人は見た目が9割。人は見た目が100パーセント。そんなタイトルの本がヒットを続けた。だとしたら、本も見た目が大事なのでは?装丁のセンス好みなら、中身も好み!作家名やジャンルにとらわれない、思わぬ良本に出会える近道、かもしれない……。 そう思い立ったかわいいもの好きメン食いライター。これは、彼女が思いつきのままに本屋さんの店頭で「かわいい!」とグッと来た本だけをジャケ買いする企画である。ホンシェルジュはそれを「ジャケかわ本」と命名。その日その場所で1番かわいい本は、果たして中身も「かわいい」のだろうか?
今月は、吉祥寺の駅前のお買い物エリアのど真ん中に位置するコピス吉祥寺B館、ジュンク堂書店の6階にてジャケかわ本ハンティングを開始。著者名やストーリーなどの前情報は一旦頭の中から追い出して、「かわいい!」と直感した本を3冊ためらわずにレジに持っていくというルールを自分に課し、いざ体当たり検証開始です!購入後はしっかり読んで、表紙のデザインをふまえて「かわいい」を考察してみました。
まず手に取ったのは、表紙に描かれた少女に否が応でも超"ド"インパクトを刻み付けられるこの書籍。表紙イラストは、イラストレーターの100年が担当しています。
『彼女。 百合小説アンソロジー』は、タイトル通り「百合」あるいは「シスターフッド」をテーマとした短編小説集です。ライターでも名前を聞いたことがあるほど豪華な小説家陣によるアンソロジーですが、各章ごとの扉絵もそれぞれ別のイラストレーターを起用しているのも本作の魅力。各短編小説をイメージした、「イラストのアンソロジー」としても楽しめるのは贅沢ですね。
ライターが特に気になったのは斜線堂有紀による「百合である値打ちもない」という一遍。ルッキズムとの終わりなき戦いを主題として、2人の女性ゲーマーの出会いからプロとして活躍していく日々を描いた作品です。
ゲームの強さに、女性であることやその女性の見た目は本来関係ないはず。しかしプロとして人の前に立った途端に、嫌でもその美醜について語られる存在となってしまうのです。
お人形のように美しい顔立ちをした相棒・ノエと比べると、そうではないことに苦しむ主人公・ママユ。ノエの隣にいるべき相方として、そして愛し合うべき恋人としてふさわしい外見を手に入れるため、整形手術を繰り返していきます。
この作中で語られるように、女性は時に「見られる」性であることは否めません。しかし表紙の少女(本作に登場するいずれかのキャラクターというより、アンソロジー全体を象徴するイメージとして描かれていると捉えたい)には、読者に見られると同時に強く読者を「眼差す」意思を感じるでしょう。
全編を通してライターは、「なぜこんなにも自分の思いを正直に言えないという主人公像が多いんだろう!」と感じました。対して、自分の思いをはっきり言うタイプのキャラクターももちろん登場します。
「百合である値打ちもない」のノエや、武田綾乃著の「馬鹿者の恋」に登場する萌がそのタイプ。彼女らは、自分の幸せを自分のチカラで引き寄せるという結末で描かれます。
往年の少女漫画の主人公のように奥ゆかしい性格のキャラクターは、すれ違いなどの思い通りにいかないストーリーを盛り上げるために重宝されるのかもしれません。そのほうが「かわいい」とちやほやされるかもしれません。
しかし表紙の少女のように、見られるよりも「眼差す」主体としての女性キャラクターが結果として幸せになってくれてライターは納得。「好き」は「好き」と、はっきり言いながら生きる女性を「好き」だと思うのです。
次に紹介するのは、著者によるPOPとともに注目作品コーナーにあった歌集『水上バス浅草行き』。単行本より少し小さめのサイズ、きもち縦長の収まりも可愛らしいですが、ライターが一目で気に入ったのは色使いです。シンプルで丸みのある線によるイラストに、長方形のビビッドな蛍光カラーという組み合わせに、運命のアクセサリーを見つけた時のようなときめきを感じませんか。
装丁・挿画を担当するのは、ジャンル横断的に装丁を手掛けてきた鈴木千佳子。「浅草行き」というタイトルながら、ライターはすぐに吉祥寺・井の頭公園のあひるボートがひしめき合うあの池を思い浮かべました。著者・歌人の岡本真帆もこの書店に来店されていたようです。
表紙からイメージした「吉祥寺感を感じ取れる短歌があるかな」と探しながら読み進めたものの、具体的な関連性は見つけられず。「草野マサムネ」のような個人名は散見できますが、むしろどこに住む誰であっても感情をあてはめながら読むことができそうな短歌が魅力の1つといえそうです。
このコラムの軸を「ジャンルも無作為に表紙のかわいさだけで選書」としていますが、実はライター自身も短歌結社に所属していた経験があるほどの短歌好き。ライターが短歌啓蒙されるきっかけとなったのは、多くの人もそうであるように穂村弘でした。
勝手ながら、本作にもその穂村弘イズムを感じます。たとえば、帯にも選ばれている作者の代表作、
ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし
『水上バス浅草行き』「犬がいる!」より引用
は女性目線の口語で詠われていますが、これは穂村弘の発明ともいえる手法。また、この歌集11番目に掲載されている
無駄なことばかりしようよ自販機のボタン全部を同時押しとか
