おすすめ胸キュン小説12選!忙しい日々に疲れたあなたに

更新:2021.3.16

仕事や家事、勉強……忙しい毎日に追われ、心がすり減ってしまったとき、胸キュンできる素敵な小説で癒されてみませんか? 今回はおすすめ胸キュン小説をご紹介します。

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目次

潜水艦乗組員との、切ない恋愛

胸キュン恋愛作品を次々と生み出す有川浩による『クジラの彼』。短編集なので、空いた時間にちょっと読書がしたいときにも、ぴったりです。収録6作品はすべて自衛隊員の恋愛物語。同作者の『空の中』『海の底』のスピンオフ作品も収録されています。

著者
有川 浩
出版日
2010-06-23


表題作「クジラの彼」は『海の底』のスピンオフ作品。もちろん独立しているので『海の底』を読んでいなくても、楽しめます。物語の主人公聡子は、合コンで出会った潜水艦乗組員冬原と付き合い始めます。しかし潜水艦乗組員との恋愛は、かなりしんどい遠距離恋愛で……。

潜水艦乗組員が地上にいるのは、1年のうち、わずか数か月だけだそうです。その上、航海スケジュールは国家機密となるので、恋人でもそのスケジュールを知ることはできず、次にいつ会えるのかわからない毎日。そんな中、聡子は上司からアプローチをかけられてしまいます。聡子が抱える切なさは、想像するだけでも辛くなってしまうことでしょう。

お互いを思いやるあまりすれ違う二人の思いが通じ合うシーンでは、胸キュンすること間違いなし。本作で、思わず見習いたくなってしまうような真っ直ぐな恋愛を覗いてみませんか?

胸キュン要素満載の王道ラブロマンス

父子家庭育ちで家事が得意な勝利は父親の転勤で従姉弟たちと同居することになります。久しぶりに会った5歳年上のかれんは予想以上に綺麗になっており、しかも勝利の学校に教師として赴任するというのです。年齢の割に隙が多いかれんに対し、初めは保護者のような気持ちで向き合っていた勝利ですが、次第に彼女に惹かれている自分に気がついていきます。

著者
村山 由佳
出版日
1999-06-18

美人でありながら天然なかれんのキャラクターもヒロインとして申し分ないのですが、登場する男性キャラクターもみなそれぞれに魅力的です。

勝利は家事全般の手際がよく、気が利いて傍にいてほしい時必ずそこにいます。愛想は良くないものの人の心の機微に敏く、絶品のコーヒーを淹れるマスター。肩を壊してプロは諦めたものの、スポーツマンらしい気遣いのできる中沢。屈託がない言動で愛すべき弟キャラの丈。

しかし、魅力的な男性キャラクターが多いということは、勝利にすればライバルも多いということです。お互いを思いやるあまりなかなか進展しない二人の関係にヤキモキすること必至です。

好きな人との同居生活、ライバルの出現、出生の秘密など胸キュン要素がたっぷりで、これぞラブロマンスの王道、といえる作品です。毎日の楽しみに少しずつ読み進めるもよし、お休みの日などに一気に読んで恋愛の世界にどっぷりはまるもよしなシリーズになっています。

三姉妹の恋愛、繋がる物語

神戸を舞台に三姉妹の恋模様を描く、瀬那和章の小説『好きと嫌いの間にシャンプーを置く』。妻子ある男性を好きになった長女、顔立ちはいいけれど自分勝手な恋人に振り回される次女、そして恋に臆病な三女。それぞれの視点で描いた3編が収録されています。

著者
瀬那 和章
出版日
2013-01-25


表題作「好きと嫌いのあいだにシャンプーを置く」は、長女紗子の物語。インテリアコーディネーターとして働く紗子は、妻帯者である職場の先輩を好きになります。叶わぬ恋を繰り返す紗子が、好きな人ができるといつも相談する相手は、美容室で働く年下の男の子。彼は紗子に恋愛感情があり、紗子もそれを知っているのでした。種類の違う好きの間で揺れ動く、紗子が選んだ答えとは……?

