グルメ漫画・料理漫画は食べ物や料理に焦点を当てた漫画の1ジャンルです。非常に多種多様な作品を楽しめるのが魅力。グルメ漫画は絵に描いた餅状態で飯テロを食らってしまうのが難点ですが、レシピや実在する店舗を紹介しているものは実際に食べて、登場人物の味わった味を体験出来るのが他の漫画ジャンルにはない楽しさです。 この記事ではそんなグルメ漫画をサブジャンルに分けて、おすすめ作品20選をご紹介していきます。
グルメ漫画、あるいは料理漫画とは数多くある漫画の定番ジャンルの1つです。
美食を追求したもの、美味しさを比べるもの、食べる量や早さを競うもの……一口にグルメ漫画と言っても、テーマは多岐にわたります。そもそも食事は時代や地域によって大きく変化するものなので、解釈の幅が広い行為です。
従ってグルメ漫画も、極論すれば食事シーンが軸に据えてあれば、どんな形式のグルメ漫画であろうと成立する非常に懐が深いジャンル。
ただやはりグルメと付くからには、料理の描写(アツアツ、トロトロ、シズル感など)や食べる様子が美味しそうだったり、魅力的でなければいけません。
他のジャンルにない特徴としては、グルメ漫画はショッキングな内容を含むことがほとんどないため、老若男女問わず楽しめるのも特徴ですね。時代に関係なく、グルメ漫画によって誰もが同じ「美味しそう」という感覚を共有出来るのは素晴らしいことです。
ただ、如何せんグルメ漫画はジャンルとして懐が深い――言い換えればざっくりしすぎているために、いざ探そうと思っても自分好みの面白そうな作品を見つけるのが難しいです。
そこでこの記事では、筆者の独断と偏見でサブジャンル(グルメ+αの要素)ごとに作品を分けて、各サブジャンル2~3選ずつ合計20選のおすすめ漫画をご紹介していきます。可能な限りバラエティ豊かな選出を心がけたので、きっと琴線に触れる1本が見つかるはずです。
なおサブジャンル分けは公式ではなく独自のものです。あらかじめご了承ください。
「ドカ食い系グルメ」(「ドカ食い漫画」とも)はかなり最近に誕生した、もっとも新しいグルメ漫画のサブジャンルです。
一般的にグルメ漫画は料理の美味しさに焦点が当たりますが、ドカ食い漫画は食べることそのものが目的。その点では食べる量や早さを競う、大食い・早食いとも似て非なるジャンルです。
ここでご紹介するのは、ドカ食い漫画の開拓者となった『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』と『週末やらかし飯』です。
『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』は青年誌「ヤングアニマルZERO」と「ヤングアニマルWeb」で連載されている作品です。何かと話題が多く、「次にくるマンガ大賞2024」ではWebマンガ部門第8位にランクインしたので、読んだことはなくてもタイトルを知っている方は多いでしょう。
ブラック気味な企業に勤める限界OL「もちづきさん」こと望月美琴(もちづきみこと)が、日々のストレス発散で大量の食事を食べ散らかすブラックコメディ。連載開始は2024年5月ですが、公開されるやいなやSNSを中心に大変な話題となりました。
ドカ食いの後に起きる血糖値スパイクによる多幸感を「至る」と称したり、鬼気迫る表情で大盛りをむさぼり食ったり、健康を意識して自重しようとしつつも空腹に耐えきれず「あるのがいけない!」とコンビニで爆買いする望月の奇行が面白くも怖いと大評判に。
- 著者
- まるよのかもめ
- 出版日
あまりの反響の多さに、当初隔月連載だったのが月1に変更され、コミックス1巻しか出てない段階でコラボカフェや「CoCo壱番屋」とのコラボが決定するなど異例の事態に発展しています。
グルメ漫画は大抵真似して美食を楽しみたくなりますが、『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』はその逆で、真似しないようにする反面教師的な内容なのが興味深いです。
普通のグルメ漫画とはかなり毛色が違いますが、インターネット上でたまにある破滅的なドカ食い行為を切り口として、こんな漫画があるのだと思い知らされた凄い作品です。
『週末やらかし飯』は「コミックDAYS」で連載されている小村あゆみの作品です。小村あゆみは主に少女漫画を発表している漫画家ですが、本作には恋愛要素はほぼなく、男女関係なく楽しめます。
