民俗学が専門のイケメン准教授と、嘘を聞き分ける耳を持つ大学生の凸凹コンビが、怪異にまつわる謎解きに挑む――。
澤村御影が手がける『准教授・高槻彰良の推察』(角川文庫)は、2018年から刊行中の大人気民俗学ミステリです。
- 著者
- 澤村 御影
- 出版日
2020年よりコミカライズ、そして2021年8月から伊野尾慧(Hey! Say! JUMP)と神宮寺勇太(King & Prince)出演のテレビドラマも放映されるなど、さまざまなメディアミックスも展開されています。
公式サイトはこちら。
- 著者
- ["相尾 灯自", "澤村 御影", "鈴木 次郎"]
- 出版日
個性的なキャラクターと、怪異を通じて描かれるヒューマンドラマが魅力の『准教授・高槻彰良の推察』を取り上げ、既刊全巻をご紹介します。種明かし以外の部分でのネタバレを含みますので、ご注意ください。
青和大学文学部に通う深町尚哉は、幼少期に体験した怪異が原因で、人の嘘を声の歪みとして知覚する異能を持ってしまった青年です。それゆえ尚哉は孤独になり、他人との関わりを避けながら生きてきました。
たまたま履修した「民俗学II」は、34歳の若き准教授・高槻彰良による、学校の怪談や都市伝説から民俗学に幅広くアプローチするユニークな講義。提出したレポートをきっかけに高槻は尚哉に興味を持ち、彼をアルバイトに誘います。尚哉は高槻の助手として、怪異を集めるフィールドワークの手伝いを始めます。いざ関わってみれば、女子学生から大人気の高槻は、子どものように怪異に夢中になり、周囲をドン引きさせてしまう“残念なイケメン”でした。
〈怪異は、現象と解釈によって成り立つんだよ、深町くん〉。
そう語る高槻のもとには、さまざまな怪異事件が持ち込まれ、彼はその謎に潜む真実を解き明かしてみせるのです。やがて尚哉は、高槻が子供の頃に神隠しに遭っていたことを知ります。怪異現象をめぐる謎解きと、尚哉と高槻それぞれの過去の解明を軸に、物語は進んでいきます。
個性的なキャラクターが多数登場する『准教授・高槻彰良の推察』。メインキャラを中心に、本作をいろどる多彩な人物を紹介します。
主人公の深町尚哉は大学1年生。小学4年生の夏休み、尚哉は祖母が暮らす長野の田舎で死者の祭りに迷い込み、そこから抜け出す代償として人の嘘を聞き分ける耳を手に入れてしまいます。以後両親は彼を疎み、友達を作ることもできず、孤独に暮らしてきました。
そんな尚哉にとって、高槻は初めて出会った嘘をつかない、安心できる人でした。彼の助手としてさまざまな怪異事件に巻き込まれるなかで、尚哉は少しずつ他人に心を開き、人間関係を広げていきます。そんな尚哉の心の変化や成長も、本作の読みどころのひとつです。
イヤホンで耳をふさぎ眼鏡をかけた姿は、「地味メガネ」と言われることも。いろいろな意味で規格外な高槻に対する常識担当として活躍します。
一方の高槻彰良は、スーツが似合う高身長のイケメン。民俗学に対する圧倒的な知識と、一度見たものは決して忘れない絶対記憶能力をもつ准教授です。だがその実態は、“体と頭脳は大人、心は子供”。面白い怪異や都市伝説に出会うと夢中になり、理性が吹っ飛びます。さまざまな局面で露呈するギャップがなんとも微笑ましく、尚哉はかつて飼っていたゴールデンレトリーバーの姿を重ね、彼に親しみを感じていきます。
ですが物語が進むにつれて、ほがらかに見えた高槻の暗い過去が明らかに。背中に広がる大きな傷や、鳥を見ると気を失ってしまう体質、時々あらわれる夜空のような青色の瞳、そして欠落する神隠し事件の記憶……。明るい性格の背後に謎めいた闇を垣間見せる高槻は、一筋縄ではいかない魅力にあふれた人物です。
ほかにも、高槻の幼馴染で強面刑事の“健ちゃん”こと佐々倉健司や、高槻の教え子で修羅場になると研究室の床で寝てしまう大学院生の生方瑠璃子、尚哉の初めての友人となる大学生・難波要一らが、レギュラーメンバーとして物語に登場します。
