1つの物語を、男女2人の作家が男女2人の主人公それぞれの視点で紡いでいくタイプのリレー小説がたまらなく好きだ。「もう、作家同士が現実で付き合ってるでしょ!」「じゃなきゃ説明つかない!」と思ってしまうほど、愛し合ったり喧嘩したり、リアルな展開にぞくぞくする。そんなおすすめの共著物語を3作、紹介します。
バンド・クリープハイプのフロントマンである尾崎世界観と、食にまつわる表現が多彩な小説家・千早茜による喧嘩リレー小説をまず紹介します。
尾崎世界観が描く「だめな男」。千早茜が描く「めんどくさい女」。
同棲カップルそれぞれの視点、男女の本音が詰まった“究極の共作恋愛小説"が誕生。
「結婚とか別れ話とか、面倒な事は見て見ぬふりでやり過ごしたい」「ちゃんと言ってよ。言葉が足りないから、あたしが言い過ぎる」――脱ぎっ放しの靴下、畳まれた洗濯物、冷えきった足、ベッドの隣の確かな体温。同棲中の恋人同士の心の探り合いを、クリープハイプ・尾崎世界観、千早茜が男女それぞれの視点で描く、豪華共作恋愛小説。
(新潮社公式サイトより引用)
- 著者
- ["尾崎 世界観", "千早 茜"]
- 出版日
千早茜のパートで一人称を担う女性主人公は二条福。会社の常務の秘書として働く頑張り屋さんな女性ですが、ひとたび自分の正義とぶつかる事象に出会うと黙っていられない性格の持ち主です。
一方、尾崎世界観が描く男性主人公の桜沢大輔は、思ったことを言葉にしない人物。家に転がり込んで生活費も入れずにお世話になっているにも関わらず、感謝も愛情も心にあるのかないのか、恋人の福には伝えません。クリープハイプの曲を聴きこんでいるファンならピンとくる、尾崎世界観イズムを感じるようなこんな表現も。
何事も後回しにした結果、予定通りまわってきたツケに絶望して怒りだす。わかっているのに、気がついた時にはいつもこうだ。
(『犬も食わない』より引用)
こんな2人がうまくいくはずもなく、出会った瞬間から喧嘩、喧嘩。しかも、その喧嘩の表現が共著ならではの面白さいっぱいに描かれるのが魅力です。
福の視点で進むパートでは、福が言った暴言は描かれません。相手のどんな態度が気に食わなかったのか、は事細かに描かれるのに。そして対となる次の章では、大輔の視点で福が言っていたセリフが書き込まれており、読者ははじめて合点がいくのです。
価値観の合わない2人なのに、離れがたい何かが徐々に浮き彫りに。同棲を経験したことがある方なら「あー!!!」と身につまされるような具体的な描写が山ほど出てきます。それを文学に昇華する、掛け合いの見事な1冊です。
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千早茜は、2008年に小説すばる新人賞を受賞してデビューした先進気鋭の女流作家。2009年に泉鏡花文学賞、2013年に島清恋愛文学賞を受賞するなど、その実力は高く評価されています。そんな彼女の感性が光る6作をご紹介します!
現代短歌の第一人者である穂村弘と、歌人のほか小説家としても人気の東直子が、短歌と短詩を連ねている本作。男女が出会い、恋に落ち、愛し合ったり喧嘩したりして、別れまたもう一度出会うまでの物語を短歌と短い詩のみで構成した唯一無二の傑作です。
ドラマ『この声をきみに』内で朗読されたことでもファンを増やしました。
ある春の日に出会って、ある春の日に別れるまでの、恋愛問答歌。短歌と、そこに添えられた詩のような断章で、男と女、ふたりの想いがつづられる。紡ぎ出された言葉のひとつひとつが、絡み合い、濃密な時間を作り上げていく。短歌界注目のふたりによる、かつてないほどスリリングで熱い言葉の恋愛。
(筑摩書房公式サイトより引用)
- 著者
- ["弘, 穂村", "直子, 東"]
- 出版日
言葉だけでここまで人は愛し合うことができるんだ、という驚異に満ちた実験的な作品だといえます。
1番最初の出会った時の短歌が、死別したのちの1番最後にもう一度提示されます。
遠くから来る自転車をさがしてた 春の陽、瞳、まぶしい、どなた/東直子
(『回転ドアは、順番に』より引用)
死に別れた愛する人ともう一度出会う、というファンタジーともとれる結末。しかし、ファンタジーよりも異様な説得力があります。それは短歌や詩の言葉を信じる人にのみ開かれる扉があるから。
メールで歌を送り合いながら本作を書き上げたという2人。一読した時には、「作者同士が実際に恋に落ちていなければ説明がつかない!」と思ったほど。小説よりも読者の恋愛の肌感覚に迫ってくる短歌という形態は、想像すればするほど没入してしまうのです。
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江國香織の書いたストーリーに辻仁成が続きを書く、という形で雑誌に連載され、『冷静と情熱のあいだ Rosso』と『冷静と情熱のあいだ Blu』という2つの単行本で刊行された本作。2001年には映画化もされた、リレー形式の恋愛小説の金字塔的な作品です。
かつて恋人同士だった男女。恋人時代に交わしたたわいもない約束。本当に、その日、その場所に相手は来るのだろうか……男の視点を辻仁成、女の視点を江國香織が描く、究極の恋愛小説。
(KADOKAWA公式サイトより引用)
- 著者
- 辻 仁成
- 出版日
- 著者
- 江國 香織
- 出版日
- 2001-09-25
「Rosso」「Blu」のどちらかのみを読んでも独立したストーリーとして楽しめますが、両方読むことで2人の主人公それぞれの物語が補完されます。すれ違う2人の目線を、章ごとに交互に読んでいくのもおすすめ。
「Rosso」から読めば、「Blu」で最終的な結末を知るような読み方ができ、「Blu」から読めば「Rosso」で細かい人物らの事情を知っていくことで物語が深まるでしょう。
20代の頃の恋人・順正を忘れられないイタリア在住のあおい。理想的な男性である実業家のマーヴと、不自由のない生活を送っていますが、あおいの30歳の誕生日に、フィレンツェのドゥオモのクーポラの上で待ち合わせするという約束の日が刻一刻と迫ってきていました。
一方の順正にも、芽美という恋人が。「静」のあおいに対して、はっきりとものを言う正反対の性格の彼女です。順正はフィレンツェの工房で中性絵画の修復士として修業をしていました。この職業も、「失いたくない過去を取り戻していく」という順正の価値観に重なっていて美しさすら感じられます。
「〇〇歳になって、お互いに恋人がいなかったら結婚しようよ」のように、無邪気な憧れで約束を交わした思い出のある方はいないでしょうか。一度は運命を感じる恋愛をしたことがある、という方にぜひ読んでほしい作品です。
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また辻仁成と江國香織はのちに『左岸』『右岸』でもコラボレーション小説を書き上げています。こちらについて知りたい方は、こちらの関連記事もおすすめです。
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どうも、わちゅ〜さんです。 今回は「2冊が対になっている小説」! 同じ時系列に起こる出来事を描いた2作品のことで、上下巻のような分冊作品と異なり、読む順番に決まりはありません。 どちらから読み始めてもOKです。フリーダムッ!!