大人が読んでも面白い歴史漫画!綺麗な絵も魅力のおすすめ6作品

更新:2021.12.14

「大人が読むものではない」と言う人も多い漫画。でも、漫画にも傑作良作はたくさんあります。さらに歴史や時代を扱った重厚なものもたくさんあるのです。大人が読んでこそ面白い6つの作品をご紹介します。

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でっかいことを目指した、粋な悪人がふたり『ふたがしら』

小学館より発売されているオノ・ナツメの人気漫画。この物語は、ふたりの主人公、弁蔵と宗次がふたりで悪党一味を立ち上げ、「でっかいこと」を成し遂げるためにタッグを組んでのし上がっていくものです。

著者
オノ ナツメ
出版日
2011-12-27

リーダーがふたりいるという難しい体制であり、対称的な性格で静と動とも言えるデコボココンビのふたり。そんな彼らがぶつかり合いながらもお互いの価値を認め合い、大きな目標のため江戸と大阪を動き回ります。

オノ・ナツメは特徴的な絵を描く漫画家で、一筆書きで書かれた字のような流れる線と味わいのある絵で読者を魅了します。江戸の、町民が元気な時代の「粋」が絵によって表され、会話やキャラクターでもその活気を感じられる作品となっています。

上述の通り、弁蔵と宗次はまったく違う性格をしています。そのふたりが「ふたがしら」となって組織を作り、「でっかいこと」を行って成り上がっていくさまは痛快であり、同時に応援したくもなります。まったく違うふたりなのに主人公両方に「粋」を感じるのは、作者の力量によるもの。どちらにもそれぞれの事情があり、感情移入しやすいキャラクターのつくりこみが感じられます。

この作品は松山ケンイチと早乙女太一を主演として映像化もされています。DVDも発売されていますので、『ふたがしら』の世界にどっぷりハマりたい方は見てみると良いでしょう。

我かならずやこの国を動かさん『梅鴬撩乱』

「おもしろき こともなき世を おもしろく」。幕末の快男児として有名な高杉晋作と、そのひいきの遊女・おうの。ふたりと長州の人物たちが巻き起こす幕末物語が、会田薫による『梅鴬撩乱』です。

特筆すべきは、作者である会田薫の画力。髪の一本一本、服のシワに至るまで描き込まれた見事な絵は、作り込まれた世界観の雰囲気を底上げしています。登場人物たちの躍動感、そして音楽に並々ならぬ才能を見せるおうのの演奏のシーンなど、演出も見事です。

著者
会田 薫
出版日
2011-08-05

1巻は高杉晋作とおうのの関係を中心に話が進みますが、2巻以降は倒幕へ向かう長州の面々が主に活躍し始めます。そして物語はどんどん時代と歴史のうねりに飲まれ始め、晋作とおうの、戦う男とそれに寄り添う女がどうなるのか、先がまったく見えない大きな流れの中で物語は進んでいきます。

作者はおうのと晋作、そしておうのの友人である琴乃だけを描きたかったわけではなく、幕末もので扱われることが少ない赤根武人をはじめとする長州の人々をも描くことで「ロック」である幕末の世そのものを描きたいのではないかと思います。

幕末は歴史好きの間で人気のある時代です。それはやはり、信念を持った人間たちのぶつかり合いと、止まることのない時代に翻弄された人間の悲哀が混じりあっているからです。その大河をあますところなく描いている作品です。高杉晋作とおうのから見た幕末は、私達の知っている幕末と少し違っているのかもしれません。彼らの目を通した幕末期をのぞいてみませんか。

暦は約束だった――天と地を見つめ続けた男の物語『天地明察』

冲方丁の大ヒット作が漫画化されているのをご存知でしょうか。タイトルは同じで、作画は槇えびし。江戸時代に日本独自の暦を作成した渋川春海の生涯を描いた傑作小説のコミック版です。

著者
槇 えびし
出版日
2011-09-23

幕府の碁の棋士だった渋川春海(安井算哲)は、趣味の算術(数学)と天文観測に没頭する日々。本業の碁を放り出して算術に夢中になる春海はこの時自分が、誤差のあまりにも大きかった中国製の暦を捨て、日本独自の暦を作ることになるとは思っていませんでした。算術の達人と真剣勝負をする。その程度が春海の喜びだったのですが……。

この漫画の特徴は、まず原作に忠実で、アレンジなどを一切しておらず、同時に原作の魅力をきちんと伝えていることです。好き嫌いの少ないであろう絵で紡がれる物語は、時にドラマチックで、特に物語冒頭ではファンタジーに似た印象を持つかもしれません。しかしこの漫画は決してファンタジーではありません。なぜなら算術と天文学と言うとてもリアリスティックな要素が溢れているからです。かと言って小難しい理論を読者にわからないように展開するというようなこともしておらず、とても読みやすい作品となっています。

「天測を開始せよ」人間が天に触れる方法は、天と地を結ぶ見えない道を知ることだ。苦しみ、もがきながら新しいものを作った人々への畏敬が、この漫画には溢れています。どの時代も、新しいものを作る人間は苦悩に満ち溢れた道を行きます。その中で、彼らがどのように考えどのように生きるのか。主人公を通して、この作品は示しています。

