「このマンガがすごい!2020 オンナ編」で10位を獲得した『違国日記』は、大人世代を中心に人気を集めています。この記事では『違国日記』の見所や名言をネタバレありでご紹介! 価値観も生き方も異なる叔母と姪の同居生活を描きながら、ぶつかりながらもお互いに歩み寄っていくさまに励まされる作品です。
連載開始後、大人世代を中心にじわじわと人気を集めている漫画があります。それは「FEEL YOUNG」にて連載されているヤマシタトモコの漫画『違国日記』。人見知りの小説家・高代槙生(こうだいまきお)が、両親を事故で亡くした姪・田汲朝(たくみあさ)を勢いで引き取り、同居生活を始めるというストーリーです。
同居生活の中で衝突したり、人生に悩む朝に対して放たれる槙生の名言に「心が救われる」と、さまざまなメディアから絶賛されています。過去には「ブクログ大賞マンガ部門」で大賞、「このマンガがすごい!2020オンナ編」で第10位を獲得しました。
作者のヤマシタトモコは本作の制作にあたって、誰かを大切にしたり尊重できる優しい作品を描こうと考えたそう。価値観も生き方も異なり、お互いを理解し合えない者同士が、相手の言動に傷つきながらも、決して相手を否定せずに尊重していく姿が描かれています。人との向き合い方、個々の生き方を考えさせられる作品です。
姉夫婦が事故に遭い亡くなったと知らせを受け、駆けつけた高代槙生は、そこで数年ぶりに姪の田汲朝と再会します。葬儀の場で親戚中から養育を拒否されてしまう朝。それを見た槙生は、彼女を放っておけずに引き取ることを決断します。
しかし、槙生はある重大なことを忘れていました。それは彼女が、極度の人見知りであるということ。朝を引き取った翌日、彼女は早速人見知りを発動してしまうのです。
母親とも先生とも明らかに違う、大人らしくない大人・槙生との同居生活に戸惑う朝。それでも素直な性格で受け入れ、新しい生活を始めていきます。極度の人見知り小説家と素直過ぎる姪が、互いを認め合いながら歩み寄っていく歳の差同居ストーリーです。
- 著者
- ヤマシタトモコ
- 出版日
- 2017-11-08
こちらのセクションでは、槙生と朝の同居生活に深く関わっていく登場人物を紹介します。
35歳独身の少女小説家で、「こうだい槙生」というペンネームで活動しています。かなりの人見知りでかつ、掃除や片付けも苦手。さらに嘘をつくのが極端に下手な性格で、他の人のように当たり前にできない自分に負い目を感じています。朝の母親・実里(みのり)とは確執がある様子。
15歳の女子中学生。中学3年生の冬に両親を事故で亡くしますが、槙生に引き取られて同居生活を始めます。人懐こくて素直な性格ですが、思ったことをそのまま口に出してしまう欠点も。まだ、両親を失った悲しみを感じられておらず、少し戸惑っている様子。
槙生の姉で、朝の母親。名字が高代のままなのは、夫とは内縁の関係だからだそう。車で外出時、パーキングエリアに停めていたところをトラックに追突されて亡くなります。自分の意見を押し付ける性格で、槙生にも朝にも高圧的な態度をとっていました。
朝の後見人である槙生を監督する弁護士。子どもを思う心優しい人物ですが、空気を読んだり察したりすることが苦手で、思ったことをそのまま口に出してしまうという欠点を持っています。本人も自覚あり。
槙生の元カレで、現在は友人という立場。彼女と別れてからは疎遠になっていましたが、朝との同居生活を始めるにあたって連絡を受け、相談に乗るようになります。槙生に対する想いは残っており、絶賛復縁奮闘中です。
槙生の学生時代からの親友で、よき理解者。言葉遣いが荒く、何でも爆笑するなど、子どもっぽい性格をしています。意外にも料理やお菓子を作るのが得意。
朝の同級生で親友。朝の両親が亡くなったと聞いて母親に相談したところ、それが学年中に広まってしまい、朝から嫌われてしまいます。その後、無事に関係を修復。高校は朝と同じ学校に進みますが、高校では新しい関係を築き、朝と少し距離が出るように。恋愛観について悩んでいる様子。
極度の人見知りで孤独を愛する槙生。生きづらさを感じがらも、それを隠さずにありのままをさらけ出している彼女の生き方に、多くの読者が共感しています。
その理由は、槙生が「普通」というものに染まりきっていないから。私たちは集団生活をする過程で「普通」にとらわれるようになり、本当の気持ちに気づかないふりをするようになります。しかし、槙生は不器用な大人なので、自分の感情を隠しません。
特に印象的だったのは、朝を引き取った翌日のシーン。自ら引き取ると宣言したのにも関わらず、槙生は早速人見知りを発動。「はあ!??」と驚いた朝の反応に、彼女は「傷つくからやめてほしい」と言います。
