恋愛漫画の多くは現代を舞台としていますが、人がいる限り恋愛感情は発生するもの。環境が違えば、現代とは違う恋の悩みが発生するもので、それが物語の中核をなす味付けになったりもします。そこで今回は恋愛ファンタジー漫画をランキングでご紹介します! スマホアプリで無料で読むこともできるので、気になる方はそちらもどうぞ。
田舎の村に住む香蘭(こうらん)は、薬師をしている老人、通称「じっちゃん」に育てられた孤児です。貧困と餓えに苦しむ村を助けるため、王宮に忍び込んだ香蘭は、酷いけがを負った青年を拾います。
見捨てることも出来ず、隠れて青年、志季(しき)の手当てをしてあげる香蘭。そんな時、世間では皇子暗殺の噂が流れていました。もしや志季は皇子を暗殺しようとしたのか、と疑いの目を向ける香蘭は、志季を捕まえて差し出そうか、そのまま逃がそうかと悩み始めます。
実はその志季こそが皇子でした。跡を継ぐことを嫌がっていたものの、香蘭に出会ったことで決意し、帝に即位。そこからどんどん物語は動き出します。
- 著者
- 仲野 えみこ
- 出版日
- 2009-11-05
この作品は元々1話読み切り用に作られていました。2話からの流れは帝となった志季の周囲で発生する事件を交えたストーリー。ですが全体的にはほのぼのとした雰囲気で展開されていきます。
帝としての冷徹な面もある志季ですが、初めてできた友人である香蘭にはデレデレな姿を見せます。自分は平民で、志季は帝でと身分の違いから遠慮する姿を見せる香蘭ですが、志季といるときはニコニコと笑ってとても可愛らしいです。帝として頑張る志季を支えるために薬の知識を増やすなど、努力を惜しまない姿は応援したくなります。
表紙だけ見ると幼女と大人のように見えるふたりですが、実際は香蘭のほうが18歳と年齢が1つ上であるというのも面白いところ。低身長を気にしつつも、一途に志季を想い、素直で可愛い香蘭。そして彼女をどうしようもなく可愛がってしまう志季の気持ちは読んでいて共感できるものです。だからこそ帝について回る争乱からは遠ざけようと苦心する志季の姿に、分かっているけどどうしようもできない、やきもきした気持ちを抱えてしまいます。
志季があまり本心を見せない性格のせいか、恋愛方面では少々香蘭が空回りする部分があります。しかし、自覚していないだけで志季が香蘭に対して特別な感情を抱いていることは丸わかりなので、ハッピーエンドを期待しながら、安心して読み進めることができます。
基本的にはゆるい雰囲気の中華風な国が舞台となっています。緊迫した展開よりは女の子同士の友情や、恋のライバルキャラクターが登場するなど、王道の流れとコミカルな展開が多め。内政や国内外の争乱といった要素も入ってきますが、ファンタジーと構えるのではなく、ゆったりとした気持ちでふたりの恋物語を楽しんでほしい作品です。
『帝の至宝』については<漫画『帝の至宝』が無料!中華風ファンタジーの魅力を全巻ネタバレ紹介!>の記事で紹介しています。気になる方はあわせてご覧ください。
大昔、天から来た白竜が巨大な力で国と王を守護していたという伝説がある国、サイルーンで物語は始まります。王女である火花は父亡き後、17歳で王位を継承するはずが、その座を叔父に奪われてしまうのです。
「王位を取り戻したくば古の王のごとく龍を従えてでも見せろ」という条件のもと、火花は龍が最初に舞い降りたという街に向かいます。そしてそこで、地上に置き去りにされた龍の一族の中でも変種の龍であるイサラに出会うのです。
- 著者
- 石原ケイコ
- 出版日
- 2014-03-05
天から来た白龍が「守護龍」となり、王を守っていたという伝説のある国が舞台。主人公の火花は奪われた王位を奪還し、かつての王の愚行とも向き合って行きます。まっすぐでひたむきな姿は応援したくなるヒロインです。
赤い姿を忌み嫌われ、地上に置き去りにされた龍のイサラと、異国の歌姫が母であり、城内に味方がいなかった火花の二人にはどこか似通ったところを感じます。守護龍と王女という立場の違いがある2人の関係が今後どうなっていくのか展開が気になるでしょう。
