嵯峨景子の『今月の一冊』|第二十五回は『もっと調べる技術』|"ググる"以外のプロの調べ方を身に着けろ!

更新:2024.7.29

少女小説研究の第一人者である嵯峨景子先生に、その月に読んだ印象的な一冊を紹介していただく『今月の一冊』。25回目にお届けするのは『もっと調べる技術』です。調べ物の歴史を変えたヒット作の続編の魅力や、スマホ時代だからこそ必要な検索の技術の大切さを語っていただきました。

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「嵯峨景子の今月の一冊」、第25回です。今月は2024年6月刊行の小林昌樹『もっと調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス2』(皓星社)をご紹介します。

著者
小林 昌樹
出版日

 大好評を博した前著『調べる技術』は、国会図書館で15年にわたってレファレンス業務に従事した著者による、調べ物をする際の実践的な技術、さまざまなレファレンス・チップスを紹介した本でした。本書は大きな話題を呼び、一年で8刷3万部を突破するヒットとなりました。

版元の予想を超える売れ行きをみせた『調べる技術』。その理由として、続編『もっと調べる技術』第4講の中で、「スマホが普及し『検索』が日常になったからではないか」と推測されています。「調べるニーズが増大し普遍化しつつあるのに、調べる技術は偏在している。その格差を埋める働きが拙著に期待されたのだろう」という言葉の通り、『もっと調べる技術』では14章にわたってさまざまなレファレンス・チップスが解説されています。

『もっと調べる技術』の冒頭でも触れられているように、前著が出た2週間後、日本の調べものの歴史において劇的な変化が起こりました。国会図書館のデジタルコレクションの公開が拡大され、これまではわざわざ国会図書館まで行かないとできなかった戦前期の調べものが、自宅から簡単にできるようになったのです。本書に登場する「みんなの家の隣に帝国図書館が建った」というパワーワードからも、この衝撃が伝わるかと思います。

その経緯と具体的な変化を解説した「第1講 NDLデジタルコレクションは国会図書館のDXである」は、この本の中でもとりわけ印象に残ったパートでした。図書や雑誌の撮影を行ったものの、著作権処理がなかなか進まない状況の中で、変化のきっかけとなったのは皮肉にもコロナ禍でした。国会図書館を使えなく困った人たちが声をあげたことで、議員たちが動いて著作権法改正への道が開け、2022年末からネットの公開範囲が格段に拡大されたのです。150年分の本が続々とデジタル化され、今後は順次公開範囲が広くなるであろうNDLデジタルコレクションに今後も期待したいところです。

前著同様、『もっと調べる技術』も興味のある個々の章から読める本に仕上がっています。今回は私自身の興味関心と重なるパートを中心に内容をご紹介します。

第7講は「推し活!――アイドルを調べる」。多くの人が知るように、推し活の中でもアイドルはとても人気の高いジャンルです。それゆえアイドルに関する調査のニーズは高いにもかかわらず、実際に調べようとすると難しく、知識やテクニックが必要になります。この章ではアイドルとしても活躍していた俳優の木村佳乃を具体例として取り上げながら、アイドル研究に使えるデータベースを探っていきます。「NDL人文リンク集」掲載のさまざまなデータベースを検証したうえで、アイドルに関する調べものではWikipediaが使えるという結論が出ていたのが個人的に興味深かったです。Wikipediaのメリットとデメリットを理解したうえで、うまく活用していく必要性を感じました。

第8講「小さなお店の歴史を調べる」で紹介されているインターネットアーカイブを検索する手法も、今後使っていきたいレファレンス・チップスです。紙と異なり、デジタルでは情報が簡単に消えてしまいます。かつてあったホームページやサイトが閉鎖されても、URLがわかればインターネットアーカイブの「ウェイバックマシン」で部分的にでもデータが見られるというのは大きな学びでした。

同じように、第13講「「ナウい」言葉が死語になるとき」で紹介されているある言葉の使われはじめた時期と、使われなくなった時期を調べる手法も、今後の仕事で使えそうなテクニックです。言葉の長期トレンドを探るときに使えるツールとして、有料のデータベース「ざっさくプラス」があります。これに加えて、2022年に国会図書館が開発した日本語版の「NDL Ngram Viewer」なる新しいデータベースが出来ていたことは、この本を通じて初めて知りました。

著者がたびたび繰り返しているように、調べ物で重要なのは個々のツールを憶え込むことではありません。使っているデータベースやツールがある日忽然と消えてしまうのは、デジタルの時代にはままあります。そんな時でも困らないよう、他にどんなツールがあるのか、どのような手順で調べものをするのかを憶えていくことこそが重要なのです。データベースの具体的な使い方を説明する画像もたくさん掲載されており、きわめてわかりやすく実践的。帯にあるように、「検索スキルをあげたいすべての人へ」届いてほしい一冊に仕上がっています。

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小林 昌樹
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