本作の最大の見所といえるのが、高槻と尚哉の魅力的な人物像と、2人がみせる絶妙なコンビぶり。怪異大好きな変人・高槻が民俗学の知識を活かして事件の謎を解き、常識担当の尚哉は嘘を聞き分ける能力で彼を手助けしつつ、ストッパーの役割を担う。2人の軽快なやり取りや絶妙なバディがとにかく楽しく、毎巻わくわくさせられます。
事件を通じて描き出されるヒューマンドラマも、このシリーズの魅力のひとつ。怪異現象のようにみえる事件の裏にひそむ、さまざまな人間の姿や感情を、高槻の推察が見事にあぶり出していくのです。そして、各事件を通じて深化する尚哉と高槻の絆も注目ポイントです。異界と現実のはざまに身を置く2人が共に歩む相手を見つけ、それぞれの過去の謎と向き合うなかで、思いがけない人間ドラマが生まれます。
民俗学ミステリと銘打たれた『准教授・高槻彰良の推察』には、学校の怪談や都市伝説など、さまざまな怪異が登場します。作中の随所で高槻が語る、モチーフ説明も本作の見所です。面白くて楽しいと評判の高槻の講義に参加している気分になること間違いなし。民俗学の要素を巧みに物語に落とし込む、作者の技量が光ります。怪異やオカルト、ちょっと不思議な物語が好きな人にもおすすめしたいシリーズです。
- 著者
- 澤村 御影
- 出版日
『准教授・高槻彰良の推察』の記念すべき1巻です。誰もいないはずの隣の空き部屋から奇妙な音が聞こえる「いないはずの隣人」、藁人形をきっかけに針につきまとわれる女子大生を描く「針を吐く娘」、お化け屋敷と呼ばれる廃屋で起きた神隠しの真相を探る「神隠しの家」の3編が収録されています。高槻のもとに持ち込まれる事件は、果たして本物の怪異なのか? なかでも「神隠しの家」は、緊迫感あふれる展開や、事件を通じて明かされる高槻の重い過去と相まって、とりわけ印象に残ります。
〈この人と――高槻と一緒なら、解き明かせるのかもしれない〉〈僕は手放したくないなあ、君のこと。これからも僕を手伝ってほしい〉。凸凹コンビが魅せる新感覚の民俗学ミステリの幕開けです。
- 著者
- ["澤村 御影", "鈴木 次郎"]
- 出版日
高槻が都市伝説を集めるために運営する「隣のハナシ」というサイトに、とある小学校教師から相談メールが届きます。「学校には何かがいる」は、コックリさんやトイレの花子さんなど、誰もが一度は聞いたことがある怪異をモチーフにしたエピソード。続く「スタジオの幽霊」では、霊感を自称する有名女優が主演する映画の、撮影スタジオで起きた幽霊事件の真相を暴きます。そして「奇跡の子供」は、バス転落事故でただ一人生き残り、流行神として信仰を集める少女の物語。
この巻で尚哉は風邪をひき、耳に異変が起きて人の嘘を聞き分けられなくなってしまいます。ずっと疎んじていた能力だが、この耳を失ったら高槻は自分を必要としてくれなくなるのではないか。そんな尚哉の動揺と、事件を通じた2人の関係性の深化も見所です。
そして「奇跡の子供」の真相で、普段は穏やかな高槻が珍しく怒りをあらわにします。実は彼も、母親によって「天狗様」という流行神にされていた過去があるのでした。神隠し事件による家族の崩壊など、高槻のもつ闇も少しずつ明かされていきます。
- 著者
- ["澤村 御影", "鈴木 次郎"]
- 出版日
3巻には「不幸の手紙と呪いの暗号」と「鬼を祀る家」の2編、そして高槻と刑事・佐々倉の幼少期の出会いを描く番外編「それはかつての日の話」が収録。
「不幸の手紙と呪いの暗号」には、誰もが知っている不幸の手紙と、図書館の蔵書に隠された暗号を解かないと呪われてしまうという、“図書館のマリエさん”なる聞き慣れない都市伝説が登場します。大学の知り合いの難波要一が不幸の手紙の相談を持ちかけ、尚哉は彼を心配して手を差し伸べる。これまで人と距離を置いてきた尚哉の成長ぶりが嬉しい、心あたたまるエピソードです。
それに対して「鬼を祀る家」は、鬼神伝説が残る村を舞台に六部殺しがテーマとなります。不気味な洞窟や穴のあいた頭蓋骨など、おどろおどろしい雰囲気のなかで進む事件は、民俗学ミステリの名にふさわしい出来栄えです。