有能社長秘書として人一倍働く主人公の久留米空子(くるめくうこ)。彼女は食べることが大好きで、社長のわがままやハードワークでストレスが限界に達すると、週末に「やらかし飯」と称するドカ食いをするのが数少ない楽しみでした。「やらかし飯」では好きなものを心ゆくまで堪能し、満足したら気持ち良く寝てしまいます。
『週末やらかし飯』は同時期(時期は本作の方が先)に始まった『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』がSNSで大バズリしたことで、似たテーマの作品として注目されました。
- 著者
- 小村 あゆみ
- 出版日
空子は美味しい食事を長く楽しむには健康でなければいけないという信条の持ち主で、週末の「やらかし飯」以外では健康管理に気を遣っており、ドカ食いはあくまでたまのストレス発散。ある種『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』とは正反対なため、「光のドカ食い漫画」とも言われています。
『週末やらかし飯』の良いところは、満足したら無理せず食べ物を残して、余り物をアレンジして後日綺麗に食べきる点。その性質上自宅でしか出来ませんが、作る料理(惣菜を
買ってくることもあります)もアレンジレシピも難しくないので、真似しやすいのが素晴らしいです。
作者本人がYouTubeで作中の「やらかし飯」再現動画をアップロードしているので、漫画とあわせて見るとより楽しめます。
今や世の中にはたくさんのグルメ漫画が溢れていますが、グルメ漫画と聞いて咄嗟にイメージする作品は限られています。おそらく多くの人が共通して思い浮かべるのは、昔から馴染みのある定番中の定番作品でしょう。
ここではド定番だからこそ逆に読んだことがない人の多い、『美味しんぼ』と『クッキングパパ』をご紹介してます。
『美味しんぼ』は「ビッグコミックスピリッツ」連載のグルメ漫画です。雁屋哲・原作、花咲アキラ・作画。1980年代のグルメブームに大きな影響を与えた、今日のグルメ漫画の原点と言える伝説的作品です。累計発行部数は1億3500万部を突破しており、TVアニメやTVドラマ、実写映画も制作されています。
山岡士郎は料理の知識と調理技術だけは優秀な「東西新聞」の自堕落な記者です。彼は新人の栗田ゆう子とともに目玉企画「究極のメニュー」作りの担当になると、その才能を発揮してめきめきと頭角を現しました。ところが山岡には有名な美食家・海原雄山と因縁があって、両者の諍いがやがて社運を賭けた究極と至高のメニュー対決に発展していきます。
- 著者
- 雁屋 哲
- 出版日
『美味しんぼ』は40年前に始まった超長期作品(2014年から休載中)です。一部の食材に誤解や偏った視点があるものの、料理や料理人に注目して料理対決のフォーマットを生み出したことが画期的でした。今でもグルメ漫画と聞けば、『美味しんぼ』をイメージする人は少なくありません。
グルメ漫画とは思えないほどストーリーが奥深く、忘れられない思い出や気持ちに寄り添った人情エピソードが数多くあります。対決一辺倒ではなく、ヒューマンドラマを楽しめることも本作が長く愛されている理由でしょう。
『クッキングパパ』は「モーニング」で連載されているうえやまとちのグルメ漫画です。1985年にスタートして現在も続いている息の長い作品で、「第39回講談社漫画賞」特別賞受賞しています。
荒岩一味(あらいわかずみ)は金丸産業の営業課課長。会社では仕事に厳しい実直な人柄だと思われていますが、実は家に帰ると非常に家庭的です。一味は会社では頼れる上司、子供には優しい父親、妻には良き夫と3つの顔を使い分けてさまざまな問題を解決していきます。
一味はいかつい顔立ちの大男です。連載開始当時はプロの料理人でない男性が料理をするのは珍しく、しかもおよそ料理とは結びつかない風貌なこともあって、二重の意味でギャップがありました。
- 著者
- うえやま とち
- 出版日
作品としては1話完結方式で、料理自体はあくまでも問題を解決する手段や方便であり、料理を通して楽しく食べることに意義があるというスタンス。そのため美味しく調理出来るように、レシピ本並みに詳しい作り方が作中に掲載されています。作者が試作したからこそ出来る、ワンポイントアドバイスもあるのがありがたいです。
