裁判所において、書記官や裁判官の補佐をおこなう裁判所事務官。毎日、煩雑な手続きがおこなわれている裁判所では、欠かせない存在です。 そんな裁判所事務官になるのに資格は不要ですが、裁判所職員の採用試験に合格する必要があります。試験はかなり難易度が高いですが、合格することができれば国家公務員として高い年収を得て、長く安定して働き続けることができます。 今回は、裁判所事務官の仕事について紹介します。裁判所事務官の仕事について知れる書籍や、採用試験の勉強に使える書籍などもあわせて紹介するので参考にしてみてください。
裁判所事務官とは裁判所で働いている職員のことです。主に裁判事務に従事し、裁判所書記官のの補佐役としての役目を担っています。具体的には、下記のような業務を日々おこなっています。
新しく採用された場合、裁判部門に配置されます。裁判所事務官として一定期間勤務したのち、裁判所職員総合研究所入所試験に合格し、研修を受けると裁判所書記官になることができます。
裁判所事務官の給料は次の通りです。
その他、ボーナスや通勤手当、住居手当など諸手当が複数あります。そこから換算するに初年度の年収は、300万〜400万円台となると考えられます。公務員は年齢とともに月給があがるので、長く勤務すれば400万円以上の年収が見込めるでしょう。
高卒の採用枠があるので、早い段階から法律に関わる仕事がしたい人は、裁判所事務官を目指すのはどうでしょうか。
裁判所事務官になるには、裁判所職員採用試験に合格する必要があります。採用試験には総合職試験(大卒程度区分・院卒者区分)と、一般職試験(大卒区分・高卒区分)の2種類があります。
総合職、一般職ではそれぞれの区分によって受験資格が異なります。
◾️総合職試験(大卒程度区分)
大卒程度区分は、21歳以上30歳未満の方の受験が可能です。
◾️総合職試験(院卒者区分)
院卒者区分は、30歳未満で大学院修了および修了見込みの方が受験できます。
21歳以上30歳未満の方が受験可能です。21歳未満で、大学卒業見込み、または短大卒業見込みの方も受験資格を得ることができます。
◾️一般職試験(高卒区分)
高卒区分の受験資格には、20歳以上40歳未満と最も広い年齢幅が設けられています。
また高卒見込みおよび、高校卒業後2年以内の方にも受験資格が認められています。
裁判所に勤務する職員として法律の知識を有している必要があり、また応募者数も多いため、裁判所事務官の採用試験は難易度が高いと言われています。
大卒程度区分と院卒者区分では試験内容にほとんど違いはありません。試験は1次試験、2次試験、3次試験とわかれており、公務員としての基礎的な知識から、裁判所事務官としての専門的な知識までを問われます。
<1次試験>
・基礎能力試験:知能分野、知識分野
・専門試験:憲法、民法、選択(刑法または経済理論)
<2次試験>
・論文試験:文章による表現力、理解力についての筆記試験
・専門試験:憲法、民法、刑法、民事訴訟法または刑事訴訟法
・政策論文試験:組織運営上の課題を理解し、解決策を企画立案する能力を問う筆記試験
・人物試験:個別面接
<3次試験>
・人物試験:集団討論および個別面接
一般職の採用試験には、大卒程度区分と高卒区分の2種類があります。区分によって試験内容は大きく変わります。
◾️大卒程度区分
<1次試験>
・基礎能力試験:知能分野、知識分野
・専門試験:憲法、民法、刑法、民事訴訟法または刑事訴訟法
<2次試験>
・論文試験:文章による表現力、理解力についての筆記試験
・専門試験:裁判所事務官に必要な専門的知識などについての筆記試験
・人物試験:個別面接
◾️高卒区分
<1次試験>
・基礎能力試験:知能分野、知識分野
・作文試験:文章による表現力、理解力についての筆記試験
<2次試験>
・人物試験:個別面接
難易度の高い試験ですから倍率は高くなっています。
◾️総合職試験の倍率
平成27年:59.3倍
平成28年:17.7倍
平成29年:20.8倍
平成30年:20.2倍
総合職の試験は、平成28年以前はかなり高く、平成24年には179.9倍を記録しています。そこから少しずつ倍率は落ち着き、令和2年現在では20倍前後となっています。
◾️一般職試験の倍率
平成27年:11.5倍
平成28年:8.4倍
平成29年:8.8倍
平成30年:8.7倍
一般職の試験は総合職の試験に比べると倍率は低くなっています。
しかし総合職同様、平成28年以前の倍率は10倍〜12倍と高くなっていました。令和2年現在では約8倍と数値は落ち着いています。2017年あたりから公務員への志望者が減っていることで、全体的な倍率も下がっているのではと考えられています。
倍率が高いからと諦めていた方にとって、公務員は今後狙い目の職業となるのかもしれません。
裁判所事務官として長く勤務することで、2つのキャリアアップがのぞめます。
ひとつは「裁判所書記官」になることです。裁判所書記官になるには、裁判所事務官として一定期間勤務した後、内部試験を受ける必要があります。合格後は約1〜2年の研修を受け、終了後にはじめて裁判所書記官として任用されることになります。
