保護観察官という職業を耳にしたことのある方は多いはず。保護観察官は、刑期を終えた受刑者のその後をサポートするのが主な仕事です。資格は不要ですが、国家公務員の採用試験に合格しなければならず、難易度は高めと言われています。 国家公務員のため安定した年収と、長期で続けていける仕事内容が魅力です。社会人のなかにも就職・転職を考えたことのある方はいるのではないでしょうか。 今回は、受刑者の社会復帰を担う職業として保護観察官を紹介します。仕事内容や、矯正教育に関わる他の職種との違いなどを解説していきます。
犯罪を犯した人や非行のある少年を指導・監督するのが保護観察官という「社会内処遇」の専門家です。
法務省によれば、保護観察官は下記のような業務に従事するとされています。
地方更生保護委員会や保護観察所に勤務し、心理学、教育学、福祉および社会学などの更生保護に関する専門的知識に基づき、社会の中において、犯罪をした人や非行のある少年の再犯・再非行を防ぎ改善更生を図るための業務に従事します。
ニュースやドラマなどでよく見る保護観察官の姿と重なる部分は多いですよね。
保護観察官は指導・管理にあたって心理学、教育学、福祉および社会学の専門的知識を持ちながら、彼らの社会復帰を支援するという重要な役目を担っているのです。
保護観察官の採用試験に合格した後、務めることができるのは2種類の場所です。
▶︎地方更生保護委員会
地方更生保護委員会では、刑事施設や少年院からの仮釈放に必要な調査をおこなうほか、保護観察付執行猶予者の保護観察の仮解除などの事務を主におこないます。
▶︎保護観察所
保護観察所ではまた異なる業務に従事します。保護観察所では、家庭裁判所で保護観察所分を受けた者を対象に保護観察などを実施します。具体的には出所後の住居や就業先などの調整、犯罪予防活動などをおこない、非行を繰り返さないよう丁寧なケアをしていきます。
また保護観察官と似た職業として「刑務官」と「法務教官」があります。どちらも保護観察官同様、国家公務員職ですが、業務内容は異なります。
保護観察官にこだわらず矯正教育に関わる仕事がしたいと考えている方は、「5分で分かる刑務官の仕事」や「5分で分かる法務教官の仕事」についての記事も参考にしてみてくださいね。
どの職種が自分に向いているのかの比較ができるはずです。
保護観察官だけでなく、国家公務員・公務員の仕事は、人事院が定める「行政職俸給表(一)」という公務員給与規定に基づき、月額給与・年収が決められています。
「行政職俸給表(一)」が適用された保護観察官の初任給は、平成25度で20万3196円(地域手当を含む)となっています。これは大卒区分での採用、かつ東京特別区内に勤務する際の初任給となっています。また高卒の場合は約18万円と、大卒に比べて多少の差があります。
これを1年で計算すると約240万円。この額に約4.45カ月分の特別支給額を合わせると、年収は約330万円程度となります。
保護観察官など国家公務員の年収は、一定期間勤めればきちんと昇給する仕組みになっています。1年目では300万円台の年収となりますが、全体を合わせた平均年収は約650万円ほどと一般企業と比べて高水準となっています。
参照:法務省
保護観察官の1日の勤務時間は、原則として7時間45分です。しかし配属先によっては宿直勤務があり、その際は勤務の時間が異なるでしょう。
意外にも、異動は2・3年おきにあります。昇進するにつれて、異動する範囲が広がるため、よりさまざまな場所で、さまざまな人と関わりながら仕事をすることができます。異動や転勤は大変ですが、住居などのサポートは万全なため、安心して働けるのが特徴です。
保護観察官になるために必須の資格はありません。4種類の採用試験のうち、どれか1つに合格することで保護観察官への道が開けます。
このなかで一般的なルートは総合職試験と、法務省専門職員採用試験の2つです。一般職試験でも一応道は開けていますが、あまり積極的に採用はされていません。ですので確実に保護観察官になりたい方は、総合職もしくは法務省専門職員の採用試験を受けるのがよいでしょう。