たとえどんなに年の離れた子どもでも、言われたら傷つくものは傷つく。大人だって苦手なものはあるし、人見知りもする……。大人らしくないと言われるだろうし、生きづらいと感じることのほうが多い。でもこれが私だから。と、大人か子どもかというような普通の概念に囚われない槙生の生き方に勇気づけられます。
人見知りな槙生に対し、朝は人懐こい性格。数年ぶりに再会した槙生とも、自然に話していました。朝は感情が顔に出やすく素直な性格で、槙生からは子犬のようだと思われています。しかし、そんな彼女にもある欠点がありました。それは無神経なところです。
何の考えもなく、思ったことをそのまま口に出してしまう朝。素直過ぎる性格が災いして、無意識に相手を傷つけてしまいます。
部活を終えて帰ってきた朝が散らかっていた部屋を見て、「なんでこんなこともできないの」と槙生を責めます。朝は普通のことを言ったつもりでしたが、幼い頃から言われ続けていた槙生にはかなりショックな言葉だったのです。
この他にも、初対面の笠町に対して「槙生ちゃんの彼氏ですか?」「なんで別れたの?」と、聞きづらいことをストレートに聞いてしまいます。
素直で人懐こいのはいいところですが、相手を気遣うことが誰よりも抜けている朝。そんな彼女が槙生と同居することで、少しずつ相手を思う気持ちを育んでいくようになります。
同居生活において絶対に欠かせない定番の1つともいえる食事のシーン。本作でも2人が料理したり食事を一緒にしたりするシーンがたびたび登場し、描かれる料理がとてもおいしそうだと評判です。
特に印象的なエピソードは、槙生の親友・醍醐と3人で餃子を作るシーン。お互いに気を遣っている槙生と朝の様子を見た彼女が、気を利かせて一緒に作ろうと提案したことで始まります。
醍醐に指示されながら食材を切ったり、餃子のあんをこねたり、皮に包んだりする槙生と朝。くだらない話をしながら作っていく様子が楽しそうです。皆で一緒に料理を作って食べるという、当たり前の風景にほっこりさせられます。
ここからは「心が救われる」と言われている槙生の名言を3つ紹介していきます。
「あなたの感じ方はあなただけのもので誰にも責める権利はない」
(『違国日記』1巻より)
両親を亡くしても、悲しみを感じられない朝に向けて槙生が言ったセリフです。
突然の事故により両親を失った朝は、涙を流すこともなく淡々と過ごします。初めは「感情表現が薄いのかな?」と思われました。しかし彼女は突然の出来事に、頭の理解と心の整理が追いついていなかったのです。
両親の死を悲しめない自分は、変なのかもしれない。そう感じていた朝に、槙生は肯定も否定もしませんでした。
たとえ身近な人が亡くなったとしても、立場や状況によって悲しみの感じ方は違います。もちろんそれを誰かが責める権利もありません。感じ方は人それぞれだから、今の感情を大切にしていけばいいと槙生は伝えています。
さらにこの言葉が読者に沁みるのは、この言葉を発した槙生が朝の機嫌を繕うために言ったのではないと伝わってくるからです。その場の思い付きではなく、槙生の生き方そのものの重みを感じることができます。
葬儀の後、誰が朝を引き取るのか話し合いをしているシーン。たらい回しにされている朝を見て居ても立っても居られなくなった槙生が、引き取ることを宣言したときに親戚中に言い放ったセリフです。
「わたしは大体不機嫌だしあなたを愛せるかどうかはわからない でもわたしは決してあなたを踏みにじらない それでもよければ明日も明後日もずっとうちに帰ってきなさい たらい回しはなしだ」
(『違国日記』1巻より)
確かに槙生は本当の親ではないので、親と同じ愛情を朝に与えることはできないでしょう。それでも、朝を1人の人間として受け入れたい……。そこで出たのが、あなたを踏みにじらないという言葉でした。
特に彼女の優しさが見えるのが、うちに帰ってきなさいという部分。不器用なりに朝を救い出したい、という槙生の優しさが詰まったセリフです。
突然、槙生に冷たくされたことが理解できず、さみしさを募らせた朝が感情を爆発。そんな彼女に槙生が次のように語りかけました。
「…朝 あなたがわたしの息苦しさを理解しないのと同じように わたしもあなたのさみしさは理解できない それはあなたとわたしが別の人間だから …ないがしろにされたと感じたなら悪かった だから……歩み寄ろう」
(『違国日記』3巻より)
両親を亡くし、さみしさを募らせる朝。一方で孤独を愛し、1人でいてもさみしさを感じない槙生。それぞれ別の人間である2人は、お互いが考えていることを理解することができません。
でも、それは仕方のないこと。別の人間なのだから、理解できないのは当たり前です。大切なのは歩み寄ること。理解し合えないからこそ歩み寄ろうという言葉に、なるほどと納得させられるでしょう。
- 著者
- ヤマシタトモコ
- 出版日