また話の中での伏線の回収がとても綺麗にまとまっています。これがそういう意味だったのか、と思わず納得してしまう箇所がいくつもあり読み進めるにつれてどんどん楽しめるのです。全3巻で完結しているので、読み始めやすい作品としてもおすすめします。
赤ずきんがトレードマークの魔女チャチャ。魔法はいつも思い通りに上手く出来ない、まだまだ修行中の魔女見習いです。師匠である世界一の大魔法使いセラヴィー先生、チャチャのことが大好きなオオカミ少年のリーヤ、世界一の称号を狙う魔女のどろしーとその弟子・しいね。チャチャを取り巻く、ドタバタ物語が繰り広げられます。
- 著者
- 彩花 みん
- 出版日
りぼんっ子だった方々は懐かしい!と感じるのではないでしょうか。アニメ化もされた『赤ずきんチャチャ』は学園コメディが楽しめる少女漫画です。序盤はチャチャの魔女試験である旅の物語。その旅が終わった後は、うらら学園という学園の中でのお話が中心となっていきます。
それぞれのキャラが可愛らしく、登場人物が増えるたびに面白くなってきます。ストーリーは恋愛要素はあまりなく、ついクスッと笑ってしまうようなコメディ中心にテンポ良く進んでいくので、男性や子供から大人まで幅広い年齢層の方が楽しめる作品です。
オークションに出品された15歳の日本人の少女・羽鳥智世(はとりちせ)は、ヤギの頭蓋骨のような仮面をかぶり、“エリアス・エインズワース”と名乗る不思議な男に競り落とされます。
しかし、これまで人とは違うものが見えるがゆえに疎まれていた智世は、自分がオークションにかけられていても競り落とされても全てどうでもいいと思っていました。ただ1つ願うことは、帰る場所が欲しいということ……。そんな智世を、エリアスは自分の弟子にすると言い放ち……。
- 著者
- ヤマザキコレ
- 出版日
- 2014-04-10
2014年より青少年向け漫画雑誌「月刊コミックブレイド」で連載を開始し、「まほよめ」の略称で親しまれています。
主人公の少女・羽鳥智世は、「夜の愛し仔(スレイ・ベガ)」と呼ばれる魔法的に特殊な性質を持っており、それは優秀な魔法使いになるための珍しいものでした。しかし、同時にその力は、智世に人とは違うものを見せ、そのために家族や周囲の人間から疎まれ続けてきた智世は、常に孤独と共に生きることを運命付けられたのです。
そんな智世の力を見初めて、智世を自分の弟子として、そして妻として迎えるために智世を競り落としたのがエリアスです。エリアスは異形の姿をした強い力を持つ魔法使いですが、智世に対しては紳士な態度を取ります。一方で、人間のことは嫌いらしく、人里離れたイングランドの田舎で世捨て人のような生活をしていました。
イギリスを舞台にした独特な世界観と、それを表現する絵が美しく、魔法や妖精などが好きな方は、内容はもちろんその雰囲気だけで楽しむことができる作品です。反対に、詩的な雰囲気や幻想的な世界などに馴染みのない方は、物語に入り込むまで少し時間がかかるかもしれません。
「人外×少女」と銘打たれているように、エリアスと智世の恋愛要素もありますが、こちらも世界観と同じように、どこか幻想的でプラトニックな関係が描かれています。現実を舞台にした人間同士の恋愛とは一味も二味も違う恋愛模様は、ファンタジーだからこそ描かれるものでしょう。冊数を重ねるほどおもしろくなっていくので、ぜひ読み続けてみてください。
『魔法使いの嫁』については<『魔法使いの嫁』を13巻まで全巻ネタバレ紹介!人外恋愛漫画に胸キュン!>の記事で紹介しています。
高校生のトキは、施設にいる祖母が抜け出したとの知らせを受け、慌ててある場所に走って向かっていました。あまりに急ぐあまり、トキは途中で自転車を盗んでしまいます。
そうまでして向かったのは、埋め立て予定になっている池。ゴミだらけの汚いそこにはとても生き物が棲んでいるようには思えませんでしたが、トキの祖母は、金魚を助けないといけないと池に入ろうとしていたのです。トキは祖母をなだめようとしますが、痴呆になってしまった祖母はトキのことがわかりませんでした。
後を施設の人に任せ、一人その場を後にするトキでしたが、そこへ自転車を探しに来た少女が飛び付いてきて……!?