『水上バス浅草行き』「犬がいる!」より引用
の「無駄」を愛するという美学は、穂村ワールドにも通ずるキーワードだといえます。あとがきでも「合理的でない『遊び』」を大切にしていると、作者自身がはっきり書いている通り。
しかし、この歌集にオリジナリティを感じなかったということではありません。「これは真似できない!」と感じたのは、「三十一文字という限られた文字数の中でも無駄をしている」ところ。たとえばこのような短歌です。
犬の名はむくといいますむくおいで 無垢は鯨の目をして笑う
『水上バス浅草行き』「無垢」より引用思い出し笑いを思い出し笑うきみを真昼に思い出してる
『水上バス浅草行き』「北極星の日々」より引用番号が引かれて決まる番号が引かれてきみは呼ばれなかった
『水上バス浅草行き』「北極星の日々」より引用間違えて犬の名で呼ぶ間違えて呼ばれたきみがわんと答える
『水上バス浅草行き』「レジャーシートの冷たい麦茶」より引用
「無駄をしている」とは、言葉の重複を技巧的に用いているということを指します。本来、俳句や短歌など文字数の限られた詩では、「いかに効率のいい言葉で言い表すか」が大切にされがち。「咲いている花」という言葉ですら、「花は普通咲いているものだから、咲いているという言わなくても通じる言葉なので省く」というような捉え方をする世界です。
そのような一般的な技法があるなか、引用した短歌は実にたっぷりと言葉を重複させています。そのことで生まれる妙に心地よいリズムや不思議な世界に迷い込んでしまったような感覚。これは、ただ冗長に言葉をだぶらせるだけでは生まれないでしょう。
これほど上手に、しかし一見上手だとは見せずに「無駄」を楽しんでいる短歌をライターはそう多く見たことはありません。隙間なく言葉を詰め込むことをしない短歌からは、表紙のイラストにも通底するような心地よい余白を感じ取れました。
3冊目に手に取ったのは、新刊コーナーにあった原田マハの著作『スイート・ホーム』です。文庫本が2022年4月に出たばかりということで新刊コーナーにありましたが、調べると2018年に刊行された単行本も同じ表紙デザインでした。
目を引かれたのは、何層にも重ねられた色鮮やかなホールケーキの絵。よく見るとデフォルメ化されており、形も色もありえにくい形状ながら違和感なくポップで可愛い印象です。
それもそのはず、この絵を描いたのはあのポップアートの巨匠アンディ・ウォーホル。買って帰って帯をめくるまで、彼の作品だとは気付きませんでした。「Multilayered Cake on Stand」というタイトルの作品で、個人家でケーキ屋を営む家族の物語である本作にぴったり。美術や絵画をテーマとする作品に定評がある原田マハらしい掛け合わせが実現しているといえます。
本文を読み進めると登場人物が全員いい人、紆余曲折があってもハッピー展開ばかりで、むずがゆくもほっこりできる物語。「そんなうまいこといくわけない!」とつい穿った見方をしてしまうライターでしたが、ここはあえて、そんな少し斜め姿勢な大人にこそおすすめしたいと思います。
なぜならかく言うライターも、素直に涙が出てしまったシーンがあるからです。
表題の章 「スイート・ホーム」で、主人公の陽皆(ひな)と付き合い、結婚することになった昇さんが主人公の家に挨拶に来るシーン。その直前、陽皆の母が膝を骨折し入院してしまうのです。顔合わせは母の回復を待ってからになるかと思われましたが、母自身がそれを望まないことを陽皆に強く話したことで日程はそのままに。
ついに陽皆の父と昇さんが対面した時に彼が言ったセリフがこちらです。
「僕が、この家にごあいさつに上がるのを、もう、一日もさきに延ばしたなかったからです」
(『スイート・ホーム』より引用)
その背景には、彼の陽皆への愛情と、彼自身の家族事情がありました。まっすぐな登場人物たちと、シンプルで飾らない言葉が本作のブレない魅力になっています。
ここまで読んでも、まだ「うっ……自分には苦手かも」と思う方もいるでしょう。そんな方はこう考えてみてはいかがでしょうか。
どんなに気の合わない人からもらった差し入れのお菓子であっても、お菓子自体に非はないのだしおいしいものはおいしいですよね。いくら「ご都合主義のストーリーはちょっと」と思っていても、やはりまっすぐで優しい心に触れればあたたかい気持ちになってしまうのです。そんな感覚でこの小説も味わってみてほしいと思います。
変わらない味を守る、主人公の父・パティシエが作るケーキと、本作の題材である「家族のあたたかさ」の普遍さ。そんな主題を、時代を超えて価値を放ち続けるアンディ・ウォーホルの作品に託しているのかもしれません。
直感を頼りに「かわいい」本を読んだ結果、「かわいい」が持つ色々な側面について考えることができました。【ジャケかわ本】を探すライターの旅は続きます。あなたの知っている表紙のかわいい本がありましたら、ぜひホンシェルジュTwitterにリプライをお送りください。記事で取り上げさせていただくかもしれません!
今回おすすめしたジャケかわ本を読んでみたい方はこちらからどうぞ。
- 著者
- ["相沢 沙呼", "青崎 有吾", "乾 くるみ", "織守 きょうや", "斜線堂 有紀", "武田 綾乃", "円居 挽"]
- 出版日
- 著者
- 岡本 真帆
- 出版日
- 著者
- 原田 マハ
- 出版日