名作鬱漫画として多くの人を魅了する、浅野いにおの『おやすみプンプン』。今回は読者の心に傷と感動を与える本作のあらすじと魅力をご紹介します。
- 著者
- 浅野 いにお
- 出版日
作者は、宮崎あおい主演で映画化された『ソラニン』でも有名な浅野いにお。同氏の代表作のひとつ『おやすみプンプン』は、2007年から「週刊ヤングサンデー」、2008年から2013年まで「ビッグコミックスピリッツ」で連載されました。単行本は全13巻で、累計発行部数300万部を突破しています。
本作の主人公は、まるで鳥の落書きのような風貌をした少年のプンプン。彼の小学生時代から中学、高校、フリーターとして社会に出たその後まで、ひとりの人生を描いています。
作品の特徴として、まずあげられるのが「鬱要素」。
さまざまな困難にさらされるプンプンは、ある時は強烈なトラウマを抱え、またあるときは成長しながら、衝撃の展開へと導かれていきます。しかし、『おやすみプンプン』はただ翻弄される主人公を眺めるだけの漫画ではありません。プンプンを取り巻く環境は決して特別ではなく、普遍的なもの。普遍的だからこそ、プンプンの苦しみは読者の胸にダイレクトに響きます。
読んだ人の心に傷と感動をもたらす本作の魅力はいったいなんなのか。この記事では物語の具体的な見どころと、ヒロインの田中愛子について、また名言をいくつかご紹介しましょう。
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物語は小学校5年生のプンプンと本作のヒロインである田中愛子との出会いから始まります。プンプンは練馬区から転校してきた田中愛子に一目惚れをします。一緒に将来の夢を語り、お宝を探して廃工場を冒険し、誰もいない体育館の真ん中ではじめてのキスをした彼女に、プンプンは運命を感じるようになりました。
ある日、見知らぬ親子が宗教の勧誘のためにプンプンの家を訪れます。そのあまりにしつこい態度に憤慨するプンプンの叔父の雄一。玄関先で始まった激しい口論にプンプンが様子を見に行くと、母親の後ろで深く帽子を被って佇む愛子と目が合ってしまったのです。
一番隠したかったことを知られてしまった愛子はその場から逃げ出し、プンプンは後を追います。追いつかれた愛子は「どこか遠くへ行きたい」と呟き、終業式の日に愛子の叔父がいる鹿児島の病院に2人で逃げようとプンプンに約束させます。しかし鹿児島へは行けないまま2人は疎遠となり、小学校を卒業してしまうのです。
この愛子の存在と「約束を守れなかった」という過去は、その後もずっとプンプンの胸に呪いのように残り続け……。
本作はとにかく鬱展開が続くので、次の日に支障をきたす可能性も。もちろん、その鬱要素やそれを乗り越えたところに本作の魅力があるのですが……。念のため、『おやすみプンプン』を読むのは「休日の前日」をおすすめします。
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本作の軸となるのはプンプンという1人の少年の成長譚です。恋愛や性への目覚め、家族間の悩みなど、一見王道的な思春期を過ごします。
しかし、それだけでは「鬱漫画」とはいえないでしょう。
本作では、プンプンの身に降りかかる波乱や胸に残された傷跡、そしてそんな状況でもがくプンプンに、まっすぐに焦点を当て続けることでどうしようもなく鬱々とした気分にさせられるのです。
そこで、本項では『おやすみプンプン』の主人公プンプンの人物像について考察します。
プンプンが愛子に恋をした次の日、プンプンの父親は喧嘩の末に母親にケガを負わせて入院させてしまいます。めちゃくちゃになったリビングで、「大変だプンプン。強盗が来てママを襲った」「信じてくれるよね?」とプンプンに言い聞かせる父。このとき、プンプンが具体的に何を思ったかは描写されていません。しかし、この一件からプンプンは父と離れ離れになり、母が退院するまでは叔父の雄一と過ごすことになりました。
そして、愛子とキスをした約1か月後。プンプンの家を新興宗教の訪問販売の親子が訪れました。そのとき、プンプンは母親の後ろで帽子を深く被って佇んでいる愛子を見つけてしまうのでした。
これは、まだ小学生の幼いプンプンが抱えるには重すぎる苦難といえます。プンプンはこれらの出来事を理解も消化も出来ず、やがて事態は収束を迎えました。しかし、これらの出来事は幼い彼に「家族」の大切さを見失わせるには十分でした。
中学、高校ともにどこか傍観するような視線で周囲を眺めていたプンプンは、あまり人と関わり合いにならない学生生活を送ります。唯一恋愛に発展しそうになった女の子がいましたが、その子とデートをした日は、なんと母親のガンの手術日。「普通はお母さんのそばにいてあげる」と指摘されても、「家族の大切さ」という価値観に歪みのあるプンプンにはピンときません。
