漫画雑食ライターが選ぶアニメ『葬送のフリーレン』の凄すぎる見所25選!

更新:2024.7.4

アニメ『葬送のフリーレン』は2023年9月から2024年3月にかけて、連続2クールで半年間放送されました。同名漫画のアニメ化作品で、元々評価作品自体の評価が高こともあって注目されていましたが、アニメのクオリティの高さで世界的に人気が高まっています。 近年随一と言って良い珠玉のアニメに仕上がっており、実際に見た筆者の率直な感想から、アニメ『葬送のフリーレン』の凄すぎる見所をご紹介したいと思います。

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3行でわかる記事の内容

  • 『葬送のフリーレン』は近年のアニメの中でも飛び抜けたクオリティ
  • 筆者が個人的に感心した見所・名シーンを厳選して紹介する
  • アニメ『葬送のフリーレン』2期の展望を予想

想像を超えてきたアニメ『葬送のフリーレン』の見所をネタバレ紹介!

「これはとんでもないものが始まったのかも知れない」――初めて視聴した時に、素直にそう思いました。予感は的中し、それは今や世界的なムーブメントになりつつあります。

アニメ『葬送のフリーレン』は日本テレビ系列で、2023年9月から2024年4月まで金曜深夜「FRIDAY ANIME NIGHT」で放送されたテレビアニメです。初回放送が「金曜ロードショー」の2時間特番という異例の扱いや、近代日本アニメーションの総決算と言って良い規格外のクオリティで話題となり、大好評のうちに最終回を迎えました。

原作は2020年から「週刊少年サンデー」で連載されている同名のファンタジー漫画『葬送のフリーレン』。山田鐘人が原案・原作を担当し、アベツカサが作画を行う二人三脚の体勢で制作されています。

著者
["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
出版日

現在13巻までリリースされている原作漫画は、累計発行部数2000万部突破。「マンガ大賞2021」大賞、「第25回手塚治虫文化賞」新生賞受賞をはじめとして、連載開始から毎年なんらかの賞で上位に輝いています。

『葬送のフリーレン』はストーリーに重点が置かれている作品ですが、アニメでは細かい描写の補完や戦闘シーンの大幅パワーアップが施され、繊細かつ印象的なエピソードが多数放送されました。

この記事ではそんなアニメ『葬送のフリーレン』の見所を紹介していきます。放送された全28話は名場面が非常に多いため、わかりやすいようにジャンル別に分けてエピソードの内容や、原作漫画との違いを解説します。

極力ネタバレには配慮しますが、解説の都合上ネタバレを含むのでご了承ください。

『葬送のフリーレン』はアニメ群雄割拠時代でも群を抜く出来映え!

今や世界に誇る一大コンテンツに成長した日本のアニメ。インターネットを通じて新作アニメがリアルタイムで全世界に発信され、毎シーズン話題になることが珍しくありません。人気作品を抱える各出版社は、クオリティを重視したアニメ化を多く手がけるようになりました。世界的ヒット作の『鬼滅の刃』や『進撃の巨人』などが良い例です。

こうしたアニメ群雄割拠時代に制作されたアニメ『葬送のフリーレン』は、原作漫画をスケールアップした圧倒的な映像美と幻想的な音楽、普遍的なテーマで大変な人気になっています。しかも日本国内に留まらず、海外でも大きな反響を呼んでいます。

もっともわかりやすいのが、アニメ・漫画の大手データベース「MyAnimeList」でのユーザー評価でしょう。

「MyAnimeList」では全世代のトップアニメが長年『鋼の錬金術師(2009年版)』の独占状態でしたが、『葬送のフリーレン』は放送中に『鋼の錬金術師』を追い越し、放送終了後の現在は過去に例のないハイスコアでダントツ1位となっています。ちなみに他のレビューサイトでも『葬送のフリーレン』の評価は軒並みトップです。

そんな世界でも最高の評価を受けているアニメ『葬送のフリーレン』は、美麗な映像と素晴らしい音楽で描き出された名シーン抜きには語れません。

アニメ『葬送のフリーレン』美しすぎるロマンチックな名シーン4選

『葬送のフリーレン』はロマンスを中心とした作品ではありませんが、たまに描写される恋愛関連のシーンは秀逸そのもの。

極論すると本作はすべて美しいですが、それはそれとしてアニメ化された範囲の中で、特に男女問わず多くの視聴者をときめかせた美しくてロマンチックな名シーン4選をご紹介していきます。

アニメ『葬送のフリーレン』美しすぎるロマンチックな名シーン4選①:幻の蒼月草【第2話(原作第3話)】

まだ幼いフェルンを弟子にとって、魔法収集しながら各地を巡るフリーレン。彼女はとある集落で勇者ヒンメルの像の清掃を依頼され、それ自体は手早く終わるのですが……。ふと蘇ってきたヒンメルとのかつての旅で、彼が見せたいと語っていた蒼月草の思い出。何十年越しの約束を果たすべく、フリーレンは絶滅したと言われる蒼月草を探し始めます。

紆余曲折を経て見つかる、満開に咲き誇る蒼月草の花はだただ美しい。原作でもグッとくる初期のエピソードですが、アニメでは映像作品ならではの鮮やかで豊かな青い色彩と荘厳な音楽に彩られ、心に残る名シーンとなりました。

ヒンメルの秘めた想いとそれを尊重したいフリーレンの気持ち、人間とは異なるエルフの時間感覚といった、本作の魅力である大切なものの追憶や尊さが詰まったエピソードとなっています。

アニメ『葬送のフリーレン』美しすぎるロマンチックな名シーン4選②:縁を繋いだ花畑を出す魔法【第27話(原作第57話)】

「一級魔法使い試験編」第3次試験の面接にて、フリーレンは「1度だけチャンスをやる。好きな魔法を言ってみろ」と師フランメの師匠に当たるゼーリエに試されます。そこでフリーレンが即答したのは、フランメがもっとも好きな「花畑を出す魔法」でした。

そこから続く回想で初めて花畑を出す魔法によって、ヒンメルとの縁が生まれたことが明かされます。

見知らぬ森で迷子になっていた少年時代のヒンメルを慰めるため、気まぐれで使った花畑を出す魔法。原作ではたった1コマ(と表情のアップ)でしたが、アニメではとても色彩豊かで幻想的な花びらの舞う花畑として描かれました。