- 著者
- 佐原 ミズ
- 出版日
- 2012-11-20
透明感のある不思議な世界観に定評のある作品で、内容とそれを支える絵柄の両方の完成度はとても高いものになっています。
タイトルにもなっている夜(いつや)さんは、主人公ではありません。主人公はトキという少年で、彼には痴呆になってしまった祖母がいます。物語の冒頭はそんな祖母に対するトキの想いが全面に押し出されており、その切なさや複雑さ、そして優しさに引き込まれる方も多いでしょう。
そして、そんな少年・トキの学校へ美術教師として赴任してきたのが、夜さんです。夜さんは美術教師なのに絵が下手……という特徴を持ったキャラクターなのですが、彼女の一見すると下手な絵には、ある秘密があります。それは、夜さんが自分の絵に息を吹きかけると、不思議なことが起こるというものです。
物語は、そんな不思議なことが起こる夜さんの絵とトキを中心に進んでいきます。ファンタジックな設定もありますが、どこにでもある日常の中の感動や思いを切り取ったような雰囲気は、読者の心を静かに揺さぶってくれるでしょう。心が温まったり、思わず涙が出そうになってしまったりする癒しの漫画を読みたい方は、ぜひ一度、手に取ってみてください。
人が空に浮かぶ陸で生きている世界。しかし、空には竜魚(りゅうぎょ)と呼ばれる巨獣が棲んでおり、人々は限られた空間でしか生活することができませんでした。
そんな竜魚から人々を守る衛士(えいし)の少年・ユウは、機械の少女・あせびと共に旅をしています。ユウ達の旅の目的は、人類が最も栄えた時代であるウォルデシア時代の遺産を見つけることなのですが、それはとても大変な旅路で……。
- 著者
- 梅木 泰祐
- 出版日
- 2014-09-13
空に浮かぶ陸で生きる人類、そんな陸を結ぶ空飛ぶ船や、人々の脅威となっている竜魚と呼ばれる生き物など、ファンタジーの王道と言っても良い設定と世界観でしっかりと固められた物語です。RPGなどのゲームを想起させる部分や設定に既視感を覚えることもありますが、だからこそわかりやすく、物語の序盤から世界に入り込みやすくなっています。竜魚との戦闘シーンなどは迫力もあり、少年漫画的なワクワクを感じることもできるでしょう。
主人公のユウとヒロインのあせびが、ある目的を持って旅をするというストーリーも非常にわかりやすく、普段からゲームやファンタジー作品を楽しんでいる方はもちろん、それほど馴染みのない方にとっても読みやすい作品になっています。
また、ユウやあせびをはじめ、登場するキャラクターはいずれも個性的で、王道ストーリーにオリジナリティを与える一因となっています。王道ならではの楽しみと、個性的なキャラクターの面白味の両方を味わえるので、ファンタジー漫画の入門編としても良いかもしれません。
夢子は、可愛らしい容姿の女の子ですが、家は年季の入ったボロい三日月団地。自分の理想やイメージと合わないそこを、夢子は「ウルトラハイパー」が付くくらい大嫌いでした。
ある日、夢子は回覧板を屋上に住んでいる管理人の元へと届けるように母親に言われます。渋々向かった夢子でしたが、屋上はまるで森のように木々が生い茂る場所でした。驚きつつも奥にある家を訪ねた夢子の前に現れたのは、魔女を名乗る男の子で……!?