今回は「法務省専門職員採用試験」について詳しく説明をしていきます。まず法務省専門職員には3つの区分があります。
非行少年や受刑者の更生をサポートする職種のため、高い専門性がなくては務まらないのが法務省専門職員の仕事の特徴です。保護観察官を目指す場合は、このうちの「保護観察区分」の採用試験を受験するのが最短ルートとなります。
法務省専門職員採用試験は、基本的には下記の受験資格に当てはまる者のみが受験することができます。また年齢制限もありますので、社会人になってから保護観察官を目指す場合は注意が必要です。
▶︎受験資格
▶︎試験地
第1次と第2次で試験地は異なります。
<第1次試験地>
札幌市、仙台市、東京都、名古屋市、大阪市、広島市、高松市、福岡市、那覇市
<第2次試験地>
札幌市、仙台市、さいたま市、名古屋市、大阪市、広島市、高松市、福岡市、那覇市
試験地はそれぞれ受験に便利な都市を選択することが可能です。
保護観察区分の試験内容は、法務教官と同様です。試験は1次と2次にわかれており、1次では高度な専門知識を問われます。
▶︎1次試験
専門択一の問題は、過去問を繰り返し解くことがポイントです。出題方式や頻出分野を知ることで高得点を狙えます。
▶︎2次試験
人物試験の面接は人事院がおこないます。そのため志望動機や職務に関しての知識を問うような質問はなく、人柄や対面能力などが見られます。
保護観察官区分の倍率は例年4〜6倍程度で推移しています。一例として2019年度の結果がこちらです。
全体の4分の1ほどしか合格していないことが分かりますよね。採用人数は毎年異なりますが、大体40〜70名ほどとなっています。
択一試験は過去問対策をきちんとやり、難しいと言われている記述問題も数をこなして慣れておくことで合格に近づけるはずです。
新卒で民間企業に就職してから国家公務員を目指す方は少なくありません。保護観察官も、学歴や年齢制限などはありますが、これらの受験資格を持っていれば採用試験を受験することは可能です。
また大手求人サイトが調べた、公務員の中途採用の求人数は伸びを見せています。安定した収入を得ることができ、社会情勢によって仕事がなくなる心配も少ないため、転職先として人気の職業となっているのです。
試験の難易度が高いことはもちろんですが、社会人が国家公務員に転職をするにあたり重要視したいのが「勉強時間の確保」です。
日中フルタイムで仕事をこなしながら国家公務員になるための勉強をするには、学習計画をきちんと立てておこなえるかどうかがポイントとなってくるでしょう。通勤時間や休日などを利用し、どれだけ効率よく勉強できるかに重きを置くようにするのがおすすめです。
またある程度の知識を独学で学んだ後、追い込みとしてスクールに通うのもひとつの選択肢です。
著者で法社会学者の河合幹雄氏は、法務省刑事施設視察委員会委員長だった頃に刑務所などの刑事施設を視察しました。この視察した経験を基にして、この本では普段は知ることのできない刑務所について詳しく解説しています。
序章から第5章まで、逮捕されてから収監されるまでのプロセス、刑務所内の生活、刑務所の問題点を解説しています。第4章では、知り合いが国家公務員・地方公務員・警察官にいても、知り合いに刑務官がいない理由が取り上げられています。
- 著者
- 河合 幹雄
- 出版日
この本は、刑務所に収監されるまでの過程や刑務所の中の話が中心となっています。刑務所の中の生活について普段は知ることができないので、興味を持っている人が多いでしょう。また受刑者の出所後の生活についても最終章で触れています。
刑務官と法務教官は、刑務所内での矯正教育を担当します。それに対して保護観察官は、受刑者が社会にでた後の環境作りや、その後のケアなどをおこないます。刑務所や施設を出ることができれば終わりではなく、社会に出た後で再版することなく生活を送る手助けをするのが保護観察官の職務なのです。
