ホンシェルジュのエンタメ/お笑い記事の担当編集が、どうしても語らずにはいられない漫画があります。それは『かけあうつきひ』!女性漫才コンビの下積み生活を描いた、ほのぼの日常系の芸人漫画です。 この記事では『かけあうつきひ』に登場する漫才師・400倍の2人の名言から、コンビ愛について考察していきます。
※アイキャッチ画像はよくある「調べてみました!」記事をパロディにしていますが、この記事は実際に漫画を読んだうえで独自に考察しています。
都内の狭いアパートでジリ貧ルームシェアをしながら芸人養成所に通う漫才コンビ「400倍」の生活を描いた日常漫画、『かけあうつきひ』。
お金がないことで苦しい思いもしますが、普段の会話からのすべてがボケとツッコミの「かけあい」になっている2人は苦しさよりも「好き」「楽しい」という気持ちが上回ります。いつか地球上の人を笑わせる夢を追いかける2人を応援したくなる漫画です。
「出版社コミック担当が選んだおすすめコミック 2022」でも5位に選ばれており、その面白さはプロのコミック編集者にも刺さっているよう。
家の中だろうと、歩きながらだろうと、ずっとボケてつっこんでかけあっている2人。そんな彼女らがお笑いをやる動機がエモいのです。
- 著者
- 福井 セイ
- 出版日
基本的にはツッコミの陽(よう)の視点で物語は進みます。
陽は関西弁のツッコミが特徴的な、心優しく面倒見のいい女の子。月とは高校時代に出会い、陽から声をかけてコンビを結成しました。
一方、ボケの月は一言でいうとセンス!
天然なようで何を考えているのかわからないミステリアスさが魅力の、唯一無二の発想の持ち主です。養成所のネタ見せでも、滅多にほめないという講師から才能があると評価されます。
お笑いが好きな人ほど、「お笑いを題材にした漫画は苦手」という意見もあるかと思います。そんな、「漫画の中の文字で漫才を読むのは違和感が……」と感じている人にもおすすめ。
本作はなんといっても、1発1発の月のボケのクオリティが高いのです!……と、劇場に週2~3で通うほどのこのお笑い好きが保証します。またそれにツッコミを入れる陽の必死さも愛らしく、本心からのツッコミなので笑えます。
陽から月に声をかけたことでコンビを結成した「400倍」ですが、陽がお笑いをやり続ける動機は1巻の第2話ではっきりと明かされます。
それは寝る間際、布団の中で月が考えた遊びである「大人の熱痺逃がし」をしながら月との出会いを回想していた時のこと。
月は出会いの瞬間から、人並外れた一人遊びをしていました。月は教室の隅っこで大人しくしているタイプでしたが、陽がよく見ると教科書に変わった落書きをしていることに気が付きます。聞くと落書きではなく「文字迷路」なのだとか。この面白さはぜひ作中で実際に確認してほしいところです。
そんな独自の遊びを作る月に対して陽が自然とつっこむようになり、クラスメイトがそんな2人を見て笑うようになったことが400倍の始まりでした。そのことを思い出した陽の心の中のセリフがこちら。
日本中の皆に知らせてやりたい!!
月はこんなにおもろいヤツなんやって
(『かけあうつきひ』1巻第2話より引用)
陽が芸人として有名になりたいという動機は、学生時代に月の面白さをクラスメイトにわかってもらえたように、世界にもっと彼女の面白さを広めたいという理由だったのですね。
それに対して月の動機はどうでしょうか。そもそもいつも飄々とボケている月の心の内は、物語の序盤ではあまり明かされません。
しかし、他の登場人物の発言から「こうなのでは?」と推測することができます。それは、2人が通うお笑い養成所、カンパニーエイトスクールでネタ見せをした後の臨時講師・黒清のセリフ。
たまにいるんだよ…
状況判断とか…野心とか…一切関係なく…
ただ隣の相方に笑ってほしくて…
相方の反応が楽しくてお笑いをやってるヤツが…
(『かけあうつきひ』1巻第3話より引用)
400倍のネタ見せの順番が来た時、陽は緊張していました。そこで月は漫才の本題に入る前に台本にないボケをガンガン連発するのですが、その様子を見た講師同士での会話の中のセリフです。
月のアドリブについてある講師は、「緊張感のある空気を感じ取り、相方をほぐすためにやった」という考え方を示します。しかし黒清はそうとも限らないと言います。
授業終わり、他の養成所生とのやり取りでも、月が陽のリアクションを楽しむために日常的にボケていることを示唆するシーンが。月本人もそう自覚しているのかどうかすらはっきりとは描かれませんが、純粋な月の性格を考えると黒清の直感する通りなのではと思えてきます。
それぞれ別の切り口ではあるものの、お互いのことをまず自分が1番面白いと思い合っているコンビ、400倍。月の「ツッコミを笑わせたくてボケる」という関係性は、2004年のM-1グランプリで優勝する前後のアンタッチャブルを彷彿とさせませんか。
これは「関係性」に焦点を当てた時の、ライターなりの解釈。実際の400倍のモデルはとなると、明示はされないものの作者の中での想定はあることが単行本で明かされています。
月について、ライターが真っ先に外見的特徴から思い浮かべたのは、関西で活躍する女性双子漫才師・Dr.ハインリッヒの妹でボケ担当の幸さん。のちに、「ハイリさん」という月と似て非なるキャラクターも登場しますので注目です。
さらに「どんな時でもボケ続ける」という特徴には、ヨネダ2000の誠さんらしさも感じてしまいます。ただし『かけあうつきひ』の連載開始が2021年の5月ですので、ヨネダ2000が世間的な注目を集めた2021年のTHE WやM-1予選よりも前から作者は知っていたということになりますが。
作中には「窒素段差」や「絶対真空」のように、空気階段や真空ジェシカといった実在のコンビをもじったコンビも登場。漫画のコマを隅々まで見ていると「ホワイトボードに数式を書いているネタをしている」芸人の姿が見られ、「これはR-1ぐらんぷり2007ファイナリストにも選ばれた大輪教授の素因数分解のネタがモデルなのでは?」というように元ネタを探すのが楽しい作品でもあります。
お笑いが好きな方はぜひ、モデルになった芸人を考察しながら読むのがおすすめです。
- 著者
- 福井 セイ
- 出版日
思い合う女性同士の関係性を描いた作品は数あれど、「芸人漫画」でないとこの熱い関係性は成り立ちません。今後の展開から目が離せない『かけあうつきひ』、ぜひ400倍の古参ファンとして追いかけてみてはいかがでしょうか。
今すぐ読みたい!という方は、サンデーうぇぶりのスマホアプリで読むことができます。ぜひ読んでみていただきたい漫画です!