- 著者
- 小森羊仔
- 出版日
- 2016-04-25
可愛らしい絵とコミカルなストーリーが見事に絡み合ったメルヘンチックな作品です。
主人公の夢子は、自分の住んでいるボロい団地が大嫌いで、いつかお姫様のような理想の暮らしをすることを夢見ていました。反面、家の中ではパンツ姿でゴロゴロしたり部屋は散らかり放題だったりとだらしない性格で、自ら理想から遠ざかっているところもあるワガママな女の子です。
そんな夢子が回覧板を返しに行ったことをきっかけに知り合ったのが、管理人の木陰くんで、彼は男ながら魔女を名乗る不思議な男の子です。彼は一人前の魔女になるための儀式・オルギアが、悪魔とHすることだと知り儀式から逃げてきたので、魔女としてはまだ半人前でした。
主人公の夢子は文句も多くワガママなところも目立ちますが、それで嫌な印象になることはありません。それは、夢子のワガママが思春期らしい共感の持てるものであることに加え、夢子自身に、相手の意見を聞き入れ自分自身で反省できるなど、素直なところがあるからでしょう。
そんな夢子とは対照的に、草食系で大人しいタイプの木陰くんですが、ふとした拍子にしっかりとした言動をして、結果として夢子を導くこともあり、頼もしさを感じることもできます。その後、彼と契約を結びたい悪魔や夢子の友達などもストーリーに絡み始め、物語はドタバタなラブコメディへとなっていき、笑いも癒しも両方を味わえる作品です。
歌う樹が護る街・エカリープ。エカリープ領主の息子であるDX・ルッカフォートは、護衛役で幼馴染のニンジャ・六甲とともに、父の友人のオズモが持ってくる見合い話から逃げていました。
魔の山の火竜を退治したという冒険譚の残るその町の丘には、歌を歌う樹があります。実はその樹には、暴走し暴れる火竜をその歌で封じたという洞詠士(フースルー)・マリオンが宿っていました。
幼い頃から、密かにマリオンへ想いを寄せていたDXは、彼女を救うために竜退治を決意するのですが……。
- 著者
- おがき ちか
- 出版日
- 2003-03-26
「ランドリオール」と読む本作は、女性向け漫画雑誌「コミックZERO-SUM」で連載されている作品です。コミックスは29巻発売されている(2017年6月現在)長編ファンタジー漫画になっています。
主人公のDX・ルッカフォートは、エカリープ領の公子であると同時に、アルトニア王国の第4位王位継承者でもある少年です。マイペースで掴みどころのない少年ですが、凄腕の双剣使いであった母や武勲に秀でた将軍の父から譲り受けた武術は、誰もが認める強さを誇っていました。
そんなDXの妹はイオン・ルッカフォートという15歳の少女です。彼女もまた武術に秀でており、3階の窓まで軽々と外壁を上ってしまうなどとても身軽に動くことができます。しかし、兄と同様にエカリープ領の公女でもある彼女のそんな行動は、時におてんばだと周りを呆れさせることもありました。
他にも、2人の護衛役であるニンジャの六甲や樹に宿っているマリオンなど、様々なキャラクターが登場します。
設定はいわゆる異世界が舞台のハイファンタジーですが、設定の説明でわかりにくくなってしまったり、数多くのキャラクターが混同してしまったりするようなことは全くありません。ファンタジーが苦手な方の中には、物語に入り込めないからという方もいると思います。
しかしこの作品は、ファンタジーが舞台というだけで、キャラクターの気持ちがしっかり描かれているため共感しやすく、自然と物語に入り込むことができるでしょう。普段、ファンタジー作品をあまり読まない方にこそ、ぜひ手に取ってもらいたい作品です。
十二単に水干、冠。御簾越しの会話や香、色合わせで雅を競う。日本で生まれた文化という割に、あまりにも時代が遠く、また幻想的な雰囲気を漂わせるために、どこかファンタジー的な要素を含んでいるのが平安時代です。氷室冴子原作、山内直美がコミカライズを担当している『なんて素敵にジャパネスク』は、原作小説が1984年に発売されて以降、多くの世代から愛されています。
- 著者
- 山内 直美
- 出版日
- 1989-04-01
藤原氏の流れをくむ、内大臣という高官の娘である瑠璃は、快活で明るい性格の少女です。この時代の女性が12、3歳くらいで結婚するのに対し、16歳で独身を貫いています。女性関係に拙僧のない父親や、初恋の相手が忘れられないという理由から断固結婚拒否の死背を貫いている瑠璃。そんな彼女は明晰な頭脳と思い切りの良い性格のキャラクター。その持ち前の個性を活かして事件に首を突っ込んでいきます。