生の始めに暗く、死の終わりに冥し『阿・吽』

時は奈良時代の末から平安時代、日本仏教は転換点を迎えていました。権力を持った仏教勢力と、驚くほど簡単に死んでいく庶民たち。貴族だけが贅沢をする世の中で、日本仏教を変えようと立ち上がった人々がいました。それが後に天台宗を創る最澄と、真言宗を創る空海です。

著者
おかざき 真里
出版日
2014-10-10

物語は織田信長の比叡山焼き討ちから始まり、時代を遡る形でまず最澄(幼名は広野)、そして3巻からは空海(幼名は真魚)の物語が展開していきます。自分の無力さを「最低以下」とまで称し、正しさが世を救わないことに絶望する最澄と、「追うべきものを追う」としてけもののようになってまで修行をしたがる空海。対称的なふたりが向かうのは、唐です。仏教と文化の先進国である唐で、正反対のふたりが見つけるものとは何なのでしょうか。

『サプリ』など主に女性の生き方を描いた漫画作品が多かったおかざき真里が、日本の歴史漫画に挑戦した作品です。宗教という難しい題材を扱っている本作は、精神的な工程を経るシーンが非常に多いです。さらに人が死ぬシーンが連続するなど、『サプリ』時代には考えられなかったおかざき真里の変貌ぶりに驚く人も多いのではないかと思います。

死がとても近く、政治不安も募る世の中で、精神的なものを追い求めるふたりがどんな「答え」を出すのか、その答えはどう言う波紋を世の中に呼ぶのか。物語は未だ完結しておらず、「答え」は見出されていません。言わば人の生きる道を追い求めるふたりの苦悩と精神が、読者を引きつける大きな要因となっています。

「お前がわしを抱くのではない。わしがお前を抱くのだ」『大奥』

江戸時代、男性だけが感染する「赤面疱瘡」と呼ばれる謎の奇病が蔓延した日本では、男性の人口が激減し、女性が社会の担い手となる女性社会となっていました。それは日本を治める徳川将軍家でも同じ。将軍は女、そしてその将軍との間に子供を作る大奥には、美男が3000人。

著者
よしなが ふみ
出版日
2005-09-29

一見奇抜な題材である「男女逆転大奥」を描いているのは、実力派の漫画家であるよしながふみです。緻密な伏線と物語進行を得意とするよしながふみによって、狭い世界である大奥での複雑な人間関係がときほぐされていきます。


 

物語は八代将軍吉宗編から始まり、時代を遡って家光編、家綱編、綱吉編と進んでいきますが、将軍たちに求められるのは、とにかく子供を作ること。男性が少ない社会で好きなだけ男性を求める事が出来る「最高の贅沢」を行う将軍たちには、それぞれ苦しみがあり、屈託があり、悲しみがあります。例えば五代将軍綱吉は、子供を作ることを求められるあまり、既に初老に達しているにも関わらず男を抱きます。そんな将軍たちの生き様と、子供を作るために求められる男たちの絡まりあった運命が大きな見どころです。



 

男女が逆転した世界は、現在の私達から見れば異様な世界です。しかしそこで繰り広げられる男と女の愛憎は現代と変わるものではありません。あるいはこの漫画を読んで、男とは、女とは、ということに考えが及ぶかもしれません。


『大奥』については<よしながふみ作の漫画『大奥』を最新16巻まで徹底考察!時代別の魅力とは?>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。

踏まれ続けた花は、最後に大輪の花弁を見せることが出来るのか『女王の花』

最後にご紹介するのは、小学館漫画賞(少女向け部門)を受賞した和泉かねよしの作品です。中華風の架空の国で繰り広げられる王宮物語、『女王の花』です。

紀元前。互いに争い、覇を競った亜国、土国、黄国、會国。亜国の姫として生まれたにも関わらず不遇の少女時代を送っている亜姫は、胡人(西域の外国人)である従僕、薄星と絆を通わせます。しかし亜姫には、残酷な運命が待っていました。人質として黄国へ送られることになったのです。

著者
和泉 かねよし
出版日
2008-08-26

物語自体は少女の成長物語なのですが、権謀術数が張り巡らされる世界観で、かなりシビアな話が進んでいきます。しかしそれを「重すぎる」とは思わせず、軽妙なギャグシーンなどを挟んでバランスを取っていく手法は見事です。冷遇を受けて育ち、やっと心の慰めである薄星を得てもなお辛い運命と戦ねばならず、しかもその運命から逃げずに戦い続ける主人公の姿は、胸を打つものがあります。そして薄星との強い強いつながりには、涙しない人はいないのではないでしょうか。


 

物語がそうであるように、元になっている中国の王朝の後宮というものは過酷で熾烈な争いが繰り広げられていました。誰が皇太子(跡継ぎ)になるか、誰が後宮で最も権力を持つか、それが至上命題である世界です。そしてそれが政治にも影響してくるから厄介です。


 

主人公の亜姫は、自身に絡みついた運命を切り開くことが出来るのでしょうか。続きが楽しみな作品です。

『女王の花』については<『女王の花』5分でわかる魅力!一国を守り生き抜いた王女の最後の願いとは【ネタバレあり】>で詳しく紹介しています。

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