このホラーがすごい!2025のランキングを制した話題作、上條一輝『深淵のテレパス』。 「あしや超常現象調査」に属する芦屋晴子と越野草太の先輩後輩バディが不可解な超常現象に挑む本作は、デビュー作とは思えぬクオリティの高さでもって2025年のホラーシーンに新風を吹き込み、ジャンルを跨いだファンの獲得に成功しました。 今回はそんな『深淵のテレパス』のあらすじと魅力をネタバレありでご紹介していきます。

ある日の休日……会社で順調に出世を果たし、責任ある立場を任されているOL・高山カレンは、職場の後輩に誘われて彼女の弟が出演するオカルト研究会のイベントを見に行きます。
そこで彼女が目にしたのは「私」と「あなた」の二人称を使い分け、抽象的な怪談を話す浮世離れした少女の姿でした。
あなたが、呼ばれています。
あなたには、その声を聞くことができません。
私は、暗い水の底にいます。
暗く、危険な場所で、あなたを待っています。
私は、姿かたちを変えて、あなたの前に現れる。
とても、醜い姿で。
恐ろしい私の姿を見たあなたは、
正気を保っていられなくなるかもしれません。
私は、そうなることを狙っています。
……あたなに伝えておきます。
それが、私にできる唯一のことだからです。
光を、絶やさないでください。
以降カレンは正体不明の怪異に脅かされ始めます。
室内の暗闇からは謎の水音が響き、ドブ川のように腐った異臭が立ち立ち込め、足跡の形状をした汚水が床に撒かれ……。
それはあたかも少女が語った怪談の内容を再現するかのようで、カレンの精神は徐々に蝕まれていきました。
身の周りで相次ぐ超常現象に追い詰められたカレンは、「あしや超常現象調査」の看板を掲げて活動する先輩後輩コンビ、芦屋晴子と越野草太にトラブルの解決を依頼します。
自慢のハイテク機材を担いで早速調査に乗り出す二人。
晴子の知己である元超能力少年の中年男・犬井椿と強面の私立探偵・倉元浩も助っ人として加わり、事態は思いがけぬ方向へ転がっていきます。
カレンを日夜苛む不気味な水音に隠された衝撃の真実とは?闇の底に埋没した旧日本軍の地下施設との繋がりは?
「あしや超常現象調査班」の不揃いな面々は知恵と力を合わせてカレンの依頼を解決し、彼女を無事日常に復帰させることができるのでしょうか?
登場人物紹介
- 著者
- 上條 一輝
- 出版日
『深淵のテレパス』は2024年8月発売。
本作は創元ホラー長編賞を受賞した上條一輝のデビュー作となり、澤村伊智や東雅夫ら選考委員の絶賛を受け書籍化したのち、ベストホラー2024国内部門と朝宮運河主催のこのホラーがすごい!2025の一位を獲得し、見事三冠の栄誉に輝きました。
- 著者
- 『このミステリーがすごい!』編集部
- 出版日
全国ホラーファン必読!『このホラーがすごい!2024』ネタバレ見所紹介
皆さんはホラー小説がお好きですか?もしホラー小説に興味があるなら、背筋・雨穴・梨など、意欲的なモキュメンタリーを手掛け近年のホラーシーンを席巻した作家の特集を組んだ『このホラーがすごい!2024』は要チェック。 古今東西の名作ホラー小説やホラー漫画を知りたいなら、有識者が集った本書を読んで損はありません。今回は宝島社刊『このホラーがすごい!2024』の見所ほか、国内外で取り上げられた作品をネタバレ込みで紹介していきます。最後までお付き合いください。
装画は『イシナガキクエを探しています』のビジュアルを手掛けたPOOLが担当しています。
東京創元社の特設サイトではシリーズ第一弾『深淵のテレパス』、ならびに第二弾『ポルターガイストの囚人』の概要が掴めます。人気YouTuberの九十九黄助ことかいばしらが動画で取り上げたことでも話題になりました。
本作もまたオモコロで培ったキャッチーなエンタメ性とカジュアルな読みやすさが活かされた、新機軸のロジカルサイエンスホラーに仕上がっていました。
注目してほしいのは実に個性的な「あしや超常現象調査」のメンバー。
サバサバした姉御肌のリーダー・芦屋晴子、その後輩で優しく頼りない越野草太の男女バディが魅力的なのは勿論、元超能力少年の残念な中年・犬井椿とハードボイルド探偵・倉元浩の、ユニークな存在感が際立っています。
晴子は霊感こそありませんが、様々なハイテク機材を取り扱い超常現象を調べるプロフェッショナル。彼女のアシスタントを務める草太はたまにドジを踏むものの、生来の堅実な性格と、青臭いひたむきさに好感が持てる青年です。
特筆すべきは犬井と倉元の役回り。
なんと、犬井は正真正銘のサイキッカー!
少年時代はスプーン曲げの天才と持て囃され超能力ムーブメントを引き起こしたものの、加齢と共に能力が衰えて表舞台から退場し、現在はひきこもりがち。
されど侮るなかれ、深淵に秘めし超能力は未だ健在!
仲間のピンチには限定的なテレパシー能力を発揮し、起死回生の活路を開きます。
お笑い&おとぼけ担当の冴えないおっさんが実は主人公格の強キャラだった、そんなギャップに萌えて燃える読者には激熱な展開!
