人気作家西加奈子の傑作と言われる本作。イケメンで人気者の兄、美しい妹、おしゃべりをする犬など、個性的な面々がくり広げる、愛と再生の物語です。本作を原作とした映画化も発表され、北村匠海が主演を務めることが発表されています。 この記事では、崩壊した家族が再生していくまでの物語の魅力を紹介します。ネタバレを含みますので、ご注意ください。
『さくら』は、直木賞作家西加奈子の初期の傑作といわれる作品です。
「あのときの僕らに足りないものなど何もなかった」と僕が振り返るように、みながうらやむような家族がそこにありました。しかし、運命はいたずらなもの。突然の不幸に見舞われ、家族の絆が大きく揺らぎます。
だれもが振り返るといわれるほど魅力的な兄と、美しい妹に挟まれた、次男の「僕」が本作の主人公。この三兄妹の成長をあたたかく見守る、父と母。そして家族に途中から加わった雑種犬のサクラが主な登場人物です。
- 著者
- 西 加奈子
- 出版日
- 2007-12-04
ありそうでどこにもない一家の四半世紀にわたる物語には、たくさんの愛や幸せの形が詰まっています。『さくら』は多くの共感を呼び、20万部を超えるベストセラーとなりました。そして2019年4月現在、本作を原作とする映画作品の企画が進行中です。
ストーリーの中心を担う三兄妹を、北村匠海 (僕)、小松菜奈(妹)、吉沢亮(兄)が演じます。監督は、江國香織、辻村深月などの女性作家原作の映画化で定評のある矢崎仁司。公開は2020年初夏の予定です。伝説のような家族がどのようにスクリーンに現れるのか、期待がふくらみます。
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作者・西加奈子は、イランのテヘランで生まれ、エジプトのカイロの小学校に通い、その後中学、高校は大阪で過ごしたという経歴の持ち主です。その経歴を活かしたとも思える『サラバ!』で直木賞を受賞しました。
スピード感のある展開、笑えて泣けて、心があったかくなる作風に定評があります。登場人物が個性的で、そのひとりひとりへの著者の優しいまなざしも作品の魅力といえるでしょう。大阪で10代、20代を過ごしたことから、登場人物が交わす生き生きとした関西弁も見所の1つです。
- 著者
- 西 加奈子
- 出版日
- 2017-10-06
心の闇や劣等感を描く『窓の魚』、女の子を主人公とする短編集『おまじない』など、新境地の開拓にも積極的。常に新刊が期待される人気作家です。
さらに、自著の表紙絵や挿絵も手掛け、個展なども開催しています。自身の小説を原作にする絵本『きいろいゾウ』も人気を集めました。
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『さくら』は、関西のとある新興住宅地に引っ越してきた5人家族の物語です。この家族を、どこにでももいそうなのに、そうでなくしているのは、長男の一(はじめ)、次男の薫(かおる)、妹の美貴(みき)の三兄妹の存在です。
長男の一は、小さなころから周囲の人気を独り占めにする、ヒーロー的存在です。あまりのモテぶりは「レジェンド」と称されるほど。
妹の美貴も、一に劣らぬ美形。ただ、見かけからは想像できないほど荒っぽいところがあり、友達が少ない人物です。
生まれたときから持っているふたりに挟まれた主人公、次男の薫。作中では語り役として、「僕」と表記されます。「はじめさんの弟」「ミキさんのお兄さん」と呼ばれる位置づけですが、それにいじけることのない、素直な性格の持ち主です。
三兄妹の父親は優しく哲学的。母親も明朗快活で、だれからも好かれるスマートな美人。いつまでも恋人同士のような素敵な夫婦です。
そして、忘れてはならないのが愛犬のサクラ。僕が10歳の時に家にやって来たときは、まだ2か月でした。器量良しではないけれど、家族の皆から愛され、必死に尻尾をふってサクラもその愛に応えます。まるで言葉を話すようにコミュニケーションを取り、家族みんなに元気を与える家族の一員です。
