『葬送のフリーレン』は「週刊少年サンデー」で連載されている冒険ファンタジー漫画です。行間を読ませる繊細なストーリーに定評のあった作品ですが、2023年9月から始まったTVアニメの完成度があまりにも高く、秋アニメの話題を一気にさらいました。 この記事ではそんな『葬送のフリーレン』の何が凄いのか、どういった点が魅力的なのかを、アニメと原作漫画の両面からご紹介します。
『葬送のフリーレン』は原作・アベツカサ、作画・山田鐘人のファンタジー漫画です。「週刊少年サンデー」連載中で既刊は11巻。2023年12月の時点で累計発行部数1700万部に達しており、最新巻である第12巻は2023年12月18日発売予定です。本編はWebコミックサイト(アプリ)の「サンデーうぇぶり」でも読むこともできます。
そんな『葬送のフリーレン』のTVアニメが2023年9月末にスタート。初回放送が日本テレビ系「金曜ロードショー」枠を使った一挙4話という異例の放送形態で、しかもTVアニメのスケールを大きく超えるクオリティだったことから、原作読者のみならず一般視聴者の間でも大きな話題を呼びました。
本放送も引き続き絶好調で、2023年秋アニメの中で『葬送のフリーレン』はかなり突出したタイトルといえます。
『葬送のフリーレン』は、勇者パーティが魔王を討伐したところから始まる「その後」の物語です。長命の魔法使いフリーレンの目を通した、叙情的でしっとりした展開が多くのファンに支持されています。
巧みなストーリーは早い時点で高く評価されており、連載開始の2020年から毎年なんらかの漫画賞の上位に名前を連ねていました。代表的な受賞歴は第25回「手塚治虫文化賞」新生賞、「マンガ大賞2021」大賞など。
アニメ『葬送のフリーレン』は特別放送の話題性だけで注目されているわけではありません。TVアニメでありながら劇場版クラスのクオリティがあり、金曜の深夜アニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT」の本放送においても、勢いは留まるところを知りません。
あまりにも突出したアニメの出来映えに対して、業界人も絶賛しています。
「葬送のフリーレン」すごいっすね。冒頭の展開から一気に引きこまれました。さすがはマンガ大賞受賞作。納得です。ただ、主題歌は「アイドル」ほどのインパクトがなかったです。これは、あっちがすごすぎたからかな。日本SF大賞もあげればいいのに。
引用:高千穂遙
「葬送のフリーレン」は、週1ではなく、毎日放送してください。とりあえず原作に追いつくまで。
引用:高千穂遙
御年70歳を超えるSF作家の高千穂遙のコメントです。日本のスペースオペラの先駆けたる「クラッシャージョウ」シリーズ、「ダーティペア」シリーズを手がけた重鎮。アニメ原作を手がけた経験もある方なので、無理を承知の上でそれでも「とにかく早く続きを見たい」という気持ちが伝わってきます。
アニメ『葬送のフリーレン』6「村の英雄」まで見る。アクションシーンは十分なテンポで見せ場を演出しているが、あえて動きに頼らぬような作品の軸足は、原作の正しい解釈と思う。随所にちりばめられる過去の旅路を、後ろ向きの感懐でなく今後の冒険の糧とする構成に、一段と磨きがかかりますように。
引用:辻 真先
こちらはアニメ脚本やエッセイなどマルチに活躍されている推理作家の辻真先。手がけたアニメ作品は古くは『鉄腕アトム』、近年も『名探偵コナン』や「ルパン三世」シリーズに関わっている人物です。なんと91歳にして未だ現役。物語を分析する鋭い感性には、自然と頭が下がります。
仕事しながらアニメ版フリーレン流してたんですけどね。ヒンメルの故郷の花を見つけたとき、フリーレンはそれを手のひらでそっと撫でるんですね。そのカットのすげえていねいな手の芝居の作画にやられて「グフゥッ」って声が出た。
引用:椎名高志
『葬送のフリーレン』原作と同じく、「週刊少年サンデー」で連載中の作家・椎名高志の感想です。代表作は『GS美神 極楽大作戦!!』や『絶対可憐チルドレン』。動きのあるアニメだからこそ出来る芸当ではあるものの、細かい仕草にまで込められた情感の凄さは、ベテラン漫画家が舌を巻くほど。
えーと、葬送のフリーレンはすごく真っ当なことをやっているんだけどそれが出来ないくらいに「真っ当」というもののレベルが下がってるってことは自覚しておきたいものかと。
引用:佐藤竜雄