原則的に明るいストーリーですが、世相を反映してその時々の話題の問題(うつ病や不登校など)を扱ったエピソードが出てくることもあります。『美味しんぼ』と違って料理対決はほぼ存在せず、ヒューマンドラマに重点を置いたグルメ漫画の元祖と言っていいでしょう。
かつてグルメ漫画と言えば、作った料理で問題を解決したり、料理対決で雌雄を決するものが中心でした。そんな中、一般大衆に広まったグルメブームに合わせて、淡々と食事を楽しむ作品が登場します。それが1人飯にフォーカスを当てた「飯漫画」です。
ここではメディアミックスなどで有名な『孤独のグルメ』と『ワカコ酒』をご紹介します。
『孤独のグルメ』は「月刊PANJA」や「SPA」で連載されていた久住昌之・原作、谷口ジロー・作画の作品です。1994年から1996年、2008年から2015年まで断続的に連載されました。全2巻。
本作は主人公の井之頭五郎(いのがしらごろう)が個人輸入雑貨商の仕事であちこちに出向き、その途中でふらっと立ち寄った店でのひとときが描かれます。思いがけない名物との出会いや苦い失敗が、どことなくドキュメンタリータッチで淡々と進むのが特徴。独特な感性による味の感想や、味わい深いリアクションが癖になります。
連載当時はほとんど話題にならず、一時は絶版になったこともありました。ところが谷口ジローの写実的な料理、素朴なモノローグで食べるだけの内容が妙に美味しそうだ、と2000年代にインターネットで徐々に話題に。新装版や文庫版がじわじわ販売数を伸ばして、今ではロングセラーとなっています。
- 著者
- ["久住 昌之", "谷口 ジロー"]
- 出版日
『孤独のグルメ』はTVドラマも有名です。2012年にドラマ化されて以来、毎年新作が作られており(2024年現在シーズン10まで)、2025年1月には『劇映画 孤独のグルメ』の公開が予定されています。
『孤独のグルメ』は飲食店で食事をするのが基本ですが、TVドラマは意図的に原作漫画とは違うお店がピックアップされています。
「食べるだけ」の飯漫画は『孤独のグルメ』から始まったと言っても過言ではありません。もしTVドラマしか視聴していないのなら、この機会に原作漫画に触れてみてはいかがでしょうか。
『ワカコ酒』は「月刊コミックゼノン」と「WEBコミックぜにょん」で連載されている新久千映の作品です。スピンオフとして、猫原ねんずが描く『大衆酒場ワカオ ワカコ酒別店』という漫画もあります。
26歳のOL・村崎ワカコは無類の酒好き。当然お酒のアテも大好きで、仕事帰りや休日には初めて店にも平気で入店し、おひとり様飲みを心ゆくまで楽しみます。
モノローグ中心で食べ物へのリアクションくらいしかないため、女性版『孤独のグルメ』と呼ばれることも。ただ『孤独のグルメ』には一切アルコール類が出て来ないのに対して、本作はペアリングを意識したお酒が必ず出てくるという特徴があります。
- 著者
- 新久 千映
- 出版日
- 2013-05-20
春夏秋冬の季節に合わせて描かれるお酒や料理、おつまみがとても魅力的。夏場のキリッとしたビールに合う揚げ物から、寒い時期に食べる煮物や熱燗までラインナップが多彩です。1話1話が数ページと短いものの、本当に美味しそうで毎話満足度が高く、酒飲みなら思わず真似して食べたくなる抜群のチョイスがたまりません。
ワカコは美味しいお酒と料理を嗜むと「ぷしゅー」(その時の感情で微妙に変化)という吐息を漏らしますが、絶品料理をお酒で流し込むとそういう心持ちになるので、酒飲みであればあるほど共感出来ます。
本作はTVアニメ化、TVドラマ化もされています。ドラマ版は非常に好評でほぼ毎年新作が作られている状況。最新のシーズン8が2025年に放送予定されています。
グルメ漫画は美食を紹介する側面があるので、読めばたいていなんらかの発見があります。しかし、普通に過ごしているとほぼ知ることがない未知の食べ物、逸話の出てくる作品があるのです。
それがここでご紹介する『鍋に弾丸を受けながら』と『おもたせしました。』です。
『鍋に弾丸を受けながら』は「コミックNewtype」で連載されている青木潤太朗・原作、森山慎・作画の漫画です。
原作者の「危険な場所やリスクある食べ物ほど美味しい」という思想のもと、普通の旅行では絶対に行かない土地まで行き、現地の人々と交流した経験を踏まえたほぼノンフィクション作品。作中の食べ物や出来事は実際の経験のようですが、原作者の方針から登場人物は主人公含めて美少女として描写されます。
