百合姫で好評連載中の『きみが死ぬまで恋をしたい』(きみ死ぬ)。 2025年にアニメ化決定し注目を集める本作は、戦争用兵器の宿命を課された少女たちが、穏やかな日常と泥臭い戦場の間で揺れ動きながら恋する姿を描いた百合漫画。ファンシーで可愛らしい絵柄とシリアスな世界観の共存が、鬱展開の破壊力を高めています。 今回はあおのまち『きみが死ぬまで恋をしたい』のあらすじや魅力を、ネタバレありで紹介していきます。

孤児の少年少女を集め戦争用の魔術兵器へ育て上げる国家機関、通称「学校」。
ここで暮らす14歳の少女トツキ・シーナは、ある平凡な朝の始まりにルームメイトの死を告げられます。彼女は昨夜行われた西地区第三ポイントの襲撃に巻き込まれ、若い命を散らしてしまったのでした。
教師に促され周囲の同級生が黙祷を捧げる中、昨日まで一緒に笑い合っていた友人の死を受け入れられず、ただただ放心するしかないシーナ。
その後始まった魔法の座学にも身が入らず、見かねた教師によって午後の授業を免除されました。羨ましがる同級生たちを、しっかり者のリジィ・セイランが注意します。
放課後……寮の部屋に帰り、友人の遺品整理をしていたシーナ。学校に返却する教科書を束ね終えてホッとした矢先、友人が生前可愛がっていたぬいぐるみが目に留まり、堪え切れず涙をこぼしかけます。
すかさず自分にビンタして立ち直り、夜食のおにぎりを教室で食べようとしたものの、精神的疲労がピークに達してうたた寝をしてしまいました。
そこへボロボロの布に身を包んだ怪しい人影がやってきます。
フードの下から出てきたのは、全身返り血まみれた見知らぬ女の子。
突然の出来事にぎょっとするシーナに対し、少女は「それちょーだい」と笑顔でおねだりし、隣に座っておにぎりを食べ始めます。
ほどなくして現れた保健医フランが少女を回収し、「他の生徒と関わるなって言ったでしょ」と注意。
しかし少女に反省の色はなく、シーナの匂いを嗅いだ理由を聞かれ、「ママみたいな匂いがしたの」と申し開きします。
翌日……シーナのクラスに新たな仲間が編入してきました。名前はカガリ・ミミ、シーナが昨夜邂逅を果たした少女です。
たまたま出席番号が近かったことからシーナの同室になったミミは、鳥の雛が親のあとを追いかけるような無邪気さで彼女に付いて回り、ルームメイトを失った傷心が癒えぬシーナを和ませるのですが……。
登場人物紹介
作中用語
総合評価(☆5評価)
- 著者
- あおの なち
- 出版日
あおのなち『きみが死ぬまで恋をしたい』は2018年に「コミック百合姫」で連載開始。
2025年8月現在既刊8巻まで刊行されている、ダークファンタジー百合漫画です。2025年にはアニメ化が決定し、声優の高橋李依が主人公シーナを、日高里菜がミミを熱演するパイロットフィルムが公開されました。制作を手掛けるのは「ROLL2」です。
『きみが死ぬまで恋をしたい』の特徴は繊細で可愛い絵柄に反し、鬱要素を多分に含むストーリーとシリアスな世界観。
シーナたちが「学校」と呼ぶ場所は正式名称を国戦用魔術兵器育成機関といい、国中から集めた少年少女を戦争用の兵器に育て上げています。
そこでは同級生の戦死など当たり前。昨日まで共に寝起きし笑い合っていたルームメイトが突然いなくなっても、ほんの数分の「お祈りの時間」があるだけ。誰もが死と隣り合わせの日常を生きており、それはシーナとて例外ではありません。
シーナは人と傷付け合うことや殺し合うことを嫌い、いずれ戦争兵器として戦場に出なければならぬ、自分の運命に悩んでいます。
そんなシーナが出会った謎の少女・ミミは、「学校の秘密兵器」と恐れられる最強の存在。不死に極めて近い性質を持ち、肉塊からでも再生が可能なミミは、臆病なシーナと違って殺人に一切の抵抗を持たず、毎晩のように戦場に駆り出されています。
シーナたちの生活圏となる学び舎が象徴する日常パートと、人の生き死にを描く殺伐とした戦場パートの落差が、独特の陰鬱な読み心地を生んでいることにも注目。
両者の接点となるミミの特異な存在感は冒頭から際立っており、シーナとのプラトニックな触れ合いやセイラン達との交流を経て、一人の少女として情動を育んでいくさまが胸を打ちます。
ですが油断は禁物、キュートな絵柄に騙されてはなりません。シーナ好き好きなミミの言動を微笑ましく眺めていたら、次のエピソードでは麻袋に詰められた肉塊になっているのが、「きみ死ぬ」の恐ろしい所。
