5分でわかる小泉八雲『雪女』ネタバレ解説　夫婦の情と子はかすがいの教訓

『雪女』の簡単なあらすじと登場人物紹介（結末までのネタバレあり）

舞台となるのは江戸時代の武蔵の国。ある村に年老いた木こり・茂作と十八になるその息子・巳之吉がいました。親子が住む村の近くには大河が横たわり、渡し守に舟を出してもらわなければ対岸と行き来できません。

ある時茂吉と巳之吉は川向こうで大吹雪に見舞われます。渡し守は二人を対岸に残したまま帰ってしまい、川を泳いで渡りきることは不可能でした。仕方なく渡し守が寝泊まりする小屋に避難し夜明けを待ちます。

すぐに眠りに落ちた茂作と対照的に、巳之吉の目はひどく冴え、なかなか寝付けません。吹雪が戸を叩く音や柱が軋む音にいちいちびくびくし、神経質になっていたのです。

それでも眠気には抗えず、やがて目を瞑ります。

数刻後……顔に当たる雪礫と吹き込む寒風に起こされた巳之吉は、衝撃的な光景を目撃しました。隣に横たわる茂作の上に、見知らぬ女白い着物の女が覆いかぶさっていたのです。

雪明かりに朧に浮かぶ女は、茂作の耳たぶにフーフーと吐息を吹きかけています。

恐怖と驚愕に固まる巳之吉。やがて女は自分を凝視する巳之吉に向き直り、お前にも父の後を追わせようとしたが、若さと美しさに免じて命だけは助けてやろうと言いました。付け加え、雪女の目撃談を生涯秘密にするのが生きて帰す条件です。

巳之吉がこれを承諾すると、雪女は満足して出て行きました。茂作は既に冷たくなっていました。

翌朝吹雪が止むのを待って村に帰った巳之吉は、約束通り雪女の事は誰にも言わず、見殺しにした父の分まで真面目に働いて母を養います。母もまた息子を手伝い、薪を拾ってほそぼそ生計を立てました。

翌年の冬の晩、森からの帰り道に巳之吉が出会ったのは、お雪と名乗る旅の娘でした。

天涯孤独な身の上らしいお雪は、親類を頼って江戸にのぼり、女中の働き口を見付ける計画を打ち明けます。

お雪に一目惚れした巳之吉は家に連れ帰り、母の許しを得て嫁に迎えます。気立てが良く働き者のお雪はたちまち姑に気に入れられ、二人は仲睦まじい夫婦となりました。

五年後、巳之吉の母はよくできた嫁に感謝を告げて他界。

その後も巳之吉とお雪の夫婦仲は円満で、次々と子供が生まれます。最終的にはなんと十人の、お雪に似て色白で美しい、男女の子供に恵まれました。

十人の母になってもまるで衰えることを知らず、瑞々しいままのお雪の美貌に村人たちは感心します。

ある晩のこと、行燈のもとで縫い物をするするお雪の顔に見とれた巳之吉は、うっかり口を滑らせ、若き日に雪女に会った体験を漏らしてしまいました。何故ならお雪の顔はあの時の女にそっくりだったのです。

するとお雪の態度が豹変し、「一言でも漏らしたら殺すと言ったのに」と嘆きます。されど子供たちへの愛情故に夫を取り殺すのを断念、白い霞に化けて煙突を抜け、どこかに消えてしまいました。

雪女 (日本の童話名作選シリーズ)

著者

["小泉 八雲", "英子, 伊勢", "呈一, 平井"]

出版日

雪女に母性はあるか？子はかすがいの教訓

以上が小泉八雲『雪女』のあらすじです。本作は青空文庫で公開されており、誰でも無料で読むことができます。

妖怪としての雪女の起源は古く、室町時代にルーツを遡ります。別称は数多あり、ユキムスメ、ユキオナゴ、ユキジョロウ（雪女郎）、ユキアネサ、雪オンバ、ツララオンナなど。初出は連歌師・宗祇法師による『宗祇諸国物語』。

雪女の特徴は色白で若く美しい女の姿をし、寝ている男に冷たい息を吹きかけ凍死させること。長い黒髪と死に装束を思わせる白い着物も定番です。弱点は火や熱で、囲炉裏に当たったら溶けてしまった、風呂に入るのを嫌がることから正体が露見した逸話が分布しています。

山姥や姑獲鳥との接点も多く、雪ん子を抱いてくれと旅人にせがみ、引き受けたらその子がどんどん重くなる話も伝わっています。大半の人間は雪に埋もれ凍死しますが、最後まで耐え抜いた際は怪力や財宝を授かるので、凶悪なだけの妖怪とも言いきれません。

姑獲鳥も子供に未練を残し、母性愛が強調される妖怪です。

『雪女』に登場するお雪こと雪女は、一度は巳之吉を生きて帰すものの、一年後に人間の娘に化けて再び現れます。正体を偽り巳之吉に接触した理由は書かれていません。巳之吉が約束を守り通すか、近くで見張る為でしょうか。試しを与える妖怪の一種とも解釈できます。後者の説を採用するなら、巳之吉は十人の子をもうけるまで嫁にさえ雪女の話をしなかったので、その判断が回り回って命を救ったといえます。