『飛べ!イサミ』や『機動戦艦ナデシコ』で知られるアニメ監督・佐藤竜雄のコメント。アニメ『葬送のフリーレン』の出来に感心する一方で、水準の低下を嘆いているのはアニメ業界内の人物ならではといえるでしょう。
以上の反応からアニメ『葬送のフリーレン』は原作で元々評価の高かったストーリーに加えて、美麗な映像と世界観に合った音楽が組み合わさった結果、とてつもなくリッチでハイクオリティな作品に仕上がっているのがわかります。
ここまでレベルの高いTVアニメは過去に遡ってもほとんど例がないため、今後のアニメ作品に少なからず影響を与えるのは間違いないでしょう。今から数年後に「フリーレン前」、「フリーレン後」の区切りが出来てもおかしくありません。
『葬送のフリーレン』の魅力は大きく分けて、ドラマ性(世界観)とキャラクターの存在感の2つ。
物語の舞台となるのは剣と魔法で戦う、いわゆる王道の冒険ファンタジー世界です。ただし、一般的なファンタジーで最終目標となる魔王は、勇者ヒンメルのパーティによって討伐済み。世界を救ったあとの後日譚に着目した作品がないわけではありませんが、『葬送のフリーレン』の特異かつ斬新な点は、「その後」の物語の視点が長命なエルフであることです。
悠久の時を生きるエルフにとって数十年単位の時間は、人間の体感で言えば数日からせいぜい数ヶ月程度の短期間に過ぎません。そんな時間感覚を持つエルフのフリーレンが、寿命の違う仲間たちとの交流で生まれるドラマが胸を打ちます。
先に逝く者を見送る側が感じる、思い出の尊さ、そして寂しさと後悔。それらが巧みなストーリーテリングによって、今は亡き勇者パーティの足跡を辿るフリーレンの旅において、大小様々な形で関わってくるのが本当に面白いです。
ドラマをより鮮烈にするキャラクター造形がまた見事。勇者ヒンメルの高潔さ、僧侶ハイターの深い父性、おおらかで豪快な戦士アイゼン(人間より長命なドワーフなのでアイゼンだけ存命ですが)。彼らは回想でわずかに登場するだけにも関わらず、社会そのものやフリーレンに多大な影響を与える言動がとても印象的です。
『葬送のフリーレン』は合間合間に挟まれる、他愛もない日常やシュールギャグがあるのもいいところ。シリアス一辺倒ではなく、適度に力を抜いて楽しめます。ジャンルを問わず有名な作品へのオマージュやパロディ、リスペクトらしき描写もあって、小ネタを探すのも面白いです。
以上が原作漫画の魅力なのですが、アニメ版『葬送のフリーレン』はこれら原作の魅力を最大限引き出した上で、アクション面の大幅な強化と背景美術の美しさ、世界観を補強する音楽がプラスされています。
アクションに関しては個別で後述しますが、背景美術と音楽が本当に素晴らしいです。中世ヨーロッパを思わせる風格ある街並み、静寂に包まれた雄大な自然。川の流れや舞い散る落ち葉に至るまで、芸術品のような背景に目を奪われます。
主題歌『勇者』のメッセージ性もさることながら、地味に見逃せないのが各話の随所に現れるテロップ「勇者ヒンメルの死から○年後」の裏で流れる曲。アメリカ人音楽家エバン・コールの作曲した曲で、弦楽器リュートを使っているのが特徴です。
リュートといえばファンタジーで弾き語りをする吟遊詩人の定番楽器なので、ヒンメルを讃える詩人の詩をイメージしているのは間違いないでしょう。
他の楽曲も作中の雰囲気に沿った壮大なものが多いですが、場面によっては環境音のみになったりと、原作漫画にある種の静寂がより際立っているように感じられます。
『葬送のフリーレン』は少年漫画ですが、こうした原作漫画とアニメ版の重層的な魅力が老若男女幅広く受け入れられ、大ヒットに繋がっているのです。
アニメ『葬送のフリーレン』の見所をすべて挙げるとキリがないため、主要な登場人物を軸にして人となりの紹介と印象的な場面をご紹介していきます。
名場面は原作漫画とアニメで登場する話数を付記しておいたので、合わせてチェックしてみてください。
本作の主人公で見た目は少女にしか見えませんが、齢1000歳を超えるエルフです。かつて魔王を倒した勇者ヒンメルのパーティの魔法使いでした。実は伝説に語られる大魔法使いフランメの弟子。天才と評されるほどの魔法のエキスパートですが、実用性の有無に関係なく雑多な魔法を収集するのが趣味。
ダンジョン探索中は普段のクールさと打って変わって、判別魔法で99%罠なのを承知で「お宝があるかも」と1%に賭けて宝箱を開けては、擬態したミミックに食べられそうになるコミカルな一面があります。低確率で判定を間違う魔法は、恐らくゲーム『Wizardry』の識別魔法カルフォのオマージュ。