感動したヒンメルは「初めて魔法を綺麗だと思った」と振り返っていますが、誰がどう見ても花畑の魔法を使ったフリーレン本人に一目惚れしたのは明白です。

なお魔法で一面に咲いた花はマーガレットでした。マーガレットの花言葉は「真実の愛」です。色ごとに微妙に意味が違って、黄色なら「美しい容姿」でピンクは「真実の愛」で、意味深にフォーカスされた白いマーガレットは「秘めた愛」。いずれもヒンメルと、彼の心中を表しているとしか思えない花ばかり。

花畑を出す魔法はゼーリエに言わせると役に立たないくだらない魔法だそうですが、そんな他愛のない魔法が巡り巡ってフランメとフリーレンを繋ぎ、そしてフリーレンとヒンメルを結びつけて魔王打倒という結果を導いたのが胸を打ちます。

アニメ『葬送のフリーレン』美しすぎるロマンチックな名シーン4選③:社交会の華麗なるダンス【第15話(原作第32話)】

要塞都市フォーリヒの貴族、オルデン卿の依頼で彼の亡き子息の代役を密かに務めることになったシュタルク。3ヶ月かけてみっちり作法を叩き込まれた彼は、同じく短期間で貴族のふるまいを仕込まれたフェルンとともに、社交会に参加することになります。

当日、無事に勤めを果たした2人。別に踊る必要はなかったものの、せっかく練習したのだからとシュタルクからフェルンをダンスに誘いました。原作ではさらっと流されただけですが、アニメでは映像作品以外で不可能な素晴らしいダンスシーンが放送され、すべての視聴者の度肝を抜きました。

元々体を動かすのが本分のシュタルクは器用に踊る一方、フェルンは緊張で顔がこわばり、ステップを踏むので精一杯。彼女の様子に気づいたシュタルクは、力強い動きでダンスをしっかりリードしていきます。別人かのような仕草に戸惑うフェルンでしたが、やがて身を任せて2人だけのダンスに没頭していくのでした……。

フェルンの表情の変化があまりにも見事。最初はわかりやすく目が泳いでいたのに、段々と表情が和らぎ、ついにはダンスを楽しむまでになる。わずかな顔の変化で、フェルンの心境が手に取るようにわかります。すべての動作にオーケストラの演奏がぴったりハマっていて、大いに盛り上げてくれるのもポイントです。

シュタルクとフェルンの距離感がグッと縮まる、非常にロマンチックなシーンでした。社交ダンスそのものもディズニー映画くらいでしかお目にかかれない超絶作画で、ただただ最高でした。これがテレビアニメで放送されたというのが信じられません。

ちなみに監督曰く、プロダンサーの動きをアニメーターが手描きで描き起こしたものだそうです。脱帽。

アニメ『葬送のフリーレン』美しすぎるロマンチックな名シーン4選④:誓いを思わせる鏡蓮華の指輪【第14話(原作第30話)】

フリーレン一行は旅の移動中、馬車が鳥型の大きな魔物に襲われてしまいます。魔物はすぐ片付いたものの、彼女はごたごたの中でヒンメルから贈られた鏡蓮華の意匠の指輪をなくしてしましました。

失うものの方が多い長い人生経験から、指輪を諦めようとするフリーレンですが、指輪の意味を察してフェルンが必死に説得します。鏡蓮華の花言葉は「久遠の愛情」。ヒンメルの気持ちがこもった大切な贈り物に違いないと……。

指輪は無事見つかるのですが、そこから展開される回想シーンは本編通して随一の名場面です。

何かをプレゼントすると言われたフリーレンが、知らずに選んだ鏡蓮華の指輪。その意味を察し、複雑な表情を浮かべるヒンメルは多くを語りませんが、言葉に出来ないフリーレンへの想いが浮かんで消えたのが容易に想像出来ます。

彼はその後、贈り物の指輪を手渡すのではなく、スマートにひざまずいて左手にはめるのでした。その後ろでは、時刻を告げる鐘が意味深に鳴り響きます……。

著者
["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
出版日

原作では指輪を選ばれたヒンメルは、どことなく痛ましい表情を浮かべますが、アニメだと感情を押し殺すような描写に変更されていました。漫画では少し誇張するくらいでないと読者に伝わりづらいものですが、アニメは動作と声の演技に音楽まで加わるので、感情を出しすぎるとくどく感じることから控えめな演出に変更されたのでしょう。

あえて情報量を減らし、察する方向で調整するのもセンスが光る部分。

鏡蓮華の指輪のエピソードは原作でも特に人気が高く、読者投票ではエピソード人気堂々1位ですし、アニメでも放送終了後の「『葬送のフリーレン』大感謝祭」でもう1度見たい名シーンに選ばれたほどです。

正直に申し上げると、ロマンチックな名シーン4選はこのシーンを推すためにカテゴリーを作って他3選を選出したと言っても過言ではありません。

アニメ『葬送のフリーレン』心を揺さぶる感動的な名シーン8選

『葬送のフリーレン』は主人公フリーレンのエルフとしての寿命の長さゆえの別れ、人生観などから涙腺を刺激する場面が多々描かれます。

感動という点ではロマンチックな名シーンと少し重なる部分はありますが、こちらはより心を揺さぶる、要するにエモいシーンを選出しました。

アニメ『葬送のフリーレン』心を揺さぶる感動的な名シーン8選①:大人の褒め方【第14話(原作第29話)】

些細な行き違いで喧嘩をしてしまったフェルンとシュタルク。僧侶ザインのとりなしもあって、なんとかことなきを得ます。

本人は不服そうですが、フリーレン一行の中では、一般的な人間的尺度からするとザインは1番の大人です。ザインにとって理想的大人とは、司教にまで登り詰めた僧侶ハイターその人。しかし、ハイターをよく知るフリーレンの印象と、彼の理想はかけ離れていました。

フリーレンの回想によれば、ハイター本人は大人になりきれていない大人だったとか。ただ、自分より若い者たちに規範を示すべく、理想的な大人を演じていただけなのです。

誰にも褒められない、大人の大人としての努力。ハイターはいずれ、努力を天国の女神に褒めてもらうつもりでしたが、それを聞いたフリーレンは彼の頭を撫でて労いました。そして同じように、現在を生きるザインの頭も撫でてあげました。

