漫画『ダンジョン飯』はファンタジーRPGのような世界観にグルメ要素が取り入れられた大人気作品です。面白いのは単なるグルメではなく、モンスターの肉を調理した魔物グルメなこと。これだけだとゲテモノとしか思えませんが、実際はとても美味しそうな上に、ストーリー的にも意味があります。 ファン待望のアニメ化が発表され、ますます注目度の上がっている『ダンジョン飯』について、作品の魅力と既刊12巻分のストーリーをまとめてご紹介していきましょう。
『ダンジョン飯』は2014年から漫画誌「ハルタ」で連載されている冒険ファンタジー作品です。作者は九井諒子(くいりょうこ)。
本作は昔ながらのファンタジーRPGに似た世界観でありながら、倒したモンスターを食材にして、料理を作ってしまうというグルメ要素が特徴です。モンスターで作った料理なんてゲテモノだろう……と思ってしまいますが、実際にはまったく逆! どれもこれももの凄く美味しそうなのです。
ゲテモノどころか、食べたくても食べられない(なにしろ実在しないモンスターが食材なので)と悶える読者が続出しました。いわば飯テロ状態です。
冒険ファンタジーとモンスターグルメ。『ダンジョン飯』は奇想天外な組み合わせが奇跡的に合致し、評判が評判を呼ぶ大人気作品となりました。その証拠に「このマンガがすごい!2016」オトコ編1位をはじめとして、「全国書店員が選んだおすすめコミック」2016年度の1位など数々の賞を受賞。シリーズ累計発行部数は11巻までの時点で850万部を突破しています。
そんな人気作品『ダンジョン飯』ですが、2022年8月10日の第12巻発売に合わせて、TVアニメ化が発表されました。
アニメ『ダンジョン飯』の制作は『キルラキル』、『SSSS.GRIDMAN』など数々のヒット作を手がけたスタジオTRIGGERが担当。TRIGGERは元々クオリティの高さに定評のあるスタジオではありますが、2019年に『ダンジョン飯』のアニメCMを手がけたことがあります。CMは大好評で「このままTVアニメを作って欲しい」との声が多く、ファンの願いが叶った形。
またアニメ化と同時に、『ダンジョン飯』をモチーフとしたボードゲーム『モンスターイーター ~ダンジョン飯 ボードゲーム~』も発表されました。
本作はこれまでメディアミックスに消極的でしたが、おそらく今後は漫画やアニメに限らず、さまざまな展開がされていくのでしょう。私たちが『ダンジョン飯』の話題を見る機会も多くなるはず。
そこでここからは『ダンジョン飯』の魅力やストーリーの見所などを、いくつかに分けてわかりやすくご紹介していきます! すでにファンの方はアニメや最新刊に向けてのおさらいとして、まだ読んだことない方はこれを機にぜひ『ダンジョン飯』の面白さを知ってください!
- 著者
- 九井 諒子
- 出版日
「狂乱の魔術師」が生み出した、とある孤島のダンジョン。6年前、村の地下墓地の底が抜けて、黄金の国の王を名乗る痩せた男が現れました。王は迷宮を支配する魔術師を倒した者に国の一切を与えると言い残し、塵となって朽ちました。それ以来、一攫千金を夢見た数多くの冒険者が島に詰めかけ、ダンジョン踏破を目指して島が賑わうようになりました。
主人公のライオスたちもそんな冒険者の集まり。特にライオスは同業者の間でも有名なギルドリーダーで、ダンジョン最深部の攻略すら可能と目されていました。
ところが……地図の不備で生じた時間ロス、罠による食料の喪失など不運が重なり、普段の実力を発揮できなくなっていた一行。そんな時、ダンジョン最悪の強敵レッドドラゴンと遭遇し、全滅の憂き目に遭いました。ライオスの妹ファリンは間一髪、転移呪文で仲間を脱出させますが、自身はドラゴンの餌食になってしまいます。
ライオスらは命こそ助かったものの、すべての物資と資金を失いました。大切な妹を失って焦るライオス。死体さえあれば蘇生することは可能ですが、もしドラゴンの胃で消化されてしまえば――。
ドラゴンの生態からすると、ファリンが完全に消化されるまでの期限は1ヶ月。ライオスは乏しい装備で素早くダンジョン攻略を強行するため、食料の現地到達――すなわちモンスターを食べることを思いつき、実行に移すのでした。
