純文学出身ながら、社会派推理小説で一躍人気作家となった松本清張。それ以外にも、歴史小説や古代史ミステリー、近現代のノンフィクションなど様々なジャンルで多数の著書を残しました。今回は松本清張のおすすめ本ランキングベスト11を紹介します。
松本清張は1909年生まれの小説家です。1951年『西郷札』でデビューし、2年後『或る「小倉日記」伝』にて芥川賞を受賞します。1957年には『点と線』の連載を開始し、社会性のある題材を扱う社会派推理小説を開拓しました。
松本清張は、社会派推理小説を書く傍ら、実在の事件を扱った『小説帝銀事件』や、日本の重大事件とその背景を論じたノンフィクション『日本の黒い霧』を発表するなど、活躍の場をどんどん広げていきます。
1992年に死去するまでの作家生活はおよそ40年。その間に松本清張は700以上もの作品を発表し、今なお読み継がれる名作を多数残しました。
表題作である「共犯者」は、仲間と共謀し、銀行強盗で巨額の富を得た内堀という男が主人公です。当時、盗んだ金を資金にして商売をはじめ、事業を成功させることが出来ましたが、強盗の事実が明るみに出ることを恐れるようになってしまいます。露顕の恐怖を払拭しきれない内堀は、かつての共犯者の監視をはじめ、どんどん疑心暗鬼に陥り、徐々に身を滅ぼしていくのです。
本作は、前述した「共犯者」のほかに、「恐喝者」や「発作」、「愛と空白と共謀」、「典雅な姉弟」、「潜在光景」などの10編が収録されています。どれも人間の欲望や、ドロドロした人間関係などを描きだし、重厚な読後感をもたらしてくれるはずです。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
- 1980-05-27
松本清張は、特に小説家人生の初期段階において、多数の短編集を発表していました。デビュー前の習作も、圧倒的に短編が多かったのです。後々、多くのヒット作を経て、長編作品を集中して発表するようになりましたが、晩年まで数こそ減りつつも、短編を発表し続けた小説家でした。
本作『共犯者』は、そんな松本清張の真骨頂とも言える作品群です。何度も映画化やテレビドラマ化がされており、その世界観やストーリー展開、登場人物たちの生き様が、様々な形で描き出されてました。書き手のファンはもちろん、初めて作品を手に取る人にも向いている一冊でしょう。
1959年に起きた、BOACスチュワーデス殺人事件をモデルに書かれた長編推理小説。フィクションのスタイルを用いて展開される推理小説で、数々のフィクション作品や、時代小説を手掛けてきた松本清張らしい仕上がりです。
物語は二部制になっており、一部は犯罪編として、事件が発生するまでの過程や背景を綴っており、二部を推理編として、事件捜査にあたる藤沢や市村などの刑事たちによる捜査を描く、という構成になっています。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
- 1970-12-29
本作は、終戦後のカトリック教会を舞台にした作品で、聖書の翻訳をする神父や、教会が運営する幼稚園の保母などが主な登場人物となっています。教会がこっそりと物資の密売を行っていたことが、信者の密告によって明らかになってしまうなどのエピソードは、粘り強い取材を行ったことで生まれたものでした。
作品一つ一つのリアリティ、そして題材とした事柄の真実を物語に浮き上がらせるための著者の努力はここでも発揮されており、作品に対する熱意を垣間見ることができます。
テレビドラマ化をされたこともあり、世間の幅広い注目を集める、センセーショナルな一作だと言えるでしょう。
戦後の日本国内で発生した、様々な怪事件について、松本清張がミステリアスかつリアリティのある文体で描き出した作品です。時代・歴史小説とも、ノンフィクションとも言われる作品で、迫りくる詳細な事件簿のような仕立てになっています。
捜査が打ち切られてしまった「下山国鉄総裁謀殺論」、消息を絶った旅客機について綴った「もく星号遭難事件」、在日ソ連元代表部のジュリー・A・ラストヴォロフ二等書簡の失踪事件にまつわる「ラストヴォロフ事件」や、GHQのESSキャップ・クレーマー大佐が装甲車に乗った兵士を引き連れて日銀を取り巻いた「ダイヤモンド」など、12の事件について書き連ねられています。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