裕福ではないものの、全員がしっかりとした絆で結ばれているあたたかな家族がそこにありました。
大学生の僕は、東京でひとり暮らしをしている青年。そのもとに、突然父親から手紙が届きます。そこに「年末、家に帰ります」と書かれていたところから物語が始まります。
手紙にびっくりして帰省することにする僕。何しろこの父、家を出て音信不通になってから3年も経つのです。実家に戻ると、そこにはだらしなく太った母と、やる気のない妹。サクラだけが歓迎してくれますが、すっかり年老いて弱ってしまっています。
こんな風になるまで、この一家はもともとは明るくあたたかでした。
3兄妹は、時に騒動を起こし、時に騒動に巻き込まれながら、両親の大きな愛を受けて、まっすぐに成長していました。しかし、家族を包んでいた空気を一変させる出来事が起こるのです。
それは、突然の「兄の死」。大きな事故に見舞われ、ヒーローの面影をすっかり失ってしまう兄。それでも、子どもたちが3人そろっていてくれさえすれば笑っていられると、母は懸命に一家を守ろうとしました。
しかし、兄は自ら人生をギブアップしてしまいます。つまり、自殺。まだ20歳と4か月でした。
そして誰かがいなくなるなんて想像さえしていなかった幸せな家族は、いきなり崩壊の危機を迎えるのでした。あたたかい、幸せそうな家族から一転、家族が崩壊していきます。
そんな姿は見ていて辛くなる場面もありますが、最後の展開に繋がる大切な部分です。今ある幸せを大事にしようと思える、とても重要なシーンとなりますので、ぜひお見逃しなく。
さまざまな愛が登場するのも、本作の魅力の1つです。
子どもたちの成長や、登場人物の感情、葛藤までを「愛」というテーマを通して、ていねいに描きます。人が人を想い、時にあたたかく、時に身を割かれるようにつらい、多様な感情が表現され、作品に厚みを加えています。
いつまでも互いに恋をしているような、父と母の深い愛。兄中心で回っている、妹・美貴の世界。初恋。気持ちよりも身体を求め合う若さ。うまくいく恋、通じぬ思い。
さらに性別を超えた愛やタブーの中で抑えがきかなくなる歪んだ愛情など、ときには残酷な結果をもたらすような愛も描かれます。
本作はただ恋愛模様を描いているのではなく、愛の裏に「人が生まれつき抱えているもの」「知らずに背負ってしまったもの」を描いています。そして、私たちはそれとどう向き合うべきなのか、そんなことを問うてくるのです。
兄の死は、みながうらやんだ明るい家族を壊してしまいます。
穏やかな日常を、何より美しく尊いものだと考えていた父は疲れきり、大切にしていた家族を置いて出ていきます。母は過食で太り、酒に溺れ、「がはは」という大らかな笑い声はもう聞こえませんでした。
お兄ちゃん子だった妹の美貴はやる気をなくし、すべてのことを放棄してしまい家で閉じこもるようになってしまいました。そして僕も、重苦しい空気から逃げるように、東京の大学に進学し、一人暮らしを始めます。家族の幸せの象徴といえたサクラも、兄の死とともに「話」をしなくなりました。
- 著者
- 西 加奈子
- 出版日
- 2007-12-04
時間が止まってしまったような家族。
しかしそれでも時は流れ、兄の死から4年。一家に父が戻り、僕も帰省し、兄を除いた家族が再び顔をそろえました。何かが起こる予感がします。
そのきっかけをつくったのは、サクラの異変でした。父がハンドルを握る軽自動車に、家族全員サクラも一緒に乗り込みます。この先にあるのはさらなる絶望か、奇跡のような救いでしょうか。
一度崩壊した家族は、サクラをきっかけに再生へと向かいます。読後は、きっと「読んでよかった」「また読みたい」そう思える作品です。
大晦日、この家族を待っているものが何か、気になった方はぜひお確かめください。