能力の高さは作中でトップクラスですが、無敵なわけではありません。歴史上で最も魔族を葬ったとされており、魔族から畏怖の念を込めて「葬送のフリーレン」の二つ名で呼ばれています。
本作のタイトルにもなっている二つ名は、長命種の宿命で「死者を見送る者」と、「魔族を葬る者」の両方の意味を内包したダブルミーニング。
ぶっきらぼうですが根は優しく、面倒見がいいです。気の長い長命種ゆえに察する能力が低く、(エルフに比較すると)短命な人間の微妙な感情の変化に疎いです。冒険に関して経験豊富な一方、情緒面は非常に幼いという特徴があります。本編に登場する他のエルフから「若い」と言われたことも。
ヒンメルに多大な影響を受けていたものの、彼がいかに自分にとって大事な存在だったかに気付かず、喪ってから初めて後悔。ヒンメルの死後、人間を理解するための旅を始めました。
- 著者
- ["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
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原作第1話に当たる「金曜ロードショー」の初回放送では、そんなフリーレンの亡きヒンメルに対するやり場のない感情の発露が情感たっぷりに描かれ、もらい泣きした視聴者が続出。のちにフォーカスの当たるとある指輪が、アニメではたびたびクローズアップされているため、既読ファンは涙腺を直撃する演出があるのではと予想されています(記事執筆時点では未放送)。
フェルンは幼少期からフリーレンに師事して、魔法の技能を修得した人間の少女です。物静かで感情を表に出さないところはフリーレンに似ていますが、年頃らしい感性とある程度の一般常識を備えています。保護者であるはずのフリーレンの面倒を見るなど、立場があべこべになることも。
フェルンは元・戦災孤児で、自ら命を絶とうとしたところを、かつて勇者パーティの僧侶だったハイターに救われました。
基本的には常識人ながら、フリーレンやハイターに関しては盲目的に尊敬しているせいか、ズレた発言が目立ちます。旅に途中参加するシュタルクとは、何かともどかしさを感じる関係。
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- ["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
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魔法の実力はフリーレンに次ぐ凄腕。魔力操作に関してずば抜けた才能を持っており、魔法の精度と詠唱速度は師を上回っていることがアニメ第9話(原作第17話)で明かされました。ただ、魔法オタク気質のあるフリーレンと違って、フェルンが主に使うのは一般攻撃魔法と防御魔法、飛行魔法程度です。
フェルンとフリーレンの絆は出会ってから培われたものですが、実はフェルンの魔法の習得に関連してフリーレンとフランメ、フリーレンとハイターの関係が間接的に影響しています。
フェルンが魔法を学んだのは、突き詰めれば誰かのためであり、フランメが魔法を志した動機と重なります。またハイターはフリーレンが影で努力していた魔力制御修練について知っており、それを伝授したことが現在のフェルンに繋がりました。
フェルンがフリーレンに弟子入りした経緯を振り返ると、何気ない描写が相互に繋がっており、人の営みが人間関係の積み重ねであることを強く感じさせます。
シュタルクは勇者パーティの戦士アイゼンの推薦で、フリーレンの仲間となった少年です。高名な戦士を数多く輩出するクレ地方の戦士の村出身。
フリーレン、フェルンと違って明るい性格ですが、精神的に幼い部分があります。生まれのせいで自身の実力を過小評価しがちで、そのため極端に臆病な反応を見せることも。
アイゼンは臆病さを戦士に必要な資質(危険を察知して必要とあれば逃げられるように)と考えており、秘めた実力と合わせてシュタルクを高く評価しています。実際にフリーレンやフェルンの魔法が通用しないドラゴンを相手に大立ち回りを演じ、単独で撃破するという離れ業を見せました。
原作においてドラゴン戦はあっさり気味でしたが、アニメ第6話(原作第11話の内容)では大迫力の戦闘に昇華され、後述するリーニエ戦と合わせてアニメ『葬送のフリーレン』を代表するダイナミックなアクションシーンとなりました。