主人公は青木潤太朗を美少女化したジュンタロー。趣味の釣りの交友関係やコミュニケーションの高さで外国の色々な場所を渡り歩き、普通では味わえない現地のグルメに舌鼓を打ちます。
- 著者
- ["青木 潤太朗", "森山 慎"]
- 出版日
メキシカンマフィアの処刑法が由来の「マフィアの拷問焼き」、アメリカの朝に食べる肉「ブレックファースト・Tボーン・ステーキ」、ドバイの乾物屋で出会った「体にはいい謎のハチミツっぽい何か」、果物王国・台湾の完熟で食べてこその「釈迦頭(シャカトウ)」……。
日本はもちろん、旅行ツアーでも絶対にお目にかかれないご馳走や珍味が目白押し。場所が場所だけに気軽に食べに行くことは出来ませんが、だからこそ貴重な原作者の体験を手軽に読める本作は本当に面白いです。
普通のグルメに飽きた方は、ぜひこの発見の多い狂気の食レポグルメ漫画をお試しください。
『おもたせしました。』は「月刊コミック@バンチ」で連載されていた、お土産に着目したグルメ漫画です。作者はTVドラマ化もされた『東京トイボックス』で知られる漫画家ユニットのうめ。
主人公の轟寅子(とどろきとらこ)は、叔母・桜の代わりに仕事用の資料の収集や、逆に返却するためにあちこち訪問する機会が多い女性です。彼女は毎回評判のいい手土産を持参するのですが、ついつい手土産にまつわる逸話を披露しては、気を利かせた相手に勧められてお相伴にあずかってしまいます。
- 著者
- うめ
- 出版日
我々がお土産でイメージするのはだいたいお菓子の詰め合わせが多いですが、本作に登場するものは本当に多種多様です。浅草「大多福(おたふく)」のタコ壺入りおでん、築地の卵焼き専門店「松露(しょうろ)」の松露サンド、谷中にある名店「すし乃池」の穴子寿司等々。実在するバラティ豊かなお土産がずらりと揃っています。
逸話がまた秀逸。美食の大家・北大路魯山人のエッセイに、坂口安吾や夏目漱石の作品の記述を巧みに引用する寅子の知識量に感心します。
舞台が東京なので東京のお土産に偏っているのが利点であり難点。関東在住ならある程度気軽に買いに行けますが、そうでないなら少し難しいです。とはいえ寅子の語るエピソードだけでも面白いので、お土産の味を想像しながら読むのも一興です。
食事が人間の営みに不可欠なのは、今も昔も変わりません。ただ食事の様式や調理法、食材などに関しては、当然昔に比べると現在はだいぶ変化しました。
グルメ漫画の中には、そういった昔の食生活を扱ったものがいくつもあります。ここでは現代の料理に繋がる、近現代をモチーフとした『大正の献立 るり子の愛情レシピ』と『うちのちいさな女中さん』、『戦争めし』の3作をご紹介していきます。
『大正の献立 るり子の愛情レシピ』は「思い出食堂」などに掲載されている、大正時代を舞台とした作品です。作者はさかきしん。
柳沢るり子と柳沢総次郎は、東京で2人暮らしする夫婦です。総次郎はあまり売れていないものの歴とした小説家で、るり子は主婦としてそんな彼を支えています。暮らし向きは楽とは言えませんが、帝大出身で優しい夫との生活にるり子は満足していました。
本作は柳沢家の食卓にフォーカスを当てて、大正時代の一般家庭で出される普通の食事や、当時まだ目新しかったメニューが描かれます。
- 著者
- さかき しん
- 出版日
実際に大正時代で使われたレシピが参考文献になっており、材料も作り方も当時のものそのままを読めるのが魅力です。見慣れた食材が別の呼び方(バターではなくバタなど)な上に、分量が尺貫法なので古いレシピのなずなのに目新しく感じるのが不思議。
一般的なイメージよりずいぶん洋食が浸透している一方、調理場が昔ながらのかまどだったり、畳敷きの茶の間でちゃぶ台を囲むという和洋折衷感も面白いです。
ほぼすべてのメニューは基本的にるり子の手作り。愛情たっぷりで幸せ暮らす2人にときめきます。大正時代の生活を覗き見るだけでも楽しめるので、日本の近現代史に興味のある方はぜひ読んでみてください。
『うちのちいさな女中さん』は「月刊コミックゼノン」で連載中の長田佳奈の作品です。時代背景は昭和初期で、かつて身近な職業だった女中(お手伝いさん)の少女の物語となっています。
昭和9年のある夏の日。翻訳家の蓮見令子の邸宅に、見知らぬ少女が訪れます。彼女の名前は野中ハナ。令子のおじの紹介でやってきた、住み込みの女中でした。ハナは14歳と若いものの、きっちりした性格と堅実な仕事ぶりで蓮見邸の雑事をこなしていきます。