物語の軸となるシーナ&ミミ以外にも魅力的なキャラクターは数多く登場します。
シーナの同級生のセイラン&アリは常に二人一緒に行動し、階段の踊り場でこっそりキスをしていることからも、友人以上恋人未満の関係であるのは間違いありません。保健医のフランはミミの秘密を知る数少ない関係者の一人で、毎晩肉塊となって回収される、彼女の修復を担当しています。
昼は教室で授業を受け、休み時間は庭園の片隅でお喋りをし、夜はお互いのベッドに潜り込んでじゃれ合い……。
そんな陽だまりのような日常と並行して描かれるのは、脱落者を出す過酷な戦闘訓練や、愛する人と否応なく引き裂かれる戦争の現実。
死亡後に肉体が消滅する魔法が掛けられている点も巧妙で、この設定が「死」や「戦争」といったノイズを透明化し生々しさを薄める一方、「見えない戦争」が確かにそこに在る不穏さ、学園ものに擬態したダークファンタジーの闇深さを醸し出します。
類似作品を挙げるなら高橋しん『最終兵器彼女』、優『五時間目の戦争』。00年代のセカイ系作品群とも親和性が高く、百合漫画特有のエモい演出と儚く美しい心理描写が、子供の無知と大人の欺瞞の上に成立する箱庭的世界を織り成しています。
連載7周年目に突入してもなお人気が衰えないのは、ややもするとストーリーがスローテンポに思えるほどにキャラクターの内面を描き切るこだわりが、読者の心を掴んで離さないからでしょうか?
- 著者
- あおの なち
- 出版日
本作の世界観は謎に包まれており、物語の根幹を成す設定がなかなか開示されません。
シーナたちの国はどこと戦っているのか?
何故戦っているのか?
誰が「学校」を作ったのか?
他国は「学校」の目的や戦争兵器として投入される少年少女の存在を知っているのか?
いずれも冒頭では明かされず、要所要所で情報を小出ししながら、シーナ視点でじっくりストーリーを進めていきます。
最大の疑問はミミの正体。
彼女は他の子と違い肉塊の状態からでも蘇生可能な為、夜に徘徊する姿を目撃した一部の生徒たちから、「学校の秘密兵器」と噂されていました。その反面言動は幼く年相応の常識に欠け、シーナと知り合うまで他の生徒と一切交わらず、学校と戦場を往復するだけの日々を送ってきたことが仄めかされます。
ミミの生い立ちが学校の機密と関わっているのはまず間違いなく、彼女の友人となったシーナもまた、ミミの利用を企む大人たちの思惑や軍部の陰謀に巻き込まれていきます。
最強の戦争兵器にして無垢な少女、どちらがカガリ・ミミの本質なのか?
初登場シーンのインパクトのせいでどうしても前者の要素に目が行きがちですが、決して非人間的な兵器でも完璧な兵士でもない証拠に、初めて親しい人間の死を体験したショックで暴走しかけるなど、成長途上の弱さや精神的な脆さも併せ持っているのがポイント。
身を挺してミミの暴走を止めたシーナが周囲の状況にただ流されるだけの平凡な少女で終わらず、能動的な意志を持った主人公として、友人の為にできることは何かと模索する姿も印象に残りました。
不死に等しい超人的再生能力を秘め、戦争の行方を左右するキーパーソン・ミミ。ミミへの恋心を漸く自覚したものの、明日をも知れぬ身で告白は躊躇われるシーナ。戦場で犯した殺人の記憶に苦しむセイランと情緒不安定な友を献身的に支えるアリ。
戦争に翻弄される彼女たちの未来に、幸あれと願ってやみません。
- 著者
- あおの なち
- 出版日
あおのなち『きみが死ぬまで恋をしたい』を読んだ人には高橋しん『最終兵器彼女』をおすすめします。
本作は00年代セカイ系SFの先駆けにして金字塔。2002年に全13話アニメ化されました。
北海道在住の高校生・シュウジとチセは付き合い始めて間もないカップル。「ごめんなさい」が口癖のチセは何をやらせても鈍くさいものの心の優しい子。シュウジは無愛想でともすると近寄り難く見えますが、何かと不器用なチセを助けて庇い、充実した青春を送っています。
ところがある日突然戦争が起こり、チセが最終兵器に改造されてしまって……。
- 著者
- 高橋 しん
- 出版日
瀬戸内海に浮かぶ青島。ここで生まれ育った少年・双海朔は、東京から疎開してきた転校生の篠川零名が気になっていました。現在日本は戦争中ですが、朔たちが住む島は都会から遠く離れている為、戦争の影響からは切り離されています。
しかし朔の三年進級と同時に敵が本土侵略を開始。毎週金曜日の五時間目は「戦争」に割り当てられ、選ばれた生徒が出征することになり……。
- 著者
- 優
- 出版日