- 著者
- ["澤村 御影", "鈴木 次郎"]
- 出版日
この巻から尚哉は大学2年に。とある建築事務所で起きた「4」にまつわる不気味な事件の真相を暴く「四時四十四分の怪」と、江ノ島の人魚騒ぎを通じて本物の怪異との邂逅を果たす「人魚のいる海」という、2つのエピソードが描かれます。
これまでの事件は怪異にみせかけた人的要素が原因でしたが、4巻ではサブタイトルのとおり、異界という要素が浮上します。最初の事件では尚哉と同じ異能を持つ人物が、続く人魚騒ぎでは時を経ても姿が変わらないキャラが出現。この2人は以後もそれぞれのかたちで尚哉と関わっていきます。
他にも新キャラとして、イギリスで暮らす高槻の叔父・歩が登場します。家族と絶縁している高槻にとって、歩はつらい時期を支えてくれた恩人です。この巻から高槻の中にいる「もう一人の彰良」の存在が明確になり、その片鱗は巻末に収録されたイギリスを舞台にした歩との番外編「それはかつての日の話2」でも語られます。
- 著者
- ["澤村 御影", "鈴木 次郎"]
- 出版日
急展開をみせる5巻には、「百物語の夜」と「死者の祭」、そして大学院生の生方瑠璃子の視点を通じて高槻を描く番外編「マシュマロココアの王子様」が収録。
なかでも「死者の祭」は、尚哉の異能の原因となった祭りの真実を探るエピソードで、クライマックスといえる盛り上がりをみせます。高槻と尚哉は長野に出かけて異界に迷い込み、絶体絶命の危機に。手に取る相手を間違えるなという忠告を、尚哉は守れるのか。衝撃のラストとあわせ、手に汗を握る緊迫の5巻です。
- 著者
- ["澤村 御影", "鈴木 次郎"]
- 出版日
前巻の最後で、高槻は「もう一人の彰良」によって長野での記憶をすべて消されてしまいます。元気がない高槻と、彼を気にかける尚哉。そんな2人のもとに、再び怪異の相談事が舞い込みます。
6巻には、お化け屋敷に設置された鏡の謎を解く「お化け屋敷の幽霊」、高槻の従弟の婚約者に現れた人面瘡がみせる恐るべき真実を描く「肌に宿る顔」、そして旅館のいわくつきの鏡を通じて怪異に出会う「紫の鏡」と、バラエティに富んだ3編が収録。人面瘡のエピソードには高槻の母親も登場し、彼が一番触れたくない過去の一片が明かされます。紫鏡の謎解きでは再び「もう一人の彰良」が出現し、その不穏な存在感に今後の展開への期待が高まります。
- 著者
- ["澤村 御影", "鈴木 次郎"]
- 出版日
7月16日に発売されたシリーズの最新巻は、キャラクターの魅力が満載のサイドストーリー集です。「お人形あそびしましょ」は、高槻の同僚の教授が所有する市松人形の謎に迫るエピソード。夏にふさわしい、少しぞくっとするお話です。「わんこくんのわんこの話」は、尚哉がかつて飼っていたゴールデンレトリーバーのレオをめぐる切ない物語。続く「俺の友達の地味メガネくん」では、難波要一視点を通じて尚哉の意外な面に出会えます。
そして佐々倉が主役を務める「休日は本棚を買いに」には、澤村御影が手がける別シリーズ『憧れの作家は人間じゃありませんでした』の刑事が登場。シリーズを超えた刑事同士のコラボが楽しい一作となっています。
話題沸騰中の『准教授・高槻彰良の推察』は、小説、コミカライズ、テレビドラマと、さまざまなメディアで展開されています。それぞれに魅力がありますが、細やかな人間関係と心理描写、そして想像力をかきたてる怪異のディテールを楽しめるのは、なんといっても原作小説です。本作はキャラ文芸好き、ミステリ好き、怪異や都市伝説好き、ブロマンス好きなど、さまざまな層に刺さるでしょう。ドラマを100倍楽しむためにも、ぜひ原作小説を手にとってみてください。
- 著者
- 澤村 御影
- 出版日
- 著者
- ["相尾 灯自", "澤村 御影", "鈴木 次郎"]
- 出版日
書評家・ライター嵯峨景子の本棚
少女小説やライト文芸を得意とする書評家・ライターの嵯峨景子が、おすすめの本を紹介します