スターデザイナーになることを夢見る朝倉光一は、多くの天才と出会うなかで、自分がただの凡人であることを痛感していくことに……。 圧倒的センスを持つ天才と、天才になりたかった凡才の姿を描いた『左ききのエレン』。天才を夢見た人なら誰しも共感できる本作について、その見所や魅力を紹介していきます。原作版をスマホの漫画アプリから無料で読みこともできるので、そちらもご利用ください。
誰もが名前を知るような、世界レベルのトップデザイナーを夢見る朝倉光一。
自分には才能があると思い込んでいた彼は、高校生のとき同学年の「天才」を目撃し、ますますトップレベルへの憧れを強めるように。
大学・会社と年を重ねても、自分ではおそらく到達できないであろうレベルを狙い続ける光一。しかし、ある時から、自分は今まで憧れ続けてきた「天才」とは、そもそも違うのだということを痛感するようになるのです。
原作版 左ききのエレン(1): 横浜のバスキア
広告代理店を舞台に、描かれる本作。作者・かっぴーが広告代理店に勤めていたこともあり、社内営業や案件を獲得するためのピッチ(競合プレゼンともいう)など、広告代理店の世界がリアルに描かれています。
そんな本作が2019年10月20日から実写でテレビドラマ化されることが決定。キャストは主人公の朝倉光一を神尾楓珠が、同級生の「天才画家」こと山岸エレンを池田エライザが務めます。高校生から社会人になるまでを描く本作を、若手の二人がどのように描いてくれるのか、ファンの間でも期待が高まっているようです。
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本作の魅力的な部分として挙げられるのは、まず主人公である朝倉光一が、漫画の主人公的キャラクターではないというところではないでしょうか。決して主役になり得ない、どこにでもいるようなモブキャラのような人物が、光一なのです。
設定上では間違いなく彼は主人公なのですが、主役になれるようなキャラクターではないのです。
彼は、誰かに憧れを抱かれるような部分も、不特定多数の人物に愛されるような部分も持ち合わせていません。本当に、どこにでもいるようなただの人です。
凡人のなかでも、自分の武器を知っている人間は天才にも負けない力を持っていますが、彼はそれすらもありません。ただふわっと、「〇〇のようになりたい」「〇〇のような脚光を浴びる存在でいたい」という承認欲求しか持ち合わせていないのです。
「自分はもっとできる」と日常のなかで考える人は多いでしょう。そういった人々にとって、非常に共感しやすい、決して物語の主役にはなり得ない主人公というのが、本作のもっとも魅力的な部分なのです。
また、本作は「絵」を中心に、「人に見せるアート」というものを主題においているのですが、それと並行して描かれる人々の繋がりというのも、非常に見所となります。
『左ききのエレン』は、「天才」と「凡人」をテーマにしていて、天才は天才同士通ずるものがあるような展開もありますが、そういった枠組みを超えて築かれていく関係というものも描かれているのです。
光一と、彼が憧れる天才・エレンとの関係は、まさにそうではないでしょうか。彼らはその才能の差を考えると、決して交わることのない2人です。しかし、それぞれが互いに持っていない「才能」と「人間性」に惹かれ合い、理屈ではない繋がりを持ち続けるようになります。
エレンや光一の行動力の原点は、そんな他者との繋がりなのではないでしょうか。エレンが絵を描こうとしたきっかけ、光一がきちんと将来を見据えようとしたきっかけは、他人との接触によるもの。本作は一貫して、人との繋がりと、その陰にある孤独が描かれているのです。
- 著者
- nifuni
- 出版日
- 2017-12-04
『左ききのエレン』には、原作版とリメイク版が存在します。これらは一見どちらも同じように見えて、描写するタイミングや開示される情報にちょっとした違いがあるのです。
まず原作版のよい点は、見せたい部分が明確なところ。風景やモノローグなども必要最低限のものしか描かれていないことで、この話の重要なところはどこか、この場面は何を伝えたいのか、ということが明確に読み手に伝わります。
また、描写が少ないことで、キャラクターの表情が生きているのも魅力的な部分。キャラクターの喜怒哀楽が非常にわかりやすく描かれているでの、読んでいて非常に感情移入がしやすいでしょう。
一方リメイク版は、原作にはなかった描写や加筆されたカットがあるのが魅力的な部分。こちらでは、あまり関係ないようなサブキャラとの絡みも丁寧に描き、作品としての盛り上がりが増えたのが印象的ですね。
強烈なサブキャラとの絡みを多く描くことで、光一の平凡さやちっぽけさが、よりわかりやすく伝わってきます。