そんな瑠璃の面倒を見ているのが高彬(たかあきら)。真面目さを周囲にからかわれるほど彼女のお役目一辺倒で、四角四面な性格をしています。瑠璃とは幼馴染で、実は小さな頃から一途な想いを寄せており、その点からも瑠璃を放っておけないのです。
物語は宮廷を舞台に、陰謀や事件を瑠璃が解決していくという流れになっています。その過程で平安時代の貴族の暮らしや、社会システムがわかりやすく解説されているため、社会が違いすぎるが故、物語に入り込めない、ということは少ないでしょう。役職名が若干覚えづらいところもありますが、キャラクターが身分を心得ているため、礼を尽くしている相手は身分が高いのだな、という程度の知識でも問題なく読み進めることができます。
外に出たことなどない、真相の令嬢としての生活もあったはずなのに、才気煥発であるが故どんどん事件に首を突っ込んでいく瑠璃。彼女の性格や感覚はより現代的ではありますが、高彬との結婚が決まった際に平安時代に暮らす貴族の一面をのぞかせる場面があります。
「右大臣家の四男だし……まだマシかも」(『なんて素敵にジャパネスク』より引用)
打算的な意見を見せているところに、瑠璃もやはりその時代の人なのだな、と平安時代の社会の寂しさが垣間見えます。
結婚を否定していた瑠璃が変わっていく姿も楽しい平安ラブコメディ。事件が多く謎解きやサスペンス要素でも物語が盛り上がります。
濃いキャラクターたちも魅力的ですが、実は意外ににモテる瑠璃の恋模様も見どころの一つ。『なんて素敵にジャパネスク人妻編』では結婚した瑠璃と高彬の生活を覗くことができますが、一人の人をめぐる戦い、恋の鞘当てなども楽しむことができます。平安ラブコメと言えばここからでしょう、という定番作品。平安時代の事を楽しく学ぶことも出来る良作です。
前世は何だったのだろう、と考えることはありませんか。今世の前には別の人生があった、という考えは根強く支持されており、特に占い好きの女性の多くは前世や来世の存在を信じているのではないでしょうか。
実はその前世ブームを引き起こしたとも言われるのが本作品。そして長い時を超える、というドラマチック性からか、転生や前世というワードは今でも創作で人気のワードのひとつでもあります。
- 著者
- 日渡 早紀
- 出版日
日渡早紀『ぼくの地球を守って』は、前世の記憶や因縁に縛られた、男女の物語です。高校生女子と小学生男子の年の差要素を含んでいますが、前世の因縁やいたずらっ子で自身の感情を暴走させがちな小林輪の存在のせいか、年齢差萌えといった要素は少々薄めです。本作品は現代を舞台にしたSFファンタジーであるという点が最大のポイント。前世と現世が交差するストーリーに引き込まれます。
北海道から転校してきた坂口亜梨子(さかぐちありす)は、内気な性格の高校1年生。小さな頃から植物の感情を理解する力を持っており、不思議な歌声を持っています。偶然同級生の小椋迅八(おぐらじんぱち)と錦織一成(にしきおりいっせい)の会話を聞いてしまい、前世の夢の知識を得た亜梨子。何かと悪戯をして付きまとう隣の家の小学生、輪がベランダから誤って転落した事件をきっかけに、自身の前世を軸とした事件に巻き込まれていきます。
夢を媒介に前世を思い出し、異星人だったという彼らの能力を発動させる。その展開にワクワクしますが、物語はその前世での生き方をなぞるのではなく、あくまでも前世と今世を分けて考え、それぞれとの向き合い方をどうしていくのかが焦点になります。
迅八や一成、前世の記憶を持つ仲間である国生桜などは前向きに記憶を受け入れるます。しかし前世で非業の死を遂げた輪は、前世での記憶に振り回され、今世でその恨みを晴らすかのように暗躍するのです。
今世では亜梨子と輪の恋物語も展開されますが、読者としては愛憎入り乱れた前世「月基地」での悲しい結末に胸を痛めることでしょう。暴走する輪や、その意識の奥にいる前世の記憶、紫苑が暴走する理由が理解できるだけに、時折どうしようもないやるせなさに苛まれるのです。
続編である『ボクを包む月の光』では、亜梨子と輪の間に子どもが生まれ、その子が主人公となった物語が展開されます。やはり前世を克服しきれない輪のトラウマが登場するなど、年齢や負った前世の記憶の影響が強さが伺える世界観。少女漫画としてはサスペンス的要素の強い作品ですが、世界観にのめり込める、こちらも一気読み必至のおすすめ作品です。
