田辺聖子おすすめ文庫作品ランキングベスト6!

更新:2021.11.24

恋愛小説を中心に、古典の現代語訳や社会風刺的なエッセイなどを執筆する芥川賞受賞作家の田辺聖子。今回は数ある田辺作品の中から、おすすめ作品をランキング形式でご紹介します。

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大阪出身の作家田辺聖子

田辺聖子は1928年、大阪で生まれました。幼少期は、古典文学など読みながら過ごします。

樟蔭女子専門学校国文科卒業後、金物問屋に就職して働く傍ら、同人雑誌へ参加。1956年に『虹』』で大阪市民文芸賞受賞します。1964年には芥川賞を受賞し、純文学作品を多く手掛けるも、次第に大衆小説へと転向していきます。他にも1995年に紫綬褒章を授与され、2008年には文化勲章を受賞しています。

私生活では1966年に結婚し、2002年に夫と死別するまでの36年間連れ添いました。

6位:田辺聖子の描く大人の恋愛小説

著者
田辺 聖子
出版日
2010-09-15

主人公の乃里子は31歳、大阪でフリーのデザイナーをしています。以前は生命保険会社に勤務しており、その時の同僚だった美々とは変わらずに友達づきあいをしていました。

ある日乃里子は美々から妊娠したことを告げられます。しかし相手の男性には結婚の意思がなく逃げ回られている事から、せめてお金を巻き上げようと思うのでその交渉に一緒に立ち合って欲しいと頼まれるのでした。

当日交渉に現れたのは美々の相手の隆之と、その友達の剛という野性的な青年です。交渉の結果、隆之は剛にお金を預け、翌日の夜に乃里子が剛のところに取りに行くことに決まりました。

翌晩剛を訪ねた乃里子は、剛の運転する高級車に乗せられ彼の豪奢な別荘に連れて行かれます。剛の家は代々資産家だという事でした。乃里子は剛の自信過剰なところや傲慢で我儘な性格を見抜き、その部分には不快感を覚えるのですが、彼の無邪気さや明るさ、そして自分と波長が一致することには快さを感じ、彼と一夜を過ごします。

仕事は順調で独身の1人暮らしを謳歌している乃里子は、今までも自由な男女関係を楽しんできました。しかし実は乃里子には五郎という本命の男性がいます。五郎とは学生時代からの知り合いで昔から好意を持っているのですが、なぜか五郎に対してだけは気軽に言い寄ることができず、仲の良い友達止まりでいました。

乃里子と剛は気軽に遊ぶ仲になりますが、剛の別荘の隣に住む水野という40歳を過ぎた既婚の男性と知り合い、彼とも肉体関係を持つようになります。水野の洗練された大人の男の魅力に乃里子は強く魅かれていく中、本命の五郎は美々と親しくなっていくのでした。

本作は乃里子の成熟した女としての愛欲や性欲を描いていますが、生々しい性行為の描写がないことや乃里子のあっさりした性格により、爽やかな読み心地を感じることができます。テンポの良い大阪弁に乗せて女の本音と建て前がリアルに描かれており、女性の読者には共感するところの多い作品です。

5位: 田辺聖子の芥川賞受賞作

著者
田辺 聖子
出版日
2009-02-02

第50回芥川賞受賞作『感傷旅行』。タイトルのイメージとは違って、ちょっと変わった恋愛小説である本作。語り手の主人公ヒロシによって、女友達の有以子と彼女が思いを寄せる共産党員との恋の顛末が語られていきます。

主人公のヒロシは、親友の森有以子に恋人ができるたびに、のろ気話を聞かされます。今度の相手は共産党員のケイ。有以子は恋多き女ですが、彼こそ最後の人で彼と結婚するのだと、今度ばかりは本気の様子でした。ある時ケイから別れ話を切り出されそうになった有以子は、一人で聞く勇気はないと言い、ケイをヒロシの家まで無理やり連れて行き……。

物語のほとんどが大阪弁を話すヒロシと有以子の会話で構成されていて、その掛け合いが魅力的です。口が悪くわがままですがどこか憎めない有以子のキャラクターもまた魅力的。こんな子いるよね、とうなずきながら読んでしまいます。22歳のヒロシと、15歳年上の有以子の友情の行く末にも注目です。

4位: 田辺聖子が吉川英治文学賞を受賞した作品

著者
田辺 聖子
出版日
1995-09-06

俳人小林一茶の壮年から晩年を描いた『ひねくれ一茶』。一茶が残した大量かつ克明な日記などから、一茶の人間像に迫り、その人間臭さをいきいきと描きます。田辺聖子の一茶への愛情が感じられる作品です。

一茶が苦労の末に亡父の遺産を相続するも、江戸の俳壇に居場所をなくし、故郷信濃へ。50歳を超えて伸びやかで飾り気のない女性きくと結婚し、「我が菊やなりにもふりにもかまわずに」といった句を残します。子宝にも恵まれますが、やっと手に入れた幸せは、長くは続かず……。