戦闘力が高いだけでなく、ドラゴンや魔族と正面切って戦える頑丈さも特筆すべきものがあります。あまりにも超人的すぎることから、この世界の人間は魔法使い以外も生来魔法力を備えていて、無意識に身体強化をしているのかもしれません。
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- ["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
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またシュタルクはいついかなる時でも息をするように人助けしており、旅の行く先々で人の輪が出来ている描写があります。本人に自覚はなさそうですが、実のところ勇者ヒンメルの生き方に近いです。
シュタルクは故郷を魔族に襲われ、優秀な戦士だった兄シュトルツを失ったことがトラウマ。しかしのちに、師アイゼンとシュトルツがシュタルクを一人前に扱ってくれていたことがわかり、失っていた自信を取り戻します。
ちなみに村を襲撃したのはとある大魔族で、戦士の村が魔族から危険視されていたことが窺えます。この大魔族はアイゼンにとっても因縁のある相手なので、いずれシュタルクが倒すべき宿敵として登場する可能性が高いです。
武道僧(モンク)のクラフトは、北部の厳しい冬にフリーレンたちが偶然出会った男性です。本編で初めて出てきたエルフで、僧侶らしく死後や女神の存在を疑わない信仰心の厚い人物。
実は逸話が失伝するほどの遙か昔、何か偉大な業績を成した伝説の英雄であることが示唆されています。自分の存在が他者に忘れられている虚しさを忘れるため、天地創造の神である女神を信仰しているようです。
そういった点からフリーレンよりかなり年上にも関わらず、どこか達観した部分がありつつも、人間くささを感じさせるのが魅力。
原作第24話だとさらっと流されるだけでしたが、アニメ第11話では冬越しの生活を通して、フリーレンたちと打ち解けた様子が描かれました。
ザインはフリーレンたちが旅の途中、ある事情で立ち寄った村の僧侶です。フェルンやシュタルクよりは年上。清貧を旨とする僧侶の生活様式に反して、酒もタバコもギャンブルもやる上に、妙齢の女性を好む生臭坊主です。
僧侶の能力である女神の魔法を操る腕前は、不治と診断された猛毒を一瞬で解毒出来るほど天才的です。
かつては親友の自称・戦士ゴリラとともに冒険者を目指していましたが、唯一の肉親である兄のいる故郷を出る決断が出来ずに挫折。戦士ゴリラは10年前に1人で出立したきり戻らず、二重に後悔する日々を送っていました。
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- ["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
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決断を先延ばしにして漠然と生きるザインの姿が、過去の自分に重なったフリーレン。彼女はかつてヒンメルにされたように、ザインに手を差し伸べて冒険に誘いました。アニメ第13話では原作にないフリーレンとヒンメルの声と姿がダブる演出が実施され、挫折したり躓いた経験のある視聴者の心に突き刺さりました。
ちなみにザインと戦士ゴリラが冒険者を目指したきっかけは、人々に忘れられた名もなき2人の英雄の像です。この英雄像の片割れこそ、誰あろうクラフト(恐らく武道僧になる前)でした。
フリーレンたちとの10年がかりの旅で魔王を討伐し、世界を救った勇者。当時は何事にも前向きで気持ちのいい青年でしたが、物語冒頭の時点で老衰により死去しました。
成し遂げた功績から英雄と持てはやされ、各地に建てられた銅像が数十年経過しても残っています。困っている人を見かけると助けずにいられない性格で、功績とは無関係に多くの人に慕われて、今なお人々の心の支えとなっています。
正確な強さは不明ですが、勇者と呼ばれるのは伊達ではなく、魔王直下の大魔族たる七崩賢の1人が生涯恐れ続けたほど。
多くの人々はヒンメルが「勇者の剣」を抜いた本物の勇者と信じていますが、真実は違います。「勇者の剣」は女神が大いなる災いに備えて、剣の里の聖域に遺した伝説の武器です。本編の時間から遡ること80年前、しかるべき時と使い手だけが引き抜けるとされているそれを……ヒンメルは抜けませんでした。