そういったプンプンの自覚のない冷たさに失望したその子は、衝動に駆られて体を求めるプンプンにビンタ。プンプンの前から去ります。幼い頃に壮絶な体験をしてしまったプンプンと価値観を共有できる人間など、彼の周囲にはいなかったのです。
しかし、高校を出てフリーターとなったプンプンは、ある日乗っていた電車から愛子の姿を見つけます。彼にとっては小学校の頃から心のどこかで思い続けてきた相手で、自分に似た価値観の中で生きているはずの女の子。
駅へ戻って愛子を探すも見つけられなかったプンプンは、その後2年の間に愛子を見つけられず自分の状況が今と変わっていなかったら自殺しようと決めたのでした。
プンプンという人物は、多くの人と同じように、恋愛や性への目覚めを体験し、家族間の悩みを抱えながら思春期を過ごします。そこにいくつかの不運が舞い込んだだけで、彼は最初から最後までどこにでもいる普通の少年です。そんな彼だからこそ、多くの人の共感を呼び、リアルな痛みを感じさせるのでしょう。
田中愛子は小学生の時、転校生としてプンプンの前に現れます。大きな口を開けて笑う顔がとても魅力的でプンプンもあっと言う間に恋をし、彼が想いを告げたことで通じ合った2人はキスをしました。
実は彼女は転校前の学校で、母親の熱心な宗教活動のせいで周囲に気味悪がられ、居場所を失ってしまったという過去がありました。
彼女がプンプンの好意に応えたのは、自分に向けられるプンプンのまっすぐな気持ちに「何があっても自分を裏切らない」「自分を母親の元から連れ出してくれる」という期待をかけたからです。そのため母親が熱心な新興宗教家であることがバレた愛子は、プンプンに「一緒に叔父のいる鹿児島へ行こう」と、半ば強引に約束させます。
「他人がどうなろうと、プンプンさえいてくれればそれでいい!」「プンプンは私のことが大好きだよね?ずっと私の幸せを考えていれくれるよね?」「もしこの約束を破ったら、今度は殺すから」
この「田中愛子」という存在と、彼女が放つ強烈でストレートな言葉は純粋な少年のプンプンを縛り付け、彼を苦難へと導く最も大きな要因となってしまったのです。
プンプンと愛子は同じ中学校へと進学します。疎遠になってもなお、愛子のことを忘れられずにいるプンプンでしたが、ある日所属するバトミントン部の先輩・矢口と愛子が手を繋いで歩いているところを目撃してしまいます。
自分のことは忘れ、矢口との恋を謳歌している愛子を想像して落胆するプンプン。しかし、矢口から「お前の話をしたら、田中が泣き出してしまった」という話を聞かされるのでした。プンプンと愛子との間に何かあり、そのせいで愛子の気持ちが自分に向き切らないのだと踏んだ矢口はプンプンに「次の試合で優勝したら、田中は一生自分のものだ」と宣言します。
しかし、そんな矢口の言葉は愛子の胸に少しも響いていません。「1人で盛り上がっててバカみたい」と無表情で言い、足を痛めながらも懸命に勝利しようと奮闘する矢口のことをギャラリーから、プンプンと手を繋いで傍観します。
愛子は甘酸っぱい恋愛なんてこれっぽっちも望んでおらず、相変わらず自分を自由にしてくれる相手を待っていたのです。そして、その期待は小学生の頃と変わらずプンプンに向けられているのでした。
スポーツに青春を捧げ、愛子からはまぶしく輝いて見える世界にいる矢口と、暗く苦しい日々を凌ぐように過ごしている愛子はまるで別の世界の人間。その愛子がプンプンの手を取るシーンは、愛子が「プンプンは自分と一緒」と暗に示しているかのよう。
小学生の頃の鹿児島に行く約束を守れなかったことを謝るプンプンを笑って許し、「じゃあ今からいこう!」と楽しげに誘う彼女は、プンプンに恐怖と重圧を与えます。
プンプンは彼女の真剣な申し出をはぐらかすように断りますが、その「また約束を破ってしまった」という罪悪感と、彼女の真意を知りながらも結局逃げてしまった自分に不甲斐なさを覚え、それ以来ふさぎ込んでしまい、ただひたすらに勉強にうちこむ中学生活を送ることになったのです。
それから、2人が再開するのは高校を卒業したさらに数年後。たまたま同じ自動車教習所に通っていたのです。その時のプンプンは1人暮らしのフリーターで「もう一度愛子に会う」以外は特に目的のない生活を送っていましたが、見栄を張り、自分を大学生だと偽ります。一方、愛子はかねてからの夢だったモデルになれたと言いました。
しかしプンプンの経歴が嘘だったように、愛子の職業もまた嘘。愛子は、本当は身体が不自由になった母に精神的・肉体的な暴力を受けながら、親戚の元で働かされていると暴露します。
数日後、虐待によって顔に痣を作っていた愛子。それを見たプンプンは、どん底を這うような暮らしが待ち受けていると承知で、彼女と2人で暮らすことを決めました。 2人はその承諾を得るため、愛子の母親に会いに行きます。
