薬物に関するニュースを耳にすることが多くなり、麻薬取締官に興味がある方は多いでしょう。麻薬取締官は、通称「麻取(マトリ)」とも呼ばれる国家公務員で、その存在を知っている方は多いものの、仕事内容について知る方は少ないのが現状です。 従事する上である条件を満たした方だけが、採用試験を受けることができます。また国家公務員のため給料は安定しており、年収は経験や勤続年数によってあがっていきます。 今回はそんな麻薬取締官の仕事について解説します。就職や転職を考えている方はぜひ参考にしてみてくださいね。
麻薬取締官はその名の通り麻薬取締をおこなう国家公務員です。
捜査をおこない容疑者を逮捕することもあるので警察官と間違われることもあります。しかし麻薬取締官は、特定の法律違反について刑事訴訟法に基づく犯罪捜査をおこなう権限が特別に与えられた「特別司法警察職員」に該当するため、逮捕や送検などをおこなうことができるのです。
具体的には、法律で禁じられている薬物の売買や、不正使用、それにともなう犯罪を取り締まります。ニュースや特集番組などで取り上げられる麻薬取締官の仕事は一部で、捜査以外には正規流通麻薬等の監督、指導や、啓発活動、相談業務などもおこなっています。
薬物乱用のない社会を実現するため、薬物の不正利用やともなう薬物犯罪に対し日々アンテナを張り、責務を果たしているのが麻薬取締官なのです。
厚生労働省地方構成局麻薬取締部には「総務」「捜査」「鑑定」の3部門に分かれています。
◾️総務
麻薬取締部において、行政的な業務をおこなっているのが調査総務課です。人事活動、許認可、会計、庶務などの幅広い仕事をおこなっています。また製薬会社や病院などへの立入検査をおこない、麻薬が適切に流通されているかの確認も、総務の仕事のひとつです。
◾️捜査
薬物乱用者や、不正横流し、薬物売買をした者を逮捕するため、日々地道な業務をおこなっているのが捜査課です。先輩や上司とともに内偵捜査をおこない、捜査報告書を作成し、薬物犯罪をゼロにするために奔走しています。
捜査以外にも、押収した証拠品の写真撮影や、捜査課に配属されてきた後輩育成なども重要な業務のひとつです。
◾️鑑定
鑑定課では、押収した薬物や、逮捕者の尿・髪を分析する化学鑑定試験や、薬物使用者を特定するためのDNA型鑑定試験などをおこなっています。押収した薬物が違法な薬物かどうか、また逮捕者に薬物使用の形跡があるかどうかを鑑定するなど、重要な責務を担っています。
多様化する薬物犯罪に合わせてより正確な鑑定試験をおこなわなければならないため、専門性の高い知識が必要とされます。
◾️勤務場所
地方厚生(支)局は、全国に7局1支局あるため、どこに配属されるかで勤務場所は異なります。
また原則、全国転勤が義務付けられています。止むを得ない場合には考慮されることもあるようですが、転勤があることは覚えておいたほうがよいでしょう。
◾️勤務時間
原則として1日7時間45分と定められていますが、配属される課や日々の業務などによって変動します。
たとえば総務課であれば9時出勤、21時退社などもありますし、捜査課は9時出勤で18時半には1日の業務が終わりますが、そこから報告書の作成をおこなうこともあります。
比較的、固定化された勤務時間になっているのが鑑定課です。8時半に出勤し、17時15分には業務が終わることもあるようです。
◾️休日や有給休暇などについて
基本的には土・日曜日および祝日などはおやすみとしています。もし休日出勤があった場合も、振替休日の制度があります。
また年間20日の年次休暇のほか、夏季休暇などの特別休暇制度も設けられています。
国家公務員として、行政職俸給表(一)の俸給に調整額が付与された金額が支給されることとなっています。