『ダンジョン飯』の主人公はライオスですが、エピソードによってメインの語り手が変わります。場合によっては、ライオスどころか彼のパーティでないキャラクターが主軸になることも。
無数のキャラクターが出てくるRPGのように、特定の誰かではなく、「ダンジョンに挑む冒険者」こそが主人公という風にも考えられます。
とはいえ、『ダンジョン飯』の大きな物語の中心にいるのは間違いなくライオスです。
フルネームはライオス・トーデン。トールマン(人間)の男性で、妹と合わせて冒険者の間で「トーデン兄妹」と呼ばれており、若手ながら実力のある剣士です。良くも悪くもお人好しと認識されています。他人には黙っていたものの、「迷宮グルメガイド」の愛読者で密かに魔物グルメに憧れていた変人です。
ファリン救出を目指すパーティの1人、ハーフエルフのマルシル。おしゃれに気を使う明るい性格の美女。由緒正しい魔法学校出身の強力な魔術師ですが、ダンジョン深層までなるべく力を温存させたいというライオスの意向で、序盤は空回りしがちなコメディリリーフと化していました。パーティでは貴重なツッコミ兼リアクション役。
チルチャックはパーティをサポートする縁の下の力持ちです。外見が幼いため未成年のトールマンにしか見えませんが、ハーフフットという別の種族。実はライオスより年上で、結婚歴のある立派な成人男性です。鋭い感覚と手先の器用さが自慢で、鍵開けや罠解除を得意としています。マルシルに次ぐ常識人枠。
パーティのを胃袋を支えるセンシは、屈強なドワーフ戦士でありながら、戦闘より料理を得意とする奇妙な人物です。10年以上、魔物グルメを研究・実践している専門家。魔物グルメに固執するライオスの奇行は、彼のせいで加速しているといっても過言ではありません。
センシの作る魔物グルメは、ある種のゲテモノなのにとても美味しいため、マルシルもチルチャックも完全に拒否しきれないのが厄介な点。
そしてドラゴン(の胃)に囚われて、パーティとは離ればなれになっているファリン・トーデン。おおらかで人を惹き付ける魅力に溢れた女性です。補助魔法と降霊術に関しては、トールマンながらエルフのマルシルを越える腕前。彼女を救うのがライオスたちの主な目的ですが……。
他にも多くのキャラクターが登場しますが、特に重要なのはライオスとは別のパーティを率いるカブルーでしょう。理想に燃える若手冒険者で、ある理由からダンジョン根絶を目指しています。彼の視点で語られる重要エピソードがいくつかあり、準主人公と呼んでよい人物。
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他の作品と一線を画す、『ダンジョン飯』最大の特徴が魔物グルメです。
ファンタジーで馴染み深いスライムに始まり、巨大サソリやバジリスク、果ては宝箱に潜むミミックや動く鎧。ギリギリいけそうな食材から、絶対無理だと思ってしまう意外なものまで、多彩なレパートリーで読者を楽しませてくれます。
そもそもモンスターを食べるという行為は、とても奇抜な発想に思えます。しかし、よくよく考えてみれば納得。魔物が当たり前に存在する世界で、通常の動物界と同じ生態系の枠組み魔物が組み込まれており、そこに捕食者と被捕食者の関係があるなら魔物の肉を食べられない道理はありません(無機物を除く)。
ファンタジーやモンスターが実在すると仮定すれば極めて現実的な設定ですが、それを重々しく感じさせずに、あくまで作品を彩る特色の1つにしているのがポイント。
単に食べるだけではなく、丁寧に下処理・調理した上で、実際にありそうなレシピも出てきます。おかしなことを大真面目にやってるだけで笑えるのに、それでいてちゃんと美味しそうなのが凄い。
思わず食べてみたくなる飯テログルメ漫画であると同時に、コメディに近い突飛な発想で楽しませてくれるのが『ダンジョン飯』の魅力です。
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魔物グルメが非常にキャッチーなせいで、そちらばかり注目されがち。しかし、『ダンジョン飯』は魔物グルメのみの一発屋などではなく、ストーリーでは王道の本格ファンタジーを楽しめます。