『ぼくの地球を守って』については<『ぼくの地球を守って』が全話無料で読める!名作SF恋愛漫画をネタバレ考察>の記事で紹介しています。
童話や昔話を題材とし、パラレル設定にしたり、原典とは関係のない新しい設定が付加されたりすることは、創作の世界ではよく見られます。中でも清水玲子『月の子 MOON CHILD』は、アンデルセンの童話『人魚姫』をモチーフに、独自のファンタジー設定を付加させたことで、良質の人外奇譚を生み出しました。
- 著者
- 清水 玲子
- 出版日
ニューヨークに住んでいるアートは、元天才バレエダンサー。車を走らせていたところ、飛び出してきた少年を助けようとして、事故を起こしてしまいます。少年ジミーは金髪碧眼の男の子。記憶を失っているジミーを、アートは引き取り、一緒に生活するようになります。
実はジミーはベンジャミンという名前の人魚族。遠い昔『人魚姫』と名の付けられた物語の当事者、セイラの子どもであり、子をなすために月から故郷である地球まで戻ってきた人物なのです。
本作は人魚族の特殊な生態と、『人魚姫』の物語がポイントとなります。『人魚姫』は人間の王子に恋をした人魚が、結局はかなわぬ恋に涙し海の泡となって消えてしまうというストーリー。
清水玲子はそこに新たなエッセンスを加えて物語を紡ぎました。実は『人魚姫』のセイラは消えてしまう前にベンジャミン、ティルト、セツという三つ子を残しており、彼らは母の犯した大罪をその身で償うために、純潔の人魚との生殖しか認められていないということにしたのです。
年齢を重ね、成人して女性体となったベンジャミンは、母の元婚約者であるショナとの子を産むように言われますが、事故に遭って記憶を失ってしまいます。
一方、ティルトはセツが気に入っており、セツを女性体として子を残そうと企てます。女性体となれるのは、3人のうち、1人だけ。卵巣を持たないのはティルトだけで、ベンジャミンが死ねば自動的にセツが女性体となります。記憶を失ったベンジャミンを、執拗に追いかけるティルト。ジミーとしてアートと幸せな生活を送っていたベンジャミンに、危機が迫ります。
人魚族の抗争に巻き込まれる中で、ベンジャミンを女性として愛するようになるアートとの、種族を超えた恋物語は、清水玲子の淡いタッチの絵と相まって幻想的な雰囲気を漂わせます。
女性体となる前の、人魚達の中性的な魅力にも惹きつけられる本作。原典では悲劇的な最期を迎えますが、ベンジャミンの恋は泡と消えることなく成就するのか。緻密に練り込まれたストーリーで読ませる現代のおとぎ話をお楽しみください。
『月の子』については<漫画『月の子』ラストまでの見所ネタバレ考察!無料で読める美しく悲しい物語>の記事で紹介しています。気になる方はあわせてご覧ください。
吸血鬼の父と狼女の母を持つ蘭世はいたって普通の女の子。隣の席のちょっと不良の真壁に夢中の毎日です。しかし、恋のライバル神谷とケンカして思わず噛みついた時、その相手に変身してしまう力が芽生えます。「人間に恋をしてはダメ」という両親や魔界を巻き込んで蘭世の恋は前途多難。その恋の結末はいかに……。
- 著者
- 池野 恋
- 出版日
- 2011-11-15
主人公の蘭世は素直で可愛く、真壁は典型的なキザといった男の子、まさに王道ラブコメディにふさわしい主人公の2人です。徐々に距離が近づき、結ばれそうで結ばれない純愛には思わずキュンとしてしまいます。
最初こそラブコメディのようなストーリーですが、だんだんと魔界を巻き込んだシリアスで壮大な物語へと変わっていきます。一度読み始めたらどんどんとハマっていくこと間違いなしです。
80年代の作品でありながら、未だ古さなど全く感じません。世代を超えて楽しんで頂ける少女漫画です。全巻では3部作になっており、サイドストーリーやその後の展開も楽しめます。
少女漫画に限りませんが、異世界トリップとタイムスリップものというのは根強い人気のあるジャンルです。特に現代の知識や技術を駆使して万能になってしまう、いわゆる「チート展開」になる作品が多く、安心して主人公の冒険を楽しむことができるところも人気の理由なのでしょう。
- 著者
- 篠原 千絵
- 出版日
