あなたは今をときめく人外系ユーチューバー・雨穴をご存知ですか? 本名性別正体不明、職業はwebライター。 もとは「オモコロ」で一風変わった記事を公開していましたが、ユーチューバーデビューを果たしたのち人気が加速。自作動画原案のホラーミステリー、『変な家』『変な絵』はたちまちベストセラーになりました。 今回は雨穴の作家デビュー作、『変な家』をご紹介していきます。
本作の主人公は謎多きwebライター・雨穴。普段はオモコロで記事を執筆したり、YouTube動画を制作して生計を立てています。
2019年9月、雨穴のもとに知人・柳岡からある相談が持ち込まれました。
柳岡は某編集プロダクション所属の営業マン。彼の妻は現在妊娠中であり、生まれてくる子供の為に新居の購入を検討していました。
その後不動産屋に都内の物件を紹介されたものの、妻を伴い内見に赴いた家には、以下の奇妙な点が見受けられました。
不動産屋曰く、以前住んでいたのは両親と赤ん坊の三人家族だったそうです。
間取りの矛盾に不安を覚えた柳岡は「本当にこの家を購入してよいのだろうか」と雨穴にアドバイスを求めました。
知人の懸念事項を解決する為、雨穴はベテラン設計士・栗原の知恵を借ります。
雨穴を介して問題の家の間取り図を手に入れた栗原は、専門家として培った知見と明晰な頭脳を動員し、「変な家」の恐るべき秘密に迫っていきます。
まずは窓のない子供部屋に備わるトイレ・浴室に着目し、先住夫妻の第一子が監禁されていた可能性に言及。子供部屋内浴室→台所の隠し通路を通れば、一階に泊まる客にばれず上り下りできるとほのめかします。
「何故そんな回りくどいことを?」
訝しむ雨穴に対し、栗原は断言しました。「この家は殺人の為に建てられたのです」と……。
やがて家の付近で身元不明男性のバラバラ死体が発見され、栗原の仮説が裏付けられます。
柳岡も新居の購入を諦め、事件は一件落着かに思われましたが、雨穴が「変な家」を動画化した事がきっかけで、思いがけない展開が待ち受けていました。
「あの間取り図に心当たりがあるんです」
そういってコンタクトをとってきたのは、前の住人に殺害された宮江恭一の妻・宮江柚希でした。雨穴は女性と対面し、これまた犯人一家が建てたらしい、第二の家の間取り図を入手します。
話が進む中、柚希の意外な正体が明らかに。彼女の旧姓は片淵といい、犯人夫妻の片割れ・片淵綾乃の二歳下の妹だったのです。
柚希曰く綾乃は十二歳の時に謎の失踪を遂げ、以来行方不明らしいのですが……。
- 著者
- 雨穴
- 出版日
『変な家』は現在オモコロ記事とYouTube動画が無料公開中。単行本は50万部を突破するベストセラーを記録し、綾野暁による同名コミカライズと映画化も進行中です。
作者の雨穴はもともとオモコロにて、webライターとして活動していました。
雨穴が制作した記事・動画の特徴はDIYやハンドクラフトを取り入れたシュールな構成で、和ホラーをベースにしたモキュメンタリーの他に、「異形の牢獄」「皮膚おりがみ」「寄生マトリョーカ」など、言語で説明しにくい珍妙奇天烈な雨穴ワールドを展開しています。
モキュメンタリーは英語で擬似を意味する「モック」と「ドキュメンタリー」を掛け合わせた造語。
別名フェイクドキュメンタリーとも呼ばれ、実際の出来事のような演出を用いる作品ジャンルをさし、失踪者が残した手記や映像の体裁で世に出回るファウンドフッテージとも親和性が高いです。
最近ではカクヨム掲載の『近畿地方のある場所について』(背筋)がバズりましたね。
- 著者
- 背筋
- 出版日
雨穴はこのモキュメンタリーの名手として知られ、現在に至るまで『変な家』『変な絵』『差出人不明の仕送り』『人形に録音された、知らない子供の声の謎』『中古住宅で発見された、不気味なビデオテープの正体』『【奇妙なブログ】消えていくカナの日記』を発表しています。
本人のビジュアルも白い覆面と全身黒タイツときて、一目見たら忘れられない強烈なインパクトですよね。ダンスや音楽も堪能で、自身が作詞作曲したMVを頻繁にアップしています。
『変な家』ヒットを語る上で、雨穴のマルチな才能とセルフプロデュースの成功は切り離せません。
2022年スタートのテレビドラマ『何かおかしい』および『何かおかしい2』の狂言回し兼ストーリー原案も手がけており、名実ともに人気クリエイターの地位を確立しました。
また、その記事の類似性から同じくオモコロライターの梨と比較される事も多いです。
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『変な家』の原案となった動画はYouTubeで無料公開されています。
ただしこちらは単行本の第一章に相当する内容で、第二章以降は完全オリジナル。出版に際し雨穴が加筆したものです。従って動画視聴済みでも新鮮な気持ちで楽しめます。
ロジカルな推理が導くどんでん返しの結末は、間取りを使ったトリックの先駆けと名高い綾辻行人の館シリーズを彷彿とさせ、これ単体でも十分クオリティが高く楽しめますが、本作が真価をするのはなんといっても第二章以降。
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第一章は導入、第二章以降が本番。四部構成の全編に亘り安楽椅子探偵として活躍するのが雨穴の心強いアドバイザーである、ベテラン設計士・栗原。
雨穴とは電話やメールのやりとりに終始し本人の登場こそありませんが、古今東西のミステリー・ホラーに造詣が深く、現場の間取り図を見ただけで真相を見抜く、優れた洞察力の持ち主。
建築の専門家としての指摘もさることながら、既婚者で幼い娘がおり、その経験を生かした観察力に定評があります。
依頼人の証言と間取り図から検証を積み重ね、合理的な考察を経て真相に辿り着く名探偵・栗原の存在が、『変な家』を一級のエンターテイメント足らしめているのにご注目ください。
『変な家』が気に入った方には『事故物件 恐い間取り』をおすすめします。
本作は事故物件住んでみた芸人・松原タニシが、これまで借りてきた部屋で体験した心霊現象を綴ったエッセイ。物件ごとに間取り図が収録されているのも情景の想像しやすさに一役買っています。
読みやすくユーモアに富んだ文章は素人離れしており、各エピソードがしっかり怖いのも好感触。
- 著者
- 松原 タニシ
- 出版日
- 2018-06-26
次に紹介するのは『どこの家にも怖いものはいる』。
こちらはホラーミステリーの第一人者・三津田信三の小説で、続編『わざと忌み家を建てて棲む』続々編『そこに無い家に呼ばれる』も刊行されています。
それぞれ独立したエピソードだと思われた話が、ラストで一気に繋がる伏線回収の見事さには脱帽。
梨『かわいそ笑』や小野不由美『残穢』と同じく、取材対象の手記を通して読者に障りを拡散させるシメ方も、モヤモヤした後味の悪さを引き立てています。
- 著者
- 三津田 信三
- 出版日
- 著者
- 三津田 信三
- 出版日
- 著者
- 三津田 信三
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