三姉妹がそれぞれ主役となった3編は、すべて同時に起こっている出来事という設定。同じマンションに住む彼女たちが、それぞれ思い悩みながら進んでいく物語。三姉妹の関係も魅力ですが、同じ瞬間を違った視点で眺める点も、本小説の醍醐味でしょう。たとえば、ある一人のために、誰かがこっそり手助けをしていたことが後の編を読んでわかったりします。3者3様の恋愛が出揃うことで一つになる物語を、お楽しみください。

究極のビタースイート青春恋愛小説!

坪田譲治文学賞を受賞した、濱野京子による小説『トーキョー・クロスロード』。青春恋愛小説の王道のような本作。ビタースイートな青春時代に戻りたくなってしまうかもしれません。

主人公栞は優等生。休日には変装をして、ダーツが当たった山手線の駅に降り立つという変わった趣味を持っています。そんな趣味を楽しんでいたある日、忘れられずにいた中学の頃の同級生と再会します。距離を縮めていきますが、彼はやがて栞の友達と付き合い始めてしまうのでした。自分の気持ちがわからず素直になれない二人の結末は……?

著者
濱野 京子
出版日
2010-03-09


お互いの感性が似ていることに気づいても、付き合うには至らない微妙な関係。ぼやぼやしているうちに、自分の友達と付き合い始めてしまう気になる相手。一歩踏み出すことができずにいる栞の心の葛藤に、共感してしまう方も多いのではないでしょうか?

それぞれが一生懸命に生きる青春の中で繰り広げられる切ない恋愛を鮮やかに切り取る本作で、胸キュンしてみませんか?

この面白さ、知らなきゃ損

森見登美彦によるベストセラー小説『夜は短し歩けよ乙女』。2017年のアニメーション映画では、主人公の声優を歌手で俳優の星野源がつとめることでも話題になりました。

著者
森見 登美彦
出版日
2008-12-25

京都を舞台にした、冴えない男子大学生と、ちょっと不思議な後輩の女の子の物語。本作は、二人の視点から交互に語られます。本名不明の男子大学生は後輩に恋をしていて、なんとか彼女と接点を作ろうと四苦八苦。後輩の女子大学生は好奇心旺盛。先輩のことを認識はしているものの、初めは恋愛対象として意識していません。二人の周りには奇妙な人物、奇抜な出来事だらけ。コメディ要素も盛りだくさんの恋愛ファンタジーです。

本作はとにかく面白い小説です。キャラクターが面白い、出来事が面白い、作者が自称してしまうほどご都合主義な展開ですら面白い。とりわけ後輩の女子大生のキャラは魅力的です。硬派で冴えない男子大学生が「黒髪の乙女」と呼ぶ彼女は、素直で奔放、自分に熱視線を向ける先輩の思いには全然気づかないのです。そんな二人の関係も、ラストには変化を見せます。共通するキャラも登場するので他の森見作品をご存知の方はよりいっそう楽しめるはず。

確実にハマるテンポの良い文章、後悔はさせません!ぜひ手に取ってみてくださいね。

明るい気持ちになれる恋愛短編集

石田衣良による短編小説集『スローグッドバイ』。10編が収録されているため、1編1編は短めです。手軽に読める長さで、読んだ後には、ちょっと元気が出るような後味の良い作品集となっています。

著者
石田 衣良
出版日
2005-05-20


出てくるのは20代の男女ばかり。どこにでもいそうな登場人物が多いので、感情移入がしやすいと思います。別れを決意した2人が最後のデートをする表題作では、女性の心変わりが原因でありながら、お互いに負の感情を見せることなく、穏やかに慣れ親しんだデートコースを進んでいきます。いつも通りのデートコースでありながらどこかぎこちなく、もはや両思いではないことを痛感する二人。儀式のようなデートは、読者の胸にも切なく響きます。

本作は、ハッピーな恋愛が描かれるわけではないのに暗い気持ちにならず、むしろ恋愛をしているときの楽しい気持ちを思い出させてくれるような素敵な作品です。幸せなときがあれば辛いときもあり、楽しい思い出があるほど別れは寂しい……すべてをひっくるめて恋愛っていいなあと思うことでしょう。

心の舌で味わう極上の味

「焼肉を食べているカップルは深い仲」という俗説があります。高級鮨店を舞台にした『その手をにぎりたい』は、焼肉より鮨が間にあるカップルの方が濃い仲なのではないかと思わされる作品です。