ストーリーのもっとも基礎にあるのは、ライオスたちの目的はファリンの救出です。悪者に囚われた要人の奪還――と言い換えると、おとぎ話などでよくあるシンプルな物語構造。
序盤の各エピソードでは下層にいるレッドドラゴン=ファリンを目指しつつ、道中に起きる出来事や各キャラクター、設定の掘り下げが描かれます。コメディ主体の短編連作かショートショートに近いスタイルなため、肩肘張らずに気楽に読めるのが人気を博した一員でしょう。
しかし、物語の中盤以降は作中の雰囲気が変わっていきます。レッドドラゴンを倒すだけでは、本当の意味でファリンの救助が不可能と判明し、すべての元凶たるダンジョンの主――「狂乱の魔術師」打倒に向けて話は進んでいきます。
相変わらずショートショート形式で魔物グルメが出てくるところは変わりませんが、巻数でいうと5巻以降は明らかに、全体として大きな物語の流れを感じさせるようになりました。
とっつきやすいコメディ調の展開とグルメ要素で読者を惹き付け、ダンジョンそのものの成り立ちや世界観を徐々に明かしていく構成が見事。
登場人物の増加にともなって各視点の思惑、行動が複雑に絡み合っていくのも見所です。
ライオスら冒険者の視点、ダンジョンの内外で生活する者たちの視点、ダンジョンの主の視点、そしてダンジョンを封鎖しようとする者たちの視点。
同時進行で進むストーリーはどれも面白くて、先が気になって読むのが止まらなくなります。
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奥深さを感じさせる世界観や設定も『ダンジョン飯』の魅力の1つ。一定年代以上の読者には懐かしいゲームを連想させ、若い世代には新鮮な驚きを与えてくれます。
たとえばキャラクターとして登場する多彩な種族。知名度の高いエルフやドワーフだけでなく、若干マイナーな種族が混在しています。
ちょっと面白いのは、作中における人間の呼び方は英語の「ヒューマン」ではなく、造語の「トールマン」であること。他の小柄な種族から見て、「背の高い人」だから「トールマン」と呼ばれるようになった……と特に詳細を語られずとも、歴史的背景を想像できる見事な命名センスです。
造語といえば主要人物の1人、チルチャックの種族ハーフフットも本作特有の名称。『指輪物語』の架空種族ホビットから生み出された、テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のハーフリングが元ネタでしょう。
『ダンジョン飯』は他にも様々な作品由来の要素が見て取れますが、特にコンピューターPRGの古典『ウィザードリィ』の影響が顕著です。
王のお触れで集められた冒険者たちが、邪悪な魔術師の支配する地下迷宮を探索する。パーティの人数の上限は6人。種族ごとの特性に合わせ、得意な職業・技能で困難を乗り越えていく――。『ウィザードリィ』シリーズ共通の設定ですが、『ダンジョン飯』とそっくりです。
本作の主要人物は4人ですが、『ウィザードリィ』では全滅した場合、最低限の人数で構成された救助パーティで遺体を回収しに行くのがお約束。序盤の目的であるファリンの救出(と装備の回収)において、少ない人数と乏しい物資で下層を目指す辺りにゲームへのオマージュが垣間見えます。
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元ネタを知っているとより楽しめますが、知らなくてもまったく問題ないのが『ダンジョン飯』のよさ。しかも単に影響されているにとどまらず、独自解釈で「RPGあるある」に説得力を持たせているのが、どの世代の読者にとっても面白いところです。
何日もダンジョンに潜っている間、食事と排泄はどうしているのか? 死んでも蘇生できるのはなぜか? 通る度に地形が変わる迷宮の仕組みは? ダンジョンの生態系の謎、深層に行くほどモンスターが強くなって、財宝が隠されている理由……。
食事については魔物グルメでさんざん取り上げられていますが、他の疑問点にも明確な理由が設定されています。詳しくはネタバレなので伏せますが、すべては狂乱の魔術師とダンジョンの成立に関係しています。
魔物を「常識外の怪物」ではなく生態系のある動植物の一種と定義し、それを食す行為や蘇生の描写を通じて、生命のあり方あるいは寿命について言及してあるのも興味深いです。