本作から生まれた「黒い霧」というキーワードは、時代を反映したことから、流行語として多くの人々に認知されることになりました。政界や財界の不祥事や汚職を例える言葉として頻繁に利用され、黒い霧事件と名付けられたものもいくつもあります。
未解決の事件や、不可解な謎を残したまま、捜査が打ち切られてしまった出来事など、日本の謎や闇に迫るエピソードが、多数取り上げられており、激動の時代を生き抜いた松本清張から見た当時の歴史を知ることが出来る、貴重な一冊だと言えるでしょう。
こちらも、実際に発生した事件を取り上げ、松本清張の視点を用いて仕上げた作品集です。それぞれの事件の関係者への取材はもちろんのこと、膨大な史料を元に、細部まで綿密に描かれていると言えるでしょう。1964年から1971年まで連載され、非常に多くの読者を獲得したのです。
「陸軍機密費問題」「石田検事の怪死」、「朴烈大逆事件」の三つの事件を取り上げ、これらの関係性について提示をしていたり、同じ小説家としての視点から、「芥川龍之介の死」について解説したりするなど、歴史や時代を反映しながら独自の読み物として成立させました。
「二・二六事件」については、「相沢事件、軍閥の暗闘、相沢公判」や「北・西田と青年将校運動、安藤大尉と山口大尉、二月二十五日夜」などの五章に仕立て、より深く掘り下げています。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
- 2005-03-01
歴史や時代について、実在の事件を用いて展開する際、松本清張は非常に様々なスタイルを試していました。
題材としては実際の事件であったとしても、物語として描いたり、論文を作中に組み込んでみたり、評論風に書いてみたりと、多様なスタイルを研究していたのです。これは当時、ノンフィクション作品があまり積極的に読まれる風潮ではなかったためと言われています。
本作もこのパターンのひとつです。タイトルの『昭和史発掘』の通り、激動の昭和時代の史実を発掘するように、多様な視点から展開される仕上がりとなっています。小説としてはもちろんのこと、当時の様々な出来事に興味を持つきっかけにもなるでしょう。
『黒い画集』は、メディア化もされた松本清張の短編小説集です。全10編の作品群から成り立っており、心理描写やトリックなどが緻密に張り巡らされています。
「遭難」は、タイトルの通り、遭難事故の手記というスタイルを用いた前半パートと、倒叙スタイルを用いた後半パートに別れたサスペンス仕立ての作品です。松本清張は、本作のプロットを立てたあと、プロの登山家に話を聞き、よりリアリティを高めました。
「証言」は、かつての部下との愛人関係を、家族に秘密にしている男性のストーリーです。愛人を囲った家から帰る途中、反射的に挨拶をしてしまった相手に、この秘密をばらされてしまうのではないかと不安に思っていた中、とある殺人事件のアリバイ証人になるように求められてしまいます。
「坂道の家」は、とある中年男性が、キャバレーで働く若い女性との恋愛に没頭し、身を滅ぼしていく物語です。これまでに何度もテレビドラマ化している作品で、質素な生活を送る主人公の姿が描かれています。
このほかにも、「天城越え」「寒流」「紐」「凶器」「濁った陽」「草」「失踪」が収録されており、どれも極上の仕上がりと言える作品ばかりです。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
- 1971-10-02
それぞれテーマや登場人物は異なってますが、不倫や愛人、裏切りなど、人間の欲望や凋落にスポットを当て、トリックやサスペンスをはじめとした、多様なドラマを味わうことができます。
「決してあり得ない!」と言い切れるシチュエーションの作品はひとつもなく、どこか身近に感じられるエピソードから広がった物語、というの特徴を持つ本作。対岸の火事とは言い切れない内容の作品たちからは、臨時感のある読み応えを堪能できるでしょう。
本作は、短編の時代小説を12編集めた作品集です。表題作である「西郷札」は、西南戦争を舞台に一攫千金を夢見た男を主人公とし、動乱の時代に夢を見て、やがて破滅していく姿を描いています。
