「はぁ腕が痛いわ…」
「あなた、駅前の魚屋さん、ご存知?」
「私昨日から腕が痛むの。あの魚屋さんの壁って水色のタイル張りじゃない?あの冷たそうな壁に腕を押し当てて冷やしたら、ちょっとは痛みが引きそうな気がしない…?」
「これからその魚屋さんの壁に腕を当てに行くの。ついでに今晩の魚も買うつもりよ」
「あら。あなた綺麗な模様の傘を持ってるのね。ちょっとそれ広げて、私に見せてくれない?」
「思ったよりも強い模様ね。ありがとう。もういいわ」
「そう言えばあなたね、夜ベッドについて、眠るために目を瞑ったとき、瞼の裏に何か、模様みたいなものが見えることないかしら?」
「私には毎晩のように見えるの。でもあれってね、その模様がどんな模様だったかを、誰かに説明できる代物じゃないのよ」
「模様って言ってもね。私たちが普段目を開けている時に扱っているような模様とは、そもそもの理が違っているらしいの」
「でもあの模様は、今日生きた一日や、それよりも前から続いてきた私たちの人生と、実際には地続きのものらしいのよ」
「あの模様は残像。自分の人生の後ろ姿」
「『第三の目が視る日常』」
「その模様の事をね、TikTokスラングではそう言うらしいの」
「その人の人生のね、重要なものが、その時々で映し出されているのよ」
「今日の瞼の裏には、いったい何が映ってくれるのかしら」
「ああ。あなたの人生の中で、本当にめぼしいものは、いったい何なのかしらね」
「腕が痛むわ。雨、早く止んでくれると良いんだけど」
「嫌ねぇ」
※お婆さんはそう言うと、自分の傘を開いて、再び雨の中へと消えて行きました。
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