『るろうに剣心』には数々の敵キャラクターが登場しましたが、その中で読者の印象に最も強く残っているのは、必殺技レベルの攻撃を次々と受けながら決して倒れることがなかった志々雄真実でしょう。 あらゆる強敵の中で一際強く、一際派手で、一際エキセントリックな、「悪」を体現した男・志々雄真実に関する事実をご紹介します!
『るろうに剣心』本編の中盤のエピソード「京都編」における、主人公・緋村剣心の最大の敵。それが志々雄真実です。
幕末においては剣心と同じく維新志士であり、同じく影の人斬りとして活動していて、実力は剣心と拮抗するといわれていた剣豪です。
しかし、目指すところは剣心とは真逆の弱肉強食の世界。自らが国を支配するため明治新政府の転覆を謀るという悪役です。志々雄は「悪」を自認し、「悪」を実践して巨大な組織を築き上げ、その頂点に立った「悪のカリスマ」です。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2012-05-18
ここでまず、「悪のカリスマ」志々雄真実のプロフィールを見てみましょう。
京都に生まれ、京都で人斬り稼業をし、京都を大火に包もうとした志々雄は、嘉永元(1848)年生まれ。剣心を「先輩」と呼ぶこともありましたが、年令は嘉永2(1849)年生まれの剣心よりも1歳年長です。
『るろうに剣心』本編中ではじめて剣心と直接対面したのは、趣味の湯治のために逗留していた新月村でした。初登場は湯煙の中の入浴シーンです。
実写映画「るろうに剣心」のうち「京都大火編」「伝説の最期編」では、善も悪も自在に演じる藤原竜也が、アッパーなテンションで笑い戦う志々雄を、さすがの演技力で演じ切りました。
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簡潔にいってしまえば、志々雄は「悪い奴」です。しかしただ悪さをするだけではなく、情や粋を解する悪漢です。これはモデルとされたという芹沢鴨から引き継がれた性質でしょう。
芹沢鴨は近藤勇の前に新撰組局長を務めた人物です。彼は、数々の乱暴狼藉のためか暗殺されてしまいました。
しかし、彼もただの乱暴者ではなかったようです。豪胆かつユーモアの持ち主で、ときには友人知己のために力を貸したり、子供を相手に絵を描いて遊んでやるなどしていて、人から好かれてはいました。
同様に、志々雄真実も弱肉強食を是として暴力と恐怖で支配する暴虐の面を持ちますが、幼い瀬田宗次郎を手許に置いて育てたり、自分のために組織の中での汚れ役をすべて負う佐渡島方治をまず労うなど、情に溢れ気配りができる人物でもあります。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 1996-09-04
『るろうに剣心』の主人公・緋村剣心は幕末に、維新三傑の1人・桂小五郎の命により、幕府の要人の暗殺を請け負う人斬りとして働きましたが、ある時期から剣心はその務めを退きます。
そして、その後任に就いたのが志々雄真実でした。志々雄の剣の腕前や頭脳の明晰なことは、剣心に比べ遜色はないとされていたことが分かります。
しかし、剣心と志々雄には大きな違いがありました。維新派の一員として人斬り稼業を請け負う頃から志々雄には強すぎる野心と支配欲があったのです。
これを危険と判断した維新派は戊辰戦争の混乱に乗じて彼を急襲します。昏倒させられた志々雄はさらに身体に油をまかれて火を点けられ、全身を焼かれました。
これにより暗殺されたかと思われましたが、なんと彼は、全身に大火傷を負いながらも生き延びていたのです。そして自らを裏切った明治新政府を倒し、日本を征服して強い国に改革することを目的に暗躍するのです。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2007-01-04
志々雄は、全身を焼かれたため身体の発汗機能がほぼ失われ、常に「生きているはずがない」ほどの高熱を発しています。医者の見立てでは全力で動けるのは約15分間。しかし、剣心との決戦は接戦・激戦で、タイムリミットの15分を大幅に超過してしまいます。
どれだけ痛烈な攻撃を食らっても立ち上がる彼の怖ろしいまでの執念と打たれ強さは、剣心を追い詰めました。
しかし、やがてその身体からは赤い蒸気が立ち上りはじめ、限界を突破した彼は全身から火を発し死亡します。高熱をはらんでいた身体がさらに高い熱を発し、遂には自然発火したのです。
剣心や仲間たちが必殺技で次々と攻撃しても、難なくかわし、あるいは受けて持ちこたえ、倒れても立ち上がって高笑いさえする志々雄は、間違いなく『るろうに剣心』最強の敵役です。
目標とする「自身が支配する、どこよりも強い国・日本」は実現できないままでこの世の者ではなくなりましたが、志々雄は剣心に決して負けてはいませんでした。