ストーリーの進行とともに、徐々に明かされていく世界観と設定。それらに注目して読むと、より一層『ダンジョン飯』のを楽しめますよ。
漫画『ダンジョン飯』は現在、既刊が12巻(2022年8月現在)。最新巻で物語はクライマックスに突入しています。ここからは最新展開を除く『ダンジョン飯』のストーリーを3部に分けて、わかりやすくご紹介しましょう。
利便性のために各部を浅層編、中層編、下層編としていますが、公式の名称ではないのでご注意ください。
ダンジョン下層でドラゴン相手に全滅したあと、ライオスのパーティは散り散りとなりました。残ったのはライオスとマルシル、チルチャックの3人。
ライオスは物資を切り詰めるため、魔物を食材として現地調達しようとしますが、2人からの反応はいまいち。手始めに歩きキノコや大サソリを調理しようとするものの上手くいきません。
そこへ現れたのがセンシ。長年、魔物グルメを探求してきた彼のおかげで、魔物を食べるという精神的な問題以外はほぼ解決しました。レッドドラゴンを倒し(てファリンを助け)たいライオスたちと、レッドドラゴンで料理をしてみたいセンシ。利害が一致してパーティは4人となりました。
途中までは比較的順調でしたが、地下3階から迷宮の構造もモンスターも厄介になっていきます。ダンジョンの厄介ごとは魔物だけではありません。閉鎖的かつ好戦的な亜人オークの集団、死んだ冒険者の蘇生を生業とする死体回収屋……オークには彼らなりの主張があって理解できる部分があるものの、死体回収屋はほぼならず者。
人種間あるいは職業間の立ち位置による思想の違いと対立がほのめかされて、コメディタッチの魔物グルメで注目されがちな本作が、単純なファンタジーでないことが徐々に明らかとなっていきます。
注目すべきは、地下3階でライオスが「動く絵画」の中で体験した出来事(第2巻)。絵画の中の世界でダンジョン――黄金城の過去を追体験して、迷宮の主との因縁が生まれます。
当初、単なる実力不足の冒険者と思われたカブルーとのニアミス、マルシルやノームのタンス夫妻がダンジョンの仕組みを調べているのも地味に重要なポイントです。
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地下5階に到達したライオスたち。以前のパーティと比べて格段に戦闘力の劣る面々ではありましたが、地形を利用した総掛かりの奇襲を行った結果、瀕死の重傷を負いながらレッドドラゴン退治に成功します。
ところが、努力の甲斐虚しくファリンはすでに消化されていました。マルシルは密かに研究していた奥の手、古代魔術によってドラゴンの肉からファリンを復活させますが……。
ファリン救助で安堵したのもつかの間、ライオスが絵画の中で出会った迷宮の主が現れました。ライオスが絵画の中で垣間見た、黄金城の王デルガルに仕える宮廷魔術師――狂乱の魔術師シスル。
シスルの圧倒的な攻撃を前に、ライオス一行は戦闘不能に陥ります。さらにドラゴンの魂と融合したファリンはシスルの支配下にあり、キメラと化して仲間の下を去って行きました。
希望が潰えて打つ手をなくしたライオスは、チルチャックの説得を受け入れて、体勢を立て直したのちに地上帰還を目指すことに。
無事に当初の目的を果たしたと思いきや、まさかの展開。助けるはすのファリンがシスルの手に落ち、最大の障壁として立ち塞がってくるのです。ファリン蘇生後のひとときが安らかだったものだけに、凄まじい絶望感に苛まれます。
一度は諦めかけたライオスですが、彼とは別に地下探索をしていたシュロー、カブルーのパーティと合流したあとに事態はさらに大転換。危機感を強めたシュロー、カブルーらは地上へ警告に戻り、ライオスらは狂乱の魔術師シスルを倒すために迷宮最深部を目指し始めます。
本編の折り返しに相当する中層編では、各登場人物の価値観の相違、本音のぶつけ合いが印象的。お互いの理解を深めつつ、妥協点を見出す様子が描かれます。続く下層編ではシスルの立ち位置も明らかとなってくるため、読み進めていくと相互理解が作品の1つのテーマとして見えてくるはずです。