『大正の献立 るり子の愛情レシピ』と時代が少し近いですが、こちらはモダンな洋風邸宅が舞台。先進的で大人な令子と、有能ではあるもののまだ経験の少ないハナの関係はシスターフッド的で、見ていて和みます。
- 著者
- 長田佳奈
- 出版日
蓮見邸にはハナがまだ使ったことのない、ガスコンロや冷蔵庫(というより氷で冷やす冷蔵箱)があり、学びながら使っていくのがとても面白いです。
本作はグルメがメインではありませんが、毎食丁寧に作る日常の料理やレシピを元に洋食を調理する様子がしばしば描かれます。普段の食事も美味しそうですし、たまの洋食で初めての味に出会って静かに歓喜するハナ(クリームソーダは必見)には思わずほっこりすること請け合いです。
レシピも家事のやり方も参考資料に基づいているので、リアルな昭和初期を楽しめます。
『戦争めし』は「ヤングチャンピオン烈」などで連載されている魚乃目三太の作品です。第2次世界大戦当時を舞台として、1話から長くても2~3話で完結するオムニバス形式。
視点は毎回変わり、日本軍の兵士から戦地へ夫を送り出した家族まで、戦中の日本ではどんな食生活が送られていたのか色々な背景の物語が描かれます。
各エピソードは多少脚色が加えられていますが、基本的には史実をベースにしたフィクションです。場合によって実在した人物や場所が登場する、ノンフィクションのお話も少なくありません。
補給の乏しい前線、偶然連合軍から奪った食料で飢えた仲間にご馳走を振る舞う者。抑留中のシベリアで、死に瀕した仲間の捕虜のために腕を振るったコック。東京空襲のさなか、出兵したうなぎ屋の夫に代わって代々受け継いできたタレを守る妻。
- 著者
- 魚乃目三太
- 出版日
題材が題材だけに明るく楽しい内容とは言えませんが、どんな場所やどんな状況でも生きている限り人間は食べずにはいられないし、美味しさを追求するのだなと思い知らされます。
食事を通じて未来への展望も示されるため、戦争をテーマにしていてもただ暗いだけではなく、希望や救いを感じられるのが本作の素晴らしいところです。魚乃目三太のデフォルメ調の作画から、人の温かみを感じられるのも魅力。
本作は2018年、NHKが終戦記念日特集の一環として『ドラマ×マンガ 戦争めし』のタイトルでTVドラマ化もされました。
日本の歴史上、決して避けて通れない第2次世界大戦。グルメの側面から見ていくと、意外なものが見えてくるかも知れません。
グルメ……すなわち美食はもともと高級志向で、庶民には手の出しにくいものでした。しかしグルメブームや調理器具の発達、お手軽レシピのおかげで、自炊でもかなり美味しいご飯を食べられるようになりました。
グルメ漫画もプロの料理人ではなく、普通の人や一般家庭をメインに据えてた作品が多くなり、今ではレシピ付きのものも珍しくありません。
ここでは普段の生活ですぐに試せるレシピ付きの漫画『ヤンキー君と科学ごはん』、『甘々と稲妻』、『花のズボラ飯』をご紹介していきます。
『ヤンキー君と科学ごはん』は「となりのヤングジャンプ」で連載中の作品です。作者は岡叶で、樋口直哉が作中の調理を監修しています。
主人公は学校創設以来の初の留年者になりかけているヤンキーの犬飼千秋と、いまいちやる気のない化学担当の教師・猫村蘭。蘭は担任として彼に勉強に興味を持たせるため、唯一意欲を見せた家庭料理に科学的なアプローチをして見せ、補修を兼ねた実技指導を行うことになります。
- 著者
- ["岡 叶", "樋口 直哉"]
- 出版日
世の中に実践的な料理を扱うグルメ漫画は数あれど、調理科学をメインにした作品はおそらく本作だけでしょう。
調理科学とは材料の成分や調理法を物理学や化学、生物学、栄養学などの観点で研究する学問。下準備のカットも熱を加えることも味を付けることも、すべて突き詰めれば科学的に合理的なやり方があって、本作ではそれを家庭レベルに落とし込んで簡単に実践する――という内容になっています。
焼くことで色味と風味を出すメイラード反応、ある味と正反対の味を少量入れると味が鮮明になる対比効果、デンプンの糊化を利用した餃子の焼き方……などなど。理論を応用した時短テクニックも紹介されており、知っていれば普段の料理に役立つ知識が満載です。
ちょっと面白い話をご紹介すると、科学的にラーメンが美味しくなる日があるそうです。それは雨や台風の日。なぜそうなるかは……本編をご覧ください。各話の最後にあるおまけコラムも興味深い内容なので、読むと料理がちょっと楽しくなりますよ。
