のアイデンティともいえる「平凡な毎日」のありがたみを確かめようではないか。

ということで今回は「日常」をテーマに3冊ご紹介するわけです。いや、ご紹介しまっせ。

ストーリーの普遍性

著者
梶井 基次郎
出版日

“丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けてきた奇怪な悪漢が私で、
もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなに面白いだろう”

31歳の若さで夭逝した梶井基次郎の、短編小説20編からなる最初にして最後の創作集。表題作「檸檬」は国語の教科書などで読んだことがある人も多いのではないでしょうか。

梶井基次郎の特徴として挙げられるのは「ストーリーの普遍性」。「檸檬」もそうなのですが、物語自体に特にアクロバティックな展開はなく、まさに誰もが一度は経験しうるような日常の景色を切り取っているにすぎません。しかしその日常に潜むもどかしさや焦燥や心の暗部を、梶井基次郎は鮮やかに言葉にしてくれるのです。

あまりにも寒すぎて懐のライターをどちらの手で握っているか最早分からず、取り出し方すら分からない。

訳もなく断崖へと続く斜面を滑り降りたくなり、崖っぷちで何とか停止できて自分の衝動にゾッとする。

……などなど、「理屈では説明できないけれど、そういうことってあるよね」と思わず相槌を打ってしまうような瑞々しい表現がそこにはあります。文学とは日常に潜む心の振動に名前を付けること……その真髄を垣間見ることができます。

目に見えぬ世界の決まりごと

著者
あらゐ けいいち
出版日
2007-07-26

“日々、私達が過ごしている日常は
実は奇跡の連続なのかもしれない”

あらゐけいいち氏が描くハイテンションシュールギャグ漫画。10巻完結。2011年には京都アニメーションにてアニメ化。主題歌、エンディング曲をヒャダイン氏が手がけ、一大ムーブメントに。

僕はアニメから入ったクチです。無茶苦茶シュールで時々力技なのに面白く、すぐさま原作を買いに書店に走ったものです。

この「日常」、梶井の「檸檬」とは真逆で、そういうことってあるなぁ……いや、ないでしょ!!という、日常に潜むテンプレートを逆利用したギャグが秀逸。シュールギャグというのはその自由奔放さとは裏腹に、作者は日々「目に見えぬ世界の決まりごと」に対してアンテナを張り続けておらねばならず、決して感性の赴くままでは成立し得ない非常にクレバーなジャンルだと僕は思うのです。

このあらゐ氏、星野源さんのアルバム特典に4コマ漫画を提供していたりと、業界問わずイラストの可愛らしさに定評があるお方。表情豊かなキャラクターが全身全霊で表現するシュールギャグは一見の価値ありでございます。

自分だけの幸せを見出し楽しむ「おこだわり人」

著者
清野 とおる
出版日
2015-06-23

“その「おこだわり」俺にも見せておくれよ!!!
 その「おこだわり」俺にも聞かせておくれよ!!!
 その「おこだわり」俺にもくれよ!!!”

日常の中のどうでもいい事に敢えてこだわり、自分だけの幸せを見出し楽しむ「おこだわり人」。彼らの隠れた「おこだわり」を暴き出し、この世を楽しく生き抜くヒントにしよう、というドキュメンタリー形式のギャグ漫画。2016年4月テレビ東京にてドラマ化。

同著『東京都北区赤羽』も山田孝之氏主演でドラマ化されていたりと、日常に潜む違和感や狂気を鮮やかに描き出す漫画家としてカルト的人気を誇る清野氏。今作もその魅力がぎっしりつまっています。

休日は「最も身近な外」である「ベランダ」で飲食や菜園、果ては就寝までこなす「ベランダの男」。

最寄駅から自宅までの帰路1kmをあらゆるアイデアを駆使してスリリングに楽しむ「帰る男」。

睡眠に至福の喜びを見出し、高級感を得るため休日は敢えてビジホに泊まって爆睡する「寝る男」。

寝てる時間など勿体ない!と毎日3時間睡眠で日々を最大限にエンジョイする『寝ぬ男』。
そして「寝る男」と「寝ぬ男」の夢の対談(睡眠だけに)も実現。

字面だけで見ると頭痛がする程の「変な人たち」ですが、彼らは皆一様に幸せそうなのです。これを読んで彼らの真似をするも良し、己の中に潜むオリジナルな「おこだわり」を見出すも良し。繰り返しの毎日に退屈を覚える貴方に読んで欲しい一冊です。