しかし、ヒンメルは自身が偽物でも関係なく、魔王を倒して平和を取り戻すと宣言。彼は女神に選ばれし勇者ではなかったにも関わらず、魔王討伐という偉業を自分たちの手で行って、真の勇者に成ったのです。
このいささか衝撃的な設定は、勇者とされる人物が魔王の世界征服を阻んだ裏で、選ばれし者がより脅威度の高い存在を討伐している『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』へのオマージュかもしれません。
閑話休題。原作第25話で真実が明かされた場面のヒンメルは諦観の表情でしたが、アニメ第12話ではヒンメル役・岡本信彦の繊細な演技によって、不安に陥りそうな自身の気持ちを鼓舞したかのようにも取れる描写になっていました。勇者といえど生身の人であり、努力した結果だというのが熱いです。
そんなヒンメルの高潔な精神、思いやりの心は今もフリーレンの中に息づいており、彼女の行動指針になっているのも胸に来るものがあります。ヒンメルからフリーレン、あるいはフリーレンからヒンメルへの想いが仄めかされるエピソードは、1つ残らず感動的で涙を誘います。
僧侶ハイターと戦士アイゼンは勇者ヒンメルの力となった大事な仲間。
ハイターはヒンメルより長生きしたものの、同じく老衰で死去してしまいます。女神の魔法を用いる聖職者で、もっぱら回復と支援が専門でした。
女神の魔法には攻撃に使えるものもありますが、ハイターが使用していたかは不明。作中の描写によると大魔族の幻惑魔法を防げるだけでなく、仲間を無補給かつ無酸素状態のまま2ヶ月生存させられる女神の加護をかけられるようです。
作中の表現で概算すると、全力のフリーレンの半分ほどの魔力がある(人間としては規格外)ことになりますが、前提条件となるフリーレンの魔力制御がどれくらい抑えたものか不明なので鵜呑みにすべきではないでしょう。
ハイターの性格は温厚で分け隔てない人格者な一方で、無類の酒好きというアンバランスな人物。しょっちゅう二日酔いになったり、天国での贅沢三昧を公言したりと、聖職者とは思えないほど俗っぽいです。ただ天国に関しては彼なりの哲学があり、苦しみの多い人生ならせめて死後に報われるべき、という思想から来ています。
ハイターは優れた観察眼の持ち主で、フリーレンが生涯を賭けて行っている魔力制御にも気付いていました。アニメ第11話(原作第24話)にて彼女の想像を絶する苦労を思い、努力を労ったことが言及されています。その際、どちらかと言えば無神論者のフリーレンが、「天国にいる」という表現を用いたのも印象的。
アイゼンはドワーフ族の戦士で、エルフには及ばないものの人間より長命なため今も健在です。とはいえより年並みには勝てず半隠居状態。元は無愛想でストイックな性格でしたが、ヒンメルたちとの旅を通して、無愛想なのはそのままに茶目っ気を獲得(本来の性格?)していきました。
魔族をして「最強の戦士」と言わしめた実力者であり、パーティ随一の怪力と防御力、毒耐性の高さが特徴です。戦闘描写が乏しいので詳しくはわかりませんが、単独で将軍クラスの大魔族と渡り合えるレベルなのは間違いありません。
時間感覚は人間とエルフの中間くらいであり、どちらにも共感出来るため、感覚のズレが大きいフリーレンを気にかける様子があります。フリーレンたちの旅の大目標、北の地にある「天国(オレオール)」を目指す旅はアイゼンの与えた助言がきっかけ。
ヒンメルを含む勇者パーティ3人の共通点は全員、フリーレンへ人間らしい「何か」を遺していること。ヒンメルは各地に建造させた銅像で、ハイターとアイゼンは弟子のフェルンとシュタルクを託すことで、フリーレンへ仲間(仲間の思い出)を遺したのです。
彼らの想いと気遣いが劇中で垣間見える度に、自然と目頭が熱くなります。
劇中で最も早く登場した魔族。魔力を操ることに長けた魔族の中でも、特に優れた天才的魔法使いです。フリーレンをして、自分より格上だと認める1人。
80年前はのちに魔王の討伐に成功する勇者パーティですらかなわず、人的被害を抑えるために封印するしかなかった、桁外れの大魔族です。80年という時間の開きを感じさせず、フリーレンとフェルンの最新の魔法にすぐさま対応して見せた柔軟さ、天性の勘は驚嘆に値しました。
本編ではフリーレンが1撃の下に消滅させたものの、もして惑って時間がかかってしまっていたら、クヴァールの有利になった可能性が高いです。即死させられず逃げられでもした場合、クヴァールは新たな魔法を開発して、80年前以上の被害をもたらしていたかもしれません。
