2017年4月29日に映画公開の『帝一の國』。独特の世界観にスリリングな展開とギャグがこれでもかと盛り込まれた密度の濃い作品です。今回はそんな学園漫画の魅力をご紹介します。最終巻のネタバレを含みますのでご注意ください。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
- 2011-03-04
物語の舞台は昭和、数多くの政財界のキーパーソンを排出した海帝高校です。ここは将来の政財界の人材育成のための場所で、ここでのトップ、生徒会長になるということはそのまま将来を約束されるということを意味します。そのため派閥争いが実際の政界さながらに行われ、学校側もその競争を推奨し、生徒会に大きな権限を与えていました。
そこに明確な目標を持って入学してきたのが成績トップで入学してきた赤場帝一。彼は日本を自分の理想とするより良い方向へ向かわせること、つまり「自分の国」をつくることを目標としています。
そして父の代から因縁がある永遠のライバルの東郷と、貧乏一家出身で正義感に熱いダークホースの大鷹と熾烈な生徒会長のポジション争いを繰り広げていくのです。
やはりこの作品の一番の魅力は権力争いのスリルでしょう。みな高校生とは思えないほどダークで狡猾な考え方をしており、ストーリーでは予想を上回る波乱がこれでもかと訪れます。
生徒会選挙で勝つためにお金がばら撒かれたり、宗教との癒着が描かれたりと現実に近いことを男子高校生たちが全力でやっているのが面白い。しかもそれを学校側も黙認しており、むしろ伝統だと言うのですから驚かされます。
また策略をキメる際の登場人物たちの名言にも注目です。例えば帝一が当初忠誠を誓っていた先輩の氷室が窮地に追い込まれるシーン。彼は票のために涙を流し、プロ顔負けの演技を見せます。しかしその泣き顔の合間でゲスい顔を覗かせ、心の中でこうつぶやくのです。
「泣いて一票でも増えるならいくらでも泣いてやるわ!!
僕の涙は一兆円の価値があるのさ!!」
汚い、汚すぎです。しかし何だか笑ってしまえるのは古屋兎丸の劇画調の絵と交わって独特の世界が構築されており、暗くなりすぎないから。いくら汚くても何だか笑えてしまう攻防戦が楽しめます。
古屋兎丸のおすすめ作品を紹介した<古屋兎丸おすすめ漫画ベスト5!『帝一の國』原作者の独特な世界観に浸る!>の記事もおすすめです。気になる方はあわせてご覧ください。
この漫画の熱量を底上げしているのはそれぞれの生徒たちの生徒会長にかける思いの強さでしょう。特に主人公の帝一は尋常ではありません。
氷室の派閥についた帝一ですが、自分と彼の父親にかつて確執があったことを知らされます。そして氷室の家を盗聴して、やはり彼は帝一を切るということを決めていると知るのです。
それを聞いた瞬間、帝一は震えながら服を脱ぎ、真剣で切腹しようとするのです。
「もう僕は終わった!!帝一終了のお知らせだ!!
この庭で死んで氷室さんを後悔させてやるんだ!!」
どうにか彼の参謀、光明に止められて切腹をやめる帝一。シリアスなシーンですが、セリフについ笑ってしまいます。
更にショックを受けると文字通りの血涙を流すなど、帝一の「自分の国をつくる」という並々ならぬ思いは一般人からは想像ができないものなのです。狂ってます。
氷室の気持ちが親同士の確執をきっかけに離れてしまったことを悟った帝一は、氷室の対抗馬である森園につくことを氷室に伝えにいきます。
「僕はもう…
あなたのために汗も涙も流しません
これからは僕のすべて森園先輩のものです」
「まて…まってくれ…」
帝一が持っている票を逃したくない氷室は帝一に抱きつきます。
「僕はお前を…失いたくない…」
それを聞いて流した帝一の涙が氷室の手に落ちます。
「これがあなたに流す最後の涙です
さようなら氷室先輩」
なんだこれ。BL展開かよ。
このような展開はところどころで見られ、特に帝一と彼の参謀、光明はよくイチャイチャしています。仮にも帝一には美美子という恋人がいるのですが、心なしか光明や氷室といる時の方が胸を踊らせているように見えます。何故なのでしょうか……。
そしてこの帝一の寝返りによって氷室と森園の票差は1票となるのです。果たして帝一の上の代の生徒会選挙はどのような展開を見せるのでしょうか?そしてその結果は彼の今後の進路にどう影響するのでしょうか?結末は作品でご覧ください。
学年が変わり、いよいよ帝一の生徒会選挙が始まります。ここからの攻防戦は今までの展開の濃さが序の口だったと思わせられるほどのもの。更にヒートアップしていきます。
ヤンキーに僧侶にゴスロリ系、そして現総理大臣の息子などのキャラ立ちした後輩たちに、ニュースや政界をも騒がす事件など、キーとなる人物や山場が息を持つかせぬ勢いで投入されます。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
- 2016-05-02
そしてなんと生徒会長になった者が美美子を手に入れるというトンデモ展開に。この時点では別れているとはいえ、ずっと彼女と付き合ってきた帝一、彼女に惹かれ始めた大鷹、実はずっと美美子に片思いをしていた東郷、彼女に一目惚れした総理大臣の息子、野々宮も参戦してきます。
しかしそんな目まぐるしい争いの中で、帝一の右腕、光明が東郷派の宗教集団によって洗脳されてしまいます。選挙は残すところあと55日。ここからのカウントダウンは手に汗握るものです。
しかも結末はまさかの2回ものどんでん返し!予想外の結末、そしてその後に明かされる真相に驚かされること間違いなし。最後まで帝一らしいなぁと思わされる思惑の渦巻くストーリーをぜひ作品でお楽しみください。