2023年も大詰めですね。皆さんはどんな一年を過ごされましたか?今回は2023年の総決算として、今年発売されたホラー小説とホラー漫画を中心に、ホンシェルジュライターのおすすめベスト5をご紹介していきます。お正月休みに何を読もうか悩まれている方はぜひとも参考にしてください。
まず最初にご紹介するのは2023年年末にリリースされた話題作、『変な家2~11の間取り図~』。作者は『変な家』『変な絵』がベストセラーとなった覆面ユーチューバー、雨穴氏。
あらすじ
『変な家』刊行以来、変な間取りに関するトラブルが視聴者から持ち込まれるようになった雨穴氏。根岸弥生と名乗る主婦に依頼されたのは、既に取り壊し済みの実家に存在していた、行き先のない廊下の謎解きだった。彼女が提出した間取り図と幼少期のおぼろげな記憶を頼りに、雨穴は行き先のない廊下の秘密に迫っていくのだが……。
本作は第一章のみYouTubeで動画化されており、誰でも見ることができます。雨穴氏がライターを勤めるオモコロでも記事が公開中です。
『変な家』『変な絵』との違いは、筆者(雨穴)→関係者のインタビュー主体に構成されていること。後半では安楽椅子探偵・栗原氏が登場し、200ページに亘るトンデモ推理を披露します。
『変な家2~11の間取り図~』は前作前々作に比べさらに胸糞悪く、後味も悪い内容となっています。正直な所子供が(性的)虐待される話が苦手な方にはおすすめできません。
糸電話を筆頭にトリックの瑕疵も多いです。
しかしそれを差し引いても大胆な着想と人間のおぞましさにフォーカスしたモキュメンタリー仕立てのミステリーは面白く、間取りに仕掛けられたカラクリに絶句する『林の中の水車小屋』は、本作の白眉となっています。
人外系ユーチューバー雨穴のベストセラー『変な家』ネタバレ解説レビュー
あなたは今をときめく人外系ユーチューバー・雨穴をご存知ですか? 本名性別正体不明、職業はwebライター。 もとは「オモコロ」で一風変わった記事を公開していましたが、ユーチューバーデビューを果たしたのち人気が加速。自作動画原案のホラーミステリー、『変な家』『変な絵』はたちまちベストセラーになりました。 今回は雨穴の作家デビュー作、『変な家』をご紹介していきます。
『変な家』に次ぐベストセラー第二弾 雨穴『変な絵』ネタバレレビュー
覆面ユーチューバー兼webライターとして特異な存在感を示し、破竹の勢いで快進撃を続ける雨穴。 ベストセラーを記録した『変な家』に次いで世に送り出した『変な絵』は、「絵」をテーマにしたホラーミステリーとなっています。 今回は『変な絵』の魅力をネタバレありでご紹介していきます。
- 著者
- 雨穴
- 出版日
- 著者
- 雨穴
- 出版日
寡作にしてド級の面白さのエンタメ作品を生み出してきた高野和明。そんな彼が2022年年末に発表したのが『踏切の幽霊』。惜しくも受賞は逃したものの、第169回直木賞にノミネートされました。
あらすじ
都会の片隅の踏切で撮影された一枚の心霊写真。その踏切では列車の非常停止が相次ぎ、乗務員や近隣住民の間に不安が広がっていた。雑誌記者の松田は深夜の踏切に出没する幽霊の正体を確める為、調査を開始するのだが……。
本作は高野和明が初めて手がけた本格ホラー小説。終盤の展開は号泣必至の感動を呼びました。人々が日常的に乗り降りする駅のホームや電車内の描写が絶妙で、踏切に囚われた幽霊の哀しすぎる正体と、化けて出ざるを得ない理由にやるせなさが募ります。
ゲームクリエイターの小島秀夫氏もXのポストで絶賛していました。