また、同じシーンでも、描く前後のタイミングが変わるだけでだいぶ受け取る印象が変わるので、原作版を読破した方でも楽しめるのがよいところでもありますよ。
広告代理店に勤める朝倉光一は、世界的に脚光を浴びるトップデザイナーのようになることを夢見ていました。
まだまだ下っ端ながらデザイナーとして奮闘する彼ですが、現実はそんなに甘くありません。
原作版 左ききのエレン(1): 横浜のバスキア
本巻の見所は、圧倒的才能を持つ山岸エレンと、光一が、互いの正体を知ってお互いを認識し始める場面ではないでしょうか。
エレンは、「美術部のコーイチ」が美術館に落書きをした犯人を見つけていること、またその作品に対抗して絵を描いていることを知り、興味を持つように。
自分の目を覚まさせてくれるほど、自分を燃え上がらせてくれるほどの実力があることを期待した彼女ですが、実際の光一の実力は「素人のなかでは悪くないほう」という程度。芸術家を目指す人間たちとは、天と地ほどの差がありました。
自分をひどく賞賛する光一ですが、すべては凡人程度だったのです。この彼に対する期待感の裏切りと、それでも才能がなくても本気で立ち向かおうとする姿には憎めない愛嬌があり、かつて夢を見ていた多くの人から共感を得るのではないでしょうか。
「天才」や「1番」を夢見た、もしくは夢見ている「凡人」には、心臓が締め付けらるような場面です。
プロジェクトチームから外された光一は、高校時代のことを思い出しながら、新しいプロジェクトを頑張ろうと気合を入れていました。
しかし、そのプロジェクトで、営業とクリエイティブの溝が明らかに……。
原作版 左ききのエレン(2): アトリエのアテナ
現場に立つ人間と、決まった場所から指示をする人間に温度差があるように、実際にクライアントと会って外を走り回る営業と、営業から持ち込まれた情報を使って望まれたものを仕上げるクリエイティブにも温度差があるようでした。
光一の頑張りを見てきた分、広告代理店の仕事はクリエイティブではなく営業があってこそ、という営業担当の流川の態度には、少々もどかしさや苛立ちを感じてしまいますね。
しかし彼がこう考えるようになったのは、そもそも営業よりクリエイティブが努力したという言葉を聞いてしまったから。一緒に作り上げたものを、自分はまるで何もしていないと言われるのは悲しいですよね。
しかも彼はもともとコピーライター志望と、クリエイティブ側の人間でした。自分の夢を叶えることができないなかで、それでも与えられた場で一生懸命仕事をした結果認められないというのは、なかなかきついものがあるでしょう。
エレンや光一の関係性、クリエイターたちの話はもちろんですが、こういった仕事に関する話をしっかり描くのも本作の魅力です。
光一が入社してから憧れ、目指してきた先輩デザイナーの神谷。いつか彼のようになりたいと思っていた矢先、神谷から会社を辞めて独立するという話をされました。
そして神谷チームとして切磋琢磨してきた光一、そしてコピーライターのみっちゃんは、離れ離れになることになったのです。
原作版 左ききのエレン(3): 不夜城の兵隊
実力のあるクリエイターが独立をするのは珍しいことではないですが、自分の先輩・上司がとなると、なんともいえない寂しさや戸惑いがありますよね。
神谷がいなくなったことを受け、光一は社内外からあまり評判のよくないデザイナー・柳のチームに所属することになったのですが、そこに入ってから、光一はまるで人が変わったようになりました。
チームで制作する喜びを忘れ、他者を寄せ付けないような人物になったのです。そんななか、光一は1年半ぶりに神谷に再会することに。これによって、ちょっとおばかで夢見がちな彼が戻ってくるかも、と期待した方も多いかもしれませんね。
しかし実際は、まったくそんなこともありませんでした。とはいえ以前に比べ「デザイナー」としての闘志を表に出し、神谷にさえ噛み付こうとする姿は、一流を目指すデザイナーとしては正しいようにも思えます。この豹変っぷりは、ぜひ注目したいところですね。
まだ、光一やエレンが大学に通っていた時代。彼らは違いに影響を与え合いながら切磋琢磨してきました。
その後2人は別の大学へ進むことになりましたが、岸あかりというモデルをきっかけにして、再び接点ができるように。
原作版 左ききのエレン(4): 対岸の二人
この人物との出会いが、光一にとって吉と出たのか凶と出たのかはわかりませんが、少なくとも自分を見直すよいきっかけにはなったのではないでしょうか。
あかりに誘われ、光一主導でおこなわれるファッションショーに行くことになったエレン。このときは光一に対する興味と感情しか持ち合わせておらず、何かと自分に絡んでくるあかりには見向きもしませんでした。