「梟示抄」は、江藤新平の実話に即して描かれた作品です。同じ組織にいる者同士の勝負や軋轢を綴りました。「啾々吟」は、幕末時代を舞台にした作品で、同じ日に生まれながら、身分の異なる三人の子どもの運命を追っています。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
- 1965-11-29
それぞれの短編作品は、時代・歴史小説とカテゴライズ出来るものの、実際の舞台は異なっています。
幕閣内での戦いを描いた作品もあれば、幕末の運命を書きつづった作品もあり、登場人物も多様です。幕臣もいれば、下士の子どももおり、各々が異なった人生を、必死に生きる様子が描かれています。
その人間味あふれる姿と、実際の歴史を反映した世界観が魅力だと言えるでしょう。
病院の院長である戸谷信一は、愛人たちから金を巻き上げて、病院の赤字の穴埋めに使っていました。ある日、愛人の一人が夫を毒殺しようと考えます。戸谷はその計画に協力するのですが、そこから戸谷と周囲の人間の運命は狂い始めるのです。
『わるいやつら』は1961年に刊行された松本清張の作品です。医師という立場を使って犯罪に手を染める戸谷を主人公としたサスペンス小説で、タイトル通りにわるいやつらばかりが登場し、自分の欲のためだけに生きていく姿が描かれます。
登場人物は誰も信頼できない人間達です。互いが互いを利用していこうと考えているので、裏切りに次ぐ裏切りで、誰が味方なのかわからなくなります。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
- 1966-03-30
例えば、主人公の戸谷はかつての愛人で看護婦長の助けを借りて殺人を行います。非常に信頼を置いていましたが、殺人を重ねるにしたがって、看護婦長の不審な動きが目に付くようになります。戸谷は自分が陥れられるのではないかと恐れ、今度の殺人ターゲットを看護婦長にするのです。
悪人しか出てこないためか、誰にも同情することなく、それぞれのずる賢い知恵に長けたやり取りを純粋に楽しむことができますし、悪人が追い詰められる様は痛快でもあります。
禎子と見合い結婚をしたばかりの夫・憲一が仕事の引継ぎの為、以前の勤務地である金沢に出掛けたまま行方不明になってしまいました。急遽、金沢に向かった禎子は憲一の後任である本多の協力を借りながら夫の行方を追いますが、その過程で憲一の隠された過去が露になります。そして、ついに死者まで出てしまい……。
1959年に刊行された松本清張の作品で、何度も映画化、ドラマ化されています。夫の行方を探そうとする主人公・禎子が女性の勘を頼りに真相を探っていきます。
冬の北陸の殺風景さと、失踪事件のつかみどころの無さがうまくマッチして、全体にもの寂し気な雰囲気が漂っていることが特徴的で、悲劇的な結末をより悲しく感じさせます。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
- 1971-02-23
事件そのものも面白いのですが、当時の社会と女性の関係性を描いたことが最も評価されています。舞台は昭和30年代前半で終戦の影響がまだ色濃い頃です。
戦後の混乱期、お金を稼ぐことは非常に難しい状況でした。誰も、お金や商品を持っていないからです。特に、力の弱い女性は力仕事もできません。そこで、よくあったのが米兵に身体を売る仕事でした。多くの女性がやっていたことですが、終戦から10年経ち、そのことを隠して過ごしていたのです。
こうした混乱の時代を女性がどう生きて、どう影響を受けたのか。そうした女性の運命をリアルに描かれているのです。
松本清張はノンフィクションも手掛けていましたので、人間をリアルに描くことにも定評がありました。本作でもその力を遺憾なく発揮しているのです。
神経障害を持つ田上耕作は、友人に勧められた森鴎外の作品に感動し、どんどんと読み進めていきました。やがて、耕作は森鴎外が小倉で過ごした3年間の日記『小倉日記』を補完しようと考えます。麻痺のある身体に鞭打って、ゆかりの人物を取材しに行きます。しかし、耕作の前に立ちふさがったのは、戦争でした。