賢老と呼ばれるだけあって、魔族としては比較的理性的で、一人称が「わし」で年老いたような言動を取ります。封印を解かれた直後に「魔王様の仇討ち」と発言しますが、絆の概念がなく本能的に人間を惑わせる魔族の性質から考えると、おそらく状況に適した言葉を口にしただけでしょう。
魔族には生涯をかけて、得意とする魔法を磨き続けるという種族的特性があります。そんなクヴァールの開発した魔法が、歴史上初めての貫通魔法「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」。あらゆる魔法防御および装備を無効化、人体を直接破壊する魔法で、しかも魔力消費の燃費が良くて速射可能というインチキじみた性能を誇りました。
当時最前線で戦っていた冒険者の4割、魔法使いの7割がゾルトラークの餌食になったとされています。しかし、そんなゾルトラークが魔法としてあまりにも強力かつ洗練されていたことが、クヴァールのアダとなりました。
人類の魔法使いがこぞって研究・解析した結果、ゾルトラークは人類の魔法体系の根幹に組み込まれたのです。ゾルトラークを前提とした改良の積み重ねで、人類の魔法は飛躍的に発展しました。現代の魔法使いが攻めの主体とする「一般攻撃魔法」こそ、人類が扱えるようになったゾルトラークそのもの。
依然として使い勝手が良く、当たれば致命傷になるものの、対策が容易なため相対的な脅威度は低い……というのが現在のゾルトラークの評価です。ちなみにこの設定が初回放送で公開されたあとSNSなどではミーム化し、最先端の技術が一般化して広く普及することを「ゾルトラーク現象」や「ゾルトラークの法則」と呼ぶ風潮が生まれました。
ゾルトラークはフリーレンとフェルンの主力でもありますが、フリーレンによって独自に改良・調整がされており、ほとんど別物と言える魔法となっています。
ただでさえ評判の高かったアニメ『葬送のフリーレン』ですが、アニメ第7話(原作第14話)から始まった「断頭台のアウラ編」で、2023年秋アニメにおける人気と評価が不動のものとなりました。
その理由は息をするのも忘れそうになる、TVアニメの枠を完全に越えた超絶作画の数々。特に七崩賢の1人、断頭台のアウラの配下たるリュグナーとリーニエを相手に、フェルンとシュタルクが見せたアクションが圧巻でした。
自身の血液を自在に操るリュグナーに対して、最小限の動作でゾルトラークを連射するフェルン。リュグナーが使うのは攻防一体の強力な魔法にも関わらず、勢いに押されて防戦を強いられる展開に魅入られました。
魔法合戦よりさらに凄かったのが、同時進行したリーニエとシュタルクの戦いです。リーニエの能力は1度目にした猛者の動きを記憶し、最適な武器を生成して忠実に再現するというもの。斧に剣、槍や投げナイフを駆使した戦闘では、動きの端々から振るった武器の重量を筋力で相殺しているのが伝わってきました。
フェルンとシュタルクを「動」とするなら、フリーレンの戦いは「静」。戦う前から決着がついていたと言っても過言ではないクレバーな戦いでした。派手な立ち回りこそなかったものの、アウラの結末は緻密な描写の極地。誇張ではなく目線の動きや指の仕草、毛先の1本までこだわり抜かれたアニメーションに痺れました。
「動」と「静」のアクションの鮮やかな対比。アニメだからこそ出来る、漫画媒体で絶対に不可能な表現が最高でした。
アニメ『葬送のフリーレン』は連続2クール全28話(初回4話一挙放送だったので日程的には24回)、2024年3月まで放送される予定です。
2023年12月上旬の時点でちょうど折り返しに当たる第14話まで放送済み。原作漫画で言うとだいたい第4巻に入った辺りです。エピソードの消化スピードと話のキリの良さから考えて、おそらくアニメで放送されるのは第7巻の序盤まででしょう。
合間に細かい出来事はありますが、4巻から7巻までの範囲で見所となるのは「1級魔法使い試験編」です。
北部高原へ抜けるためにどうしても1級魔法使いの資格が必要となり、資格試験を受けるため魔法都市オイサーストへ向かうフリーレン一行。全部で3次まで行われる試験には数十人の強豪魔法使いが参加し、知力と体力と気質を問う過酷な選抜が行われます。
これまで対魔族戦がメインだった本作において、初めて繰り広げられ対人戦が興味深いです。個性的な魔法の応酬が見られるため、「断頭台のアウラ編」のようなアニメならではの大迫力の表現を期待したいところ。
- 著者
- ["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