「平成28年国家公務員給与等実態調査の結果」によれば大学卒・経験年数1年未満の平均給与月額は約18万円となっています。1年に換算すると約220万円ほどになります。この額に期末手当や各種手当が上乗せされた金額が、1年目の年収と考えてよいでしょう。
捜査課に配属されれば、長時間の内偵や時に犯罪者との接触、逮捕など危険をともなうケースも数多くあります。そういう業務内容を考慮してか、一般の公務員よりも調整手当や年収は少し優遇されています。
平均給与額は約41万円。1年に換算すると約490万円となり、この額に期末手当(4.2カ月分)が加わり、平均年収は約660万円ほどになります。この額は国家公務員の平均年収にちょうど該当する金額となっています。
麻薬取締官に必要な資格はありません。しかし仕事柄、外に出歩く機会は多いので普通自動車運転免許は取得しておいて損はないでしょう。
国家公務員ですので採用試験を受ける必要があります。麻薬取締官は国家公務員一般職の枠で採用試験がおこわれ、採用試験に合格した方が各種研修をおこなった後、晴れて麻薬取締官として任命されます。
下記2つのうち、どちらかの条件を満たしていれば受験資格が得られます。
基本的に大卒者のみ受験が可能で、薬学や法学の知識を持っていることが必須となります。専門性の高い仕事のため、法学部や薬学部から多く採用される傾向が見られます。
薬剤師国家試験の内容については、下記のページをご確認ください。
5分でわかる薬剤師!資格の取得方法や収入、働き方などを詳しく解説!
https://honciergejp/articles/shelf_story/9105
採用試験は筆記試験などはなく面接のみとなります。その面接で、麻薬取締官という仕事への熱意や適性などを判断し、採用されるという流れです。
試験はそれぞれ全国に7局1支局でおこなわれます。採用面接申込受付期間やその実施日は、実施場所によって異なるため、自分が受けたい局の日程を確認しておくことが大切です。
場所によっては実施日が1週間近く設けられているところもありますので、人によっては併願を検討するのもよいでしょう。
麻薬取締官はもともとの人員が少なく、全国合わせても約300名程度です。そのため採用予定人数もかなり少数で設定されており、倍率は毎年10倍以上と言われています。参考に、令和3年度の採用予定人数を見てみましょう。
全国合わせて採用枠は25名。かなり狭き門であることが分かります。また過去3年分の採用実績は下記の通りになっています。
2019年:19名(男性9名、女性10名)
2018年:10名(男性8名、女性2名)
2017年:18名(男性10名、女性8名)
過去の実績を見ても採用人数は少数であることが分かります。採用枠は20名以上となっていますが、ぴったりの人数が採用されるのではなく、予定枠以下の人数で採用されると考えておいた方がよいでしょう。
参照:募集要項
麻薬取締官として採用された後はどのようなキャリアを積むことができるのでしょうか。まずはキャリアステップから見ていきましょう。
これはあくまでも一例ですが、1年目から9年目までは多くの方が係員クラスで麻薬取締官として従事します。その間、必要な研修がおこなわれ、捜査技術の習得や基礎となる法的知識の習得をおこないながら、専門性を高めていくことができます。
麻薬取締官になるのはかなり狭き門です。薬学や法学の知識が必須となるため、国家公務員採用一般職試験を受験するよりも、薬剤師の資格保有者の採用が優先されることも多いです。
他職種から麻薬取締官への転職には2つのルートが考えられます。
◾️薬剤師からの転職
転職の可能性が最も高いのは、すでに薬剤師資格を保有しており、薬剤師として従事している方でしょう。麻薬取締官採用試験の受験資格には「29歳以下であること」が条件となっているので、早い段階での転職が求められます。
◾️国家公務員採用一般職試験を受ける