『甘々と稲妻』は「good!アフタヌーン」に連載されていた雨隠ギドの作品です。父子家庭の親子が少女の協力を得て、温かい食卓を囲めるようになるホームドラマ。
主人公は高校の数学教師・犬塚公平。半年前に妻を亡くし、5歳の1人娘・つむぎと暮らしています。まだ幼い娘には家族団らんの温かさが必要でしたが、仕事と家事に追われて自炊は出来ていない状態でした。
しかし偶然と巡り合わせによって公平の生徒の1人、飯田小鳥の実家である料理屋で協力して簡単なごはんを作ることに。それがきっかけで3人は料理にチャレンジし、手探りで美味しいごはんと良好な関係を築いていきます。公平とつむぎ、そこに小鳥が加わった擬似的な家族の形が感動的。
- 著者
- 雨隠 ギド
- 出版日
- 2013-09-06
連載後評判が評判を呼び、「このマンガがすごい!2014」オトコ編で8位にランクインしました。また2016年には、TVアニメにもなっています。
本作は基本的に、1話ごとに話の中で作ったレシピが紹介されます。レシピ通りに実際に作れば、作中で公平やつむぎたちが味わった味を体験出来て、より一層『甘々と稲妻』の世界に浸れる仕組み。読みながら食べると行儀が悪いので、読後に余韻を噛みしめながら食べるのがおすすめです。
『花のズボラ飯』は「Eleganceイブ」で連載されていた久住昌之・原作、水沢悦子・作画の作品です。
主人公は主婦の駒沢花。彼女は夫の単身赴任により、1人暮らしを余儀なくされます。そもそもずぼらな性格な花は、夫がいないのをいいことにぐうたら生活を送っていきます。
本作のポイントはずばり手抜き。花は料理が出来ないわけではありません(夫が帰ってくる時には愛と手間暇をかけます)。手抜きというとマイナスイメージがありますが、自分1人の食事だから手の込んだことをせず、ズボラ飯として簡単かつ美味しくするある種の知恵です。
- 著者
- 久住 昌之 水沢 悦子
- 出版日
- 2010-12-20
手抜きのズボラ飯なので、レシピも当然簡単なものばかり。洗い物は極力出さない、なんなら火も使わない、お手軽で誰でも再現出来るレシピは結構実用的です。
掲載媒体が女性漫画誌なこともあって、本作は主に女性に支持され、「このマンガがすごい!2012」ではオンナ編第1位を受賞。さらに同年10月にはTVドラマ化もされました。
なお原作者は『孤独のグルメ』と同じ久住昌之。曲がりなりにも料理するので印象はだいぶ違いますが、モノローグ主体の構成はどことなく似たテイストを感じさせます。男女関係なく、『孤独のグルメ』が好きなら『花のズボラ飯』もおすすめです。
食事がポジティブな行為であることからら、グルメ漫画の内容は大抵ライト。そのライトさはコメディやギャグ展開と相性がいいため、積極的にそういった要素を取り込んで人気を得たのがコメディ系グルメ漫画です。
ここでは代表的な作品として『1日外出録ハンチョウ』と『紺田照の合法レシピ』をご紹介します。
『1日外出録ハンチョウ』は「週刊ヤングマガジン」で連載中の作品。大人気ギャンブル漫画「カイジ」シリーズの公式スピンオフです。福本伸行が原案協力、萩原天晴は原作を担当し、作画は上原求と新井和也の2人が行っています。
主人公は地下チンチロ編でカイジを苦しめたE班班長・大槻太郎。大槻は本編同様にアコギな商売やチンチロで荒稼ぎしては、気が向いた時に外出して豪遊する日々を送っています。
「カイジの飯テロスピンオフ作品」がキャッチコピーなだけあってグルメ要素が豊富。おおむね1話完結で、大槻が外出した際の食事風景、あるいは途中で出会った人や体験が描かれます。
- 著者
- ["上原 求", "新井 和也", "福本 伸行", "萩原 天晴"]
- 出版日
驚くべきは驚異の飯テロ具合。食べ物の描写が異常に細かくて、ふらっと立ち寄った店や気まぐれに作る大槻お手製の料理が本当に美味しそうです。1日外出の限られた時間の中、いかに失敗を回避して最大限の満足感得るか、という緊張感がちょうどいいアクセントになっています。
絵柄が福本伸行の「カイジ」そっくりなのに、全編コメディタッチなのが絶妙。本編を知っている人ほど笑えます。
ちなみに「カイジ」本編との関係は明らかになっておらず、パラレルワールドの可能性があります。ただ、『1日外出録ハンチョウ』はギャグ寄りの内容なので、深く考える必要はないでしょう。
単独のメディアミックスはありませんが、アニメ『中間管理録トネガワ』をジャックする形で何話か映像化されています。