はじめはまるで興味がないといった態度で愛子の話を聞く母親でしたが、今まで自分の言いなりだった愛子の反抗する姿に怒り狂い、手に取った包丁で愛子の腹部を突き刺します。 そんな母親に飛びかかって力一杯首を絞める愛子。そして、自分の手の下で動かなくなった母親を見て、この街にはいられなくなったことを悟ります。
そしてついに、2人は遠い昔に約束した鹿児島へ向かったのでした。
小学校の頃の思い出などを語りながら穏やかな時間を過ごす愛子とプンプン。まさか人を殺してきた2人には見えない平和な様子でしたが、山中に埋めた母親の死体が発見されたニュースを見て、一気に緊張感の中へと引き戻されます。
その後も人目につかない場所で隠れるようにして過ごしていましたが、あてにしていた愛子の叔父の病院もなくなってしまっており、いよいよどうすることもできなくなったと判断したプンプンは出頭しようと提案します。
ここで、愛子はまた小学校の思い出を語るのでした。プンプンとキスしたこと、廃工場で星空を見上げたこと、プンプンのことをずっと好きだったこと。 出頭し、離れ離れの生活を送ることになっても、お互いのことを忘れずにいようと約束して、寄り添うようにして眠りについたのでした。
ここから先はかなりのネタバレになりますので、衝撃を生で感じたい方はまず原作を読んでからをおすすめします。
プンプンが目をさますと、隣にいたはずの愛子がいません。愛子はそばの廃屋で首を吊り、すでに絶命していました。彼女の亡骸をおぶったプンプンだけが、鹿児島での逃避行を続けます。
不自由なことの方が多かった短い人生のうちで、母を殺し、結局自分も自殺してしまった愛子。彼女がいなければ、プンプンはここまで複雑で歪な人生を送ることはなかったかもしれません。しかし、それと同時にプンプンの人生に希望と目的を与え、彼が孤独ではないことを教えてくれたのも彼女でした。
かつて自分に助けを求めていた愛子に、いつのまにか救いを求めていたのはプンプンの方だったのではないでしょうか。支配された環境の中で苦しみ、何もかもに絶望しながら生きている彼女の存在に依存することで、プンプンはこれまで必死に自分を保ってきました。
そして、そんな偏った価値観で身動きが取れなくなったプンプンは、彼女を失うことによって本当の意味で自由になったのです。その強烈な存在感と言動で主人公の人生を狂わせ、最後には救いとなったヒロイン田中愛子は、本作において最も重要な人物だと言えるでしょう。
それではここから、物語のなかで光る名言をほんの少しだけご紹介したいと思います。
- 著者
- 浅野 いにお
- 出版日
- 2013-12-27
小学生のプンプンたちは、将来の夢について書いた作文を朗読する機会がありました。この時「皆をメツボーから救う科学者になりたい」とプンプンは書いていましたが、いざ発表を目前に控えた時、バカにされるのが怖くなって教室から逃げ出してしまいます。そんな彼に愛子がかけた言葉がこちらです。
「みんなに馬鹿にされるのがこわかったんでしょ? そんなの勝手に言わせとけばいいの!! 他人の足引っ張るような奴なんて、絶対幸せになんてなれないんだから!!」
(『おやすみプンプン』1巻から引用)
そんな愛子の夢はアイドルやモデルとして活躍すること。「夢くらい自由にもっていい」と、胸を張って自分の将来を語る愛子。彼女の家庭の事情を知るとなんとも切なく、重みのある言葉となっています。
「失うものもなければ守るものもない 不安も葛藤も優しさも これが自分が求めていた理想だったんだ」
(『おやすみプンプン』13巻から引用)
これは、愛子を失った後のプンプンによる独白です。波乱に満ちた人生に疲弊し、唯一の心の拠り所だった愛子まで失った彼は喪失感に包まれていましたが、同時に「もう何もしなくていい」という安心感にも包まれていました。
これまで数々の苦難を経てやっと辿り着いた彼の平穏。それは、ずっと依存し続けた相手と決別することでしか得られなかったのかもしれません。
この他にも、胸に刺さる数多くの名言・格言が本作には詰め込まれています。ぜひ作品を手に取り、胸に刻みたくなる大切な言葉を探してみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 浅野 いにお
- 出版日
思春期特有のドロドロとした感情や、行き場のないフラストレーションを体験したことがある人は多いでしょう。本作はそんな感情を煮詰め、とことんまで絶望を描きながら、ほんのひとさじの光を見せてくれる物語です。
『おやすみプンプン』は「鬱漫画」という一言では決して片付けられない名作漫画です。痛いのにどこか温かいものがじわりと心に残るこの物語。ぜひ、読んでみてください。
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