最初から完成されている人間はいないし、人知れず努力をしているというのは大人なら誰しも少しは身に覚えがあるでしょう。大抵その努力は報われませんが、だからこそフリーレンの行動に胸が熱くなりました。

子供が大人を撫でるような不器用な撫で方に、純粋な気持ちから出た行動なのが伝わってくる名シーン。 

アニメ『葬送のフリーレン』心を揺さぶる感動的な名シーン8選②:別れの準備【第2話(原作第2話)】

勇者ヒンメルが亡くなってから20年後、かつての仲間である僧侶ハイターもまた寿命が近づきつつありました。彼は幼くして戦災孤児となったフェルンの行く末を案じており、策を講じてまんまとフリーレンに弟子入りを認めさせることに成功します。

すでに両親の死を経験しているフェルンをこれ以上悲しませないため、ハイター早く旅に出るよう言うのですが……。

そんなハイターをフリーレンは諫めました。フェルンはすでに別れの覚悟が出来ており、本当に必要なのは死を遠ざけることではなく、最期の時まで一緒に過ごして出来るだけ多く思い出を残すことだと。

僧侶のお株を奪う心を打つ説教で、フリーレンの声を抑えた静かな口調と涙、心中にある気持ちを思うと感動する場面でした。

さらにアニメでは2人の会話をバックに、フェルンが1人で家事をするシーンが挿入されていたのが印象的。後ろ姿で表情は不明ですが、涙を拭っているらしき仕草があって、見ていて胸が締め付けられます。

フリーレンと出会ったころのフェルンは、ハイターを安心させるためか、子供ながらに背伸びして気丈に振る舞っていました。それを踏まえると、フリーレンやシュタルクとの旅を通じて年齢相応に笑ったり、はしゃいだりする様子を見せるようになったのは何か感慨深いものがあります。 

アニメ『葬送のフリーレン』心を揺さぶる心を揺さぶる感動的な名シーン8選③:幻でも高潔な勇者【第5話(原作第9話)】

「魂の眠る地(オレオール)」を目指し始めた旅の途中、フリーレンとフェルンは峠道に出没する怪現象の話を耳にします。通行者のよく見知った死者が出没したり、不可解な行方不明者が続出しているという不気味な噂。

断片的な情報から、フリーレンはそれが死者の幻影を操る魔物・幻影鬼(アインザーム)の仕業だと見抜きました。対象の記憶を元に生み出される幻は、あまりにも本物そっくり。実際にハイターの幻影と出くわしたフェルンは、優しく語りかけてくるハイターが偽物とわかっていても討伐を躊躇するほどでした。

フリーレンがかつて同種の魔物と戦った際は師匠フランメでしたが、今回幻として出てきたのはヒンメル。記憶から再現されたヒンメルは、甘い言葉で惑わす代わりにたった一言「撃て」と言い放ちます。

フリーレンの見た幻影の言葉はヒンメルが言いそうなことであったのに対して、フェルンはハイターに言って欲しいことだったのが、2人の精神性や成熟度が現れていて対照的でした。

生前の勇者ヒンメルがあまりにも高潔であること、フリーレンがそれを熟知していること、そして今でも慕う師匠フランメより彼が大事だと無意識に思っていること。フリーレンの内面が色々と垣間見える場面であり、ヒンメルに全幅の信頼を寄せる「ヒンメルならそう言う」の名台詞とともにとてもエモい名シーンです。 

アニメ『葬送のフリーレン』心を揺さぶる感動的な名シーン8選④:勇気ある者【第12話(原作第26話)】

ヴィレ地方の戦士の村に生まれたシュタルク。幼少期の彼は才能開花が遅く、その一方で年の離れた実兄シュトルツが村一番の戦士であったため、落ちこぼれ扱いされていました。

シュトルツは村の誰からも最強の戦士と尊敬され、自身もそれに相応しい振る舞いをしていましたが……余計な波風を立てないため対外的にはシュタルクへ辛辣な態度を取っていたものの、実際には誰よりも弟の才能を買っていました。

おそらくシュトルツ自身が誇りに思っていたであろう、魔物と戦っても返り血に染まらなかった最強の証たる純白のマントが汚れることも構わず、親身にシュタルクの訓練に付き合っていたことからもそれが窺えます。

さらにシュタルクが戦士の村が魔族に襲われた時には、戦おうとする幼いシュタルクを説得して生き延びさせています。のちに明らかになりますが、襲撃者はアイゼンをして自分より強いと言わしめた大魔族「血塗られし軍神リヴァーレ」でした。シュトルツはおそらく死を承知の上で戦いに挑んだものと思われます。

戦士としてのプライドより弟が大事であり、我が身を犠牲にしてでも誰かを守る選択が出来る。シュタルクにとって兄シュトルツはもっとも身近で、もっとも偉大な勇気ある者――つまり勇者なのがよくわかります。

落ちこぼれの烙印を押され、誰にも愛されていないと思い込んでいたシュタルクが、すべての人ではないにしろ実際には深く愛されていたのがわかるエピソードでした。 

アニメ『葬送のフリーレン』心を揺さぶる感動的な名シーン8選⑤:大切な記憶【第16話(原作第33話)】

とある村に住むフォル爺は年齢400歳を超えるドワーフで、長年にわたって村を外敵から守ってきたことから村人に守護神のように思われている人物です。

フォル爺の村を訪れ、いつになくはしゃぐフリーレン。彼はフリーレンにとって、思い出と時間感覚を共有する数少ない長寿友達でした。

久々の交流の中で、フリーレンは改まって感謝を伝えました。実はフォル爺こそ、彼女がヒンメルたちとの冒険を覚えておこうと思ったきっかけだったのです。

フォル爺が村を守り続けていたのは、今は亡き妻との約束があったからでした。もはや自分しか知らない思い出のために、一般的なドワーフの寿命を超えるほど長生きして約束を果たしていたのです。

フリーレンの感謝を聞いたフォル爺は突然、ヒンメルのことを覚えているかと言い始めます。あまりにも長い年月が彼から妻の面影、声や仕草を奪っていました。それどころか、明らかに記憶障害による認識の混乱まで……。