『紺田照の合法レシピ』は「少年マガジンR」で連載されていた馬田イスケの作品です。架空の暴力団組員にスポットを当てた内容ですが、本業の悪事は匂わされる程度で、極道らしい言動をコミカルに切り出したコメディとなっています。
主人公は東京の指定暴力団「霜降肉組」の新人組員にして、男子高校生の紺田照(こんだてる)。まだ駆け出しながら肝が据わっており、腕も確かなことから周りから高く評価されています。
そんな照の数少ない趣味であり特技なのが料理です。普段は寡黙な彼ですが、調理中だけは感情を取り戻したかのように饒舌になり、柔らかい表情を見せることもあります。並みの料理人では太刀打ちできない腕前で、柔軟な発想によるレシピの考案やアレンジが得意。
- 著者
- 馬田 イスケ
- 出版日
出来上がったメニューはどれも物凄く美味しそうなのに、大葉や小麦粉を「合法ハーブ」や「白い粉」などと呼んだり、味の一体感を「組に加える」「抗争」と表現するなど言い回しが非常に物騒。そしてそのギャップがたまらなく面白いです。
アクの強い作風が人気となって、2018年にはAmazon Prime Video独占配信で実写ドラマが制作されました。
各レシピはフードコーディネーターの監修が入った本格的なもの。残念ながら作中に詳細は出てきませんが、なんと料理レシピサービス「クックパッド」の公式アカウント(https://cookpad.com/jp/users/40103734/recipes)に50以上ものレシピが掲載されています。気になった方はそちらもチェックしてみましょう。
既製品やお店でなければ、料理は誰かが作らなければいけません。つまり手作り。手作り料理はラブコメでは定番の要素です。自然な流れでイチャつかせることが可能なため、グルメ漫画にはそういったラブコメ展開を取り入れた作品がいくつかあります。
ここではラブコメ要素を含んだグルメ漫画は、本記事でもすでにいくつかピックアップしているので、ここではあえてちょっと変わり種の『れんげとなると!』と『味噌汁でカンパイ!』をご紹介しましょう。
『れんげとなると!』は「ビッグコミックスペリオール」で連載中のグルメ漫画です。作者はnicolai。ゴーイングマイウェイで距離感のバグった褐色ギャルが、老舗レシピを受け継いで大胆にアレンジ(主に客の注文を)してくるコミカルな作品となっています。
冴えない青年のなるとがある日商店街を歩いていると、閉店したはずの行きつけの中華料理屋「味楽軒」が派手派手になって再オープンしていました。興味本位で入店した彼を待っていたのは、妙に露出の多い謎のギャル・れんげでした。
れんげはとにかく、やることなすことはちゃめちゃ。カレーを頼んでもカレー味のチャーハンを出してくるわ、メニューに天津飯があるのに作るのを嫌がるわ、挙げ句にネットで作り方を検索して奇跡的に上手く行ったらおすすめメニューに加えるわ……。
- 著者
- nicolai
- 出版日
特にまかないの発想は必見。店員が食べるものという意味ではあっているのですが……。めちゃくちゃなのになぜか美味しくて、とても重要なこととして愛嬌がいいので憎めません。
最初からギャルらしい距離感の近さだったのが、主人公が常連になって色々知って行くにつれて、微妙に変化していくれんげが見所。自分の中の気持ちが理解出来ず、ぼんやりしてペースを崩してしまうのが可愛らしいです。
なるとは女性常連客(こちらも癖つよ)に絡まれがちで、ラブコメになりそうでならない、でももうすぐなるかも――という微妙なさじ加減に魅力を感じます。旧「味楽軒」店主との関係でちょっとしんみりもしますが、明るく笑い飛ばすのがれんげ流。
本作は隅々まで、ギャル特有の根拠のないポジティブシンキングに満ちています。読むだけで前向きな気分になってくるので、日々疲れいてる人におすすめです。今日のご飯を町中華にしたくなりますよ。
『味噌汁でカンパイ!』は「ゲッサン」で連載されていた少年漫画です。作者は笹乃さい。母のいない幼馴染みのために、少女が温かい朝ご飯を作りに行ってあげるお話です。
主人公は三井野八重(みいのやえ)と四位善一郎(しいぜんいちろう)の2人。善一郎は9年前に母親が亡くして以来、朝はコンビニなどで適当に済ませていました。それを知った八重は一念発起。自身の母に言われた「誰かに作ってもらった朝ご飯は心も満たす」をモットーに、善一郎を喜ばせようと朝食に最適な味噌汁作りに邁進します。