また新たな仲間として、シュローのお付きを脱走したイヅツミが半ば強引に加入。魔術的に猫獣人と融合している彼女は、ファリンと似通った存在です。これでパーティ人数は5人となり、非常に賑やかになります。
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ライオス一行が地下6階に踏み入ったのと前後して、地上に戻ったシュローとカブルーの合同パーティ。彼らは帰還早々、島に西方エルフの船が入港していることに気がつきます。それは西方エルフの迷宮調査隊――迷宮の封印と古代魔術の秘匿を任務とする精鋭部隊、通称「カナリア隊」の介入を意味しました。
カブルーは15年前に滅んだ故郷、ウタヤのダンジョンを引き合いに出し、可能な限りカナリア隊の干渉を先延ばしにすべく行動し始めます。
一方、ライオスたちはかつて黄金城で暮らしていた住人の霊に手引きされ、迷宮内に隠されていた村にたどり着きました。そこにはデルガル王の子孫ヤアドをはじめとして、黄金城の住人たちが老いることも死ぬこともできず、1000年間も幽閉されていたのです。
ヤアドはライオスこそ国の守り神「翼獅子」に予言された救世主であり、次に迷宮の王となるべき者だと告げました。もはや不可避となった狂乱の魔術師シスルとの直接対決。とはいえ戦力の差は歴然としているため、ライオスらはシスルが封印している翼獅子を解放し、その力を借りてまず対話から始めようと決意するのでした。
下層編以降、物語は複数の視点で同時進行していきます。シスルを目指して潜り続けるライオスたち、浅層の異変で地下に落ちたカナリア隊隊長ミスルンとカブルー、そして地上に残ったカナリア隊隊員たちと冒険者たち。
ライオス一行のコメディシーンと魔物グルメを除いて、いずれも緊迫感溢れる展開の連続。これまでと違ったテイストでハラハラさせられるでしょう。
要注目は翼獅子――あるいは「悪魔」と呼ばれるものの動向です。ライオスらに親身に接して助力する一方、かつてのウタヤの暴走やミスルンの関わった一件では、壊滅的な被害を及ぼしたとされる悪魔。
迷宮の力そのものと言える翼獅子が、一体どんな思惑を隠しているのか、ライオスたち冒険者とダンジョンがどうなるのか。物語はクライマックスを迎えつつあります。
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翼獅子の半分を解放したライオスらは、シスルの拠点で待ち伏せし、彼とファリンを分断することに成功しました。ところが翼獅子は再びシスルに捕まり、呼び出された無数のドラゴンによってパーティの4人が死亡。
ライオスもまた3体のドラゴンに追い詰められますが、魔物の知識を総動員して窮地を切り抜け、シスルの無力化に成功します。ライオスは食事を通じて彼と対話を試みますが……。
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ライオスの奮闘もあって、長かった迷宮行に一応の終止符が打たれました。しかし、狂乱の魔術師が倒れても、まだ物語は終わりません。
ファリンのこと、ダンジョンのこと、ライオスたちは知らないカナリア隊の接近。そして翼獅子の封印も完全には解かれていないまま。ここまで並行で進んでいた各視点が、一挙に収束して物語のクライマックスへとなだれ込んでいきます。
誰もが最善を望んでいるのに、転がるように悪化していく事態。あまりにも悲しすぎるシスルの顛末が、彼の最期の意思が状況を打開するのか、それともさらなる混乱を招くのか。物語は大きなターニングポイントを迎えます。
カナリア隊との会合は最悪の形で決裂。実力で劣るマルシルは単独で彼らに対抗するため、翼獅子と契約して新たな迷宮の主となりました。
主力が戦闘不能になったカナリア隊は、完全にマルシルと敵対。カナリア隊の襲撃のどさくさで分断されたライオスたち4人は、カブルーに援護されながら、マルシルの真意を確かめるべく彼女の下へ急ぎます。
着々と決戦準備を進めるマルシルの思惑とは――。
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マルシルが主となったことで、刻々と様変わりしていく迷宮。各階層が重なり合い、ついには地下1階に魔物を含めたダンジョンのすべてが浮上してしまいます。
