「生きた化石」とも呼ばれ何万年も前から姿を変えず、地球の歴史を見守ってきた生き物「カブトガニ」。その特徴的な姿から、直接見たことはなくても、認知度の高い生き物ではないでしょうか。でもおそらく知らないことばかりなはずです。今回はそんなカブトガニの生態とカブトガニにまつわる書籍を紹介します。
まず「カニ」という言葉がつくことや甲羅があることから、蟹の仲間に思われがちですが、分類学上は節足動物であり、カニよりもクモやサソリ類に最も近縁とされています。
丸い甲羅とおしりの尾剣が特徴的なカブトガニ科カブトガニ属の種に分類される生き物になります。現在世界に2属4種が生息しています。
海外ではインドネシア、フィリピン、東マレーシア、アメリカ、メキシコに生息しています。なかでも日本に生息している種類のカブトガニが一番体長が大きく、頭から尻尾まで70~85cmほどです。
成体になるまでおよそ15年で、寿命は25年ほどと言われ節足動物の中では非常に長生きです。その間に十数回脱皮を繰り返し成長していきます。そして甲羅は成長して年数を重ねるごとに厚く、固くなります。
外見からは分かりづらいですが、全部で10本の脚を持ちます。また目にあたる器官が五つがあり、甲羅側に四つ、お腹側に一つあります。ただ視力はあまり良くありません。
カブトガニは10年前後の年月をかけておとなになりますが、その後何年生きるかどうかは、体にこれといった年齢を示すところがないため、詳しくはわかっていません。
活動期間は水温が18度以上の約3ヶ月で、活動期間以外は海底で冬眠しています。活動中は自然界においてオスとメスが出会うことが稀なため、メスをオスが捕まえて重なったように過ごしていることがあります。このようにオスとメスがつがいで過ごすことを「抱合」と言います。
メスは1度に9万個の卵を産むことができますが、成体になれるのはその内10個程度で確率が非常に低いです。理由としては孵化する前に魚や、海鳥に食べられてしまうためです。
カブトガニはゴカイ・イカや甲殻類を餌とし、糞の色は胆汁がないので茶色にならないそうです。
現在、日本国内に生息する成体のカブトガニは減少したと考えられていて、環境省レッドデー タリストでは、「絶滅危惧I類(CR+EN)」に、また水産庁の レッドデータブックでは「絶滅危惧種」に指定されています。
日本のカブトガニは、瀬戸内海と九州北部の一部に生息しています(佐賀県、長崎県、福岡県、大分県など)。
底にはやわらかい泥があり、広い砂浜や干潟があるようなひらけた場所を好みます。
こういった生息地を好むのは、日差しから身を守るとともに、彼らの餌となる有機物やゴカイなどの環形動物も捕食することができます。泥中を活動するのは水鳥などの捕獲者に対し身を守るための有効な手段となっています。
しかし水質の悪化や開発などにより、このような環境が揃った場所は年々少なくなっていて、カブトガニの生息地は狭まってしまいました。
そのためカブトガニの保護活動につとめている岡山県笠岡市では、カブトガニが生息する干潟も天然記念物に指定されています。
カブトガニは恐竜の時代から生きていると言われ、カブトガニの遠い祖先は三葉虫にあたります。約2億年前からその姿が形態的変化をしていないことから、「生きた化石」と呼ばれています。
恐竜たちは約6500年前に絶滅してしまいましたが、その強い生命力や適応能力で昔の形のまま生きているのがカブトガニです。
日本では天然記念物に指定されているカブトガニですが、東南アジアでは食用として食べられています。丸焼きにして食べるそうですが、ほとんど身がないというのと、その生臭さから日本人の口には合わないそうです。産卵期のメスの卵も食用で料理されるそうです。ただ実際はカブトガニ目的で漁をすることはなく、
カブトガニの移動は基本的に這いずりながらの歩きですが、泳ぐこともできます。
実はカブトガニの甲羅は、腹面が大きく窪んだお椀形をしており、仰むけになると浮力を得やすく背泳ぎのように安定した泳ぎ方ができます。逆さまになってエラを舵代わりに水中を泳ぎ回ることがあります。泳ぎは小さな幼生ほどよくおこない、成長するにつれて、だんだん泳がなくなってくるそうです。
前へ進むための推進力は鰓脚(呼吸作用を助けるえら)をあおることによって得ることができ、通常の呼吸時よりも強く一定のリズムをもって、水を後方へ蹴りながら前へと進みます。泳ぐ方向については、這う時と同様におしりの尾剣を左右に動かすことで移動の方向を定めています。
カブトガニの血は薬を使うのに役立てられています。一般的に動物の血液にはヘモグロビンが含まれていて、赤く見えますが、カブトガニの血液にはヘモシアニンという銅の成分が含まれています。そのため、カブトガニの血液は青く見えます。
この血液は、エンドトキシンと呼ばれる細菌内の毒素と反応すると、凝固して塊になります。短時間で細菌の存在を確認できるようになり、様々なところで利用されています。この研究に貢献したのは千円札でもお馴染みの野口英世です。
アメリカでは、毎年およそ50万匹のカブトガニが採取され、施設内に運び、心臓付近の血管から体内の30%ほど血液を抜かれ海に帰します。人間の献血と同じように、海に戻ったカブトガニは数ヶ月で元の状態に戻るようです。
今のところ、そのような毒素を検出できる天然資源は、カブトガニの血液だけだと言われています。他にもカブトガニは血液だけでなく、畑の肥料になったり、養殖鰻の餌になったりすることもあるそうです。
- 著者
- 惣路 紀通
- 出版日
現在、笠岡市立カブトガニ博物館副館長である惣路 紀通(そうじのりみち)さんの著書。別府湾のカブトガニ生息調査を行い、九州東海岸で初のカブトガニ生息地を発見しました。カブトガニの不思議に迫るだけでなく、カブトガニが生息できる環境やカブトガニが繁殖できいる美しい海を守っていく活動などを紹介します。
一番カブトガニを見てきた人がカブトガニの生態を紹介しているため、カブトガニを知るにはもってこいの一冊となっています。
- 著者
- 石井里津子
- 出版日
夏休みの自由研究をきっかけに、小学3年生の女の子のいる家族が、わずか4㎜ほどの小さなカブトガニの卵たちを家であずかることに。
カブトガニの赤ちゃんの成長を通して、人と動物の命の大切さを見つめなおす感動ノンフィクション。イラストや写真とともに紹介されています。
図鑑などとはまた違った形でカブトガニのことを詳しく知ることができます。
現在保護活動などによりカブトガニは少しずつ数が増えてきているそうです。今後も戻ってきた環境とカブトガニを守るための活動の継続が重要だと考えられています。何万年も前から姿を変えずに生きてきた貴重な生き物をこれからも守り続けていかなければなりません。