- 著者
- 笹乃 さい
- 出版日
味噌汁専門なのが本作の特徴でありミソ。すぐバリエーションが尽きるように思いますが、具材選びや出汁の取り方、味噌の種類……それぞれ最適なものがウンチクとともに語られるので、想像よりはるかに引き込まれます。
2人のほどよいデコボコ具合も初々しくてたまりません。善一郎は素直になれないだけで確かな好意がある一方、八重は彼女や恋人ではなくなぜか善一郎の母親気取り。八重も嫌ってはいないようですが、食い違いによる微妙な距離感に身悶えすること間違いなし。2人とも中学2年生なので、ごっこ遊びレベルですが、中学生のママという属性が刺さる人も少なくないでしょう。
味噌や味噌汁に関しては栄養面をかなり詳しく知ることが出来るので、単に味噌汁が好きな方にもおすすめです。
最後に変わり種のグルメ漫画をご紹介しましょう。今や一大ジャンルと化した異世界転生・転移モノ。趣味嗜好に合わせて様々な作品が展開された結果、グルメにフォーカスしたものも生まれました。
ここではそんな異世界系グルメ漫画の先駆者となった『異世界居酒屋「のぶ」』と、変わり種の中でもさらに変わり種な『異世界おもてなしご飯』をピックアップします
『異世界居酒屋「のぶ」』は「ヤングエース」で連載中のファンタジー漫画です。蝉川夏哉の同名ライトノベルのコミカライズで、作画を担当するのはヴァージニア二等兵。なぜか異世界と繋がった現代日本の居酒屋を舞台に、美食を求める者たちのリアクションや交流が描かれていきます。
主要人物は「のぶ」店主の矢澤伸之と看板娘の千家しのぶ。エピソードごとに視点が変わりますが、この2人だけは共通して登場します。
「のぶ」を訪れる客は、地元の衛兵やお忍びの貴族などさまざま。しかし彼らの目当ては同じで、異世界にはない食材や調理法で作られた「のぶ」のメニューです。なんでもないビールや揚げ物が、異世界では何にも勝るご馳走。ビールの概念がないことと、決まり文句と混ざってビールを「トリアエズナマ」で注文する習慣が出来ているのが面白いです。
- 著者
- ヴァージニア二等兵
- 出版日
- 2015-12-26
物珍しさも手伝って、「のぶ」の客は増える一方。徐々に常連が増えるだけでなく、そこで出来る交流の輪でドラマが繋がっていく構成が見事です。
異世界と現代日本が繋がっているからこそのエピソードもあり、読めば読むほど味が出てくる名作。それこそ居酒屋の珍味のように。
本作には原作小説やスピンオフ漫画の他に、TVアニメとTVドラマ版があります。それぞれに違った良さがあるので、気になったものがあればチェックしてみてください。
『異世界おもてなしご飯』は「ヤングエースUP」で連載されていた異世界ファンタジー漫画です。忍丸の同名ライトノベルが原作になっており、コミカライズは漫画家の目玉焼きが作画を行っています。
現代日本人が救世主の聖女として異世界に召喚される――というところは一般的な異世界モノと変わりませんが、本作のポイントは主人公がその聖女の姉な点。姉にはなんの特殊能力もなく、まだ若い妹が安心して責務に集中出来るように、元の世界でやっていたのと同じくご飯を作ってあげるのが役目です。
- 著者
- ["忍丸", "目玉焼き", "ゆき哉"]
- 出版日
つまり日本食を異世界人に食べさせる(ご馳走することもあります)のではなく、故郷の味を恋しがる妹をもてなすというのがメイン。いわばホームシック対策ですね。異世界モノは話の都合上、新しい世界に順応するのが普通なので、鋭い着眼点に感心してしまいます。
姉は成人してOLとして働いている小鳥遊茜(たかなしあかね)。妹はまだ高校1年生です。甘えたがりで好物はほぼ姉の作ってくれる料理やお菓子。基本的に異世界では手に入らないか、微妙に違う食材ばかりなので、鑑定スキルを駆使して元の味を再現するのが面白いです。
なお茜はひよりのご飯に専念しているだけではありません。息抜きに晩酌のおつまみをこしらえたり、別な人をもてなしたりと、それなりに異世界ライフを謳歌している姿も見所です。
今回は比較的手に取りやすい、商業作品からグルメ漫画をピックアップしました。グルメ漫画は個人的に読んでいる方だと思いますが、奥が深くて本当に楽しいです。
ちなみに自費出版なので選外としましたが、漫画家・窓口基の『サイバネ飯』もおすすめ。『攻殻機動隊』に近いSFテイストで、サイボーグの食糧事情というマニアックな題材が面白いです。