日本の近代史に興味がある方、昭和の事件に関心がある方、骨太な読み味の社会派ミステリー好きにもおすすめです。
- 著者
- 高野 和明
- 出版日
2023年のホラーシーンを語る上で外せない作家が大島清昭。単発の本作の他、ホラー作家の呻木叫子が活躍する『影踏亭の怪談』シリーズでも頭角を現しました。
あらすじ
オカルトを信じない私立探偵・獏田夢久は、不動産屋で働く学生時代の友人に、最恐の幽霊屋敷で起きた連続不審死の真相究明を頼まれる。曰くその屋敷では元の住人の拝み屋の殺人事件を皮切りに、数々の不幸が訪れたというのだ……。
『最恐の幽霊屋敷』は悪霊の巣窟と化した民家と、そこに訪れた人々が体験する恐怖体験を描いたホラーミステリー。実話怪談仕立ての各怪異のエピソードも、さすがの迫力で読ませます。
最恐の幽霊屋敷と銘打たれホラーマニアに貸し出されている一軒家の設定も面白く、夥しい呪物が収められた土蔵や死体が上がった池、呪いの人形がぎっしり犇めく棚や仏間など、登場人物と共に探索している臨場感を味わえ、背筋がぞくぞくしてきます。
ホラーとミステリーが融合したクリーピーな怪異憚 大島清昭『影踏亭の怪談』ネタバレレビュー
2020年に『影踏亭の怪談』で第17回ミステリーズ!新人賞を受賞し、ホラーとミステリーが融合した怪作をコンスタントに送り出し続けている大島清昭。 今回は幽霊や妖怪の研究者でもあり、実話怪談にも造詣が深い彼の代表作、『影踏亭の怪談』のあらすじや魅力をネタバレレビューしていきます。
- 著者
- 大島 清昭
- 出版日
江戸時代の著名な妖怪画家・鳥山石燕の『画図百鬼夜行』と実話怪談を掛け合わせた異色のホラーオムニバス。作者は角川スニーカー文庫で『マキゾエホリック』シリーズを刊行していた東亮太。
あらすじ
新婚夫婦が引っ越したマンションで見付けた持ち主不明のライター。犬が引きずるボロボロの白いもの。幼い少年を沼に招く何か……突拍子もない出来事に直面した人々が、自分の体験をどうにか解釈した産物が「妖怪」だったとしたら?「怪談」から「得体」を逆算した、令和の新説百鬼夜行。
本作は投稿小説サイト『カクヨム』の連載の書籍化で、ネットでも読めます。
江戸時代の妖怪画から着想を得て、現代の社会問題を取り入れた実話怪談オムニバスに仕上げた手法が、相乗効果で面白さを生み出すのに成功していました。単行本描き下ろしのユニークなイラストにも注目です。
- 著者
- 東 亮太
- 出版日
ライトノベルから一冊。本作は審査員を務めた『TYPE-MOON』の武内崇氏が絶賛し、第17回小学館ライトノベル大賞大賞に輝いた百合ホラーノベルです。作者は伏見七尾。
あらすじ
地獄の獄卒の血を引く退魔の一族、獄門家。その末裔の美少女・獄門撫子は、荼毘の炎から取り上げられた忌み子であり、異形の肉しか受け付けない特殊体質だった。ある日撫子は無花果アマナと名乗る胡乱な女と出会い、己の数奇な宿命に立ち向かうことに……。
ツンデレ大食い美少女と飄々としたお姉さんの凸凹バディ好きは必読。ラノベと侮り難し、オリジナル妖怪のディティールが大変凝っています。バトルシーンは迫力満点、少年漫画さながらの熱血王道展開に燃えて萌えます。
陰陽師ものが好きならぜひ押さえてほしい期待の新星です。ガガガ文庫特設サイトでは序盤が公開されています。
- 著者
- ["伏見 七尾", "おしおしお"]
- 出版日
ここからは2023年に読んだホラー漫画のおすすめベスト5を紹介していきます。
第5位は雨穴の商業デビュー作、『変な家』のコミカライズ。作画は綾野暁が担当しています。中性的な美形に変貌した雨穴氏に驚いた方も多いのではないでしょうか?
