日本映画を代表する映画『Shall we ダンス?』を世に送り出した映画監督・周防正行。これまで監督した作品は決して多くはありませんが、一つひとつの作品にこだわりを持ち、どの作品も私たちを楽しませてくれています。この記事では、周防正行が監督や脚本を手掛けたおすすめ作品をランキング形式で紹介します。
周防正行(すおまさゆき)は、1956年10月29日生まれ、東京都出身。身長は173cm。
野球と映画に夢中になった少年時代を送ると、立教大学文学部仏文科へ進学します。そこで、映画評論家の蓮實重彦との出会いをきっかけに自主映画を作り出すことに。高橋伴明や若松孝二、井筒和幸らの作品に参加し助監督として映画の世界へ飛び込み、1989年、本木雅弘主演『ファンシイダンス』で一般商業映画監督デビューを果たしました。
1992年には『シコふんじゃった。』で、日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめとする数々の映画賞を受賞。翌年、映画製作プロダクションであるアルタミラピクチャーズの設立に参加します。
同会社で企画された1996年の『Shall we ダンス?』では、日本アカデミー賞13部門独占受賞という快挙を達成。さらに全世界でも公開され、2005年にはハリウッドでリメイクも実現しています。また、周防監督はこの作品でヒロインを務めた草刈民代と結婚し、2020年現在もなお、おしどり夫婦として有名です。
2007年の刑事裁判による冤罪を描いた『それでもボクはやってない』をきっかけに、「新時代の刑事司法制度特別部会」の委員としても活躍。冤罪だと思われる事件の再審請求を支援しようと、周防監督自らクラウドファンディングでの支援金集めに協力なども続けています。
人気女優として注目の上白石萌音を見出したのも周防正行です。2014年の『舞妓はレディ』での主演オーディションで、彼女の才能にいち早く気付きました。
2020年9月時点での最新作は、2019年に公開された『カツベン!』。100年前の日本を舞台に、活動弁士の活動を描いています。これまで映画に関わってきた周防正行監督のある意味、集大成的映画になっています。
90年代『シコふんじゃった。』や『Shall we ダンス?』の大ヒットにより、不動の地位を確立した周防正行監督。多くのオリジナル作品を生み出し、『Shall we ダンス?』はハリウッドでもリメイクされるなど、世界的に人気を誇る作品を世に送り出してきました。常にヒットメーカーであり続ける周防正行のその映画作りをみていきましょう。
周防監督が映画を生み出すときに大事にしているのは、「映画のための素材探しは絶対しない」ということだそう。普通の生活の中で得た驚きを大切にし、興味を持つとそこから取材を始めていくようです。
それはなぜなのか、周防監督はこういいます。「映画を撮りたいと考えて過ごしていると、見つけたテーマを自分の世界に引き寄せ、都合のいいふうにしか描けないからです」と。
周防監督が目指す映画作りとは、自分が興味を持ったことに対して自分のほうから近づくこと。感じたことをどのように映画で表現するかを考えることなのです。映画を作ることに「素直」ともいえる周防監督ならではの方法ですね。
だからこそ、その作風は作品ごとに変化していきます。『シコふんじゃった。』や『Shall we ダンス?』、『カツベン!』にみられるようなコミカルな作品から、『それでもボクはやってない』や『終の信託』のような社会派な作品まで手掛けることに。
どの作品も共通していることは、観客はついのめり込んで見てしまうことです。周防作品を見始めるといつの間にか、映画のテーマが自分の興味そのものになってしまいます。そこから、どんな風になっていくのだろうと自然と入り込んでしまうのです。
その最後は必ずしもハッピーエンドが待っているわけではありません。それでも、周防作品に魅了されてしまうのは、周防監督の驚きから感じたことを伝える力の強さなのかもしれませんね。
そんな周防正行監督をもっと知りたい方は、こちらの本もおすすめです。
- 著者
- ["ナタリー・サルトゥー=ラジュ", "矢野智司", "宮﨑裕助", "周防正行", "丸川哲史", "山崎亮", "若新雄純", "大澤真幸", "堀川惠子", "鈴木一誌", "岩沢蘭"]
- 出版日
ここからは、周防正行のおすすめの映画作品を1位から順に紹介していきます。原作や小説版が出版されているものはそちらも一緒に紹介していきますので、気になるものはぜひ書籍でも味わってみてください。
周防正行の名を世間に知らせた、代表作ともいえる『Shall we ダンス?』。周防正行監督オリジナル作品です。