迷宮の大変動に合わせて、冒険者たちの関係にも変化が現れました。カナリア隊は迷宮を封鎖してマルシルを迎え撃つ動きを見せますが、ライオスと関わった一部の冒険者とオークの一団が、彼を信じて反抗を始めるのです。
これまでの積み重ねを思わせる熱い描写がある一方、事態は確実に悪い方へと向かっていきます。文字通り牙を剥いた翼獅子――もとい悪魔の起こした迷宮の異変は、西方エルフを通じて各国のドワーフ、ノームの首脳へと通達されるのです。
ことここに至って、次々巻き起こるスペクタクル。第13巻で完結となりそうですが、最悪の場合には世界が終わるとも言われるダンジョンの決壊が、最後にどういった形で解決されるのか非常に気になるところ。
「神」「悪魔」「翼獅子」……「それ」は時代と人間に合わせてさまざまに姿を変えながら、悠久の時を過ごしてきました。本来「それ」は何者でもない、隣り合わせの次元に満ちた無限の力そのものでしたが、「食べる」という人間の原初の欲望を取り込んで意思を持ってしまいました。人間の願いを叶えて、永遠に欲望を味わう。その目的を達成する最後の鍵が、ライオスでした。
マルシルの乱心を止めたライオスに、翼獅子は甘く語りかけます。魔物になりたいお前の欲望を叶えてやろう、代わりにお前の体を私にくれ――。
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翼獅子がダンジョンの外へ出る。それは現世を侵食して支配下に置き、すべてを意のままに操れるようになることを意味します。それは世界の破滅とほぼ同じです。
西方エルフたちはこの事態を予期し、各地のダンジョンと悪魔を封印していたのですが……とうとう恐れていた最悪の状況が起きてしまいました。
まったく打つ手がない瀬戸際まで追い込まれるものの、ライオスは事態の収束と引き換えにカナリア隊のミスルンと取引をします。彼には翼獅子=悪魔を退治する勝算がありました。
長く続いた迷宮行のクライマックス。魔物を観察し、魔物グルメを探求してきたライオスだからこその着眼点と発想……なのですが、シリアスの中でしっかり脱力のコメディ展開を入れ込んでくるのが本作らしいです。
全世界的危機が去ったあとも、最大の懸念が残されていました。レッドドラゴンと同化してしまったファリンの蘇生です。安全に生き返らせるには、レッドドラゴンの部位――すなわち、キメラ化したファリンの巨体の大部分を食べて消化する必要がありました。
ライオスはミスルンたちに申し出た取引の対価として、みんなで一緒にファリンを食べて欲しいと申し出ます。
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字面だけ見ると頭がおかしいとしか思えない言動。実際、最後の戦いをともに駆け抜けたパーティ外の仲間たち、エルフやオークの面々も正常な反応で反発します。しかし、結局はライオスの情熱と理屈に突き動かされ、周辺一帯を巻き込んだ盛大な宴が催されることになりました。
最終巻ではレッドドラゴン料理の準備と合わせて、各登場人物の動向がゆったりと語られます。1巻分がまるごとエピローグという贅沢な構成。決戦後にも残ったいくつかの問題が、綺麗に解消されていきます。伏線回収による心地良い余韻が楽しめるでしょう。
完結によって『ダンジョン飯』の物語や愛すべき人々と別れることになるのは寂しいですが、本作では徹頭徹尾「生」について描かれてきました。出会いがあれば別れもあるのが生きるということ。幸いにも物語はなくならないので、何度も読み返して美味しくてワクワクするストーリーを味わいましょう。
『ダンジョン飯』は原作漫画のほかに、副読本として楽しめる公式ガイドブックが発売されています。
本編の偏執的な描き込み、練り込み具合から察することが出来ますが、『ダンジョン飯』には山のように設定が存在します。登場人物紹介や来歴、世界観を補足するワールドマップとイラスト付きの人種設定に魔物集、用語集……などなど、ファン垂涎の綿密な情報がガイドブックには目白押し。
登場人物の項目だけでも内容は多岐にわたり、名前のある人物は完全に網羅されています。さすがにチョイ役の分量は少ないですが、そういったチョイ役を除けば各キャラクターの人となりをうかがえるショート漫画が掲載されていて、ここでしかわからない意外な背景設定が明かされることも。