漫画化されたことでよりわかりやすく咀嚼されているので、入門編に手に取ってください。絵もスッキリ整っており美麗です。
- 著者
- ["雨穴(飛鳥新社刊)", "綾野暁"]
- 出版日
雨穴と並び称されるモキュメンタリーホラー作家・梨。彼が原案を担当した『コワい話は≠くだけで。』は、担当編集の説得に負け、投稿者から寄せられる実話怪談のコミカライズを始めた漫画家が、相次ぐ怪現象に悩まされる話です。
主人公が描いたデフォルメタッチのエッセイ漫画と、リアルタイムで狂っていく様子が交互に差し挟まれた構成は、絵柄の落差がより恐怖を引き立てていました。日常が非日常に浸蝕され、虚実曖昧になる感覚を楽しみたい方におすすめです。
安全圏にはいられない!?梨×景山五月『コワい話は≠くだけで。』越境する恐怖の真髄
SCP出身のホラー作家梨が原案を、新進気鋭の漫画家・景山五月が作画を担当するホラー漫画『コワい話は≠くだけで。』。 本作は景山自身が恐怖体験をした語り手に取材し、または体験者が書いた記録や録音をもとに描いた体裁で進み、現在進行形で不可解な事件に立ち会っているライブ感と共に、徐々に現実が侵食されていく生々しい恐怖が味わえます。 今回は『コワい話はキくだけで。』のあらすじや登場人物、魅力をご紹介していきます。
- 著者
- ["景山 五月", "梨"]
- 出版日
第3位は森数機とはまぐりのタッグが贈る幽霊譚、『シェパードハウス・ホテル』。
カナダ湖畔にたたずむ殺人現場跡のホテルを舞台に、幽霊の従業員がチェックインした亡者を接待する本作は、洋画のようにオシャレな雰囲気を堪能できる、大人のゴーストストーリーです。
ホラー要素はやや控えめ、ヒューマンドラマ中心となりますが、ホテルを訪れた亡者の人生や心の機微が丁寧に掘り下げられ、読後はじんわり余韻が染み渡ります。
山下和美『不思議な少年』、TONO『ダスク ストーリィ -黄昏物語-』が好きな方は気に入るはず。
- 著者
- ["はまぐり", "森 数機"]
- 出版日
第2位は安達智『あおのたつき』。
非業の死を遂げた遊女の魂が異形と化して迷い込む吉原を模した世界。痴情の縺れで命を落とし、浮世と冥途の狭間『鎮守の社』に辿り着いた主人公あおは、同胞の嘆きを贖うため、宮司を手伝い一肌脱ぐことに。
浮世絵に寄せた独特のタッチが印象的な和風ホラー漫画。守銭奴だが人情家、女の涙はほっとけないあおの性格が痛快。毎回のようにかまされるハッタリと活きの良い啖呵は癖になります。
いぶし銀の山田浅右衛門を筆頭に、日本史に詳しい人ならニヤリとできるゲストキャラも見所。
- 著者
- 安達智
- 出版日
堂々の第1位は『となりの百怪見聞録』。
偏屈人嫌いなゲイの装丁家・片桐甚八と、オカルトマニアな日本画の巨匠・原田織座の年の差バディが、日常と隣り合わせの怪異に遭遇しては、その都度ずる賢い機転と小技で切り抜けていくホラー漫画。
神出鬼没の絶品グルメ屋台や願いを叶えてくれる自販機など、我々が普段目にする身近な物や現象への小さな違和感を利用し、怪異に仕立て上げる着眼点が秀逸。ホラー描写も本格的で、高い画力が支える絵が、しっかり恐怖を伝えてきます。
生活感たっぷりな日常と暗がりから手招く非日常のバランスがとれたホラー漫画をさがしてる方におすすめです。
ゲイの装丁家×ロマンスグレーの老紳士が怪異と交わる 綿貫芳子『となりの百怪見聞録』
現在ヤングジャンプで連載中のホラー漫画、綿貫芳子『となりの百怪見聞録』。気難しい中年ゲイとダンディーな老紳士の異色コンビが活躍する本作は、美麗な絵柄が生み出す本格的な怪異の描写や、日常と非日常のコントラストの鮮やかさが特徴です。 今回は『となりの百怪見聞録』の簡単なあらすじや登場人物、魅力をご紹介していきます。
- 著者
- 綿貫 芳子
- 出版日
- 著者
- 綿貫 芳子
- 出版日
以上、2023年のおすすめホラー小説・ホラー漫画ベスト5を発表しました。気になる本がございましたら幸いです。2024年も最高に面白くて恐ろしい、ホラー作品にたくさん巡り逢いたいですね。