やることなすこと俗物で意地汚いのに何故か憎めない、愛敬たっぷりな犬井のポンコツぶりをぜひご覧あれ。成り行きで彼とコンビを組むことになった私立探偵・倉元の、ハードボイルドを地で行く渋さも絶品でした。
コントさながらテンポ良く軽妙な掛け合いと、視覚・聴覚・嗅覚から恐怖を喚起するホラー描写の緩急が、『深淵のテレパス』を傑作足らしめているのは間違いありません。
高性能のハイテク機材を駆使して超常現象の核心に迫る調査パートはリーダビリティとロジックが両立し、科学考証の面から心霊にアプローチする、クレバーな切り口が冴え渡っていました。
- 著者
- 上條 一輝
- 出版日
本作の見所は他にもあります。
筆者が唸ったのは読者の先入観を逆手にとった、巧妙な叙述トリック。澤村伊智の比嘉姉妹シリーズ、特に『ぼぎわんが、来る』を読了した方は、中盤で明らかになるある人物の意外な本性にぞっとするはず!
ホラーもミステリもお手の物!今読みたい澤村伊智作品3選
ホラー小説の名手にして気鋭に小説家・澤村伊智。 彼はときに鮮やかに、ときに恐ろしくリアルに物語を紡ぎ出します。 今回はそんな澤村伊智の今読んでほしい3作品をご紹介。 1つ目は、日常の中に潜む恐怖を抉りだす短編集「ひとんち」。 2つ目は、出会った人に確実に恐怖を与える得体の知れない存在「怖ガラセ屋サン」。 3つ目は、弱小Webマガジンのライターが遭遇する奇怪な事件の驚愕の真相を描く「アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿」。 気になる作品、「お!」と思う作品がきっと見つかると思います。
- 著者
- 澤村伊智
- 出版日
- 2018-02-24
- 著者
- ["片岡 人生", "近藤 一馬", "澤村伊智"]
- 出版日
家庭的で子煩悩な夫の正体がとんだモラハラ夫だった『ぼぎわんが、来る』と同じく、登場人物のエゴイスティックな二面性に焦点を当て、それを物語の本筋に練り込んだ展開は、巧みなミスリードによって読者を欺き、ミステリー小説を読んでいるかのような驚きを提供します。
周到に張り巡らされた伏線とそれが綺麗に回収される快感も、本作を読む上での醍醐味。
作中にさりげなく散りばめられたアイテムや何気ない言動がのちに重大な意味を持ち、主人公たちの助けとなるクライマックス演出には、自然とテンションが上がってしまいました。
ホラーだけじゃ物足りない、ミステリーだけじゃツマらない……そんな欲張りな要望に応えた、一級品のホラーミステリーであると断言できます。
物語の進行に伴ってキャラクターの印象が二転三転するホラーを読みたい方は決して損をさせません。複雑な過去を背負った登場人物たちが錯綜する、サイキックでオカルティックなドラマをお楽しみください。
読後はタイトルの意味に深く納得します。
- 著者
- 上條 一輝
- 出版日
- 著者
- 上條 一輝
- 出版日
上條一輝『深淵のテレパス』を読んだ人には真島文吉『右園死児報告』をおすすめします。
本作はカクヨム発のSCP風モキュメンタリーホラー。
バラバラの手記と不可解な事件記録を並べた導入を経て、主要登場人物が出揃い壮大な広がりを見せ始める中盤に至り、世界の存亡を賭けた最終決戦に雪崩れ込むストーリーは、まさしくSFとホラーが融合したエンタメの完成形。
Jホラー版アベンジャーズの評判に偽りない、極上のカタルシスが味わえます。
邪悪なる存在・右園死児(うぞのしにこ)に運命を狂わされた人々が、己の全存在を賭け不条理に反逆し、決死の覚悟を以て足掻き切る人間賛歌……ぜひとも目に焼き付けてください。
「にじさんじ」所属のホラー系VTuber・ましろ爻の演技が光る朗読動画と、写実に寄せた絵柄がリアルな空気を生む、ハイクオリティなコミカライズも合わせてどうぞ。
- 著者
- 真島 文吉
- 出版日
- 著者
- ["新川 権兵衛", "かかし朝浩", "真島 文吉"]
- 出版日
続いておすすめするのは少女ラノベレーベルが生み出したホラー小説の金字塔、小野不由美『ゴーストハント』シリーズ。旧名『悪霊シリーズ』で親しんだ方も多そうですね。
本作はミステリーホラー作家、小野不由美の記念すべきデビュー作。
元気印の鉄腕アルバイター兼現役女子高生の谷山麻衣は、ひょんなことから絶世の美少年・ナルこと渋谷一也と出会い、彼が経営する「渋谷サイキックリサーチ」に助手として雇われます。
ナルの事務所には国内外の霊能スペシャリストが集っていましたが、彼等と共に心霊調査に乗り出す麻衣の身には、毎度行く先々で危険なトラブルが降りかかり……。
小説は全7巻完結済み、2006年に全25話アニメ化。いなだ志穂が作画を担当したコミカライズは全12巻に達し、小野不由美の初期代表作の名に恥じない本格志向の戦慄と、甘酸っぱいラブコメ成分が詰まっています。
科学的観点とオカルト観点、双方向から心霊現象に切り込む「あしや超常現象調査」の調査スタイルが気に入った方は、こちらもぜひチェックしてください。
初めての小野不由美!初心者向けおすすめランキングベスト6!
小野不由美、という作家を知っているでしょうか。背筋がぞっとするようなホラー、精緻に作られたファンタジーといったジャンルをまたにかけ、魅力ある作品を生み出す作家です。 今回は話には聞くけど、何を読んでいいか分からない、そんなあなたに向けておすすめ作品をご紹介します。
- 著者
- 小野 不由美
- 出版日
- 著者
- ["いなだ 詩穂", "小野 不由美"]
- 出版日