『るろうに剣心』には数多の敵役が登場しましたが、その中で志々雄は唯一「剣心が勝てなかった」敵役です。「京都編」の結末も、言わば彼の「勝ち逃げ」のようなもの。その意味でも志々雄真実は「最強の敵」なのです。
本作の主人公・緋村剣心について紹介した<『るろうに剣心』緋村剣心に関する6つの事実と考察!人気根強い剣士の実像>の記事もおすすめです。
プロフィールに「好きな言葉は弱肉強食」とあるように、幕末に維新派の1人として働いていた頃から、志々雄はこの言葉を信条としていました。
また、維新派の裏切りに遭い、次のような思想に行きつきます。
人の本性は修羅 そしてこの現世(うつしよ)こそ地獄
修羅だけが生きる資格を有す強国 これこそ地獄にふさわしい
(『るろうに剣心』11巻より引用)
これを原理に「軟弱な明治政府」を倒し、西欧列強にも対抗できる強い国をつくるという「正義」を行おうというのです。
志々雄は目的のために村ひとつを壊滅させたり、楯となった味方ごしに剣で相手を貫くなどを平気でやってしまう、「極悪」の言葉に違わぬ人物です。圧倒的な強さを示し、強さによって配下を服従させる恐怖政治的支配体制を敷きました。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 1996-06-04
その一方、一派の者たちの忠誠心はかなり強く、離脱する者や反旗を翻す者がいない様子です。たとえば、四乃森蒼紫が東京から京都へ発つ前に出会った志々雄の使い・阿武隈四入道は、蒼紫が口にした志々雄への暴言を聞き咎めて「志々雄様を愚弄する者は生かしてはおかん!!」(『るろうに剣心』8巻より引用)と憤りを見せています。
自分たちに対する無礼よりも志々雄への愚弄に腹を立てるところを見ると、四入道たちは彼に対して、恐怖だけでなく忠誠心や敬意といったものも抱いているようです。これは四入道に限らず、組織の末端の者たちまでが志々雄の言葉に沸き、その名を高らかに声を合わせて叫ぶほどです。
「弱肉強食」をこの世の真実として唱え、弱い者を嫌う志々雄ですが、人一倍の情も持ち合わせていて、やさしげな一面を見せることも。幕末に出会ったまだ幼かった瀬田宗次郎を自ら引き取って育てたり、弱者であっても見どころがあると認められる者は厚く遇したり、悪という一面だけでない魅力があります。
所詮この世は弱肉強食 強ければ生き 弱ければ死ぬ
(『るろうに剣心』16巻より引用)
これがこの世の真実であり、「自然の摂理」であると志々雄は言います。強者は弱者を糧として生きる責務があり、最も強い者が頂上に立つ強者必勝の社会が当然であるとしているようです。
彼の愛刀「無限刃」も、斬った人間の脂が染みつくことで「秘剣」と呼ばれる必殺技を可能にしており、それは志々雄が彼よりも弱い者を糧に強くなったことを表しているようです。
「弱肉強食」とは、「強い者が弱い者の肉を食らう」ということ。これに則って幕末から明治までを生きた志々雄は、最後の決戦である剣心との戦いの際でもこれを自ら実践してみせました。
弱肉強食によって成長した無限刃から秘剣を繰り出した後、剣心の龍翔閃をかわし、そのまま大きく口を開いたかと思うと、剣心の肩口に食らいついたのです。
剣心の左肩に大きく噛みついた志々雄は、そのまま肩の肉を食いちぎってしまいました。これに驚愕した読者も多かったことでしょう。咀嚼して飲み込むまではしませんでしたが、志々雄は「弱肉強食」を思想のうえだけでなく、文字どおり実践したという徹底した強者だったのです。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 1997-07-04
志々雄真実は幕末に緋村剣心と同じ立場で剣を振るい、その腕も同格と謳われていました。そこに、剣心の逆刃刀をつくった刀工・新井赤空が生み出した、逆刃刀の兄弟ともいえる最終型殺人奇剣「無限刃」を手に入れ、志々雄は「秘剣」と称する技を身につけます。
無限刃とは、本来なめらかであるべき刃の部分に微細な敢えて刃こぼれをつくり、のこぎり状にすることで殺傷能力を高めた刀剣です。
刃こぼれがあると、刀は切れ味が悪くなります。しかしその分、その刃でつけられた傷も治癒しづらいものとなり、たとえ生命をとりとめても長く苦しまなければならないという、通常の刀剣よりも性質が極悪な刀剣です。
極悪人の志々雄が極悪な刀剣・無限刃を振るって繰り出す極悪な秘剣は3種あります。ここではそれらをひとつずつご紹介しましょう。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 1997-05-01
壱の秘剣は「ほむらだま」と読みます。無限刃ののこぎり状の刃には、過去に斬った大勢の人間の脂が染みついています。この脂が、刀身を鞘から素早く抜くと摩擦熱で燃え上がり、炎(焔)となって斬りつけた相手を襲うのです。