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のちのちまで登場するキャラクターが何名か出てきますが、特に印象的なのは宮廷魔法使いデンケンでしょう。78歳の高齢にも関わらず未だ現役で、血みどろの権力闘争を生き抜いた人物。さぞや腹黒い企みをしているのだろう……と思わせて、意外すぎる一面を見せてくれます。
個別の実力だけでなく、参加者同士の協力も必要なとなる1級魔法使い試験編」で、老獪なデンケンがどう動くのか注目。
他に特筆すべきなのは、「大陸魔法協会」創始者にして伝説の魔法使いフランメの師匠、ゼーリエが登場することですね。神話の時代から生きていると言われるエルフで、フリーレンとも旧知の仲。
試験では戦闘以外にも、フリーレンとヒンメルとの最初の出会いが明かされます。各キャラクターの掘り下げも魅力なので、ぜひお楽しみください。
漫画『葬送のフリーレン』は「週刊少年サンデー」にて絶賛連載中。残念ながら放送スケジュールの関係でアニメ化範囲外になっているものの、引き込まれる珠玉のエピソードがいくつもあります。
ここからは最新話の重大なネタバレを含むため、未読の方はご注意ください。
まず注目したいのは南の勇者の活躍。南の勇者はヒンメル以前に魔王軍に単身挑んだ偉人で、断片的に語られる逸話が人知を超えています。その強さと精神性、さらに魔王の腹心たる全知のシュラハト絡みで伏線がありそうなことからファンの人気が高いです。単独のエピソードなので、ひょっとすると出番が前倒しされてアニメに登場するかも……?
なお南の勇者という呼称は、おそらく『ダイの大冒険』に登場する北の勇者ノヴァが元ネタ。人々の心を奮い起こせる者こそが勇者であり、1人とは限らないという描写に強いリスペクトを感じます。
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- ["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
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「1級魔法使い試験編」に登場したデンケンが、準主役級の活躍を見せる「黄金郷編」(第9巻)も格別に素晴らしいです。
物語の舞台は北部平原にある黄金郷。そこはかつて城塞都市ヴァイゼのあった場所で、七崩賢最強にして最後の1人、黄金郷のマハトが現地の人々と数十年にわたって共存し――そして自身の手ですべて黄金に変えてしまった悲劇の現場です。
人間を理解し、共存しようとした異端中の異端の魔族マハト。彼の存在と動機、デンケンとの関係が『葬送のフリーレン』の物語に深みを与えました。「断頭台のアウラ編」のようなハイクオリティアニメで、「黄金郷編」を見たいと思うファンはかなり多いです。
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- ["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
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現在進行している最新エピソードも見逃せません。女神像の不可思議な力で精神だけ過去に飛ばされたフリーレンが、魔王討伐前の時間軸のヒンメルたちと再会します。単なるファンサービスではなく、現代や近い将来に関係しそうな大魔族、伏線が多数登場する緊迫の展開。生前の全盛期ヒンメルとのやりとりがとにかく素晴らしく、先の見えない物語から目が離せません。
今のところアニメ『葬送のフリーレン』放送終了後の予定は発表されていませんが、出来れば同じスタジオ、同じスタッフで上記エピソードを含む第2期をやってもらいたいです。
漫画『葬送のフリーレン』はアニメ化前の時点で累計発行部数1000万部でしたが、TVアニメの大ヒットで一気に部数が伸びて、現在1700万部を突破しています。一過性のブームで終わらないたぐいまれなポテンシャルのある作品なので、未見・未読の方はこの機会にぜひ触れてみてください。
漫画アプリ「サンデーうぇぶり」なら最新話まで基本無料で読めるため、まずそちらから入るのがおすすめです。
ちなみに本作の主要人物などの固有名詞は、ドイツ語の単語に由来するという小ネタがあります。すでに楽しんでいる方も、そういった部分に着目するとまた違った見方を出来るのではないでしょうか。