フリーレンはかつてのヒンメルの時と同じように、フォル爺のこともいつまでも記憶に留めて、未来へ連れて行くことを決意しました。

大切なものを忘れてしまう寂しさと、その感覚すらいずれなくなるというほのかな恐怖。

衰えは万人に等しく訪れるとはいえ、簡単には割り切れません。長命種だからこそのスケール感はあるものの、年月や長く会っていない人との繋がりを意識せずにはいられない趣深いエピソードです。

かなりつらい内容ですが、別れの間際のフォル爺の言葉で少し救われる気がします。 

アニメ『葬送のフリーレン』心を揺さぶる感動的な名シーン8選⑥:在りし日の面影【第25話(原作第53話)】

約1000年前、フランメの遺言状を携えて彼女の師匠ゼーリエの下を訪ねたフリーレン。遺言は人類への魔法普及の第一歩を踏み出せた報告と、その後を引き継いで欲しいというものでした。

ゼーリエは遺言状を破いた上で拒否。フランメの予想した通りと語って去ろうとするフリーレンでしたが……何か思うところがあったのか、ゼーリエ側から誘って少し話をすることになります。

西日の差し込む森を歩きながら、ゼーリエはフランメとの思い出話をフリーレンに語って聞かせました。気まぐれで引き取った幼い人間の子供が、誰もが魔法を使える時代を夢見た話――。

原作のこの場面は、ほぼ一方的にゼーリエが話すだけでした。一方でアニメは、回想するゼーリエと一緒に在りし日のフランメの幻(実際にいるわけではなくゼーリエのイメージ)がオーバーラップして歩くという、非常にエモいシーンになっています。

思い出話とフランメの歩調が、しっかり連動しているのが秀逸です。エルフからすると短い人間の一生でさらに生き急いだフランメ。その幼い姿の幻が、ゆっくり歩くゼーリエとフリーレンを追い越して先に走って行く……。さりげない演出に涙を誘われます。

また沈む夕陽に背を向けるゼーリエに対して、希望的に前を向いたままのフリーレンの対比が非常に素晴らしかったです。沈む夕陽は時代の終わりを意味しており、それを認めないゼーリエと受け入れるフリーレンという風に解釈出来ます。

フランメの幻の最後の姿が、やはり太陽の方を見たままの後ろ姿だったのも示唆的。フランメとフリーレンの2人は同じように、輝かしい未来を見据えていたということでしょう。

情感たっぷりに描かれる美しい表現から、さまざまな想いが読み取れる珠玉の名シーンです。 

アニメ『葬送のフリーレン』心を揺さぶる感動的な名シーン8選⑦:美しい最後の冒険【第1話(原作第1話)】

勇者ヒンメル一行が魔王を討伐し、王都へ凱旋してから50年後。それは当時お祭り騒ぎの夜、4人が揃って見た半世紀(エーラ)流星の時期が再び巡ってきたことを意味しました。

50年ぶりに全員を集めたフリーレンは、4人で流星群を見に行く約束を果たすため、もっとも綺麗な流星を見られる場所への短い旅――冒険に出ます。

年老いてもはや別人と化したヒンメル、老齢に入って貫禄の出たハイター、あまり変わらないように見えるアイゼン、そして50年前とまったく同じ外見のフリーレン。それぞれ年の取り方に差はあっても、冒険の楽しさは50年前とまったく変わりませんでした。

「僕はね、全員が揃うこの日をずっと待ち望んでいたんだ」(『葬送のフリーレン』第1巻より引用)

万感の思いが込められたヒンメルのモノローグをバックに、満点の空に降り注ぐ流星の雨。壮観としか言えない天体ショーを壮大なBGMが盛り上げますが、流星の1つが一際まばゆく輝いて消える瞬間、「綺麗だ」というヒンメルのつぶやきで余韻を残して終わります。

視覚と聴覚に訴えるアニメならではの長所を活かした、第1話にして美麗で静謐な世界観に引き込まれる名シーンです。

 アニメ『葬送のフリーレン』心を揺さぶる感動的な名シーン8選⑧:別れの時【第1話(原作第1話)】

世界を救った英雄、勇者ヒンメルの死。多くの人が葬儀に参加し、普段は人や物、喧噪で溢れる街もこの日ばかりは静けさで満たされました。

死を悼んで式のあちこちからすすり泣きが漏れ聞こえる中、じっと沈黙するフリーレン。仲間なのに悲しそうな表情1つしないのは薄情だと罵る人すらいました。

最後の別れが近づく段階になって、フリーレンは声を震わせて心中を吐露します。

「人間の寿命は短いってわかっていたのに……なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう」(『葬送のフリーレン』第1巻より引用)

魔王討伐のためにたった10年旅をしただけで、彼のことを何も知らないと言いながらも、止めどなく溢れる涙。亡くした悲しみそのものというよりは、エルフの時間感覚から漠然とまだ同じ時間を過ごせるはずと思っていた、その機会も可能性も永遠に失われたことを嘆いているように見えます。

生きていれば誰もがいずれ経験する、もはや取り返しが付かない後悔。思い出が美しいものであればあるほど、失うつらさと苦しさが強くなるもの。このエピソードは第1話ですが、流星を見に行く最後の冒険とセットで視聴者に強烈な印象を与えて、短時間でフリーレンに感情移入して涙する視聴者が続出しました。

原作でフリーレンが涙するのは告別式でのシーンでしたが、アニメでは鎮魂の鐘が鳴り響く土葬の場面に変更。粛々と棺が埋められる様子が差し挟まれ、永遠の別れが強調されました。

ここで初めて感情が爆発するフリーレンとは対照的に、式が滞りなく進む当たりに無常感があって、余計に心に響くものがありました。

アニメ『葬送のフリーレン』新しい発見がある名シーン6選

アニメ『葬送のフリーレン』のスタッフは原作漫画のニュアンスを尊重しつつ、作品の要素を昇華・最適化して、これ以上ないほど素晴らしい映像に仕上げています。

そんな中には原作にはない描写を追加し、補完している場面も少なくありません。ここからはアニメオリジナルの表現によって、特に新しい見方・解釈の出来る場面を厳選してご紹介しましょう。