裁判所書記官は、訴訟手続きの専門家としてあらゆる権限を持って職務をおこなっています。法定立ち合いや調書作成のほか、裁判員に対しての適切な対応をおこなったりと、実は裁判所は裁判所書記官なしでは存在しえない機関なのです。
裁判所事務官に比べ雑務が少なく、責任感とやりがいのある仕事ばかりです。事務官の採用試験に合格した方のなかには、もともと書記官になることを目指している方も多いのです。
もうひとつは「司法書士」資格の取得です。
裁判所事務官として10年以上の実務経験を積み、法務大臣の認定を受ければ、試験を受験することなく司法書士の資格を取得することができます。
しかしこの制度は事務官、もしくは書記官として勤めあげた方の退職後のキャリアとして用意されているとの声も多いようです。実際に司法書士の資格を取得したいために裁判所事務官の採用試験を通るのはごく稀であり、狭き門ととらえておくのがよいでしょう。
5分でわかる司法書士!司法書士の仕事や年収・資格について解説
→https://honciergejp/articles/shelf_story/9156
公務員で安定した収入がある裁判所事務官。転職事情はどうなっているのでしょうか。まずは裁判所事務官からの転職事情をチェックしていきましょう。
◾️裁判所事務官からの転職
安定した職業で性別問わず休みが取りやすいためか、長く勤めている方が多いのが特徴です。
そんななか裁判所事務官から転職する方は、同じ公務員ではなく民間企業を転職先に選ぶことが多く見受けられました。また一部の方ですが、さらに社会に貢献する仕事を探して起業することもあるようです。
◾️他業種から裁判所事務官への転職
裁判所事務官への転職を考えている方は、民間企業に勤務している方、銀行に勤めている方、国家公務員として働いている方などさまざまです。
裁判所事務官の採用試験の受験資格のひとつに年齢制限があるので、転職を考えるなら早い段階の方が有利なのは間違いないでしょう。また民法や刑法など専門的な知識を勉強する必要があるため、試験勉強は短くても半年単位でおこなう必要があると考えておいてもいいかもしれません。
収入の面では、裁判所事務官の収入は俸給表によって定められているため、初年度は年収がさがると考えておくとよいでしょう。
- 著者
- ["岡口 基一", "中村 真"]
- 出版日
裁判所事務官は高等裁判所の管轄内での裁判所に勤務します。
なかなか知ることのできない裁判所内の実態とはどんなものなのでしょうか。本書はイラストで人気の中村真弁護士が、岡口基一裁判官におこなったインタビューがまとめられています。
民事訴訟における裁判官の考え方や、弁護士との関係性だけでなく、裁判所内の知られざる実態にも丁寧に触れられています。
裁判官や裁判所事務官を目指す方だけでなく、一般の方、民事裁判をひかえている方など、幅広い方にとって面白く読める内容になっているといえるでしょう。
- 著者
- 山本 正名
- 出版日
この本の著者には、裁判所書記官と裁判所職員総合研究所の教官をつとめた経験があります。そんな経験を踏まえて、実務の世界で役立つ発想や思考プロセスを取り上げているのが本書です。
裁判所書記官としての経験がメインテーマとなっています。しかし裁判所書記官になるには、裁判所事務官を一定期間経験しないといけないので、裁判所事務官と共通する部分があると思います。
2019年に発売されているため時代に沿ったテーマも組み込まれています。たとえば裁判手続きなどのIT化は、無視できない内容でしょう。裁判所事務官を目指している方も、また裁判所書記官を目指している方にもおすすめの1冊となっています。
- 著者
- 法学書院編集部
- 出版日
第一線で活躍する裁判所事務官・書記官の就業記です。実際に裁判所事務官・書記官として働いている人が採用にいたるまでの体験記を語っています。
裁判所事務官・書記官の仕事の中身、裁判所が求めている人材を知ることができるので、国家公務員志望で、裁判所職員を考えている人におすすめしたい1冊です。
実際に働くまではイメージしづらい、裁判所職員の様子なども知ることができるでしょう。裁判所事務官・書記官として自分はどんな風に働きたいのか、具体的なイメージをするのにも一役買ってくれるはずです。
今回は裁判所事務官について紹介しました。法律の知識を生かした仕事がしたいという人にとっておすすめの仕事かもしれません。また、高卒での採用枠もあるので、大学への進学は考えていないけれど法律に関わる仕事がしたい考えている高校生にとっても、ひとつの将来の選択肢だといえるでしょう。
安定した収入と、ライフワークバランスの取りやすい仕事の仕方で、定年まで勤めあげる人は少なくありません。また裁判所事務官から書記官へキャリアアップすれば、より大きな責任感が生まれ、やりがいも感じられやすいでしょう。
採用試験の合格は決して簡単ではありませんが、法律関係の仕事に就きたいと考えている方はぜひチャレンジしてみてくださいね。