バブル景気直前の1983年、24歳の青子は見合いのため退職と帰郷を決めていました。しかし餞別にと上司に連れられて行った銀座の「すし静」に魅せられ、帰郷するのをやめたばかりか、転職まで果たします。そして、すし静の常連客になることを目標に走り始めるのです。青子を動かしたのは鮨の味だけではありませんでした。実は同い年の職人一ノ瀬にも心惹かれていたのです。

著者
柚木 麻子
出版日
2017-03-07

この小説の素晴らしさは、何といっても鮨の描写です。約10年を通じて青子は様々なネタを食べますが、そのひとつひとつがとにかく美味しそうなのです。例えば墨烏賊(スミイカ)。

「表面に入った繊細な切り込みが舌を心地良く刺激する。すだちの爽やかな酸味と天然塩が引き立てる墨烏賊は、ねっとりと舌をねぶるように濃厚に甘い。ネタが舎利にからみつきいよいよ一体となると、体の芯がびくんと震えた」 (『その手を握りたい』より引用) 

ほとんど官能的と言ってもよく、読んでいて生唾が湧いてくるほどです。この美味を、密かに想っている相手から手渡されて口にする快感は、青子を更に仕事に駆り立てます。

物語は青子と一之瀬の成長と挫折、そしてまた立ち上がるさまを、バブル絶頂期から崩壊に至るまでの時代にのせて描きます。作者の柚木麻子は1981年生まれでバブルを体感していない世代です。しかし、そうとは思えない確かな筆致で、読者は時代の喧騒を感じることができます。

物語終盤、一之瀬が青子に差し出すのはかんぴょう巻きです。青子はそこに、かつて厭わしく思っていたはずの母の強さを見、自分の将来を重ねるのでした。体を交えることはおろかキスさえしたことのない2人です。ただカウンターごしに交わされる、まるで愛の囁きのような鮨のやり取り。しかしその間には、単純に体を重ねた二人よりもはるかに濃厚な時間が流れていたのです。

恋のうまみが凝縮され、読後は思わずため息がもれるような、まさに大人のための美味しい小説です。

中年だからこそ、極甘の恋

ベタベタと甘い言葉を囁き、お互いを「ちゃん」「くん」付けで呼び合う……。バカップル全開の慈雨と栄はなんと共に40歳を超えています。慈雨は実家に寄生しつつ、友人と小さな生花店を営んでいます。恋人の栄は生徒から人気がないと自らを揶揄する予備校の講師。学生時代のアルバイトからそのまま居座ったという体たらくで、前妻と離婚後は親戚からも遠ざかっています。

2人はいつも能天気な会話をしているように見えます。しかしそんな会話の陰に、過去の傷が見え隠れしています。40歳を超えているということは、それだけの年数、いろいろな思いを抱えているということに他なりません。若さもお金もない2人は、自分をよく見せようとする見栄も欲もありません。ふんだんにあるのは愛情のみ。この、愛情をダダ漏れにさせることができる贅沢が、まさに『無銭優雅』なのです。

「金目のものに縁のない人生だってへっちゃらさ。(中略)かと言って、清貧なんて、まっぴら。どうせ貧乏なら、よこしまな貧乏を目指す。栄となら、それができる」 (『無銭優雅』より引用) 

こう言い切れる慈雨の健やかさは清々しいものがあります。

著者
山田 詠美
出版日

貪るような恋をたくさん描いてきた山田詠美ですが、この作品ではスキャンダラスな事件は起こりません。むしろベタベタでグタグタの日常が積み重ねられているだけです。山田詠美はこの「ベタベタでグタグタ」を、陳腐になるスレスレの絶妙なところで書ききり、洒脱に仕上げてしまいます。そして、こんな境地に至れるのなら、歳をとるのもいいなあ、と読者に思わせてしまうのです。

平均寿命からすると、40歳を超えていれば、人生半ばを過ぎています。自らの体の衰えを感じ、親も高齢です。中年の2人の恋には、ほのかに死の予感が漂います。そしてそれを強調しているのが、ところどころに無造作に置かれたようにみえる文章です。過去の文学作品から引用された愛と死を切り取る甘美な文章が、この小説を彩ります。最後にみえるのは濃い死の影。しかし影があるからこそさらに光が映えるのです。