アニメ『葬送のフリーレン』新しい発見がある名シーン6選①:結界解除の瞬間のシルエット【第21話(原作第45話)】

派手な対人バトルに目が行きがちな1次試験。実は普通に見ていると絶対に気づきませんが、かなり大胆な演出が追加されていました。

追加されたのは試験の終盤、フリーレンとデンケンの戦いが終わった直後です。カンネの魔法を自由に使わせるため、ゼーリエによる強固な結界魔法をフリーレンが解除する場面。彼女の手元から天に向かって雨空を貫く光が放たれる瞬間、何者かシルエットが浮かび上がります。

その正体は髪型や耳の形から、結界魔法をかけたゼーリエで間違いありません。本当に一瞬でスローモーションにしないと見られないので、メタ的には演出家かアニメーターの遊び心ですが、ゼーリエの結界に干渉したため本人の魔力がイメージ像となって現れた――とも考えられます。

ただ視聴しているだけでは絶対にわからない部分にまで、こだわって作られているのが凄いです。 

アニメ『葬送のフリーレン』新しい発見がある名シーン6選②:魔法使いの首飾り【第18話(原作第37話)】

ある事情から、最近にわかに注目が集まっているフリーレンの持つ首飾り「聖杖の証」。これについても微妙な改変がありました。1級魔法使い試験の受験資格がないから、と門前払いを食らいかけたフリーレンが、1級魔法使いレルネンのお墨付きで参加出来るようになった場面での回想でのことです。

約80年前、まだ勇者ヒンメル一行が旅を続けていたころ。当時魔法使いを管轄していたギルドに所属していなかったフリーレンが、魔法使いとしての身分を証明する唯一のものとして聖杖の証を持っていました。

珍しく自慢げなフリーレンとは裏腹に、ヒンメルやハイターはもちろん、長命種のアイゼンすらその存在を知りませんでした。原作ではすんなり首にかけ直しますが、アニメでは半端に首にかけてツインテールの房を巻き込んでいるのが細かいです。

ぱっと見はいじけるフリーレンが愛らしいだけの改変ですが、誇りに思うものの価値が伝わらない喪失感も読み取れます。過去と現在の仲間との絆だけでなく、今後重要になるかも知れない聖杖の証が自然に印象に残るシーンでした。 

アニメ『葬送のフリーレン』新しい発見がある名シーン6選③:当たり前が招いた先入観【第25話(原作第52話)】

「1級魔法使い試験」編2次試験の最難関、フリーレン複製体への作戦会議はおおむね原作準拠でしたが、たった一言だけ追加された台詞がありました。

複製体の弱点がわかると話すフェルン。フリーレン本人に不意打ちでゾルトラークを撃ち、防御させるところを他の受験者に見せます。

そこで判明した致命的な隙はあまりにも意外すぎて、対戦経験のあるデンケンをしてフェルンが目の前でやって見せるまでわからなかったほど。原作ではすぐに隙の説明に入りますが、アニメでは「手練れという先入観があったからこそ気づけなかった」という一言が追加されています。

展開の都合上仕方ないとはいえ、ともすればデンケンの株が下がる見落としをわずか一言でフォロー。しかも先入観を強調することで、本来あり得ない弱点という説得力アップにも繋がっています。

「神は細部に宿る」と言いますが、こういった細かい補完にスタッフの作品への深い理解と愛を感じます。 

アニメ『葬送のフリーレン』新しい発見がある名シーン6選④:言葉にならない演技【第1話(原作第1話)】

第1話にして魔王を討伐した後であり、平和になった世の中を見届けて勇者が老衰で亡くなる、という衝撃的な展開で幕を開けた本作。ストーリー自体は原作と同じですが、演出の強化とアニメオリジナルの補完がいくつかあります。

特に良かったのが、何1つ変わらないまま50年振りに現れたフリーレンに対するヒンメルの反応です。

出かける準備と言いつつ、手を止めて棚を見つめるヒンメル。そこには勇者として名を馳せたころ、自分が使っていた装備一式と剣を飾ってありました。何を考えているのかは推し量るしかありませんが、時間経過の重さと変わらない親愛、もしかしたら後悔……わずか数秒の無言の演技からさまざまな感情が読み取れました。

他には葬儀の直前にほんの一瞬ですが、ヒンメルが見つめていた棚が映るカットがあります。棚は空っぽ。おそらくヒンメルの死を直接提示する前に、ワンクッションおいて暗示する描写でしょう。まさか、と視聴者の心を揺さぶる繊細な演出でした。

たった数秒の原作にない無言のカットによって、物語に深みが生まれた名シーンです。 

アニメ『葬送のフリーレン』新しい発見がある名シーン6選⑤:抜けなかった勇者の剣【第12話(原作第25話)】

シュヴェア山脈にある「剣の里」には、女神がもたらして選ばれた勇者にしか使えないという伝説の剣。50年前の魔王討伐の際、勇者ヒンメルが抜いたとされていましたが……実際にはヒンメルは選ばれた者ではなく、伝説の剣は女神の聖域に安置されたままでした。

勇者ヒンメルが女神に選ばれた特別な者ではなかった、というややショッキングな展開。原作ではヒンメルに気落ちした様子はなく、魔王討伐の決意を新たにする場面でしたが、アニメ版の解釈は少し違いました。

魔王を倒せれば本物だろうが偽物だろうが関係ない、とヒンメルが語るところは同じ。しかしアニメのヒンメルは台詞の途中まで後ろを向いたままで、よくよく聞くと声が震えています。おそらく内心で動揺しながらも、自分を鼓舞するように魔王討伐を宣言している――という描写です。

逸話や偉業でヒンメルには完全無欠の英雄のイメージが付きまといますが、この変更によってより人間味を感じるとともに、女神の加護もなしに自力で魔王討伐を成し遂げた凄さを改めて感じました。 

アニメ『葬送のフリーレン』新しい発見がある名シーン6選⑥:デンケンの宿題【第27話(原作第56話)】

1級魔法使い試験編に登場するリヒターは、劇中の立ち位置と恵まれているとはいえない出番の回数から、原作ではあまりいい印象のなかったキャラクターです。それがアニメでは良い具合にフォローされていました。

「零落の王墓」攻略で2次試験に落ちたリヒター。気落ちしながらも、普段の仕事である魔道具店を開いていると、試験でパーティを組んだデンケンとラオフェンが訪ねてきました。彼と違って3次試験に進んだ2人の来店でさらに憂鬱になるのですが……。