「斬られる」と同時に「焼かれる」という、一撃で2つのダメージを食らってしまう、対戦相手にとっては大変厄介な秘剣です。
弐の秘剣は「ぐれんかいな」。志々雄が着けている手甲の表面には火薬が仕込まれています。手甲を着けた手で相手を掴み上げ、壱の秘剣・焔霊によって火薬に点火し、爆発させる技です。
焔霊があってこそ使える技であり、それが「弐の秘剣」である所以です。まともに食らった剣心が意識を失って倒れるほどの威力でした。
3つめの秘剣は「終(つい)の秘剣」と呼ばれる「火産霊神」(カグヅチ)です。カグヅチとは日本神話の火の神のこと。
鍔元から切っ先に至るまでの刀身全体を発火させ、巨大な竜巻状の炎をまとった無限刃で斬りつけると同時に相手を燃やし尽くそうという技です。
志々雄は剣客であり、剣の腕は剣心にも劣りません。しかし、彼の強さはそれだけではないのです。
最終決戦の折り、「大灼熱の間」でまずは剣心と剣を交えますが、壱の秘剣・焔霊、「弱肉強食」の噛みつき、弐の秘剣・紅蓮腕と続けざまに大技を見舞い、剣心を気絶させてしまいます。
そこに乱入した斉藤一が志々雄の頭部に牙突を直撃させます。しかし彼は、頭に被っていた鉢金越しとはいえそれをまともに食らいながら、さらに続いた牙突零式をかわしました。その上で至近距離から四本貫手と紅蓮腕を見舞い、斉藤を倒します。
その後、間髪入れずに相楽左之助が「二重の極み」で顔面を直撃するも、志々雄はこれを耐えきります。何という打たれ強さでしょう。そればかりか左之助を拳で殴り返し、吹っ飛ばしてしまいます。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 1997-10-03
殺人機械のような戦い振りと圧倒的な強さ。「大灼熱の間」に辿りつくまでに戦い、傷ついているとはいえ、剣心・斎藤・左之助はいずれも間違いなく並外れた強者です。その彼らと続けざまに戦い、自身はほぼ無傷のまま3人とも倒してしまったのです。
あまつさえ哄笑してみせる志々雄におののいて、十本刀の1人・佐渡島方治が内心に言い募ります。
強し!!!!
強し強し強し強し強し強し
強し強し強し強し強し強し
強し強し強し強し強し強し
強し強し強し強し強し強し
強し強し強し強し強し強し!!
(『るろうに剣心』17巻より引用)
あまりの強さに「強し」と31回も繰り返しています。強さを説明する余裕も奪われるほどに感嘆し、胸にこみ上げる言葉を繰り返したのでしょう。
「国盗りは志々雄様一人居れば不可能ではない!!」と確信するほどの感動が方治に押し寄せたのでした。
剣心は、師匠の比古清十郎から奥義の伝授を受けた際、ひとつの真実に辿りつきます。それは「生きようとする意志は何よりも強い」ということです。
己の生命をないがしろにしては何も守ることはできないし、真の強さにはつながらない。生きようとする意志は即ち決して負けないという絶対の決意でもあります。それがあってこそ勝利を獲得することができるのです。
志々雄との対決最終局面で、既に満身創痍で限界を越えた剣心は、改めてこの真実を口にします。
死ねない! まだ死ぬ訳にはいかない!
俺にはまだ俺の帰りを待ってる人がいるんだ!!
生きる意志は何より……何よりも強い!!
(『るろうに剣心』17巻より引用)
そう口にすることで己を鼓舞する剣心に対し、志々雄は「違う」とすぐさま否定しました。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 1997-10-03
何より強いのはこの俺!!
所詮この世は弱肉強食
強ければ生き弱ければ死ぬ!!
生きるべき者はこの俺だ!!
(『るろうに剣心』巻之十七から引用)
この魂の叫びともいえセリフの直後、志々雄は限界を突破します。あり得ない体温がますます上昇し、赤い蒸気を発しはじめた身体が自然発火してしまうのです。全身を炎にまかれ、死を迎えます。
何よりも強いのは自分自身である、と彼は断言しました。それは生きる意志そのもの。
戦いを勝ち抜き、日本という国を支配し、列強に対抗しうる国に育てる。それは絶対の意志で、そのための気力に満ち満ちていたことが感じられます。志々雄の鬼神のような強さは、誰よりも純粋に強烈に、生き抜こうとしていたからではないでしょうか。
腕力があり、打たれ強さも備え、剣を持たずとも並みの者なら蹴散らせる強さが志々雄にはあります。加えて己の強さに対する絶対の自信がそれを後押しします。前項で紹介したセリフで「何より強いのはこの俺!!」と断言していますが、まさにそのとおりだったのです。
冷酷非道の極悪人にして人智を越えた強さを持つ彼は、少年漫画の敵役としてこれ以上ないほどの優れたキャラクターです。
『週刊少年ジャンプ』史上、いえ、日本の少年漫画史上に名を残す名敵役と言えましょう。ぜひ作品でその強さをご覧になってみてください。
- 著者
- 黒碕 薫
- 出版日
- 2014-10-03