社交ダンスを通して人生を見つめ直す平凡なサラリーマンの姿を描きました。1996年に実写映画化され大ヒットを記録。「社交ダンス」ブームも作り社会現象となりました。主演は役所広司、ヒロインを草刈民代が演じています。2004年にはリチャード・ギアとジェニファー・ロペス共演で、ハリウッドリメイク版も作られました。
何不自由なく平凡に暮らすサラリーマンの杉山正平。ある時、通勤電車の中から見えるダンス教室で、美しい女性の姿に気付きます。ためらいながらもその教室を訪ねることで、これまで知らなかったダンスの世界に足を踏み入れることになるのでした。この年の映画賞を総ナメにし、日本映画界に残る名作が誕生しました。
周防監督自身による書き下ろし小説も発表されました。映画版とはさらに違った淡い恋の物語が描かれています。映画版と小説版はラストが異なりますので好みも分かれるでしょう。小説版も素敵な感動ストーリーなので、ぜひ読んでほしい物語です。
- 著者
- 周防 正行
- 出版日
今からおよそ100年前の活動写真(現在の映画)は、音はサイレント、色はモノクロでした。そんな時代活躍したのが、活動写真の弁士です。
彼らは、無声映画である活動写真を上映する際、自分の言葉で語りを入れる仕事をしていました。そんな弁士を主人公とした映画が『カツベン!』。周防正行監督がメガホンを取りました。
染谷俊太郎は、子どもの頃から活動写真小屋で観た活動弁士に憧れていました。大人になった彼は、ニセ弁士として泥棒一味の片棒を担がされてしまいます。なんとか一味から逃げ出し、本来の夢だった一流の活動弁士になるべく、小さな町の映画館「靑木館」にやってきたのでした。
主演を務めるのは成田凌、ヒロインに黒島結菜。これまでの周防作品を支えてきた竹中直人、渡辺えり、小日向文世はもちろんのこと、そのほか永瀬正敏、高良健吾、井上真央、音尾琢真、竹野内豊など豪華キャストが集結しました。
映画の歴史にも触れながら、笑って、泣けて、映画への愛情溢れる至極のエンターテインメント作品となっています。
『それでもボクはやっていない』は、周防正行監督のオリジナル作品です。『Shall we ダンス?』以来10年ぶりの監督作となりました。周防監督が今回扱う題材は「裁判」。満員電車で痴漢に間違えられた青年の裁判を描いています。
加瀬亮演じるフリーターの金子徹平は、ある会社の面接を受けにいくその満員電車の中で痴漢に間違えられてしまいます。警察の取り調べで容疑を否認し続けるも留置場に拘留されることに。無実の主張も虚しく起訴され裁判となるのでした。
周防監督が実際にあったある痴漢事件の裁判に興味を持ち調べ出したところ、日本の刑事裁判自体に持ち上がる疑問。それを非常に丁寧に嘘のないよう描いた問題作です。現役の弁護士からはリアルだという感想が次々に寄せられたといいます。
また周防監督自身の書き下ろした『それでもボクはやっていない 日本の刑事裁判まだまだ疑問あり!』という書籍も発表されました。シナリオが完全収録されるなど映画に関する情報だけでなく、映画完成後も残る「裁判制度への疑問」を元裁判官・木谷明に問いかける内容となっています。
映画とともに作品への理解がさらに深まることでしょう。
- 著者
- 周防 正行
- 出版日
周防正行監督のオリジナルミュージカル映画『舞妓はレディ』は、オードリー・ヘップバーン主演のミュージカル映画『マイ・フェア・レディ』をもとに作られた実写映画です。周防正行監督と脚本家の白石まみによる共著で、同名小説も発表されました。
地方から出てきた1人の少女が、舞子を目指すという『マイ・フェア・レディ』のようなサクセスストーリー。歴史のある京都の小さな花街・下八軒に、ある日やってくる1人の少女・春子。彼女は、鹿児島弁と津軽弁のバイリンガルで、舞子になりたいと八軒小路のお茶屋・万寿楽を訪ねるのでした。あっけなく断られるも、偶然居合わせた言語学の教授・京野の協力もあり、無事、舞子になるため仕込み(見習い)になる春子でしたが……。
映画版ではオーディションで約800人の中から選ばれた上白石萌音が主演を務め、見事な歌と踊りを披露しました。そのほか共演に長谷川博己や富司純子など豪華メンバーが集結しています。
小説版の物語は映画版とほぼ同様です。しかしながら、映像ではサラッと見てしまうその土地その土地の方言を活字にして読むとまた違う面白さが。登場人物などの設定が細かく描かれる部分も非常にわかりやすくなっています。
上白石萌音のその他の出演作品が知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