ここでのやりとりの台詞は原作と同様ですが、アニメだとデンケンは漫然と棚を見ているだけではなく、鉱石や本を何かの目的があって物色するような姿が描かれました。最後にはそれらを机の上に積んでいって、片付けることなく退店します。

リヒターといえば大地を操る魔法の使い手です。石とは親和性が高い気がしますし、わざわざ魔法の本と一緒に置いていったのは、デンケンなりに宿題というかリヒターの魔法を改善するヒントを与えているように思えました。

その後、リヒターは壊れたフェルンの杖を幻想的かつ丁寧な手腕で修復。さらにシュタルクと連れ立って宿に帰るフェルンへ声をかけて、フリーレンの思いやりをわかりやすく伝える役目も果たしました。

この一連の補完でリヒターの株と注目度はかなり上がったように思います。

アニメ『葬送のフリーレン』圧巻の戦闘に見入る名シーン7選

『葬送のフリーレン』は少年漫画にしては珍しく、アクションよりストーリー性を重視した作品となっています。そのため戦闘シーンはあるものの、原作ではあっさり終わることが少なくありませんでした。

ところがアニメ化に当たって、それらの戦闘シーンが大幅に増強。圧巻のアクションによって、展開を知っているはずの原作読者はもちろん、初見の視聴者を釘付けにしました。そんなアニメの戦闘の中から、特に唸らされた名シーンをご紹介します。

アニメ『葬送のフリーレン』圧巻の戦闘に見入る名シーン7選①:腐敗の賢老クヴァール【第3話(原作第5話)】

『葬送のフリーレン』の序盤は旅の終わりと新たな旅立ち、死別や交流などの落ち着いてしっとりとした展開で始まりました。それはそれで良いのですが、どうしても地味な感じは否めません……が、その印象を覆したのが第3話のクヴァール戦です。

全盛期にはたった1人で人類の冒険者の大半を殺傷した、魔王軍屈指の魔法使い「腐敗の賢老」クヴァール。魔王を倒した勇者ヒンメル一行ですら、当時歯が立たずに次善策で封印するしかなかったバケモノです。劇中では80年に渡る封印から解放され、改めて討伐に乗り出したフリーレンと戦うことになりました。

クヴァールの開発した「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」と、それを解析して編み出された防御魔法の攻防は必見。たった1度のやりとりで防御の仕組みを解明し、攻略しかけるクヴァールにひやりとさせられました。

クヴァールはストーリー上で初めて戦闘を行う魔族ですが、人類の魔法体系に与えた影響から作中でも最強格の天才的魔法使いと見られています。魔族に対して極めて非情でドライなフリーレンですら、どことなく敬意を払っているように思えるほど。

アニメではゾルトラークの連射に加えて、わずかな時間で防御魔法の再現まで行って見せるなど、圧倒的強者の描写が凄まじくてほとんど大ボスクラスと見紛うリッチな戦闘でした。 

アニメ『葬送のフリーレン』圧巻の戦闘に見入る名シーン7選②:紅鏡竜【第6話(原作第10話)】

視聴者にアニメ『葬送のフリーレン』の凄まじすぎるアクションの印象を決定づけたのは、シュタルクと紅鏡竜の戦闘でした。

ドラゴンに抱いていた恐れから逃げず、覚悟を決めて対峙したシュタルク。炎の吐息を酒ながら真正面から走って接近し、尻尾の凪払いを避け、崖を駆け上って高さを稼いで強力無比な一撃を叩き込む……。

引きとアップの切り替えをスムーズに行い、一連の動作に緩急をつけた映像は鮮烈。短い時間で行われた戦闘は部位破壊とトドメだけでしたが、師匠アイゼンの淡々とした語りによって逆に迫力が増していました。

軽快なテンポのBGM込みでこのシーンはある種ゲーム的で、シュタルクが長大な斧を小脇に抱えて走る様子は、おそらく『モンスターハンター』シリーズにおける納刀ダッシュのオマージュだったのではないでしょうか。

クヴァール戦の魔法攻撃とはまた違った、肉弾戦ならではの重量感や疾走感を楽しめる素晴らしい戦闘でした。 

アニメ『葬送のフリーレン』圧巻の戦闘に見入る名シーン7選③:リュグナーとリーニエ【第9話(原作第20話)】

中盤を大いに盛り上げたのが、「断頭台のアウラ」編でのそれぞれの決戦です。第9話ではフェルン対リュグナー、シュタルク対リーニエの戦闘が同時に進行しました。リュグナー戦は魔法の応酬、リーニエ戦は近接戦闘です。

フェルンは先手を打たれますが、負傷を感じさせないゾルトラークの連射でリュグナーは防戦に回るしかありませんでした。縦横無尽の攻撃が可能なリュグナーの「血を操る魔法(バルテーリエ)」に対して、あらゆる方向へ即座に反応してゾルトラークを放ち、手数で押していくフェルン。カメラワークとド派手な魔法に心が躍りました。

一方のリーニエ戦ではシュタルクが劣勢。小柄な体躯から繰り出される、素早い斧の連撃に翻弄されます。ここでの見所は2人の立ち回り、特にリーニエの動きです。明らかにシュタルクより動きが軽く、自身の持つ武器の重さに引っ張られ、流れそうになるのを筋力で無理矢理抑えて攻撃しているのがわかりました。

そもそもリーニエの「模倣する魔法(エアファーゼン)」が画面映えする能力です。一度見た達人の動きをトレースする魔法で、次々に戦法を変えて任意の武器を生成する戦闘に見とれてしまいました。

2つの戦闘の決着の直前、フェルンとリュグナーがお互いの魔法を相殺して光が弾けるところは、まるで打ち上げ花火のよう。美しさと苛烈さが合わさった見応えのある戦闘シーンでした。 

アニメ『葬送のフリーレン』圧巻の戦闘に見入る名シーン7選④:断頭台のアウラ【第10話(原作第22話)】

「断頭台のアウラ」編のフェルンとシュタルクの戦いを「動」とするなら、師匠格に当たるフリーレンの戦いは「静」。動きの良さこそ前者に譲りますが、格の違いを感じられる堂々たる戦い振りでした。