しかし、いざファッションショーが始まると、圧倒的な魅せる才を持つあかりに、彼女は目が離せなくなったのです。このときの光一の除け者感が何とも言えない気持ちにさせられます。
天才×天才を前に、ただの凡人は興味すら持たれないという、クリエイターたちの社会の縮図を描いたような3人の場面は、ぜひ注目したいところ。
また、本巻では光一の元カノであり、エレンの幼馴染である加藤さゆりの動向も見所ですね。異性だと1度のすれ違いが決定的な別れに繋がるのに対し、同性同士はそのすれ違いとぶつかり合いを何度しても、ともにいられることを表したシーンは、光一とエレンという対照的な2人のよい対比なのではないでしょうか。
自分も他者も追い込むような仕事の仕方をしていた光一。
柳のように働けばいいと行動していた彼ですが、ある日その柳から、自分の存在、仕事の仕方について、ずっと目を逸らしていた現実を突きつけられることとなったのです。
原作版 左ききのエレン(5): エレンの伝説
本巻では光一ではなく、エレンとさゆりを中心に話が進みます。絵描きとして多くの波を経験してきたエレンは、ニューヨークで今まででは想像できなかったような、怠惰でまったりとした生活を送っていました。さゆりが「幼児化」と評したのもわかる変貌を遂げたのです。
そんなエレンの目を覚まさせるため、彼女を才能を持つアーティストの元に連れていくことに。いくら精神年齢が退行しているとはいえ、やはり一流の才能を持った人物。エレンは相手の存在を知り、その場に行くことで、本来の性質を一瞬で取り戻すのです。
この変わりようは「天才」ならではだと思いますし、彼女を本気にさせるために、その機会をきちんと与えるさゆりもすごいもの。
天才は孤独なように思えて、意外と多くの人に支えられているのがわかりますね。
また、かつての光一と現在の彼を合わせたような、若き日の神谷の話も収録。現在「よき先輩」である人物には、その人にとっての「よき先輩」がいたのだとわかる内容で、こちらも注目したいですね。
自身の正体を明かさず、ニューヨークで活動していたエレン。そんななか、満を辞して素顔を公開して会見をした彼女でしたが、とあることがきっかけで活動に区切りをつけることに。
一方その頃、光一は新入社員としてやる気だけは溢れていました。
原作版 左ききのエレン(6): バンクシーのゲーム
本巻での見所は、やる気ばかりが空回りしている光一と会社との関係ではないでしょうか。5巻から続いていたエレンパートは、やはりただの人には感情移入がしにくい部分もありますが、光一パートは「あるある」と共感できるのが多いのが楽しいところ。
光一側に共感できることもあれば、自分はできると勘違いしている後輩に接せられる先輩、やる気だけが一人歩きしている部下を持つ上司など、光一を取り巻く会社側の人間にも共感できる部分が多数登場します。
光一はよくも悪くも、猪突猛進で目の前のことしか見ることができません。自分の夢を追いかけるばかりで階段を飛ばして進めると慢心し、結果、足を踏み外してる感じですね。
「こうなりたい」という理想を持って会社に入社した場合、確かに実績を早く上げることにこだわってしまいそうですが、ずっと働いていた先輩たちとすぐに同じように働けるのはほぼ不可能です。
かつて彼と同じようなことをした人には耳の痛い話ですが、こういったリアルさがあるのがよいところでもあります。
入社して3年、会社で働く楽しさを実感し始めた光一。ついに、憧れていた神谷が自分のチームを持つことになり、そこに参加することになりました。
神谷チームの一員となった光一は、今までとはまるきり違う働き方をするようになったのです。
原作版 左ききのエレン(7): 光一の現実
本巻では、1巻で描かれていた大きなコンペと、そこから外された光一の話が神谷視点で描かれています。1巻で見た神谷は非常によい先輩のように見えましたが、本巻を読むとそうでもなかったことがわかるでしょう。
5巻で描かれていた大学時代の彼とはまったく違っていますし、光一のことを考えていることはわかるのですが、上司として理想的なのは、おそらく光一が最初にいたチームのリーダー・沢村ではないでしょうか。
神谷も、メンターとして沢村を評価していましたが、評価したうえで光一には心を育ててくれる人間より、自分のように才能のある人間が技術を教えることが大切だと考えていたようです。
これはやはり、才能がある人間の考え方ですよね。才能のない人間には、ゆっくりと成長を促すことも大切でしょう。しかし神谷は、そういう考えではなかったのです。しかし、現状光一が欲しがっているものを与えようとしていただけなので、決して彼が間違っているわけではありません。
神谷と沢村が言い合うシーンは、どちらの言葉にも共感できる信念の強さがあり、見所となっていますよ。