<上白石萌音の役柄に共鳴!実写化出演した映画、テレビドラマを原作から読み解く>
- 著者
- ["周防 正行", "白石 まみ"]
- 出版日
『シコふんじゃった。』は、周防正行監督の母校である立教大学の相撲部をモデルとしたオリジナルによる実写映画作品です。周防監督自身による同名小説も発表されました。主演は『ファンシイダンス』に引き続き本木雅弘が務めています。映画の大ヒットや各映画賞を総なめにした実績により、周防正行という名を一躍世間に広めた作品です。
大学4年生の山本秋平は一流企業への就職が決まっていましたが、卒業に必要な単位を取るため担当教授と取引します。そこで、廃部寸前の相撲部へ入部することに。最初はまったく興味のなかった秋平でしたが、しだいに相撲の魅力に気付き成長していく姿をコミカルに描いた物語です。
周防監督自身も語っていますが、小説は映画と同時進行で作られているので、原作ともノベライズとも違います。いわば、もう1つの『シコふんじゃった。』です。読み物ならではの主人公の心情の描き方なども楽しめます。
- 著者
- 周防 正行
- 出版日
現役弁護士である朔立木の小説『終の信託(ついのしんたく)』。実在する事件を元に、終末医療に関して描かれた物語です。これを原作とし同名タイトルで実写映画化したのが、周防正行監督。自ら脚本を執筆し、この難しいテーマに挑みました。主演を妻の草刈民代が務めました。
主人公の呼吸器科の医師・折井綾乃は、検察から呼び出しを受けます。患者を安楽死させた疑いで告発されたのでした。「最期のときは、長引かせないでほしい」重度のぜんそく患者である江木秦三から頼まれていた折井。2人の関係は互いに絆を深め合ううちに、いつしか愛情へと変化していました。愛する者の願いを聞き遂げることが罪なのか……。現役弁護士だからこそ描ける渾身の物語です。
終末医療の現実、法律で裁くことの難しさを描いた本作は、なんともいえない切なさの残る作品となっています。原作にある取り調べのリアルさが、映画でも非常によく描かれています。
- 著者
- 朔 立木
- 出版日
周防正行が一般商業映画に初めて監督として携わったのが、漫画作品『ファンシィダンス』を原作とした実写映画『ファンシイダンス』でした。
原作漫画は、1984年から「プチフラワー」に連載されていた岡野玲子による人気作品。
イケメンでバンドのボーカルも担当する大学生の塩野陽平は、実は田舎の寺の長男。いつかは家を継ぐことになっていました。寺を継ぐための厳しい修行に励む陽平が、戸惑いながらも成長していく姿をシュールかつコミカルに描いた物語です。特に漫画では、岡野のシリアスな絵柄に反するコメディ要素がなんともミスマッチで魅力的。思わず笑ってしまいます。
映画の主演は本木雅弘。本作が映画初主演となりました。共演には、陽平の恋人に鈴木保奈美。そのほか、竹中直人、徳井優、田口浩正らが出演しこの後の周防作品の常連となります。
あまり知る機会のない修行僧の日常と若者の文化という相反する世界観が面白おかしく描かれています。
- 著者
- 岡野 玲子
- 出版日
伊丹十三監督、宮本信子主演の大ヒット映画『マルサの女』のメイキングドキュメンタリーとして製作された『マルサの女をマルサする』。周防正行が監督を務めました。
『マルサの女』は、国税局査察部、脱税摘発のプロである通称「マルサ」の女・板倉亮子の活躍を描いた映画。
このメイキングを見れば映画作りの全てがわかるといっても過言ではないほど、丁寧に描かれています。製作のための予算組、キャスティングについて、ロケハンとは何か、スタッフの大変さ、俳優部の工夫などなど作品の裏側を徹底解剖しているのです。
この当時、周防監督は一般商業映画監督としてのデビュー前でした。伊丹監督の映画作りを目の当たりにしたことは、彼の映画監督人生に大きな影響を与えたことでしょう。
時代の違いはありますが、映画製作の基礎を知りたい人は必見です。
伊丹十三監督の大ヒット映画シリーズ「マルサの女」。その第2弾にあたる『マルサの女2』のメイキングドキュメンタリーとして製作されたのが、『マルサの女IIをマルサする』です。この監督を努めたのが周防正行。第1作目の『マルサの女』のメイキング『マルサの女をマルサする』も監督しました。
シリーズ第2弾『マルサの女2』の撮影において、俳優論を軸に伊丹映画を掘り下げて描いた作品が本作です。通常のメイキングとは異なり、作品の神髄にまで触れる演出は周防監督ならでは。
伊丹十三自身も俳優であることから俳優の演技をいかに引き出すか、どこからが演技でどこからが演出なのか、そんな攻防を周防監督の目線から鋭く描いています。