1000年に及ぶ鍛錬で、自身の魔力量を押し隠したフリーレン。アウラは互いの力量差を完全に見誤り、「服従させる魔法(アゼリューゼ)」を使ってしまいます。アウラの持つ「服従の天秤」に自分と対象者の魂を乗せて、天秤が傾いたより強い魔力の持ち主がそうでない方を操る魔法。

フリーレンが隠していた魔力を解放した結果、アウラは自分がかけた魔法によってフリーレンに強制的に服従してしまいます。

敗北の前後で見られるアウラのリアクションが非常に細かく、優位を確信した状態から徐々に自信を失っていく様子がはっきりと読み取れます。微妙な表情の変化とアウラを演じた声優の演技力の賜物。

少しグロテスクですが、アウラがフリーレンに「自害しろ」と命じられたあとも凄すぎました。なけなしの意志力で抵抗しつつ、フリーレンの首を落とすはずだった剣で自らの首を断つ……。首に当てる寸前に束ねた髪の房がはらりと切れ落ちるという、原作になかった刃の切れ味を見せる細かい表現が光りました。

「断頭台」の異名がそのままアウラ自身に跳ね返ってくる――。皮肉の効いた末路と迫真の演出は、アグレッシブな戦闘に勝るとも劣らない魅力に溢れていました。 

アニメ『葬送のフリーレン』圧巻の戦闘に見入る名シーン7選⑤:デンケン【第21話(原作第44話)】

「1級魔法使い試験」編の1次試験は、アニメ『葬送のフリーレン』2クール目(2024年1月に入ってからの放送)の見せ場の1つ。ストーリー上で初めて人間の魔法使い同士の対人戦が繰り広げられるのですが、中でもトップクラスの実力者であるフリーレンとデンケンの激突が素晴らしかったです。

空中で素早く位置を入れ替えながらゾルトラークを撃ち合う2人。デンケンは手練れだからこそ、素直に戦うと消耗戦で負けると確信します。

そこで彼は燃費が悪いという防御魔法の弱点を突いて、「竜巻を起こす魔法(ヴァルドゴーゼ)」と「風を業火に変える魔法(ダオスドルグ)」の合わせ技で火災旋風を起こし、高熱と荒れ狂う旋風と酸素の消耗の3段構えで畳みかけました。

対するフリーレンは防御魔法を球形に展開し、デンケンの想像を超える絶大な魔力量で、必殺を期した攻撃を完全に防いでしまいます。

対象を追尾する無数のゾルトラークで行われた空中戦の激しさは、まるで「マクロス」シリーズで知られる爽快な演出「板野サーカス」のようでした。

第21話はデンケン戦に限っても火災旋風の派手な効果、一撃必殺ゾルトラークの威力、他にはリヒターの「大地を操る魔法(バルグラント)」やカンネの決め技である特大の「水を操る魔法(リームシュトローア)」など見所たっぷりです。 

アニメ『葬送のフリーレン』圧巻の戦闘に見入る名シーン7選⑥:ユーベル複製体【第話(原作第話)】

長年、さまざまな人員による調査がすべて失敗に終わった未踏破のダンジョン「零落の王墓」。難攻不落の理由は、迷宮を実質的に支配する神話時代の魔物「水鏡の悪魔(シュピーゲル)」が生み出す、探索者とまったく同じ姿と能力の複製体にありました。

1級魔法使い選抜の2次試験受験者は、皆それぞれパーティを組んで効率良く複製体を倒していきますが、ユーベルだけは自分の複製体に正面から戦いを挑みます。

不意打ちを食らって、袋小路に追い込まれたユーベルとラント。ラントの方は重傷を負っており、あまり長く持たないように見えます。ユーベルは事態を打開すべく、自分から打って出ました。

ユーベルとユーベル複製体の力量はまったくの互角。確実に勝負の決まる「見た者を拘束する魔法(ソルガニール)」を警戒して、槍に似た魔法の杖と「大体なんでも切る魔法(レイルザイデン)」を軸とした接近戦が繰り広げられます。

魔法使いとは思えない身のこなし、戦士並みの体術で2次試験受験者随一のアクションを見せてくれました。鏡写しのようにまったく同じ攻撃を繰り出して相殺することで、単なる設定以上に本人と複製体が拮抗している一目瞭然。

2人の動きがよく見える横方向からの視点と、ユーベルの一人称視点を上手く織り交ぜていたのも素晴らしいです。スピード感がありましたし、何よりソルガニールの発動条件である全身を視界に入れることが、動きの速さと距離の近さで困難なのが感覚的にわかりました。本当にアニメスタッフの構成の巧みさには舌を巻きます。

対人アクションに関しては、シュタルクのリーニエ戦とユーベル複製体戦がアニメ『葬送のフリーレン』の双璧と言って良いでしょう。 

アニメ『葬送のフリーレン』圧巻の戦闘に見入る名シーン7選⑦:フリーレン複製体【第25~26話(原作第53、55話)】

アニメ『葬送のフリーレン』戦闘シーンの大本命は、フリーレンとフェルン対フリーレン複製体の戦いです。

複製体はフリーレン本人と違って、手加減しないため他の受験者ではまったく歯が立ちません。その癖ダンジョン最深部に陣取ってしまったので、試験を合格するためには誰かが倒さなければいけない面倒な状態。

完璧な複製なので本人が戦っても決着を付けるのは難しい……のですが、事前の打ち合わせで潜伏したフェルンが隙を突き、致命傷を与えるという作戦を立てて複製体の攻略が始まります。

最深部に入った途端、睨み合うフリーレンと複製体。牽制でゾルトラークを狙うものの、お互い射線を読み切った部分的な防御魔法を展開。いくらフリーレンとはいえ、ゾルトラークは当たれば致命傷になります。対応を誤れば即詰むからこそ対策は完璧です。

両者は決め技が決め手にならないという矛盾した状況を見て取ると、防御しづらい高威力の属性範囲魔法に切り替えます。

雷霆飛び交う「破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)」、遺跡の柱を一瞬で蒸発させる「地獄の業火を出す魔法(ヴォルザンベル)」……ほとんど神話の戦いと言っていい有様で、フリーレンの格の違いをまざまざと見せつけられました。