はたしてお雪に夫への愛情はあったのか？

長年連れ添ったのですから、人ならざる身に愛着が湧くのも道理。それ以上に注目したいのは子供の描写、全員が母親似で美しいと言及されています。

巳之吉が雪女の話をした直後、お雪は「子供がいなければすぐ殺していた」と吐露しました。雪女とて母ならば、自分によく似た子供たちが可愛くないはずありません。故に夫に危害は加えず、「子を泣かせたら殺しに戻る」と警告し、姿を消してしまいました。

裏を返せば、父親として責任を持ち子を育て続ける限り安泰。巳之吉の命は保証されます。

怪異との約束を破った人間が一生を棒に振る昔話に見慣れていると、恩情ある措置に感じざる得ません。現代の漫画にも雪女キャラは大勢登場しますが、男女取り交ぜ子供が十人もいたのなら、日本全国に子孫が散らばっていても納得ですね。

かの有名な遠野国男『遠野物語』にも雪女の逸話が載っています。

曰く、「小正月の夜、又は小正月ならずとも冬の満月の夜は、雪女が出でゝ遊ぶとも云ふ。童子をあまた引連れて来ると云へり。里の子ども冬は近辺の丘に行き、橇遊びをして面白さのあまり夜になることあり。十五日の夜に限り、雪女が出るから早く帰れと戒めらるゝは常のことなり。されど雪女を見たりと云ふ者は少なし」。

童子（雪ん子？）を大勢引率し、満月の晩に遊ばせに来ることから、ここでも子煩悩な一面が窺えます。

遠野物語 全訳注 (講談社学術文庫)

著者

["柳田 國男", "新谷 尚紀"]

出版日

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遠野物語remix 付・遠野物語 (角川ソフィア文庫)

著者

["京極 夏彦", "柳田 國男"]

出版日

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虚構推理 (講談社文庫)

著者

城平 京

出版日

2015-12-15

虚構推理(1) (講談社コミックス月刊マガジン)

著者

片瀬 茶柴

出版日

2015-10-16

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まずは『虚構推理』に登場する雪女。漫画版では12〜13巻収録『雪女のジレンマ』、17～18巻収録『雪女を斬る』で活躍。

白い着物に黒髪ロング、雪女としてはスタンダードな見た目をしますが、性格はさばさばしており非常に好奇心旺盛。人間の食べ物が大好きで、暇さえあれば山を下り、食べ歩きを楽しんでいます。

雪山で遭難した昌幸を助け、数年後に再会した彼の家に転がり込み、飲み友人以上恋人未満の仲に。昌幸が前妻殺しの犯人として疑われた際は助ける為に尽力しました。

地獄先生ぬ~べ~ (1) (ジャンプ・コミックス)

著者

["真倉 翔", "岡野 剛"]

出版日

地獄先生ぬ~べ~S 1 (ジャンプコミックス)

著者

["岡野 剛", "真倉 翔"]

出版日

【地獄先生ぬ～べ～】全巻無料で読めるか調査！漫画を安全に一気読み

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お次は『地獄先生ぬ～べ～』に登場するゆきめ。命の恩人である小学校教師のぬ～べ～に片想いし、雪山から下りてきた恋する乙女。ミニスカ着物に生足、上半分が丸出しの巨乳のダイナマイトボディが注目を集めました。なお当初ぬ～べ～のもとを訪れた目的は、齢十六を迎えた雪女の誓約に従い、「惚れた男を凍らせてそばにおく為」。なかなか物騒ですね。

ぬ～べ～を振り向かせようと頑張る一途で純粋な性格、積極的なアプローチの数々で大人から子供まで幅広い人気を獲得。本編終了後はめでたくぬ～べ～と結ばれ、幸せな家庭を築いています。

ぬらりひょんの孫 1 (ジャンプコミックス)

著者

椎橋 寛

出版日

漫画『ぬらりひょんの孫』の人気登場人物を名シーンで徹底紹介！

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『ぬら孫』の略称で親しまれた『ぬらりひょんの孫』。妖怪一味を極道一家に見立て、宿敵・羽衣狐との戦いを描いた妖怪バトルファンタジーです。本作に登場する雪女キャラは、主人公・奴良リクオに片想いするお世話係の氷麗。母の雪麗と二代で奴良組に仕え、片想い中のリクオに尽くしました。

怪物事変 1 (ジャンプコミックス)

著者

藍本 松

出版日

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『怪物事変』が面白い理由！数々の魅力や名言を紹介。

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【怪物事変】全巻無料で読める？アプリや漫画バンクなど違法サイトの代わりに

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最後に紹介するのは『怪物事変』の雪男子（ゆきおのこ）の兄弟、岩木山雪里白那之五十六子晶と岩木山雪里白那之五十五子結。

青森の雪山に存在する雪女の隠れ里出身で、百年に一度一族に生まれる大変貴重な男児。晶と結は双子にあたりますが、里には彼等以外に若く健康な男がいなかった為、周囲に歪んだ欲望を向けられ子作りの義務を課されます。

吹雪や氷を操る異能を持ち、主人公・夏羽を助けました。

昔から今へ繋がる雪女の系譜

以上、小泉八雲『雪女』のネタバレあらすじ解説とおすすめ雪女キャラを紹介しました。今回ご紹介した以外にも魅力的な雪女キャラクターはたくさんいるので、ぜひ探してみてください。