2つ目のルートは、国家公務員採用一般職試験を受け、国家公務員となることです。麻薬取締官採用試験の受験資格には、「「行政」または「電気・電子・情報」の第1次試験の合格者」が条件とされています。ですのでこれらの試験区分を選択し、受験しましょう。
国家公務員として採用された後、異動で麻薬取締官を希望し、希望が通れば麻薬取締官になることができるでしょう。
- 著者
- 瀬戸 晴海
- 出版日
テレビや映画などで麻薬取締官の仕事を見て興味を持ったらこの本がおすすめです。実際に経験した事例を明らかにしているので、麻薬取締官の仕事への興味を持つきっかけになると思います。
著者は麻薬取締官として約40年間、第一線で戦ってきた元麻薬取締部部長の瀬戸晴海氏。その姿をテレビ番組で観たことのある方は多いのではないでしょうか。
麻薬取締官の仕事内容は、その仕事の特性もあって明かされていることは多くありません。ですがこの本では、そうしたマトリの仕事が興味深い実例とともに書かれています。
ネットや宅急便を利用した薬物売買や、次々に現れる合成ドラッグなど、薬物に関するニュースは後を断ちません。薬物使用から生まれる薬物犯罪に、マトリはどう立ち向かっているのか。最前線で戦うマトリの仕事内容が分かる良書となっています。
- 著者
- 藤村 美千穂
- 出版日
麻薬取締官は男性のイメージが強い職業のひとつですが、過去の採用実績から分かるように、女性の麻薬取締官も多くいます。
麻薬取締官を目指す女性におすすめの小説がこちらの『マトリガール』です。主人公が薬物中毒の男性に襲われた経験から麻薬取締官を志し、ストーリーが展開していきます。
マトリの仕事内容がストーリーに絡めて詳細に描かれていたり、事件そのものよりは事件が起こってしまった背景や、事件の中心人物の人物描写だったり、物語に没頭できる要素が多く含まれています。
麻薬取締官を目指す方だけでなく、麻薬取締官がどんな仕事をしているのか興味がある方にもおすすめできる1冊です。
- 著者
- ["スチュアート・マクミラン", "松本 俊彦", "小原 圭司", "スチュアート・マクミラン", "松本 俊彦", "小原 圭司", "井口 萌娜"]
- 出版日
薬物の不正横流しや、薬物乱用者を取締り、時には逮捕までおこなうのが麻薬取締官の仕事です。しかしそれは、犯罪者だから逮捕する、逮捕できればそれで仕事は終わりということではありません。
なぜ薬物依存が起こってしまうのか。薬物依存から多くの人を救い、薬物使用ゼロの世界を実現するにはどうしたらいいのか。麻薬取締官として、薬物について考えたいことは多くあるはずです。
『本当の依存症の話をしよう』は、オーストラリアの新進気鋭の社会派漫画家が研究者ヘの取材をもとに依存症問題の本質に迫った漫画が収録されています。解説は、日本における依存症治療に造詣の深い専門家ふたり。
この本を読めば、ただ悪と考えられていた薬物依存者に対するイメージが一変するはずです。薬物依存の他にも、ギャンブル依存症、アルコール依存症、インターネット依存症などあらゆる依存症について記載されています。
シンプルで読みやすいので、依存症についてよく知らないという方や、興味のある方にもおすすめできる1冊です。
麻薬取締官、通称「マトリ」は、警察官以外で薬物に関係する犯罪をおこなった犯罪者を逮捕する権限を持つ、特別な国家公務員のひとつです。
薬物についての知識や、捜査や逮捕に必要な法学の知識など、専門的な知識を有していなければ務まりません。そのため就職・転職の難易度は高く、全国でも麻薬取締官は約300名ほどしかいません。
日本において「薬物使用ゼロ」を実現させるために日々奔走し、薬物の管理や指導など、幅広い業務をこなしているため、憧れを抱いている方も多いことでしょう。この記事を読んで麻薬取締官の仕事に興味がわいた方は、紹介している書籍もぜひ手にとってみてくださいね。