リズムのいい文章で描かれる物語の中に、俳句が効果的に挿入されており、解説文なしでも自然に俳句の意味ができるようになっています。また、当時の俳諧システムや俳人の生活基盤なども含めて分かりやすく書かれていますよ。一茶好きな人はもちろん、俳句にあまりなじみがない人にも読んでもらいたい1冊です。読み終わった頃には、小林一茶が身近な存在に感じられることでしょう。

3位: 田辺聖子の短編を楽しめる

著者
田辺 聖子
出版日
1987-01-01

 

表題作を含む8つの作品が収められている短編集『ジョゼと虎と魚たち』。若い男女の純愛ラブストーリーが綴られる表題作は、妻夫木聡と池脇千鶴主演で映画化されたのをご存知の方も多いのではないでしょうか? 原作の小説はわずか20数ページの短編です。

生まれつき足が悪く、ほとんど外出したことのないジョゼは、祖母と二人暮らし。大学生の恒夫が偶然ジョゼを助けたことから、恒夫はしばしばジョゼの家に遊びに来るようになります。ジョゼの祖母が作る手料理をおいしそうに食べたり、ジョゼが暮らしやすいように家の中に手すりをつけたりして交流を深めていく二人。しかし就活活動のため、恒夫はしばらくジョゼの家を訪れることができなくなります。ある日、恒夫がひさしぶりにジョゼの家を訪ねてみると、そこにはジョゼも祖母もいなくて……。

ジョゼはプライドが高くわがままな女性ですが、孤独を感じながらもたくましく生きている強い女性でもあります。そんなジョゼと恒夫との関西弁での会話のやりとりが魅力的な本作。行間から相手を想うやさしさや愛が滲み出ています。他7編は大人の女性が主人公で、愛や別れを通して女性の母性やしたたかさが描かれています。こちらもぜひチェックしてみてくださいね。


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2位: 圧倒的に読みやすい、源氏物語

著者
田辺 聖子
出版日

『新源氏物語』は、かの有名な『源氏物語』の現代語訳または翻案(原作の筋や内容をもとに改作したもの)とされる作品です。気になった女性は全て口説くという平安時代のプレイボーイ光源氏の一生が描かれています。

「源氏はしめやかに、心の底に苦しい恋を秘しかくしている。そのため、ありふれた色ごとに身をやつす気にはなれないのだった。
といっても、さすがに折々は、風変りな、屈折した恋に出あうと、心をそそられることがないともいえないけれど……。」(『新源氏物語』より引用)
 
敬語をなくし、原作の説明不足な部分を補い、冗漫な記述を取り払うことで、注釈なしでもすらすらと読める文章になっています。他の現代語訳などではあまり手を加えられない和歌の部分の多くを会話に直しているところも特徴的です。平安時代の気品を保ったまま、現代にあった人物像を打ち出し、主人公光源氏を魅力的に描ききります。源氏物語の入門編ともいえる作品ですよ。

 

1位: 自分らしい生き方を探る

著者
田辺 聖子
出版日
2010-10-15

『私的生活』は、幸福な結婚生活が徐々に崩れていくさまをリアルに描いた作品です。主人公の乃理子は、イケメンで金持ちの剛から言い寄られ、独身生活を謳歌していました。

「遊ぶ女の子はたくさんいたけど、朝から晩まで一しょにいたいと思う女の子は、私ひとりなんだそうだ。そうして、新築のマンションの出ものがあったので、私との生活のために買っといた、というのだった。そして顔さえ見れば、『朝、目ェさまして、一緒にめし食うて、夜も一緒、なんていうのが人間の最高の生活やぜ』とくどきつづけていたのである」(『私的生活』より引用)

見晴らしがよく、部屋数の多い豪華マンションを見せられ、ここに住みたいと思って剛と結婚することにした乃理子。打ち込んでいたデザイナーの仕事も辞め、夫好みの食事を作る日々。結婚して2年が過ぎ、幸福な生活の中、自分らしさが失われてしまったことに気がついて……。

乃理子の心情の変化を丁寧に描いており、読み手の共感を誘います。愛の負の部分を描いた作品ですが、読後は前向きな気分になれることでしょう。本作を読んで乃理子のその後が気になった方は、『苺をつぶしながら』も読んでみてください。結婚前の乃理子を描く『言い寄る』とあわせて乃理子三部作と呼ばれています。どの作品から読んでも楽しめますよ。

いかがでしたか? 古典に恋愛小説にと紹介しましたが、どれも一度は読みたい名作ばかり。年齢を重ねることで感じ方が変わってくる作品も多いので、過去に読んだ本も再読してみると違った感想を持つかもしれませんよ。

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