苦味を漉して包み込んだ中年の恋はどこまでも甘く、深みに満ちています。実は甘いだけではないこの作品を、どうぞゆっくりとご賞味ください。

夢と現のあわいに佇む恋

同窓会などで恩師と再会した時に、不思議な感覚を覚えることがありませんか。「あの頃はおじさんだと思っていたけど、今思えばまだ若かったんだなあ」「意外と話せるヤツだった」など、若かった頃には思いもしなかった感想を持つ人も多いのではないでしょうか。

著者
川上 弘美
出版日
2004-09-03

『センセイの鞄』は、ツキコと高校時代の国語教師であるセンセイが、飲み屋で同じ肴を同時に注文するところから始まります。どこかぬるい温度がある30代後半のツキコと、いつも折り目正しく飄々としている、ツキコとは約30歳も年の離れたセンセイ。2人は「先生と生徒」ではなく、趣味の似た者同士として近づいていきます。川上弘美はそんな2人の日々を独特の乾いた筆で描きます。ツキコとセンセイのやりとりはとぼけた味わいがあって、しみじみと可笑しく、きっと癖になることでしょう。

作品中で著者らしさが表れているのが、美味しそうな料理の数々です。たとえば、小さな湯飲みに、醤油を酒で割ってかつおぶしを入れ、豆腐と一緒に土鍋で温めて食べる湯豆腐。あるいは、同級生だった小島孝がツキコを誘う旅館で出されるという「もいだばかりのきゅうりをたたいて梅肉であえたもの。みずみずしい茄子をうすぎりにして炒め、しょうがじょうゆを添えたもの。糠づけにしたキャベツ」。素材を生かす、思わず食べたくなる品ばかりです。恋を描ける人は、食べ物を描ける人でもあるのでしょう。

川上弘美はデビュー当初から、蛇女や、しゃべる熊、人魚などが登場する世界を書いてきました。しかしそれは壮大なファンタジー作品ではなく、日常と背中合わせにある世界で、暮らしの隙間からふと立ち現れるものなのです。『センセイの鞄』でも、そんな川上らしさは遺憾なく発揮されています。ツキコはセンセイと交流するうちに、夢か現実かわからない世界に足を踏み入れていきます。その中で、自分の想いに気付かされていくのです。

2人が正式なお付き合いを始めてからの歳月はほとんど描かれません。読者の前には儚い終わりがポン、と置かれます。遺されたセンセイの鞄。ツキコと一緒に中を覗いてみれば、そこからセンセイの声が聞こえてきそうです。誰もがいつかは行くことになる世界に消えたセンセイ。読み終えた後は、長すぎた午睡から覚めたような心地よい気だるさが残ります。そして空っぽの鞄に向かい「いつかきっとまた会いましょう」と言いたくなってしまうのです。

いつの世も色褪せない女性像

『言い寄る』は玉木乃里子という女性を主人公にした、田辺聖子の「乃里子3部作」のひとつです。

乃里子は31歳で独身のデザイナーです。金持ちのお坊ちゃんである剛や、趣味の良い中年男性水野と自由に関係を持っています。しかしそこそこモテる彼女が本当に好きなのは、浮世離れした天女ならぬ「天男」の三浦五郎。欲望に忠実な乃里子も、彼の前では大切なことが言えなくなってしまうのです。

著者
田辺 聖子
出版日
2010-09-15

『言い寄る』の初版は1974年です。25歳以上の独身女性を「ハイミス」、生理のことを「アンネ」、ステーキを「テキ」と呼ぶなど、時代特有の言葉遣いも出てきます。しかし自分の仕事を持ち、自由を謳歌する乃里子の生き様は時代を越えて、読者の共感を呼ぶものでしょう。

ポンポンと威勢のいい悪態をついたかと思えば、ふいに胸を突かれるものがあり、男の前で涙してしまいます。くるくると表情を変える乃里子は女性から見ても魅力的な人物です。自由で強い女性に見える乃里子です。しかし友人の美々のように、妊娠した途端に「産む」と周囲を巻き込むような種類の自由さや強さは持ち合わせていません。ここが乃里子の健気なところでもあります。