槙生にとって姉の実里は、自分の存在自体を否定した憎むべき相手。しかし朝にとっては、自分を育ててくれた大切な母親です。それぞれ実里に対してまったく違う感情を持っている2人が、実里の死をどのように受け入れていくのかも気になるところ。
死んでもなお心の底から実里を嫌っていた槙生は、朝との暮らしを通して彼女がなぜあんなにも干渉してきたのかを考えるようになります。おそらく実里は、普通から外れることを恐れていたのでしょう。だから、普通じゃない槙生にいつも口を出していたのだと考えられます。
一方、朝は自分が母親に対して、静かに腹を立てていたことに気づきます。「なりたいものになりなさい」と言いながら、朝を自分の思い通りになるようコントロールしていた母親。その結果、母親を失った彼女は、自分が何をすればいいのかわからなくなってしまいます。そして、さまざまな感情を膨らませたのちに、ようやく彼女は両親の死を受け入れていくのです。
槙生と朝に大きな影響を与えている実里。彼女には明かされていない謎がたくさんあります。それが明らかになったとき、槙生と朝は最終的にどのような決断をするのか。1巻の冒頭では、少しだけ2人の未来が描写されています。ぜひ読んでみてください。
『違国日記』のなかで、唯一男女の恋愛関係が描かれているのが槙生と笠町。かつて恋人だった2人の関係性にも注目です。
別れてからは疎遠になっていましたが、朝との同居生活をきっかけに再び会うようになった2人。そもそも2人は、なぜ別れてしまったのでしょうか。そこには笠町の生い立ちが関係していました。
周囲から完璧を求められていた彼は、いつの間にかそれを、恋人である槙生にも求めるようになっていたのです。その結果、2人は衝突。最終的に別れを選んだのでした。
笠町はいまだに槙生に対して想いを抱いているようで、できればヨリを戻したいと考えているようです。しかし、槙生は笠町のことをいいなと思いつつも、恋人には戻らないと決めています。
そんな2人が、4巻では急接近!恋人ではないけれど、友情よりも濃い関係を結ぼうと笠町が提案してきます。今後、2人の関係がどのようになっていくのかご注目ください。
- 著者
- ヤマシタトモコ
- 出版日
『違国日記』7巻では、初めて朝か槙生以外の登場人物である笠町が表紙に選ばれています。脇役の人生や価値観にも焦点の当てられる7巻のあらすじをネタバレありで紹介しましょう。
ばったり遭遇した笠町と塔野は、昼食をともにすることに。男社会の洗礼について会話します。自信がなさそうな見た目もあって周囲から軽視されるようになったという塔野に対して、笠町は自身の判断で男社会の争いから逸脱することを決めたのだと話しました。
一方朝は、軽音部のボーカルのオーディションを受けるか迷うなかで、過去に父親に言われた何気ない一言が気になり続けます。合唱コンクールの感想を求めた際に言われた「目立っていた」という言葉。父親は自分のことをどう思っていたのか、愛していたのだろうかと悩むのです。
そこから本番に挑んでいく朝は、果たしてどのような思いへと変わっていくのでしょうか?他人からどう思われているかよりも、自分が楽しく歌えたかどうかの方が大切、というように吹っ切れていく朝の成長をぜひ本編で見守ってください。
- 著者
- ヤマシタトモコ
- 出版日
『違国日記』の作者・ヤマシタトモコは、BL漫画家として2005年にデビューしました。同年、『ねこぜの夜明け前』で「アフタヌーン四季賞・夏」を受賞し、一般誌でも活動をスタート。2016年には漫画家デビューから10周年を迎えています。BL誌や女性誌、青年誌と幅広いジャンルで執筆する注目の漫画家です。
柔らかく味のあるタッチと心が動かされるストーリーが、ファンを魅了させるポイント。『違国日記』でも描かれているように、登場人物が放つセリフが、読者の心をグッと掴んでいます。
代表作品は、ホラーありBLありの除霊漫画『さんかく窓の外側は夜』。作中に登場人物がキスするというようなBL的描写が直接は描かれていないのですが、除霊シーンがとんでもなくエロいと評判です。2021年1月には、映画化もされています。
- 著者
- ヤマシタ トモコ
- 出版日
- 2014-02-10
当サイトでは『さんかく窓は外側の夜』の記事も公開していますのでぜひご覧ください。
『さんかく窓の外側は夜』怖いのにエロい魅力をネタバレ!【実写映画化】
怖いのに、読む手が止まらない作品ってありますよね。漫画『さんかく窓の外側は夜』もそのひとつ。詩的なタイトルですが、BL色の強い本格的なホラー漫画という異色作です。この記事では、岡田将生、志尊淳など豪華キャストで実写映画化する本作の魅力をネタバレありでご紹介していきます。
少しずつ同居生活に慣れてきた槙生と朝。ぶつかりながらも、お互いの感情を受け入れ、歩み寄ろうとしている2人の姿に心が救われます。2人を見守る周囲の登場人物たちも、何やら動き始めていて気になるところ。今後の展開にぜひ期待しましょう。