フランスの名振付師ローラン・プティが、チャールズ・チャップリンの残した数々の名作を題材にバレエ作品を作りました。それが『ダンシング・チャップリン』です。
この舞台作品を映画化したのが、周防正行監督。自身の妻である草刈民代のバレエ人生の集大成として製作された映画です。彼女は2009年にすでに現役を引退。本作が本当の意味での「ラストダンス」となっています。
チャップリン役にプティ作品には欠かせないルイジ・ボニーノ、草刈民代をはじめとする世界的に一流のダンサーがこの作品のために集結しました。そんな彼らが本番に臨むまでの60日間を追う第1幕「アプローチ」と本番を収録した第2幕「バレエ」の2部構成となっています。
妻・草刈民代に影響されバレエに魅了された周防監督が、草刈と還暦を迎えたボニーノの姿をフィルムに残したいという想いから生まれた作品です。本物同士の競演はいつまでも心に残りますね。
ここからは、周防正行監督をより知りたいという方におすすめの関連書籍を紹介していきます。
日本で大ヒットを記録した『Shall we ダンス?』が全米公開された際に、宣伝でアメリカを飛び回った周防監督。その珍道中を描いたエッセイ『『Shall we ダンス?』アメリカを行く』の続編といえるのが、今回紹介する『アメリカ人が作った『Shall we dance?』』です。
本作では『Shall we ダンス?』がアメリカでリメイクされた際のエピソードを周防監督自身が書き下ろしています。主演がトム・ハンクスからリチャード・ギアに代わった理由やジェニファー・ロペス事件など興味深い話題が満載。
リメイク版のハリウッドキャスト、スタッフなど総勢20名にインタビューを敢行した様子、オリジナル版とリメイク版の相違点など監督本人が語るからこそ面白おかしく描かれています。映画監督だけあって思わず惹きつけられる文章力も魅力のひとつです。
リメイク版『Shall we Dance?』を見てから読むと、映画自体もさらに楽しめることでしょう。
- 著者
- 周防 正行
- 出版日
映画『Shall we ダンス?』での出会いからプライベートでもパートナーとなった周防正行監督とバレリーナの草刈民代。周防監督はこの出会いをきっかけに、妻としてだけでなくバレリーナの草刈民代に惚れ込み、彼女の公演は全て見ているそうです。そんな日本一バレエを見ている映画監督がバレエ愛を綴っています。
内容は3部構成。第1章は周防監督がバレエと草刈民代に出会うきっかけ。第2章は周防監督本人が草刈民代にインタビューをしバレエの基礎から学校選びなど詳しく掘り下げ、第3章は映画『ダンシング・チャップリン』の詳細となっています。
バレエに関してはまったくの素人だった周防監督。そんな監督が妻を尊敬しているからこそ、その仕事にも非常に興味を持って接している様子や2人の仲の良さも窺えます。バレエを知っている人も知らない人も幅広く楽しめる1冊です。
- 著者
- ["周防正行", "下村 しのぶ", "瀬戸 秀美", "周防 正行"]
- 出版日
映画『それでもボクはやってない』で刑事裁判の冤罪事件を描いた周防正行監督。それまでの作品と明らかに異なる社会派ドラマでしたが、見事大ヒットを記録した作品でした。
映画は無事公開を迎えても、周防監督の活動はそれで終わりませんでした。法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の委員に選ばれたのです。「新時代の刑事司法制度特別部会」とは、取り調べの可視化や、捜査段階での供述に頼りすぎない捜査・公判のあり方を検討するために設置されたもの。
メンバーは捜査機関の人間や学者、弁護士などで構成される中、周防監督は畑違いの場所に飛び込んで3年もの間、彼らと激論を交わしました。その経過と想いをまとめたものが『それでもボクは会議で闘う ドキュメント刑事司法改革』です。
捜査に関わる人間ではなく、私たちに近い立場で主張していくことは並大抵のことではなかったでしょう。本作では難しい言葉や表現もありますが、それでもわかりやすく私たちに日本の刑事司法の問題点を考えるきっかけを与えてくれます。
- 著者
- 周防 正行
- 出版日
周防正行監督の映画や書籍を紹介してきました。どの作品も、監督の強いこだわりにより非常に丁寧に作られているものばかりです。映画でも書籍でも、周防正行という人物の持つ魅力が大きく反映されています。そんな周防監督から生み出される作品は、どんなメディアであれ、いつも私たちの期待に応えてくれます。これからもきっと変わらぬ面白さを提供してくれることでしょう。