ある種生々しい人間関係まで突っ込んでいるので、キャラクターに対する見方が変わるかもしれません。
世界観を絡めたギャグとしては、一部の長命種が抱える「短命種(ショーター)コンプレックス」略して「ショタコン」などがあり、作者のセンスが炸裂しています。
以上の内容だけでもファンにとっては価値があるのに、事実上の前日譚・後日譚に相当する描き下ろし漫画が多数。各編に連続性はありませんし、決して長いわけではありませんが、とてつもなく充実しているので実質的な『ダンジョン飯』第15巻(内容的には14.5巻?)と言っていいレベルです。
本書のおよそ半分を漫画パートが占めていると言っても過言ではなく、それだけを目的に購入しても満足感はあります。なお、物語完結までの内容が含まれるため、原作を最後まで読んでいないかたはネタバレ注意。
ちなみに雑誌の付録だったセンシの日記も完全版が再録されており、物語を振り返るのにちょうどいいとっかかりになるでしょう(作中時間で1ヶ月ちょっとしか経ってないのは驚き)。
- 著者
- 九井 諒子
- 出版日
そんなファン必携の公式ガイドブックですが、ちょっとややこしいことに、似たタイトルのものが現在2冊出版されています。本編完結前の2021年にリリースされた『ダンジョン飯ワールドガイド冒険者バイブル』(以下、「冒険者バイブル」)と、完結後の2024年に出た『ダンジョン飯ワールドガイド冒険者バイブル完全版』(以下、「冒険者バイブル完全版」)。
前述した内容はすべて、「冒険者バイブル完全版」のものです。発売時期的にしょうがないのですが、「冒険者バイブル」は終盤の情報や完結後の内容が欠けています。
ページ数にも大きな差があり、具体的には「冒険者バイブル」は176ページ、「冒険者バイブル完全版」は248ページとなっています。ページ数的には4割増し程度ですが、描き下ろし漫画とイラストの点数は倍以上。
今から買うなら「冒険者バイブル完全版」一択です。また「冒険者バイブル」を先に買っている人も、「冒険者バイブル完全版」を買う価値は十二分にあります。
というか、連載中にガイドブックを欲しくなるようなコアな人にこそ、「冒険者バイブル完全版」はおすすめしたい本です。
『ダンジョン飯』の正式なアイテムではありませんが、『九井諒子ラクガキ本 デイドリーム・アワー』(以下、「デイドリーム・アワー」)も作品のイメージを補って、理解度をアップさせてくれます。
中身は連載中に作者・九井諒子が描き溜めた、気晴らしのイラストやイメージを膨らますためのスケッチが中心です。ショート漫画もありますが「冒険者バイブル完全版」より比率はだいぶ低く、キャラクターを掴むためか、性格や反応がわかる本編に関係のないものばかりとなっています。
ただし、イラストも漫画も本編に関連しないからこそ出来る、『ダンジョン飯』キャラクターたちのさまざまなシチュエーションを見られるのは「デイドリーム・アワー」ならでは。クリスマスイベントや現代をモチーフとしたやりとりは、見ていて非常に楽しいです。
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また「デイドリーム・アワー」が初出のキャラクター情報、背景を描いたショート漫画も少なくありません。ちょっと面白かったのはカカとキキの由来。冗談めかしているので本編に反映されているかは不明ですが、資金繰りや倉庫代わり、突発救助パーティで適当にキャラクターを作成して放置することがよくある『Wizardry』ネタと思われます。
ちなみに「デイドリーム・アワー」と「冒険者バイブル完全版」に重複するイラスト、資料、漫画は1つもありません。ただ割合としてはイラストが多く、『ダンジョン飯』ではない作者の個人的なスケッチもあるので、本当に『ダンジョン飯』のキャラクターが好きな人以外にはおすすめしづらいです。
「冒険者バイブル完全版」は作品の世界観全体をまんべんなく深掘りする一方、「デイドリーム・アワー」はキャラクターのイメージを膨らませてくれます。副読本としては「冒険者バイブル完全版」をメインにして、「デイドリーム・アワー」で補う形がおそらく正解。