光一は制作会社の苦労や終わった喜びを見守るなかで、1番大切にし、尊重しなければいけないクライアントをないがしろにしてしまいました。
原作版 左ききのエレン(8): 物語の終わり
制作を依頼した相手に対し、どんな事情があれ私情を持ち込んではダメですよね。クライアントの意向を無視するというのは、もっともやってはいけないこと。
この時点で光一は、夢見ていた「デザイナー」から少し離れてしまったのかもしれません。もしかしたらこのことが、彼の人格を変えるきっかけとなったのかもしれません。
本巻では、彼が変わってしまった瞬間も見所となるのですが、以前登場した岸あかりの弟・アラタの登場も注目したいところ。
彼は営業の流川の後輩として登場するのですが、なかなかの曲者。光一の写真を持ち、意味ありげなことを言うなど、不穏な空気を出すのです。しかし彼が光一に接触したのは、なんと彼自身の願いのためでした。
岸家の人間は、だいたいがおかしいところがあるのですが、もしかしたら彼はそのトップかもしれませんね。光一を亡き者にしてしまうかも、と思わせておきながら、まったく違うことをお願いする姿はなかなか狂気に満ちています。
彼の光一に対する怒涛の語りかけシーンは、そのヤバさが前面に出ているので、ぜひ注目したいですね。
エレンはニューヨークから姿を消して、上海に移り住んでいました。かつて自分と間違われたアーティストの子どもから、絵を教わっていたのです。
彼女が必死に描くこと以外をしようとしているとき、光一は輝かせる側として活動していました。
原作版 左ききのエレン(9): 左ききのエレン・前
どんなに苦しくても、描くことをやめられないエレン。これは天才ならでは悩みかもしれませんね。1つのことに特化してしまったがゆえに、それ以外が平均以下になってしまう……。周りができていることができないというのは、なかなか辛いことですよね。
ただ、そんななかでも描くことをやめないと強く思うところは、以前に比べて成長した部分です。諦めきれない彼女がどんな行動に出るのか、気になりますね。
また本巻では、光一の動向にも注目したいところ。彼は、柳のような非道な人間になったかと思われていましたが、実際は沢村や神谷の教えをきちんと蓄えた、真っ当な人間となっていました。
クライアントの意見をきちんと引き出そうと誘導し、自分以外の誰かを輝かせるために動いている姿は、今まででは考えられない成長で、どこか感動を覚えるでしょう。
今までのことが糧になっているとわかるシーンは、最大の見所ですね。
世界的トップモデルのあかりと、世界的カメラマンの佐久間という強大すぎるタッグを相手に仕事をすることになった光一。原点を思い出させる撮影現場に、彼も気合が入っているようでした。
しかし、相手が相手ということで、一筋縄ではいかない様子で……。
原作版 左ききのエレン(10): 左ききのエレン・後
佐久間は、本作のなかでもっとも言葉の通じない相手です。あかりも人の話を聞かないタイプの人間ではありますが、それでもまっすぐ伝えた言葉ならきちんと届きます。
一方の佐久間は、いくら正面から言葉をぶつけても、どれだけの正論を言おうとも、自分が求める「完璧」「最高」に到達しないものは許せない様子。クライアントの意向も、光一たちのことも無視し、撮影を強行した佐久間。そんな彼と言い合う光一の場面は、以前の彼らしさがあって見所ですね。
ただ、本巻では、やはりエレンと光一が一瞬ながらも再会し、エレンがずっと抱えてきた光一への感情をぶつけるところが、最大の見所ではないでしょうか。
高校時代を思い出させるスプレー缶での落書き、光一が担当した作品への上書き、かつて彼に言われた言葉をそのまま返すエレンなど、怒涛の展開を迎えます。
光一と出会い、彼と接するなかで、自分の進むべき道を決めたエレン。今度は光一が彼女との接触で、あらためて自分の進むべきところに戻ることを決めたのです。
友情とも愛情とも違う情で繋がる2人の縁は、明確な形がないからこその強さを感じさせますね。この感動の結末の行方がどのようなものか気になる方は、ぜひ本編でお確かめください。
天才と、天才にはなれなかった人を題材に描かれた『左ききのエレン』。天才を夢見る子ども、天才を諦めた大人、すべての人が共感や共通点を感じられる作品となっています。さらに広告代理店についても詳しく描かれているので、デザイナーとして代理店を目指す人にもおすすめの作品となっていますよ。
広告業界について紹介した<5分でわかる広告業界!大手広告代理店は電通・博報堂だけじゃない。現状や今後を徹底研究!>もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。