筆者的には、複製体がヴォルザンベルを魔法でパリィ(受け流し)しているところに心が躍りました。なかなかお目にかかれない表現ですが、「零落の王墓」のデザインがどことなく『ダークソウル』か『エルデンリング』を思わせるので、それらゲームの影響を受けているのかも。

また意図されたものかはわかりませんが、ジュドラジルム発動中のフリーレンが杖を縦に構えているのに対して複製体は横に構えており、それぞれ雷のエフェクトと重ねると十字架と逆十字の形に見えたのが意味深。

著者
["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
出版日

極めつけは第26話です。原作にはない詳細不明の魔法の応酬が行われて、とにかく凄いということしかわらなくて、ただただ圧倒されます。

かろうじて推測出来そうなのは、最初の爆発はフリーレン複製体の生成したマイクロブラックホールらしき魔法(ブラックホール特有の光子球が見える)にフリーレンが岩塊をぶつけて、呪文完成前にエネルギーを放出させた――という描写くらいです。この場面の爆発で荒れ狂う気流によって、無秩序に乱れる髪の表現がエグすぎました。

巨大なゴーレムだけは、第5話でヒンメルたちに披露していた「石を人形のように操る魔法」の強化形ということが公式Xアカウントで明かされていますが、惑星か宇宙を創造しているとしか思えない魔法に関しては何がなんだか。

ラストシーンで初めて見せた、フリーレン複製体の本気の目つきがフランメそっくりだったのは見逃せないポイント。

超絶作画で描き出されるこれら一連の魔法合戦は、本作で最高なのはもちろんのこと、最低でも過去10年間および今後10年間のアニメでダントツの戦闘シーンだと断言出来ます。

アニメ『葬送のフリーレン』続編(2期)は決定した?時期はいつごろ?

大好評のうちに放送終了したアニメ『葬送のフリーレン』。気になるのは2期があるかどうかですが、現在(2024年5月)までに発表はされていません。

3月24日のAnimeJapan2024『葬送のフリーレン』特設ステージや、3月29日にあった特別番組「フラアニ特別編 『葬送のフリーレン』大感謝祭 ~人の心を知る軌跡」で何かしら告知がありそうでしたが、結局それらしい情報はなし。

最終回およびアニメ公式アカウントであった意味深なメッセージ「The Journey to Ende continues.(エンデへの旅は続く)」が続編を匂わせているように思えるものの、確定出来る要素がないのでなんとも言えないのが現状です。

とはいえ、続編の可能性は極めて高いと思います。根拠はアニメ『葬送のフリーレン』に対する異例尽くしの扱いです。金曜ロードショーでの初回スペシャル放送、深夜アニメ枠の新設、振り返りの特別番組にYouTubeとTikTokで展開したミニアニメ『葬送のフリーレン ~●●の魔法~』などなど。

はっきり言って、ここまでの好待遇は小学館と日本テレビ(加えてTOHO animation)が社運を賭けているとしか思えないレベルです。

これはほとんど邪推となりますが、小学館と日本テレビがタッグを組んだ作品には『名探偵コナン』のような低年齢層・ファミリー向けの定番アニメがある一方、『鬼滅の刃』や『進撃の巨人』のような若者および高い年齢層までリーチするキャッチーなヒット作がありません。そこで『葬送のフリーレン』に白羽の矢が立ったのではないでしょうか。

プロデューサーの1人である田口翔一朗は、原作漫画の第1話を読んだ段階でアニメ化企画を始動させるほど入れ込んでいた(普通はあり得ないとか)そうなので、2社へ猛プッシュしただろうことは想像に難くありません。

もしこの想像通りなら、続編の制作まで織り込み済みのはず。スタジオとスタッフの予定を抑えているとすれば、最短で2年後の2026年にアニメ『葬送のフリーレン』2期が放送されるのではないでしょうか。あるいは映画『鬼滅の刃 無限列車編』のような形で劇場公開されるなら、1年半での続編もあり得ます。

いずれにせよ不確定ですし、少なくとも1年程度は待たないと2期の情報は出て来ないでしょう。

原作漫画『葬送のフリーレン』について

『葬送のフリーレン』の原作漫画は、現在も「週刊少年サンデー」および漫画アプリ「サンデーうぇぶり」で連載中です。単行本は2024年4月に第13巻が発売されたばかり。

アニメ最終話は原作第60話の内容だったので、続きは第7巻から読めます。アニメでも一言だけ言及された謎の人物「南の勇者」の活躍に、1級魔法使い試験編のキャラクター再登場や屈指の人気を誇る長編エピソード「黄金郷」編、そして勇者ヒンメル一行の旅の掘り下げ……。魅力的な話が目白押しです。

著者
["山田 鐘人", "アベ ツカサ"]
出版日

最新エピソードではフリーレン一行は北側諸国最大の都市、帝国領の帝都アイスベルクにまで到達したものの、何やら不穏な動きがあって……と非常に気になる展開。

アニメの時点からすると結構進んでいますが、まだまだ終わりは見えない状態です。仮に2期を制作するとして同じペースでエピソードを消化すると仮定した場合、未映像化の範囲はだいたい2クール分に相当します。アニメ化の分量としては充分ですが、連載の最新展開に追いついてしまうという問題が発生します。

今回のアニメ化のタイミングは慎重に見定められたようなので、原作漫画とある程度歩調を合わせるため、すぐに2期発表がなかったのはその辺りの事情も関係しているのかも知れません。

2期のアニメ化をどうしても待てない方は、原作漫画を読むのがおすすめです。漫画アプリ「サンデーうぇぶり」なら最新話まで基本無料なので、まずは試しに読んでみてはいかがでしょうか。


アニメ『葬送のフリーレン』は原作ファンが手放しで褒められる完璧なメディアミックスです。原作漫画の良さを引き出した上で、アニメでしか出来ない演出の数々が最高でした。

細かい部分までピックアップすると全28話のレビューになりかねないので自重しましたが、コメディパートなどの見所は他にもまだまだあります。

アニオリというほどでもありませんが、全体的にキャラクターの立ち位置が変更されているのがアニメの特徴です。画面右の上手側だと強く(優位)て、画面左の下手側は弱い(劣勢)という演出・作劇の作法に則っていると思われます。どういう意図で立ち位置を変えたのか想像しながら視聴するのも面白いですよ。

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