『ダンジョン飯』待望のTVアニメが2024年1月4日からスタートしました。本稿執筆時点ではまだ第1話しか放送されていませんが、完成度は期待以上でした。
キャラクターの造形は原作中盤以降の作画に準拠しているものの、見慣れているのでむしろ違和感はありません。ストーリーは原作のままなので、「ライオスたちが動いている!」と感動しました。
原作をすべて読破したあとで、改めてアニメで最初から見ていくと色々感慨深いものがあります。ライオスは最初から最後まで狂っていたんだなとか、チルチャックの面倒見の良さが3姉妹の父親だからなんだなとか、マルシルの命へのこだわりとリアクション芸の面白さなどなど……。
原作未読の方が始めて『ダンジョン飯』に触れるのにちょうどいいですし、原作ファンが再度楽しむのにも最適のアニメ化と言えます。
アニメ第1話は原作の第1~2話の内容でした。仮に1エピソードで原作2話分を消化するペースと考えた場合、単純計算して2クールの放送で原作50話前後(巻数換算でだいたい第8巻)まで進むことになります。オープニングの映像にカブルー一行やカナリア隊、翼獅子がちらりと映ることから、その辺りまでは映像化されると考えて良いでしょう。
原作は第97話で完結したので、もし最後までアニメになるなら追加で2クールが必要です。今回のアニメが大成功すればいずれ第2期がある……かも?
とはいえ先のことを今から考えても仕方ないので、まずは目の前に供されたアニメ『ダンジョン飯』を存分に楽しむことに致しましょう。
アニメ『ダンジョン飯』は2024年6月に無事、2クール分の本放送が終了しました。TRIGGER担当ということで期待されたアニメ化でしたが、想像以上に素晴らしいクオリティでした。
映像化された範囲はおおむね予想通りで、第8巻の前半までの内容。原作の「ダンプリング」と「ベーコンエッグ」に沿いつつ、第1期総括と次期への展望をオリジナルの描写で行って締めてくれました。
アニメ版はほぼ忠実に作られており、近年のほかのアニメ作品と比べてもかなり高い水準でした。放送時間の都合上カットされた場面はあるものの、ファンが「絶対に見たい」と望んだシーンはしっかり力を入れて制作された印象です。あまり目立ちませんが、アニメでの追加描写もいくつかあって素晴らしい出来映えでした。
唯一アニメ版で残念だったのは、単行本のオマケ漫画「モンスターよもやま話」がほぼまるごとカットされたことですね。いくつかの要素は盛り込まれていましたが、本編で語り足りなかった部分を補うパートなので、可能な限り本編に落とし込んで欲しかったです。全体的に良く出来ていたからこそ、上手く料理して欲しかったと感じる贅沢な不満点。
アニメはカブルーがサブ主人公のようになり、カナリア隊がいよいよ本格的に本編に絡んでくる……というところで終わりました。そしていやが上にも続編への期待が高まる中、最終話放送終了と同時に第2期の制作が公式発表されました。
第2期の詳しい放送時期は今のところ未定です。タイミング的に最初から決まっていたのは間違いないため、スタジオTRIGGERが現在も続けて制作を進めているとすると、早ければ半年から1年ほどで放送されるのではないでしょうか。遅くとも1年以内にはなんらかの続報が出ると思われます。
アニメ第2期の放送期間はおそらく第1期と同じ。ストーリーはだいたい原作の半分まで進んだので、第1期最終話の続きから完結まで一気に描かれるはずです。
続編制作は嬉しい一方、詳細がわからないのはもどかしいものがあります。待ちきれないかたは原作漫画『ダンジョン飯』や、各配信サイトで公開中のアニメ第1期を反すう……もとい、振り返ってはいかがでしょうか。第1期最終回の続きは原作第8巻から読めるので、アニメから入ったかたもこの機会にぜひ。
クライマックスに向けたジェットコースターのような展開に目が回りますが、1つ1つはここまで作品のテーマとして丁寧に積み上げられてきたものばかり。続巻が出るまで首を長くして待ちつつ、既刊を読み直したり本記事で振り返って、『ダンジョン飯』の世界に浸ってはいかがでしょうか。
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