しかし、篠原千恵『天は赤い河のほとり』は、チート展開からは無縁の作品です。主人公の鈴木夕梨(通称ユーリ)は、タイムスリップしたとたん呪術の生贄として殺されそうになりますし、戦場に出るため頻繁に命の危険にさらされています。現代中学生だったはずなのに、その逞しさたるやまるで戦いの女神、イシュタルのよう。そして物語が進むごとに、更にその実力と貫禄を磨いていくのです。
高校進学を決めたユーリは、ボーイフレンドである氷室とのデート中に突然水たまりの中に引きずり込まれてしまいます。たどり着いた先は、古代オリエントの強国、ヒッタイト。現代でいえばトルコ近郊、中東を中心に起こった大国です。
紀元前14世紀になぜタイムスリップさせられたかといえば、皇位継承争いの呪術に使用する生贄として使用されるため。命の危機に宮廷内を逃げ惑ったユーリは、その途中で次期王位継承者と目されているカイルと出会います。
元の世界に帰るために奮闘するユーリでしたが、カイルの政的であり、ユーリを呼び寄せた張本人でもある皇妃ナキアの策略により上手くいきません。刺客など物理的な手段もありますが、毒や流行り病に見せかけて殺そうとするなど、あの手この手でユーリの命を狙います。
次期皇として民を思いやる姿や、自分を助けてくれるカイルに接しているうちに、ユーリは彼の役に立ちたいと考えます。いつしか自身を示す異名となったイシュタルとして戦場に身を置くようになったユーリは、現代日本から遠く離れた地で強い輝きを放つようになるのです。
運動神経抜群で、色恋には疎く、少年っぽい容姿を気にしているユーリですが、飾り気のない性格が魅力。一方次期皇となるカイルは容姿端麗、知性と武にも秀でた皇子ですが、当初は女性関係にゆるいところを見せ、ユーリに反発されます。実は自身が皇となった場合は、大きな負担をかけてしまう皇妃一人を愛し抜くと誓っている、生真面目な一面も。だからこそユーリに惹かれているのになかなか本心を明かせません。ユーリもイシュタルとして認めてもらえれば、と健気なことを言いだしたりする、もどかしい恋模様を見せたりもするのです。
皇位継承が関わってくることもあり、ナキアの企ては、凄惨かつ陰湿。ユーリやカイルも幾度となくピンチに陥りますが、多くの人の支え、何よりふたりの絆で乗り越えていきます。古代オリエントはあまり馴染のない時代ではありますが、歴史の重要な流れのひとつ。ユーリたちの奮闘と、歴史の流れを見守ってみませんか。
受験生の夕城美朱とその親友の本郷唯は図書館の閲覧禁止の書庫で「四神天地書」を見つけます。ページをめくった時、2人は突然本の中へ吸い込まれてしまいました。
訳も分からずにいるところを、突然2人は人さらいの男たちに襲われます。そこを助けてくれたのが鬼宿(たまほめ)という青年でした。その後、すぐ現実世界に戻って来た2人ですが、母親と喧嘩をした美朱は再度本の中へ入り、なんと現実世界へ戻れなくなってしまうのです。
美朱は、本の中の国である紅南国を守るため、そして現実世界に戻るために願い事を叶えられるという伝説の朱雀の巫女となり、そのために必要な「朱雀七星士」を集める旅を始めます。
一方、美朱を助けに本に入った唯が敵国・倶東国の青龍の巫女となり、戦い合うことになってしまい、物語はどんどん深くなっていくのです。
- 著者
- 渡瀬 悠宇
- 出版日
美朱の仲間である「朱雀七星士」はそれぞれが強くてかっこよく、魅力的な登場人物です。一人ひとり抱えている過去や思いがあり、より思い入れてが深くなってしまいます。
美朱と鬼宿は、初めから惹かれ合いますが、様々な困難な思惑に惑わされ苦しむのです。2人のすれ違いに胸が苦しくなり、乗り越えるたびに強くなる絆と想いは涙なしでは読み進められません。
また、やはりキーパーソンは敵対している青龍の巫女の唯ではないでしょうか。彼女は騙され傷つき、美朱と敵対する立場を選びます。彼女の想いや敵対していくその様子は読んでいて苦しくなるでしょう。美朱と鬼宿の純愛の行方、紅南国と倶東国の行方、そして美朱と唯はどうなってしまうのか、最後までハラハラドキドキが止まらない作品です。
いかがでしたか? ファンタジーはあまり読まないという方も、恋愛要素が入ることで馴染みやすくなることもあります。恋愛とファンタジーの両方を楽しめる作品を、ぜひ手に取ってみてください。
『ふしぎ遊戯』については<『ふしぎ遊戯』白虎編が始動!朱雀・青龍、玄武開伝の見所を厳選して考察!>の記事で紹介しています。気になる方は要チェックです。