乃里子も美々も、いつの時代にもいそうな女性で、読者は「わかるわかる」「いるいる」と思わず頷いてしまいます。そして、乃里子の気持ちに気付かず、天男ならではの鈍感さで彼女を傷つける五郎には、何度もやきもきさせられることでしょう。ともすれば三角関係の愛憎劇にもなりそうな話ですが、ドロドロもジメジメもしないのが田辺聖子のすごいところです。これには軽快な関西弁の効用もあるのかもしれません。

普遍的な恋模様に心を掴まれるのと同時に、強そうで脆く、自由そうで一途な乃里子に、同性でもキュンとさせられる1冊です。田辺聖子は『私的生活』『苺をつぶしながら』で乃里子のその後を描いています。その後の乃里子は更に格好良く、そして可愛らしいです。本作『言い寄る』で乃里子ファンになった方は、是非続編も手にとってみてください。

嘘がまことで、まことが嘘か

主人公は世界で初めて「致死性脳劣化症候群」という奇病に侵された女性とその夫。これは通常の生活を送るのには支障がないものの、深い思考をするとその分寿命が縮むという厄介な病気です。医師は考えてはいけない、物を思ってもいけない、と説明します。小説家である彼女は「あたしに今から息だけして生きていけってか!」と憤ります。

聞き覚えのない病気が登場し、深刻な告知で始まるストーリーに、読者はいきなり引き込まれます。彼女は深い思考をせずに寿命を延ばすか、小説家としての仕事を続けるかの選択を迫られます。しかし彼女は書くこと、考えることをどうしてもやめることができません。彼女のファン第1号を自認する彼は、そんな彼女を献身的に支えます。そして訪れる最期のとき……。彼女が遺した絶筆原稿と最後の手紙はまさに愛の結晶で、涙なしには読めません。

しかし、蓋を開けるとこの話はside-A。side-Bでは反対に夫の方が亡くなる話が描かれているのです。

著者
有川 浩
出版日
2015-12-04

難病を抱えた夫婦の愛という、陳腐ともいえる設定。有川浩はあえて「彼」に、「何だ、その安いSFみたいな設定は」「こんな漫画みたいなバカバカしい話」と言わせています。ここがまた面白いところです。

ライトノベル作家を自認する著者ですから、この作品も難解な言葉はなく、さらさらと読みやすいものです。わかりやすい言葉にありきたりな設定なのに、来るとわかっていて泣けてしまう、ここに有川浩の圧倒的な技があります。

この作品には2つの物語が並列され、それらがメビウスの輪のように繋がっています。それぞれの物語の最後に、パッと現れる「入れ物」。さらに、輪からほつれ出た糸の先は、現実の有川浩につながっているようにも思えます。考えれば考えるほどわからなくなってくる不思議な作品です。1度目は彼女と彼との純愛に泣き、2度目以降はスルリとひっくり返る物語の快感を何度でも楽しむことができます。

大人の胸キュン小説

アルコール中毒の笑子と同性愛者の睦月は、気のすすまない見合いで出会い、「脛に傷持つ者同士」惹かれ合って結婚することになります。

睦月は医者という職業柄もあり、笑子の発作に上手に対応し、彼女を助けますし、笑子は同性愛者に寛容であり、睦月に恋人をもつことを許し、2人の仲を尊重します。

しかし、周りの圧力から次第に壊れ始めるふたりの結婚生活。

睦月の母は一人息子である睦月に子供をつくるよう執拗に勧め、一方、笑子の父は睦月が同性愛者という事実を知って激怒するのです。

著者
江國 香織
出版日
1994-05-30

物語の終盤、七夕の日に「ずっとこのままでいられますように」と笑子は短冊に書きます。しかし、このままではいられないと睦月は返します。

笑子と睦月の心情が章ごとに交互に語られるので、一見すれ違っているようにも感じられるふたりが、実はとても深いところで信じあい惹かれ合っていることを、読み手である私たちは知るのです。

だからこそハッピーエンドを望むのですが、果たしてふたりが選んだ道は離婚?それとも…?

自分とはかけ離れたカップルだった笑子と睦月の成り行きが、いつのまにか他人事とは思えなくなって、結末まで一気に読んでしまう素敵な恋愛小説です。

日々の疲れを癒してくれるような胸キュン恋愛小説を、ご紹介しました。現実世界に疲れたなあというときは、小説の世界に浸って、リラックスしてみるのもいいかもしれませんよ。