松本清張は、この『或る「小倉日記」伝』で芥川賞を受賞しています。重い障害をものともせずに、森鴎外の日記を完成させようと奮闘する耕作の姿を描いた物語で、周囲の人々に支えられながらも己の意思を突き通す姿が描かれます。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
耕作は神経障害で片足が麻痺し、口が開いたままで涎は出てきますし、うまく喋れません。こうした身体で資料を集めに山を越えるといった苦労もありますが、戦中のことですから露骨な差別にはひどいものがあります。罵詈雑言を吐かれて耕作は挫けそうにもなりますが、母や文士たち、鴎外の弟からの激励により、諦めずに前へ進み続けるのです。
耕作は決して報われたとは言い切れない終わりを迎えますが、ハンデを苦にすることもなく、生涯をかけて己の道を突き進んだ姿は読者の胸を打つものがあります。また、耕作の死後に衝撃の事実が明らかになります。それが耕作にとって幸せなのか、不幸なのかは読者次第といったところです。
九州の博多の海岸で、男女の情死体が発見されました。ありふれた事件に見えましたが、ベテラン刑事の鳥飼は男が持っていた伝票から不審を感じ、一人で捜査を始めます。一方、汚職事件を追っていた本庁の刑事・三原は、心中事件にたどり着いた末に鳥飼と出会います。二人は容疑者を見つけますが、彼には鉄壁のアリバイがありました。
汚職という社会性のある話題をテーマにした社会派ミステリーの先駆けとなった松本清張の作品であり、リアルな捜査の過程を丹念に描いています。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
- 1971-05-25
作中ではいくつかのアリバイトリックが組み合わされています。その中でも特に圧巻なのが、空白の4分間でのトリック。東京駅の13番ホームから15番ホームを見渡せる時間が一日の中でたったの4分しかないのです。この時間を使って、犯人は自分を女中に目撃させます。このことが鉄壁のアリバイとなり、刑事たちを苦しめます。
若手とベテランのコンビが光る、松本清張の本作。本庁の三原は行動派の若手で疑問があれば、すぐに現場に向かって自分の目で確かめます。一方、鳥飼は直観重視のベテランで、周囲の刑事から状況を聴き、じっくりと推論を重ねて動き出すタイプです。
この二人が互いに敬意を示し、長所を生かしあう姿は頼もしいものがあります。人物造形の上手さも相まって、二人の信頼感が見えるのも面白いです。
東京の蒲田駅の操車場で、男の扼殺死体が発見されました。被害者には、東北訛りと「カメダ」という言葉しか手掛かりがありません。それだけでは身元が分からず、捜査本部は解散しましたが、老練な刑事の今西はあきらめずに捜査を続けます。すると、貴重な事実が少しずつ判明し始めますが、それを嘲笑うかのように、第二、第三の殺人事件が発生します。
『砂の器』は、1961年に刊行された松本清張の作品で、映画版がかなり有名となっています。刑事の今西が忍耐強く、根気を持った捜査を進めていき、小さなきっかけを集めていく過程が面白い、社会派ミステリーとなっています。
ドラマや映画を観たから読まなくてもいい、と考えている人には特に読んでほしい作品です。ドラマや映画では表現しきれない細かな心の動きが原作には描かれています。だからこそ、より深く物語に入り込めますし、人物の感情が深く読者に染み渡るのです。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
作中に表現される命と差別が松本清張の本作の肝です。犯行理由を重点化して描くことで、犯人の境遇をくっきりわかるようになり、そこに潜む差別や命の軽視といった感情が露わになります。
テーマである差別の対象はハンセン病です。今ではハンセン病への差別意識はほとんど残っていませんが、出版当時は間違った知識による差別がまだ根強い時期でした。そうした時期にハンセン病を物語の背景として扱い、その差別が不当であると訴えたことが高く評価されています。
以上、松本清張のおすすめ本ランキングベスト11でした。どれも50年以上前の作品ですが、作品で描かれる人間性は現在においても色褪せることはありません。ぜひ松本清張の作品に触れてみてください。