刑務所の中の話が主な内容となっていますが、法務教官や保護観察官など受刑者の矯正教育に関心を持ち始めた読者にもおすすめできる内容となっています。
- 著者
- 法学書院編集部
- 出版日
保護観察官になるには「法務省専門職員採用試験」を受けることが最短のルートです。
試験は多肢選択式の教養試験、専門試験がありますが、最も難しいと言われているのが2次試験の記述式専門試験です。
記述式専門試験の科目は、4つの領域があります。
各領域から1題ずつの出題となっており、受験する際は、4つの領域から1つの領域を選ばなければなりません。
多肢選択式の専門試験と記述式専門試験については、保護観察官の試験対策で必要な科目に的を絞って収録されているため効率よく試験対策ができるでしょう。今まで試験対策を進めてきたけれど、さらに確実に合格できるようにしていきたいという方におすすめの1冊です。
- 著者
- 資格試験研究会
- 出版日
この本には、平成28年度から令和元年度までの国家公務員専門職の過去問が載っています。教養試験の過去問が豊富に載っているので、教養試験の対策として繰り返し解くことで高得点を狙えます。
なかには、法務省専門職員の採用試験とともに国家公務員総合職・一般職の試験を併願している方もいるかもしれません。総合職・一般職の採用試験は法務省専門職員の採用試験より前におこなわれるので、そちらの試験の対策としても役立つでしょう。
教養試験は繰り返し問題を解くことで身についていきます。試験直前まで根気強く勉強することで合格への道が切り開けるはずです。
公務員試験 新スーパー過去問ゼミ5 教育学・心理学
2017年12月01日
スーパー過去問ゼミシリーズは、公務員試験の過去問対策としてコンパクトな解説が評価されています。
『公務員試験新スーパー過去問ゼミ5教育学・心理学 国家総合職・国家一般職・法務省専門職員』は、教育学・心理学の多肢選択式の専門試験対策として使える1冊です。
良問を厳選しているため教育学・心理学について効率よく学ぶことができます。この本1冊で完璧に勉強ができるわけではないですが、採用試験勉強の初期段階にはぴったりのテキストです。
仮釈放
1991年11月28日
保護観察官のように、犯罪を犯した方が社会復帰するにあたりケアをする仕事として、保護司という仕事があります。保護司はボランティアのため、誰でもその仕事に従事できるのが特徴です。
この『仮釈放』という1冊には、仮釈放され社会復帰を目指す男性を支える保護司の姿が描かれています。また同時に更生保護施設なども登場し、男性をどう支えていくのかを読むことができます。
しかしこの本の本当のテーマは「心の矯正は本当にできるのか」「罪を償うとはどういうことか」という点です。
自らに突然降りかかった衝撃から突発的に殺人を犯してしまった人間の心中が、これほどまでに鮮明に描かれている作品は少ないかもしれません。自分ではなくまったくの他人を矯正していくなかで、表面的ではなく深層的な部分での矯正は可能なのでしょうか。
これから保護観察官や保護司を目指す方にはぜひ一読していただきたい1冊です。また人間心理などに関心のある方にもおすすめできる内容となっています。
逮捕されてから刑務所に収監されるまでの過程や刑務所の中の生活に関心がある人は多いのですが、受刑者の出所後の問題についてはほとんど知られていません。
保護観察官の具体的なサポートとして、就職先の斡旋をしたり、再び犯罪に手を染めることがないようにケアしたり、相手の心に寄り添った仕事をしていることがわかりました。
大学で教育学・心理学・社会学のいずれかの分野を専攻している人の中には、法務教官や保護観察官の仕事をすすめられた方もいるかもしれません。この記事を通して、再犯に問題意識がある方や受刑者の社会復帰に携わりたいという思いを強めた方は、紹介した書籍も手にとってみてはいかがでしょう。